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婚約者の浮気相手。
しおりを挟むケルヴィンの手紙は3枚あった。
1枚目は今まで送れなかったことに
対する謝罪と
もうすぐ帰国することの知らせ。
2枚目からはひたすらに
ユーフォリアをどれだけ
恋い焦がれているのかという
ラブレターに思わず赤面してしまう。
ケルヴィンからの手紙は
全部大事に保管しているが
この手紙は恐らくボロボロになるまで
読み返すだろう。
嬉し恥ずかしで
一人の時以外読めないが
それでもずっと不安だった心が
一瞬にして幸せな気持ちにしてくれる
ケルヴィンはやっぱりすごいとしか
言いようがない。
(ケルヴィン様。好き好き好き!大好き!)
手紙を胸に抱きしめ
足をバタバタとしながら
悶えていたらトントンと扉がノックされる。
「お嬢様にお客様が来られていますが、…どうされますか?」
侍女の歯切れの悪い言い方に訝しむ。
今日は誰かが訪問する予定はない。
先触れもなく来たということだ。
アルヴィンなら殿下が来たと
知らせてくれるからアルヴィンではない。
(誰だろう?)
「お会いするわ。」
ユーフォリアは立ち上がって
鏡台の前に行き少し身支度を整えて
応接室に向かった。
扉を開けるといつかの男爵邸で
ご挨拶したご令嬢だ。
そうアルヴィンの浮気相手である
メリヤ男爵令嬢だ。
「突然の訪問申し訳ありません!
ですがユーフォリア様にどうしても言いたくて!」
突然頭を下げてきて
驚いてしまう。
華奢な体に
まっすぐなダークブラウンの髪が
肩からはらりと落ちる。
「気にしていないわ。それよりどうぞお座りになって。」
ユーフォリアの先導で
頭を上げてから対面のソファに
腰を下ろした。
そこは以前アルヴィンが座った場所だ。
開口一番謝ることに
デジャヴだと思い思わずクスリと
笑ってしまう。
「ユーフォリア様には色々言いたいことがありますが、まずはアルヴィン様との婚約破棄の事申し訳ございません。」
「その様子だとアルから聞いたのね。」
婚約の取り消しはまだ
他の貴族たちには公表していない。
それでも知っているという事は
アルヴィンから聞いたのだろう。
「はい。…私との噂が広がりすぎて収拾つかないためだと聞きました。」
そう仕向けるように
あなたが薬を盛ったんじゃないの?
とは思っても口には出さない。
こんな華奢で可憐な彼女から
そんな盛ったりするのかと
つい疑ってしまう。
彼女ならアルヴィンのタイプ
ど真ん中だし正々堂々と向き合えば…
と思ったけど
ユーフォリアがアルヴィンの恋について
何か言及するのは違うと思った。
「本当はそう噂が立つように私が薬を盛りました。」
正直に話してしまう彼女に
驚いて目を見開いてしまう。
「聞いたんです。アルヴィン様がユーフォリア様のためにうちに通っているってこと。」
アルヴィンはユーフォリアのために
ケルヴィンの情報を得るため
足繁く男爵邸に通っていた。
国王の補佐をしつつ
自分の執務をこなしながら
男爵邸に通うのはなかなかに多忙すぎる。
メリヤはどんどん顔色が悪くなる
アルヴィンに気づいて
ゆっくり眠れるようにと寝酒の話相手
として付き合っていたらしい。
それでその時酔った時に
メリヤがどうしてそこまでケルヴィンの
情報を得たいのかと聞いた。
そしたら今にも泣きそうになりながら
[ユーフォリアが兄上を待っているから]
と告げた。
[リアは兄上のことで
不安がっているから少しでも
取り除いてあげないとね]
[でもユーフォリア様はアルヴィン様の婚約者では!?]
[そうだな。表向きは…実際ほんとうにそうなれたらいいのにな。]
そう言った後アルヴィンは
何度もお酒をあおったらしい。
[飲み過ぎです!]
ぐっすりと眠れるように
渡したお酒をアルヴィンは浴びるように
飲んだ。
そこでメリヤは
アルヴィンとユーフォリア、ケルヴィンの関係に気づいた。
何度も屋敷に通っては
男爵の令嬢だと差別せずに
優しく挨拶してくれるアルヴィンに
メリヤは恋心を抱いていた。
婚約者のいる彼には抱いてはならない気持ちだと思っていたのに…。
その好きな人はずっと苦しんでいる。
好きだから助けてやりたい。
自分ならこんな風に寂しくさせたりしない。
アルヴィンだけを思い続けるのに。
そう思ったメリヤは
アルヴィンに薬を盛った。
既成事実を作りユーフォリアと
婚約破棄に持ち込んで
物理的に離してしまえば
少しでもこっちを見てくれる。
ユーフォリアを忘れるのでは。
そんなことを思い行動した。
「ユーフォリア様がアルヴィン様を本当に好きなら私はこんなことしませんでした。だけどあなたはアルヴィン様の優しさに漬け込んでどれだけ彼を傷つけたか!」
その言葉にユーフォリアは絶句する。
彼女の言う通りだ。
気持ちはずっとケルヴィンだけだと
それをアルヴィンも知っているからと
彼の優しさに平気で甘えていた。
ケルヴィンのいない寂しさを
アルヴィンで満たそうとしていた。
アルヴィンは優しいから
自分が傷ついていることを言わない。
アルヴィンが多忙で
体に支障をきたしていたことも
気づかなかった。
ずっと自分のことばかりだ。
思わず膝に乗せていた手を握りしめる。
「アルヴィン様はきっと自分が本意でやっているから気にするなと笑って言うと思います。…でも私は何も知らずに隣で
笑っているのは違うと思って。アルヴィン様の気持ちを少しでも知ってほしくてお話ししました。」
メリヤの目はポロポロと涙が
こぼれ落ちている。
長年の付き合いに比べて
日の浅い彼女は本当にアルヴィンの
事が好きなのだろう。
短期間でアルヴィンの考えを
読んだり体調の変化に気づいたり。
「なぜかアルヴィン殿下自ら噂を広ませたことはよくわかりませんが…。でもユーフォリア様がアルヴィン殿下のことを思うなら、私は身を引きます!きっと殿下はあなたとの婚約破棄は望んでいません。だから---」
「ごめんなさい。私はケルヴィン様しか考えられない。アルヴィンの気持ちには応えてあげられないの。」
「…そんな。」
「アルヴィンをずっと傷つけていたこと。あなたに言われて気付くなんて。
私はアルに酷いことしたわ。でもそれでも違う人を思う女がアルの隣にいていいわけないわ。それがアルの望みでもアルに対して失礼だと思う。私が言うのは烏滸がましいけどアルには幸せになってほしいの。…私は彼を幸せにしてあげられない。」
「それでも…」
「失礼する。」
メリヤがまだ何かいいかけた時
応接室の扉が開いた。
現れたのはアルヴィンだ。
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