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待ち望んでいた求婚
しおりを挟む「ユーフォリア・アルマニー侯爵令嬢に告げる。私、アルヴィン・シンフォニアとの婚約を破棄する。」
アルヴィンの耳触りのいい声が
静かになった舞踏室に木霊する。
アルヴィン殿下の傍にいる
メリヤ男爵令嬢はひっそりと隣に立ち
ユーフォリアは目を瞑ったまま
アルヴィンの言葉を聞いていた。
周りの貴族たちは
皆が事の成り行きを見守っている。
ユーフォリアはそっと目を開け
アルヴィンをじっと見つめたのち
その傍らにいるメリヤに視線を向ける。
メリヤは目に涙を溜めながら
辺りを見回したりと
アルヴィンとユーフォリアを
何度も見やった。
メリヤ自身はこの事を
どう思っているのだろうか。
何も言わないユーフォリアに
アルヴィンは顔を徐々に顰めていく。
握り締めている己の指が
白くなるほどきつく握っている。
きっとユーフォリアが
スムーズにケルヴィンの婚約者に
なれるようにとアルヴィンは
こんな茶番劇を考えたのだ。
自分が悪者になることで
婚約破棄はアルヴィンの責任という形に
すればユーフォリアには
ひどい醜聞にならないと。
そんなはずはない。
アルヴィンだけが
悪者になるなんてあんまりだ。
それに…。
アルヴィンの顔を見ればわかる。
(何年一緒にいると思ってるの?)
きっと本音はこのままユーフォリアと
一緒になりたいのだ。
自意識過剰なのかもしれない。
それでもアルヴィンの顔を見れば
ユーフォリアにはすぐにわかってしまう。
幼い頃からずっと一緒だった。
その時アルヴィンが何を考えているのか
的確に当てることはユーフォリアの
特技だ。
だから今アルヴィンが
ユーフォリアに向けているのは
本音は違う事なのだとわかるのだ。
ただ一つだけ知らなかったのは
アルヴィンがユーフォリアを
ひとりの女性と見ていた事だけ…
どんな時もアルヴィンは
ユーフォリアの心の支えだった。
でもそれは恋愛よりも
家族愛の方が近かった。
だからこそ自分とではなく
アルヴィンだけを想ってくれる人と
一緒になってほしい。
「あ、あ、あの!アルヴィン様?」
事の成り行きを誰もが見守る中
メリヤはアルヴィンを見上げて
声をかける。
そっと彼の腕に自分の手を添える仕草には
一つもぎこちなさがない。
声をかけられても
アルヴィンは一度もメリヤを見ずに
真っ直ぐにユーフォリアを見つめている。
ユーフォリアはそんな二人を見て
一度目を瞑ると
ゆっくり目を開けて
ふふっと口元をわずかに綻ばせた。
先日メリヤが屋敷に来た時の
アルヴィンを思い出して
思わずに笑みがこぼれる。
メリヤとならアルヴィンは…
「…っ!」
そのユーフォリアの表情を見るなり
アルヴィンは顔を歪ませる。
「…リア!私はやはり!リアのことが!」
アルヴィンが再びユーフォリアに
言おうとした時
静まり返っていた舞踏室の扉が
音を立てて開く。
そしてだれかが大きく入ってきた人物の名前を声高らかに叫ぶように言った。
「シンフォニア国、第1王子
ケルヴィン・シンフォニア様のご到着です。」
開けられた廊下の燭台が逆光になり
その顔は影となって見えない。
それでも凛とした佇まいで
きらめく金色の髪。
3年前に比べて少しだけ
凛々しくなったようにも見える。
周りの貴族たちがケルヴィンの登場で
忙しなく騒いぎだす。
(あぁ。ダメ。やっぱり私は…)
ケルヴィンはゆっくりと舞踏室に入ると
辺りを見回し、
ユーフォリアを見据える。
そして主君のオーラを
纏わせながらただ真っ直ぐと
歩み始める。
行く手を阻んでいた貴族たちが
自然と左右に分かれて
一寸もケルヴィンの歩みを邪魔しない。
ケルヴィンは真っ直ぐに
ただ一人ユーフォリアだけを見つめて
歩き出しやがて彼女の前で止まる。
「リア。ただいま。」
目の前にきたケルヴィンは3年前よりも
やはり凛々しくさらに魅力溢れる大人の男性へと変貌を遂げていた。
ユーフォリアは周りも忘れて
ケルヴィンだけを視界に写す。
ずっと会いたくて仕方がなかった。
視界はどんどん涙で
歪み始める。
それでも拭うのも惜しいまま
じっとケルヴィンを見つめる。
ユーフォリアの
小さい頬に触れると愛しさが溢れる
眼差しでケルヴィンもまた
ユーフォリアを見つめた。
ケルヴィンの顔を見た瞬間
なにもかもがどうでもよくなる。
ユーフォリアは頬に触れている
ケルヴィンの手にそっと
自分の手を重ねる。
「お帰りなさい。ケルヴィン様。」
ケルヴィンの深い海のような瞳に
自分だけが映つるのを見て
震える声で彼を出迎えた。
「ずっと待たせたね。結婚しようリア」
「はい。喜んで。」
ユーフォリアは涙を流しながら
笑顔で幸せいっぱいに答えた。
ずっと待ち続けた彼が
ようやく私だけを見つめている。
どれだけこの時を待ったことか。
どれだけ彼を恋しく思っていたことか。
もう二度と離れたくない。
もう二度と離さないでほしい。
もう二度と彼以外が自分を誰かの婚約者だと言わせないでほしい。
まるでこの場に二人だけしか
いないような空気を放つ二人に
少し離れた玉座に座っていた国王が
ゴホンとわざとらしい咳払いをしたのち
舞踏室の全体に聞こえるように
大きく宣言した。
「この時をもってアルヴィン・シンフォニアとユーフォリア・アルマニーの婚約を破棄すると共に
ケルヴィン・シンフォニアとユーフォリア・アルマニーの婚約を宣言とし
ケルヴィン・シンフォニアを時期国王と定め王太子に任命する。」
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