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第1章

第4話

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「音羽!ごめん彼氏が来ちゃった!」

「こんばんわ!すみません来ちゃいました!」

えへっと後ろから聴こえてきて
振り返れば
礼奈の横に知らない男性が立っていた。

つい先ほどまで顔は知らないが
礼奈の彼氏に悪態をついていたので
思わずむせ返った。

「え!音羽?!大丈夫!?」

「大丈夫ですか!?」

礼奈に背中をさすられて
その隣で礼奈の彼氏に水を差し出され
周りはひっそりとこちらをちらりと見てくる。

(なんだ!恥ずかしいんだけど!)


「大丈夫!とりあえず2人とも座って」

少し落ち着いてから2人を席に
誘導すると目の前に2人並んで座る。
しかもちゃっかり礼奈が座る前に
椅子を引いてエスコートしているあたり
この彼氏やるな!と脳が勝手に分析しだす。

「ごめん!音羽!今日本当は彼とデートだったんけどどうしても音羽と会って話がしたくて断ったんだけど押しかけてきたみたい」

そういうことならば仕方ない。
…ということにしてあげよう。

「うん。平気!先約があったなら違う日でもよかったのに。」

「ううん!やっぱり音羽には会ってきちんと報告したかったしそれにこの人のことは心配しないで。」

肘でグイグイと彼を押しながら
笑ってくれる。
彼には申し訳ないけど
その言葉にじーんと温かくなっていると
言われた彼が

「僕のことも優先にしてくれないと許しませんよ。」

となぜか笑顔で言った。

しかし私にはその笑顔がなぜか
怖く感じて自然と背筋が伸びた。

「い、いつもあなたのこと優先にしてるじゃない!」

「礼奈さん?」

ニコニコと礼奈の方に向けて笑ってるけど
怖い。いや本当に怖い。

しかし礼奈をみやると
困ったようにしつつもその頬はなぜか赤い。


うん。恋ってすごいわ。


あの近づいてくる男1人残らず
返り討ちにしていた礼奈が
彼には弱いらしく
わかったわ。と小さく言った。

彼は礼奈の頭を撫でたり髪をすくったり。
礼奈もやめて音羽の前で。と言いつつも
本気で嫌がってはいない。

もはや完全に2人の世界に入っている。

私完全に邪魔者だ。

「お、おほん!」

下手な咳払いをすれば
礼奈はハッとして慌てて彼の手を
はねのけてこちらに視線を移した。

彼に目線を向けるのは怖いと
瞬間的に察知したので礼奈だけをみた。

「そういえば音羽まだニートよね。」

ちょ!おま!!

「礼奈!?!?」

「大丈夫!彼には音羽のことすでに話してるから。それでね彼が音羽に紹介したい仕事があるらしいんだけど。」

そう言ってチラリと彼を見るので
必然と私も彼に視線を向けた。
どうやら黒いオーラは消えたみたいで
内心一安心する。

「ええ。友人の家の家政婦が先月急に辞めてしまってちょうど探していたところなんです。」

「家政婦?」

彼の言った言葉に怪訝な顔になる。

現代において"家政婦"を雇う家なんて
あるものなのか?
現実に?ドラマではなくて?

異世界ならまだしも…。
侍女とか侍従とか使用人とか。

(そういえばあの漫画の新刊の発売日今日かも。)

考えていたら自然と脱線していた思考が
礼奈の彼氏によって引き戻される。


「現代にも家政婦という職種はありますよ。」

思ってたことをズバリと言われて
ついびっくりしてしまう。

ハウスキーパーとかなのかな?
日雇いとか週に数回とか。

「もちろん住み込みになります」

「え?住み込み!?」

「彼の家で住み込みで家事などをしてくれる家政婦を探しているんですが、…貴女を礼奈から聞いた時ぴったりだと思って。彼の家で働きませんか?」

私にぴったりとはどういうことだろうか?

たしかにニートだしすぐに
働けるのは勿論だけど
ずっと家にいるからって実家の家事を
手伝うことはあまりない。
綺麗好きな母が常に綺麗にして
少しでも物の位置が違うと怒られるから
何もしないようにしている。

「大丈夫。彼は女性にはすごく優しいからきっとすぐに馴染むよ。」

ニコリと笑って言いますが
先ほどと同じように感じる
異様な恐怖に全く信じられない。

「音羽。私も一度彼に会ったことあるけどすごく優しかったし絶対いい人だからどうかな?
住み込みになるけどお給料も弾んでくれるらしいし。」

「うーん。でも住み込みかぁ」

正直家事が得意というわけでもないけど
家政婦というお仕事には興味がある。

だって雇用主を"旦那様"呼びが
できるんでしょ?

リアル侍女生活じゃん。

異世界じゃん。

…でも住み込み。

生まれてこのかた27年間
住み慣れた実家を出るのは
少し怖い…。

「私がいうのもなんだけど音羽もそろそろ前に進まないといけない時期じゃない?」


その言葉に3年前の出来事が
脳裏をよぎる。

「…そうだよね。このままなんて無理だよね。
……やってみようかな。」

礼奈の言葉をキッカケに
少しだけ前に進もうと思った。
いつまでもこのままでいたいけど
いい加減自分も外の世界に戻らないといけない。

まぁ最悪だと思ったら紹介してくれた
2人には悪いけど速攻で辞めよう!
角が立たないようにそれとなく続けて
フェードアウト狙おう!

そろそろ本気で就職しようと思って。
とか
やりたいことが本当に見つかったので。
とか

色々理由つけて辞めよう。

そういう風に考えると
幾分か気楽になった。

「音羽!うん!やりな!頑張れ!」

「ありがとう!礼奈!」

「じゃあ早速来週からお願いできるかな?
彼にはもうすでに連絡済みだから。」

礼奈の彼氏の言葉にハテナが浮かぶ。

いや待って。連絡済みってなに。

え、断られるとか思わなかったの?


クスリと笑う礼奈の彼氏。


礼奈!この人本当に大丈夫!?


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