エリート魔女リリー

siyami kazuha

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妖精とうたう少年

呪い

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「やあ、こんばんは。君の主人に用があって、南の方から来た魔法使いなんだけど…………中に入ってもいいかな?」

 所在の確認をすっ飛ばして問うたアシュレイに、男は眉根を寄せた後、素っ気ない様子で返しました。

「旦那様は、誰とも会えません。どなたであろうとお引き取り願うよう言われています」

「どうぞ、ご容赦を」と、男は一礼して、その場を去ろうとしますが、アシュレイは引きとめました。

「僕たちは、この村で噂される妖精の呪いを解きに来た。この屋敷は《呪い》に包まれている。放っておくと、本当の死が巡って来るよ」

 確信のある言葉に、男は不快な物を見る視線でアシュレイを睨みつけます。
 男二人が対峙している間に、リリーはこの村にある呪いについて考えました。
 貴族がモミの木を伐採したところから、この村にあったなにかが狂い出した。
 次々と起こる異変を、村人たちは「妖精の呪い」と言って噂し、畏れています。
 呪いのせいで、原因不明の高熱が貴族たちを襲っている。
 呪いのせいで、貴族たちの不審な死が相次いでいる。
 呪いのせいで、作物が育たない。
 村に漂う黒く染まった魔力。この村に妖精が本当に居たのなら、妖精の持つ力が残っていてもおかしくありません。

「(もしかして)」

 村人たちの不安が、貴族への不信感が噂(ようせいののろい)を生み、村に漂う妖精の力に触れて【呪い】となった……?
 言葉には、力があります。その力は人を救いに導くこともあれば、凶器となって襲いかかってくることもあります。魔法を使えるものも、そうでないものも、力のある言葉……特に悪い意味を持つ言葉は慎重に使わないといけません。
 でもこの村の者たちは、噂を止めなかった。
 噂は【呪い】となって、やがて村を蝕みはじめる。
 呪いのせいで、作物が育たない。
 呪いのせいで、体調が崩れる。
 呪いのせい。これもあれも、悪いことは呪いのせい。
 呪いがなければ、村は平和なままだったのに。
 貴族がモミの木を伐採しなければよかったのに。
 あの貴族さえ、この村に来なければ……!
 村に漂う【呪い】の正体は予測ついた。
 では、この屋敷を包む《呪い》はどこから生まれたものなのか。
 村に漂う魔力は、村人たちの悪い言葉たちが妖精の魔力に触れて具現化したものです。が、この屋敷を包む霧は村にある魔力と異質な気がします。
 アシュレイは言葉を繰り返しました。

「僕たちは、呪いを解きに来た。その呪いを解くには、まず高熱で倒れているといわれている君の旦那様を見ないといけない」

 一つ二つと呼吸をして、アシュレイは男からの返事を待ちます。
 男は落ち窪んだ目でじっとアシュレイを見ました。

「いいえ」

 返ってきた言葉は、アシュレイが期待していたものではありませんでした。
 ハッと息を詰めて、リリーがズボンのベルトから杖を引き抜くのと、男が次の言葉を発する動作が重なりました。

「やはり、あなた方を通すわけにはいきません」

「アシュレイ!」

 男の胸に下がっていた黒い石から、願いのカケラの手足に似たひょろひょろと長い蔦が、膨れ上がるようにして無数に現れました。
 石に込められていた魔力が風となり、渦となりながら庭を縦横無尽に駆け巡ります。
 毒にも似た濃い魔力の奔流に煽られながら、リリーは瞼を無理矢理開けて、杖先をアシュレイと男の間に向けました。
 同時に、魔力の正体に気づいて舌打ちします。

「(この力は、願いのカケラ……! 一体どこで……⁉)」

 蔦の一部が一房となって、アシュレイに襲いかかります。
 リリーの防御呪文が唱え終わる前に、カケラの魔力ともう一つの魔力がぶつかり合いました。
 耳の奥からキンと響く高い音に、リリーは顔をしかめます。
 先ほどよりも奔流の渦が弱くなり、無理矢理開いていた瞼を自然と開くことが出来ました。
 屋敷を取り巻く黒い霧が一時的に霧散され、石から出るひょろひょろとした蔦は、怯んだ様子で男の周囲を蠢いています。

「できることなら、穏便に済ませたかったんだけどね」

 雪を咄嗟に強固な氷に変えて作った、ピンと張られた魔力の盾を崩しながら、アシュレイが静かに口を開きました。

「どうやらそうも言っていられないようだ。その石は、どこで手に入れたのかな?」

 臨戦態勢を維持しつつ、朗らかな口調でアシュレイは問います。
 男は答えず、石を包むように握り、静かに願いました。

「神よ、どうかこの声を聞き、届けてください。ノース広場に妖精をお戻しください。この村に、妖精をお返しください……!」

 怯んでいた蔦がぶるぶると震え、みしみしと音を立てながら鋭いトゲを生やしました。

「君の願いが込められたものなのか。他人の願いが込められたものなのかはしらないけど、願いのカケラは、そんな風に使うものじゃないよ。ましてや、君が持っていていいものでもない」
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