False love

平山美久

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夜会に向けて

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つかつかと入ってくるとメリヤの腕を取り
強引に立ち上がらせた。

「メリヤ!俺は自分がしたいと思ったことをしているだけだ。だからリアには黙ってろと言っただろ。」

「でも!アルヴィン様が報われないわ!」

「メリヤが気にすることじゃない。ほらもう泣くな。」

アルヴィンの指がメリヤの目元を
優しく摩っている。

「だって!だってあんまりだわ!」

それでも流し続ける涙。
アルヴィンは深くため息をつくと

「はぁー。…お前が俺を癒してくれるんじゃなかったのか?」

そういうとメリヤは
泣きながらこくこくと頷く。

「だったら頑張って俺を口説け。ほら送るから。…リア勝手に入ってきてすまない。」

前半はメリヤに向けて
後半はユーフォリアに。

ユーフォリアはクスクスと笑っていた。

「あなたが私とケルヴィン様以外の前で"俺"と呼んでいるとこ初めて見たわ。」

「うるさい。泣き虫姫が2人になって
こっちは苦労してる。」

「ふふ。でもなんだか楽しそうよ。」

「はぁ?意味がわからん。」

「…アル今までごめんね。
そのアルがもう嫌なら…「縁なんか切らないからな。」

「話を聞いてたけど、俺は本当にしたいようにしてるから。リアも好きだけど同じように兄上も好きなんだ。だから俺は自分の気持ちより2人を優先したんだ。
…だから俺に遠慮してよそよそしくしたり離れようなんて思うな。今まで通りでいてくれる方が俺は嬉しい。」

「アル…」

「そりゃあ本音はリアと結婚したい。」

「ごめんなさい。」

「即答かよ。…まぁそういうとこも好きだけどな」

僅かに憂いを含ませた後朗らかに笑って
アルヴィンはメリヤの肩を抱いて
屋敷を出て行った。



そして翌日。
今度の王城での夜会にて
アルヴィンとユーフォリアの
婚約の取り消しを発表するという
知らせが瞬く間に貴族たちに届いた。


「お父様。お怒りになっていらっしゃらないの?」

知らせが届いたことにより
婚約破棄は現実のものになったのに
アルマニー公爵は依然として
優雅に過ごしている。
焦っている素ぶりすらない。

この父は策士だ。

きっと何か企んでいるのではと
思いつつも父の考えていることなど
ユーフォリアには一つも分からない。

「まったく。可愛い娘が振り回されるのは癪だがあの2人の四苦八苦は見てて楽しいからね。」

そう言って新聞を読みながら
お茶を楽しむ父をみて
ケルヴィン達が可哀想に思えた。


そんなこんなんで
夜会である。

朝から侍女達がせっせと
ユーフォリアを綺麗にするため
忙しなく働いている。
しかし侍女達は皆どこか
悲しそうな顔をしている。

自分たちの仕えているお嬢様の
婚約破棄が控えているのだから
それはそれは居た堪れないのだろう。

当の本人は婚約破棄になっても
アルヴィンとの関係は
変わらないと思っている。

夜会前日までいつもと変わらない
アルヴィンとのお茶会を
楽しんでいたので
何も憂いることなどなかった。

しかし今日のユーフォリアは
婚約破棄イベントなど
微塵も気にしていられなかった。

それは前日のアルヴィンとの
お茶会で思いもよらないことを
聞かされたからだ。

-------

[明日の夜会では私との婚約破棄の後、兄上とリアの婚約発表をする。]

[は?]

唐突にそれも平然と告げられた予定に
ユーフォリアは持っていたティーカップを落としそうになる。

[兄上は明日の昼ごろ戻ってくるそうだ。
それで明日の夜会でリアとの婚約を発表すると決まったんだ。]

[まっ待って!そんな急に!アルとの婚約の取り消しもまだなのに同時になんて!あまりにも急かしすぎだわ!]

慌ててティーカップを置いて
アルヴィンに詰める。

いくらなんでも
やりたい放題ではないのだろうか。
ほかの貴族たちがなんて思うのか。

[…実は前から決まっていた。]

ばつが悪そうにそっぽを向いて
小さく呟く。
ユーフォリアは目眩を感じずには
いられなかった。

[どういうこと?]

[兄上は嫉妬深いから。]

[い、意味がわからないわ。]

[国の都合で一時的にとはいえ弟と婚約させられたんだ。兄上の中では相当腹にきてたみたいで帰国と同時にすぐにリアとの婚約ができないなら隣国に寝返るとか言い出して。]

[ケ、ケルヴィン様ならやりかねなそう…]

ケルヴィンはめんどくさがりのわりに
一度言ったことは絶対にやり通す
完璧主義者だ。

彼がこうする。と決めたものは
必ず最後までやり遂げて
国の繁栄を支えていたりもする。

今回の隣国への留学もそうだった。

三年でやり遂げると言って
留学してから
本当に3年目の明日帰国する。

どこまで隣国を取り込めたのか
わからないけどきっとケルヴィンの
ことだから争い事が起こらないよう
確実に成し遂げただろう。

(そんなやり手なところも好き。)

[勝手に頬緩んでる場合じゃないぞ。]

思考の波にのまれていたら
アルヴィンの呆れた声で
現実に戻らされた。

[…寝返るってよほど隣国を手駒にしてきたのかしら。]

[兄上ならやりかねない。あの笑顔の裏で着実にやり込めてしまうからな。
…リアのように。]

最後の方はボソリとつぶやかれて
聞こえなかったけども
ユーフォリアもアルヴィンの言うことに
同意する。

[とりあえずそう言うわけで父上は兄上に頭が上がらないためその段取りになった。]

[きっと周りの貴族たちは驚くでしょうね。]

[まぁリアが思うほど悪いことにはならないさ。色々手回ししているしな。]

アルヴィンの意味深な言葉に
訝しむが、さあお開きだと言われれば
それ以上追求ができず
明日になればわかるだろうかと
その場を後にした。

-------


「本当にあの王子2人はお嬢様をなんだと思っていらっしゃるのか。」

生まれた頃からずっと
お世話をしてくれている
侍女頭はプリプリと愚痴をこぼしながらも
せっせとユーフォリアの髪を編む。

昔から彼女に髪の毛を
結ってくれることが大好きだった。

「まぁあの2人は昔から好き放題だったから。」

「国に貢献されていなければ只の愚王一家ですよ。」

すごい言われようだ。

「まぁ。ケルヴィン君もアルヴィン君もユーフォリアに対しては馬鹿になるのは仕方ないさ。」

そう言って父が扉の前まで
ユーフォリアを迎えにきた。

「お父様!」

「支度は終わったか?」

「はい!」

「では王城に向かうとしよう。
明日からはおそらく忙しくなるから
今夜は王城に泊まることになっている。」

「まぁ久しぶりの泊まりですわね。」

侍女頭にお礼を言った後
父とともに王城に向かった。

いよいよややこしい夜会の始まりだ。
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