False love

平山美久

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茶番劇の始まりと終わり

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普段の王族の夜会ですら
ほとんどの貴族が参加するのだが
今回の夜会はアルヴィンとユーフォリアの婚約破棄もあって
国中の貴族達が集まった。
隣国のタスリアの貴族達も少なからず
集まっている。

そんな中で婚約破棄をするのは
中々に冒険ものである。
下手をすればシンフォニア国の
王族は取るに足らないなどと
思われかねない。

(ついたもののアルが見当たらないわ)

父と共に王城についたあと
一度解散してアルヴィンを探しつつも
ユーフォリアはケルヴィンのことしか
考えられなかった。

(3年ぶりに会えるのね)

3年の月日は長いようで短かった。

ちらりと窓ガラスにうつる
自分をみる。

今日のドレスは普段より
大人っぽく見えるドレスだ。

少しでもケルヴィンの隣に並んでも
なんら遜色のないようにと
選んだドレスである。

(婚約破棄とか婚約発表とか今はそんなことより一刻も早くケルヴィン様に会いたい。)

両頬に手を当てる。
顔がニヤついて止まらない。


1人浮かれ気分でいると
いつのまにかたくさんの貴族が
集まりやがて国王陛下と王妃が
姿を現した。

「皆のもの。本日は我が愚息のために
集まり感謝する。今宵はこの国において
とても大切な夜会になるだろう。楽しんで行かれよ。」

国王陛下の挨拶の後
陛下と王妃様がダンスホールの
真ん中まで来ると
優雅に1曲踊る。

そのあとたくさんの男女の組みが
ダンスを踊り
たくさんのドレスが綺麗な花として
開花していった。

男性にエスコートされて
和かに踊る貴婦人達は
とても幸せそうにみえる。

しばらく壁の端っこで
見とれていた後
ようやくアルヴィンがやってきた。

アルヴィンを見つけた
ユーフォリアはその隣に
メリヤ男爵令嬢がいるのをみて
少し目を見開く。

皆がアルヴィンに気づくと
ヒソヒソと噂話をはじめだす。
おそらく隣にいる人物についてなのだが
そんなものはお構いなしで
アルヴィンはユーフォリアを
見つけるとメリヤを連れて
目の前までやってくる。

「アル。」

「ああ、ユーフォリア。」

アルヴィンがユーフォリアの名前を
愛称では呼ばなかったことに
少しだけ驚く。

隣に並んでいるメリヤは
アルヴィンの腕をがっちりと
掴んで離す気は一切なかった。


やがて優雅に流れていた演奏が途切れ
先ほどまで踊っていたものまでもが
三人を固唾を飲んで見守っている。

[やっぱりあの男爵令嬢にとられたから婚約を取り消すのかしら?]

[痴情のもつれね。]

[ユーフォリア様あんなに素敵なのに可哀想。]

[もしかして政略的だったから簡単にユーフォリア様を捨てるのかしら]

[単にユーフォリア様に魅力がなかったのでは?]

口々に噂が聞こえてくるが
周りの声などユーフォリアには
届かなかった。
アルヴィンがただじっと
ユーフォリアを見つめていたからだ。

そして大丈夫だと強く頷いた後
アルヴィンはしばらく目を閉じる。

(アルはなにをしようとしているの?)

訝しむユーフォリアだったが
なにかを決心したのかアルヴィンは
そっと目を開けて話しはじめた。

それを必死に聞こうとばかりに
集まってきていた貴族達は
静かになる。

「ユーフォリア。今まで申し訳なかった。君はあんなに兄上のことを愛しているのに私が強引に婚約を取り付けた。
兄上が留学するのをいい事に自分のものにしたかったんだ。すまない。」

なにを言うのかと怪訝な顔で
待っていたら突然まるで劇のように
セリフじみたことを言い出した。

「ア、アル?!何いっ

「そんな私に兄上は留学の間
ユーフォリアを託してくださった。
もしその間にユーフォリアの気持ちが私に向いてくれるのならこのまま婚約を続けてもいいと。」

普段のアルヴィンとまるで違う
もの言いにユーフォリアは
呆気にとられてただアルヴィンが
言い終わるのを聞き入るしかできなかった。

とんだ茶番の始まりだ。

周りの貴族達ですら
呆気にとられている。

「しかしユーフォリアは頑なに兄上への気持ちを忘れなかった。それが私には耐えられなかった。だから私はその寂しさを埋めるためにメリヤの手を取った。」

もう一度目を強く閉じた後
ゆっくりと言葉を紡いでいく。

「私はメリヤを選んだんだ。」

「アル!まさかあなた!」

そこでユーフォリアはアルヴィンが
どうやって婚約の取り消しをしようと
しているのかを察する。

アルヴィンは自分が不貞を働いたことで
責任を取る形で婚約を取り消そうとしているのだ。

「アル!そんな嘘はやめて!」

慌ててアルヴィンを止めようと
ユーフォリアは大声を上げるが

「リア。大丈夫」


アルヴィンがユーフォリアだけに
聞こえるようにそっと告げて
わずかに微笑む。

(そんな、こんなのあんまりだわ!)

自然と握りこぶしを作り
下唇をぎゅっと噛む。

「私が!私がいけないんです!」

隣にいたメリヤが目に涙を溜めながら
必死にユーフォリアに許しを請おうとする。

「ユーフォリア様がいると知りながら私はアルヴィン様を誘惑しました!
だからアルヴィン様は悪くないんです!」

(とんだ茶番よ。これでは2人が悪者になるだけじゃない!)

三人の話の流れを聞いた貴族達は
ユーフォリアには擁護するように
アルヴィン達には非難の目で見ながら
口々に2人に罵声を浴びせる。

[なんて最低なのかしら!ケルヴィン殿下から奪っておいて!]

[あまりにも酷いわ!アルヴィン様もメリヤ男爵令嬢も!]

[おいたわしい!ユーフォリア様!]


いつかアルヴィンが
どんな醜聞にもユーフォリアを守ると
言ってくれた。
その時は嬉しかった。
でもそれはアルヴィンを犠牲にするような
やり方じゃない。

ユーフォリアは胸の前に手を当て
凛とした佇まいで話し始める。

「アルヴィン様。メリヤ様。
どうか私に謝らないでください。
私には謝られる資格はこざいません。
私はアルヴィン様の婚約者でありながら
その心はずっとケルヴィン様だけをお慕いしておりました。その間アルヴィン様が悲痛な思いでいるのを気にもとめずただずっとケルヴィン様を待ち続けました。」

ユーフォリアはメリヤ男爵令嬢に
目を向ける。

「その間アルヴィン様を支え続けてくれたのはメリヤ様です。誰も悪くはありません。私は貴方達2人を誰よりも応援致しますわ。アルヴィン様。3年間ケルヴィン様の代わりに守っていただきありがとうございました。私は感謝しかございませんわ。」

そうにっこりと微笑んで
2人の前に歩み寄り
アルヴィンとメリヤの手を取った。

「これからも仲良くしてくださいね。」

アルヴィンははぁとため息をついた後
仕方ないというように諦念して笑う。


「リア。馬鹿だな。そのまま話を合わせればいいものを。」

「生憎そんな情の浅い女じゃなくてよ。」

「ユーフォリア様…ほんとうに申し訳ございません。」

「あなたはなにも悪くないわ。ほら顔上げて?」

3人で仲良く話しているのを見た貴族達は
次第に2人に対して刺々しい視線と言葉は
だんだん減っていった。

「これで茶番は終わりね。」

アルヴィンにウィンクをして見せると
ふっと笑って肩を竦めた。

「まぁ薄々…というかはっきりわかっていたが愚策だったな。」

「きっと歴史に残るお馬鹿王子と名付けられるわね。」

「覚悟の上で劇を披露したんだ。」

「ケルヴィン様が見たらきっとお怒りになられるわ。」

くすくすと互いに笑い合う。
そんな姿を見てこれは円満な取り消し
であることを皆が思った。

ユーフォリアは周りが落ち着きを
取り戻したのを見て数歩後ろに下がる。


アルヴィンはそんなユーフォリアをみて
再び声をあげた。

「ユーフォリア・アルマニー侯爵令嬢に告げる。私、アルヴィン・シンフォニアとの婚約を破棄する。」


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