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改造後輩の登場
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「せ~んぱいっ! はいっ、僕の手作りお菓子ですよ~♡」
「うちの部セールスお断りなんで」
放課後。文芸部。
ピシャリと閉じられた文芸部部室ドアの向こうから「先輩!? せんぱーい!?」と悲痛な叫びと戸を叩く音が聞こえる。
「開けてあげなよ」
扉を閉めた張本人である三上は部長の言葉に少し口を尖らせて、しかしゆっくりと引き戸を開けた。
「よ、よかった~……これは想定してませんでした……」
部室に入ってきたのは、少し癖のある金髪を一つに束ねた男子高校生。
「先輩ったらツンデレですね、今日は僕がお菓子持ってくるので教室で待っててくださいって言ったじゃないですか」
「俺はツンデレじゃないし待つとも言ってない」
「見つけるのに骨が折れたんですからね、もう!」
「話を聞け」
男子生徒は健気を通り越していっそあざとくラッピングされた焼き菓子を掲げる。
「先輩って甘いの大丈夫でしたよね? チョコチップなんですけど」
「いらん。怖い。帰ってくれ」
「……? 受け取ってあげなよ、三上の好きそうな顔の後輩じゃん」
つい先日「BLになりたい」などとほざいていた三上が、苦虫を噛み潰したような顔で久野に振り向く。
三上に懐いている様子の後輩は整った可愛らしい顔立ち。三上の望みに合った逸材に見えるが。
「部長。もう少しよく考えてください。こいつに惑わされないで」
「部長さんなんですね。先輩がお世話になっております」
久野はふと二人の足元に視線を落とす。
学年別になっているはずの上履きの色が——————同じだ。
「そうだ、三上って一年だっけ」
「一ヶ月前に入学したばっかっすよ俺」
「となると」
三上の横には一転して自称後輩という何とも不可思議な存在に化けた礼儀正しい男子生徒。
「どちら様でしょうか」
「はい! 先輩と同じクラスの天熾佑宇と申します」
「同じクラスの」
「言っときますけど俺浪人も留年もしてないすからね」
「先輩とは中学も一緒だったんです」
「中学ではまともな奴だったんです」
「でもあまり接点はなかったので……高校になってやっと同じクラスになれました」
「高校になって突然俺にだけ『先輩』とか呼びだしてきたんです」
「オッケー、互いの言い分はわかった」
正直あまり理解はしていなかったが、ややこしそうな事態を鋭敏に察知した久野が両手でストップをかける。
「つまり天熾君、君は同年代にも関わらず三上を『先輩』と呼んでいるわけだ」
「はい」
「何故」
天熾は可愛らしい顔立ちに底知れぬものを秘めつつ。
「先輩と親友になりたいんです」
「因果関係が全部おかしい」
ツッコミをものともせず、天熾は薄く頬を赤らめて。
「中学の頃から先輩のお話とか行動が気になってて。……お友達になりたかったんですが中々話しかける機会がなく。だから高校デビューをしたんです! 先輩の好みに合わせようと!」
「俺は一言も後輩キャラが好みなんて言ってない」
「だって先輩、こういうちょっとフシギなキャラ好きでしょう? 先輩の好きな漫画、僕も持ってるので知ってますよ」
「二次元と三次元の区別をつけろ」
「区別が付いてないのは三上もだよ、BLになりたいとかつい先日言ってたばかりだろ。天熾君、三上はどっちかっていうと親友より恋人のが目があるぞ」
「いや、僕は別に先輩の恋人にはなりたくないので」
「そりゃそうか」
確かに親友と恋人では意味が大きく違う。
あくまで友人として親しくしたい、というところか。
「だって恋人って別れたら終わりじゃないですか」
「風向き変わったな」
天熾佑宇が、不気味なまでに無邪気な笑顔を浮かべる。
「僕、先輩に一生ついていきたいんです。だったら多少折り合い悪くなっても時間さえあれば有耶無耶にできる親友のがいいですよね?」
「三上、この子思ってたよりもパンチが強い」
「俺に報告されたってどうにもできないっすよ」
途方にくれている三上から、部室の光力では生み出せない暗い影が落ちている。
「部長、分かってくれましたか? こいつ出禁にしてください」
「めちゃくちゃ面白いな君、いつでも文芸部に来ていいよ」
メガネの奥にある瞳を輝かせた久野が部外者に手を差し伸べた。
「え? なんか急に味方から刺されたんすけど? え? 部長?」
「手始めにそのクッキーに惚れ薬なんて入れてみたらどうだ?」
「そうだこの人興味と好奇心で部室改造するような人だ」
「えへへっ、もうおまじない入りですってば」
「そして最初から俺の無事は一切考慮されてないな」
じわり後ずさる三上を逃すまいと伸びる二つの影。
「せーんぱいっ♡ 焼きたてですよぅ、今食べないと損ですよ」
「三上、ちょっと食べてみないか。おまじないとやらの効果を見てみたい」
友愛と言うには度が過ぎたモノを抱えた偽後輩と、純粋な好奇心で後輩を追い詰める先輩がにじり寄る。
「う、うぅ……やだ……俺が望んでた『イケメンに迫られるシチュ』ってこうじゃないのに……!」
部室の隅まで追い詰められ半泣きの三上は精一杯腕で顔をガードして。
そして校舎の片隅から断末魔が響いた。
「うちの部セールスお断りなんで」
放課後。文芸部。
ピシャリと閉じられた文芸部部室ドアの向こうから「先輩!? せんぱーい!?」と悲痛な叫びと戸を叩く音が聞こえる。
「開けてあげなよ」
扉を閉めた張本人である三上は部長の言葉に少し口を尖らせて、しかしゆっくりと引き戸を開けた。
「よ、よかった~……これは想定してませんでした……」
部室に入ってきたのは、少し癖のある金髪を一つに束ねた男子高校生。
「先輩ったらツンデレですね、今日は僕がお菓子持ってくるので教室で待っててくださいって言ったじゃないですか」
「俺はツンデレじゃないし待つとも言ってない」
「見つけるのに骨が折れたんですからね、もう!」
「話を聞け」
男子生徒は健気を通り越していっそあざとくラッピングされた焼き菓子を掲げる。
「先輩って甘いの大丈夫でしたよね? チョコチップなんですけど」
「いらん。怖い。帰ってくれ」
「……? 受け取ってあげなよ、三上の好きそうな顔の後輩じゃん」
つい先日「BLになりたい」などとほざいていた三上が、苦虫を噛み潰したような顔で久野に振り向く。
三上に懐いている様子の後輩は整った可愛らしい顔立ち。三上の望みに合った逸材に見えるが。
「部長。もう少しよく考えてください。こいつに惑わされないで」
「部長さんなんですね。先輩がお世話になっております」
久野はふと二人の足元に視線を落とす。
学年別になっているはずの上履きの色が——————同じだ。
「そうだ、三上って一年だっけ」
「一ヶ月前に入学したばっかっすよ俺」
「となると」
三上の横には一転して自称後輩という何とも不可思議な存在に化けた礼儀正しい男子生徒。
「どちら様でしょうか」
「はい! 先輩と同じクラスの天熾佑宇と申します」
「同じクラスの」
「言っときますけど俺浪人も留年もしてないすからね」
「先輩とは中学も一緒だったんです」
「中学ではまともな奴だったんです」
「でもあまり接点はなかったので……高校になってやっと同じクラスになれました」
「高校になって突然俺にだけ『先輩』とか呼びだしてきたんです」
「オッケー、互いの言い分はわかった」
正直あまり理解はしていなかったが、ややこしそうな事態を鋭敏に察知した久野が両手でストップをかける。
「つまり天熾君、君は同年代にも関わらず三上を『先輩』と呼んでいるわけだ」
「はい」
「何故」
天熾は可愛らしい顔立ちに底知れぬものを秘めつつ。
「先輩と親友になりたいんです」
「因果関係が全部おかしい」
ツッコミをものともせず、天熾は薄く頬を赤らめて。
「中学の頃から先輩のお話とか行動が気になってて。……お友達になりたかったんですが中々話しかける機会がなく。だから高校デビューをしたんです! 先輩の好みに合わせようと!」
「俺は一言も後輩キャラが好みなんて言ってない」
「だって先輩、こういうちょっとフシギなキャラ好きでしょう? 先輩の好きな漫画、僕も持ってるので知ってますよ」
「二次元と三次元の区別をつけろ」
「区別が付いてないのは三上もだよ、BLになりたいとかつい先日言ってたばかりだろ。天熾君、三上はどっちかっていうと親友より恋人のが目があるぞ」
「いや、僕は別に先輩の恋人にはなりたくないので」
「そりゃそうか」
確かに親友と恋人では意味が大きく違う。
あくまで友人として親しくしたい、というところか。
「だって恋人って別れたら終わりじゃないですか」
「風向き変わったな」
天熾佑宇が、不気味なまでに無邪気な笑顔を浮かべる。
「僕、先輩に一生ついていきたいんです。だったら多少折り合い悪くなっても時間さえあれば有耶無耶にできる親友のがいいですよね?」
「三上、この子思ってたよりもパンチが強い」
「俺に報告されたってどうにもできないっすよ」
途方にくれている三上から、部室の光力では生み出せない暗い影が落ちている。
「部長、分かってくれましたか? こいつ出禁にしてください」
「めちゃくちゃ面白いな君、いつでも文芸部に来ていいよ」
メガネの奥にある瞳を輝かせた久野が部外者に手を差し伸べた。
「え? なんか急に味方から刺されたんすけど? え? 部長?」
「手始めにそのクッキーに惚れ薬なんて入れてみたらどうだ?」
「そうだこの人興味と好奇心で部室改造するような人だ」
「えへへっ、もうおまじない入りですってば」
「そして最初から俺の無事は一切考慮されてないな」
じわり後ずさる三上を逃すまいと伸びる二つの影。
「せーんぱいっ♡ 焼きたてですよぅ、今食べないと損ですよ」
「三上、ちょっと食べてみないか。おまじないとやらの効果を見てみたい」
友愛と言うには度が過ぎたモノを抱えた偽後輩と、純粋な好奇心で後輩を追い詰める先輩がにじり寄る。
「う、うぅ……やだ……俺が望んでた『イケメンに迫られるシチュ』ってこうじゃないのに……!」
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そして校舎の片隅から断末魔が響いた。
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