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妖精とうたう少年
ミュンフェの妖精
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正体のわからない幼い二人に連れられて、夜の林を黙々と進みます。
積もった雪と落ち葉で、歩きにくいことこの上ないのに、二人は滑るように進んでいきます。対するリリーは、額に玉になった汗が出てきました。呼吸も早くなっていきます。
「……年の差ではないと思いたい」
早足に近い歩みを続けた結果、さすがに息が辛くなってきて、リリーは足を止めます。
近くにあった木の幹に手を当て、息を落ち着かせていると、小さな燐光が川を流れるようにして獣道を照らしていることに気づきました。
目を凝らしてみると、燐光はこの森に住まう妖精でした。
落ち葉よりも小さな身体。人と同じ作りですが、胴体はふっくらとしていて、本来手足の指がある先端部分には指がなく、風船のような丸みがありました。頭の部分は五つの角がある星のようになっていて、淡い光がちらちらと点滅しています。燐光だと思った物の正体は、どうやらこの頭だったようです。
妖精たちは、胴体を透かしたり現したりしながら、雪や落ち葉の上を跳ねるように移動します。
現れた妖精は彼らだけではありません。視線を僅かにあげれば、落ち葉に足が生えた妖精が木の幹を駆け上がっています。頭上を見れば、身体が透けたふくろうが複数羽ばたいていきました。彼らの軌跡が星屑に変わって、林に降り注いでいます。
星屑を浴びた林の木々が、あたたかな光を発しました。
歩いている時は二人を追うのに必死で、妖精たちの息吹に気づいていなかったのです。
『ニュンフェの村』と名づけられる理由はこれかと、舌を巻きました。
「モミの木だけに妖精がいたのだと思っていたけど、村全体に妖精がいたのね……」
そして、妖精たちはモミの木が伐採されると、この林の移り住んだのでしょうか。それとも、元々林に住んでいたものが村に移っていたのでしょうか。
妖精たちはリリーを急かすように、前へ前へと進んで行きます。
ここまで誘った幼い二人は、リリーから数歩先で立ち止まって、回復するのを待っていました。
大きく吸い込んだ息を、肺の底から全てかき出す勢いで吐き出し、リリーは前を見据え再び歩き出しました。
リリーが動き出したことを認めた二人も、再び前を向いて足を進めます。
歩けば歩くほど歩む速度がはやくなる二人でしたが、リリーは今度は立ち止まらずに追いかけました。
似た景色の中を進みに進んで、林が森へと変わった地点で、二人が足を止めました。
二人が止まった場所は、そこだけ木が生えておらず、円を描く形で開けた場所になっています。その開けた場所に、伐採された木が転がっていました。
ついてきた妖精たちも、広場を囲う形で立ち止まり、中央に横たわる大きな樹木に視線を注いでます。
リリーがこの木をよく見えるようにと、幼い二人が身体をずらしました。
木の存在を認めて、リリーは息を呑みました。
倒れている木は、立派なモミの木です。
きっと、ニュンフェの村にあったものでしょう。
伐られたモミの木はこの場所まで運ばれて、弔いも再利用もされず捨てられたのです。
呪いを放っている男は、この状態を知って憤り、暴走しているのでしょうか。
それとも、モミの木を伐ったことに対して怒っているのでしょうか。
どちらの理由にしても、男を止めなければいけません。
呪いを弱めないと、呪詛を返した時に男は死んでしまいます。
「呪いを弱めるヒントがあればいいのに……せめて過去に何があったかがわかれば……」
リリーが歯がゆい気持ちで呟くと、妖精たちがざわりと身を震わせました。
妖精たちが顔を見合わせると、控えている幼い二人の方へ視線を向けました。
輪郭を縁取る形で光を放つ二人を、リリーも視界に入れます。
ただの人ではないことは、歩いている間に察していました。
幼い二人が、魔法も使わず夜の闇に包まれている林の中を、リリーも息が上がるはやさで黙々と進めるわけがないのです。
二人は妖精たちの輪から抜けて、リリーの前に進み出ました。
輪郭を縁取る光が延びて、モミの木へと繋がります。
やがて、男の子の方がパクパクと口を開きました。
──ワタシハ、ボクラハ、ズットミテキタ。
──アノムラデ、アノイエデ、アノキョウカイデ、ソシテ……アノヒロバデ。
──ウタガ、トテモ、キレイダッタ。
──オマツリ、タノシイ。
──ダイスキ。
──ミンナ、ヤサシイ。
──ボクラヲ、ダイジニ、シテクレタ。
少年の口から、妖精たちの言葉が発せられました。
──デモ、キラレテシマッタ。
──ジャマダト、イワレテシマッタ。
──ソレハ、シカタナイ。
──ソウ。シカタナイ。
──ボクラハ、モトモト、コノモリデ、ウマレタ。
──ダカラ、キラレルノハ、シカタナイ。
──ウマレタバショニ、モドルダケ。
モミの木は、伐られたことを理不尽だと思うこともなければ、伐った貴族たちを恨んだこともこともないと告げました。
──ケレド、ムラノヒトハ、オコッテクレタ。
──ボクタチガ、オコラナイカラ、オコッテクレタ。
──コノ、オトコノコモ、ソノヒトリ。
積もった雪と落ち葉で、歩きにくいことこの上ないのに、二人は滑るように進んでいきます。対するリリーは、額に玉になった汗が出てきました。呼吸も早くなっていきます。
「……年の差ではないと思いたい」
早足に近い歩みを続けた結果、さすがに息が辛くなってきて、リリーは足を止めます。
近くにあった木の幹に手を当て、息を落ち着かせていると、小さな燐光が川を流れるようにして獣道を照らしていることに気づきました。
目を凝らしてみると、燐光はこの森に住まう妖精でした。
落ち葉よりも小さな身体。人と同じ作りですが、胴体はふっくらとしていて、本来手足の指がある先端部分には指がなく、風船のような丸みがありました。頭の部分は五つの角がある星のようになっていて、淡い光がちらちらと点滅しています。燐光だと思った物の正体は、どうやらこの頭だったようです。
妖精たちは、胴体を透かしたり現したりしながら、雪や落ち葉の上を跳ねるように移動します。
現れた妖精は彼らだけではありません。視線を僅かにあげれば、落ち葉に足が生えた妖精が木の幹を駆け上がっています。頭上を見れば、身体が透けたふくろうが複数羽ばたいていきました。彼らの軌跡が星屑に変わって、林に降り注いでいます。
星屑を浴びた林の木々が、あたたかな光を発しました。
歩いている時は二人を追うのに必死で、妖精たちの息吹に気づいていなかったのです。
『ニュンフェの村』と名づけられる理由はこれかと、舌を巻きました。
「モミの木だけに妖精がいたのだと思っていたけど、村全体に妖精がいたのね……」
そして、妖精たちはモミの木が伐採されると、この林の移り住んだのでしょうか。それとも、元々林に住んでいたものが村に移っていたのでしょうか。
妖精たちはリリーを急かすように、前へ前へと進んで行きます。
ここまで誘った幼い二人は、リリーから数歩先で立ち止まって、回復するのを待っていました。
大きく吸い込んだ息を、肺の底から全てかき出す勢いで吐き出し、リリーは前を見据え再び歩き出しました。
リリーが動き出したことを認めた二人も、再び前を向いて足を進めます。
歩けば歩くほど歩む速度がはやくなる二人でしたが、リリーは今度は立ち止まらずに追いかけました。
似た景色の中を進みに進んで、林が森へと変わった地点で、二人が足を止めました。
二人が止まった場所は、そこだけ木が生えておらず、円を描く形で開けた場所になっています。その開けた場所に、伐採された木が転がっていました。
ついてきた妖精たちも、広場を囲う形で立ち止まり、中央に横たわる大きな樹木に視線を注いでます。
リリーがこの木をよく見えるようにと、幼い二人が身体をずらしました。
木の存在を認めて、リリーは息を呑みました。
倒れている木は、立派なモミの木です。
きっと、ニュンフェの村にあったものでしょう。
伐られたモミの木はこの場所まで運ばれて、弔いも再利用もされず捨てられたのです。
呪いを放っている男は、この状態を知って憤り、暴走しているのでしょうか。
それとも、モミの木を伐ったことに対して怒っているのでしょうか。
どちらの理由にしても、男を止めなければいけません。
呪いを弱めないと、呪詛を返した時に男は死んでしまいます。
「呪いを弱めるヒントがあればいいのに……せめて過去に何があったかがわかれば……」
リリーが歯がゆい気持ちで呟くと、妖精たちがざわりと身を震わせました。
妖精たちが顔を見合わせると、控えている幼い二人の方へ視線を向けました。
輪郭を縁取る形で光を放つ二人を、リリーも視界に入れます。
ただの人ではないことは、歩いている間に察していました。
幼い二人が、魔法も使わず夜の闇に包まれている林の中を、リリーも息が上がるはやさで黙々と進めるわけがないのです。
二人は妖精たちの輪から抜けて、リリーの前に進み出ました。
輪郭を縁取る光が延びて、モミの木へと繋がります。
やがて、男の子の方がパクパクと口を開きました。
──ワタシハ、ボクラハ、ズットミテキタ。
──アノムラデ、アノイエデ、アノキョウカイデ、ソシテ……アノヒロバデ。
──ウタガ、トテモ、キレイダッタ。
──オマツリ、タノシイ。
──ダイスキ。
──ミンナ、ヤサシイ。
──ボクラヲ、ダイジニ、シテクレタ。
少年の口から、妖精たちの言葉が発せられました。
──デモ、キラレテシマッタ。
──ジャマダト、イワレテシマッタ。
──ソレハ、シカタナイ。
──ソウ。シカタナイ。
──ボクラハ、モトモト、コノモリデ、ウマレタ。
──ダカラ、キラレルノハ、シカタナイ。
──ウマレタバショニ、モドルダケ。
モミの木は、伐られたことを理不尽だと思うこともなければ、伐った貴族たちを恨んだこともこともないと告げました。
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