エリート魔女リリー

siyami kazuha

文字の大きさ
13 / 20
妖精とうたう少年

呪い

しおりを挟む

「やあ、こんばんは。君の主人に用があって、南の方から来た魔法使いなんだけど…………中に入ってもいいかな?」

 所在の確認をすっ飛ばして問うたアシュレイに、男は眉根を寄せた後、素っ気ない様子で返しました。

「旦那様は、誰とも会えません。どなたであろうとお引き取り願うよう言われています」

「どうぞ、ご容赦を」と、男は一礼して、その場を去ろうとしますが、アシュレイは引きとめました。

「僕たちは、この村で噂される妖精の呪いを解きに来た。この屋敷は《呪い》に包まれている。放っておくと、本当の死が巡って来るよ」

 確信のある言葉に、男は不快な物を見る視線でアシュレイを睨みつけます。
 男二人が対峙している間に、リリーはこの村にある呪いについて考えました。
 貴族がモミの木を伐採したところから、この村にあったなにかが狂い出した。
 次々と起こる異変を、村人たちは「妖精の呪い」と言って噂し、畏れています。
 呪いのせいで、原因不明の高熱が貴族たちを襲っている。
 呪いのせいで、貴族たちの不審な死が相次いでいる。
 呪いのせいで、作物が育たない。
 村に漂う黒く染まった魔力。この村に妖精が本当に居たのなら、妖精の持つ力が残っていてもおかしくありません。

「(もしかして)」

 村人たちの不安が、貴族への不信感が噂(ようせいののろい)を生み、村に漂う妖精の力に触れて【呪い】となった……?
 言葉には、力があります。その力は人を救いに導くこともあれば、凶器となって襲いかかってくることもあります。魔法を使えるものも、そうでないものも、力のある言葉……特に悪い意味を持つ言葉は慎重に使わないといけません。
 でもこの村の者たちは、噂を止めなかった。
 噂は【呪い】となって、やがて村を蝕みはじめる。
 呪いのせいで、作物が育たない。
 呪いのせいで、体調が崩れる。
 呪いのせい。これもあれも、悪いことは呪いのせい。
 呪いがなければ、村は平和なままだったのに。
 貴族がモミの木を伐採しなければよかったのに。
 あの貴族さえ、この村に来なければ……!
 村に漂う【呪い】の正体は予測ついた。
 では、この屋敷を包む《呪い》はどこから生まれたものなのか。
 村に漂う魔力は、村人たちの悪い言葉たちが妖精の魔力に触れて具現化したものです。が、この屋敷を包む霧は村にある魔力と異質な気がします。
 アシュレイは言葉を繰り返しました。

「僕たちは、呪いを解きに来た。その呪いを解くには、まず高熱で倒れているといわれている君の旦那様を見ないといけない」

 一つ二つと呼吸をして、アシュレイは男からの返事を待ちます。
 男は落ち窪んだ目でじっとアシュレイを見ました。

「いいえ」

 返ってきた言葉は、アシュレイが期待していたものではありませんでした。
 ハッと息を詰めて、リリーがズボンのベルトから杖を引き抜くのと、男が次の言葉を発する動作が重なりました。

「やはり、あなた方を通すわけにはいきません」

「アシュレイ!」

 男の胸に下がっていた黒い石から、願いのカケラの手足に似たひょろひょろと長い蔦が、膨れ上がるようにして無数に現れました。
 石に込められていた魔力が風となり、渦となりながら庭を縦横無尽に駆け巡ります。
 毒にも似た濃い魔力の奔流に煽られながら、リリーは瞼を無理矢理開けて、杖先をアシュレイと男の間に向けました。
 同時に、魔力の正体に気づいて舌打ちします。

「(この力は、願いのカケラ……! 一体どこで……⁉)」

 蔦の一部が一房となって、アシュレイに襲いかかります。
 リリーの防御呪文が唱え終わる前に、カケラの魔力ともう一つの魔力がぶつかり合いました。
 耳の奥からキンと響く高い音に、リリーは顔をしかめます。
 先ほどよりも奔流の渦が弱くなり、無理矢理開いていた瞼を自然と開くことが出来ました。
 屋敷を取り巻く黒い霧が一時的に霧散され、石から出るひょろひょろとした蔦は、怯んだ様子で男の周囲を蠢いています。

「できることなら、穏便に済ませたかったんだけどね」

 雪を咄嗟に強固な氷に変えて作った、ピンと張られた魔力の盾を崩しながら、アシュレイが静かに口を開きました。

「どうやらそうも言っていられないようだ。その石は、どこで手に入れたのかな?」

 臨戦態勢を維持しつつ、朗らかな口調でアシュレイは問います。
 男は答えず、石を包むように握り、静かに願いました。

「神よ、どうかこの声を聞き、届けてください。ノース広場に妖精をお戻しください。この村に、妖精をお返しください……!」

 怯んでいた蔦がぶるぶると震え、みしみしと音を立てながら鋭いトゲを生やしました。

「君の願いが込められたものなのか。他人の願いが込められたものなのかはしらないけど、願いのカケラは、そんな風に使うものじゃないよ。ましてや、君が持っていていいものでもない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

魁!断筆姉さん!!

西洋司
ファンタジー
「異世界ファンタジーは、日本政府が仕掛けた『機密解除』への布石だった――!?」 1999年、東京・江古田。 美大卒、無職、貯金なし。 大藪英子(おおやぶ・えいこ)は、異世界を描き続ける絵描き見習い。 バイト漬けでカツカツの生活の中、人生を賭けた公募に落選し、彼女はまさに「断筆」の瞬間を迎えていた。 そんな絶望の淵に現れたのは、謎の「後援者」と噂されるスーツ姿の公務員・斎木茂吉。 彼が提示したのは、あまりに荒唐無稽な国家機密だった。 「政府は異世界に関する機密解除を行います。そのために、あなたに『本物の異世界』を見て描いてほしいのです」 導かれた先は、現実の異世界「ヤムント国」。 これは、筆を折った一人の女性絵描きが、国家規模のプロジェクトに巻き込まれ、本物の異世界を「記録(アート)」で無双していく物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

処理中です...