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6.学校でもお気軽にできる滝行のご案内
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「だからさ、やっぱり原点回帰して青ノリだって。ネギの線は捨てていいだろ」
「そこは同意しますが僕はパセリを推していきたいです」
一限目と二限目の間。運動場。
「おや、しぃちゃんのとこの……雀居くんと、天熾くん」
「氷月先輩」
「この前はどうも」
「何の話をしていたんだい」
「一限目に来た先生の歯についていた緑色の物体について話し合ってました」
「なるほど」
体育終わりでジャージ姿の氷月律は曖昧に頷いた。
「どうだい? しぃちゃんの無茶には慣れた?」
「大分」
「先輩結構順応性高いですもんね」
「あれ? 天熾くんは……」
「僕製菓部です」
「そうなのか、てっきり君も文芸部だと。じゃあ雀居くんだけか、新入部員は」
「そうすね」
「しぃちゃんがまた手に負えなくなったら遠慮せず呼んで。迷惑をかけてごめんね」
申し訳なさそうに笑った氷月の手が三上の頭上に乗る。
「時間取っちゃったね、体育頑張って」
「はい、ありがとうございます」
去っていく氷月に天熾が頭を下げた。
「……」
「……先輩?」
三上が直立したまま動かない。
「氷月先輩行っちゃいましたよ?」
雀居三上は割と礼儀正しいの人間のはずだ。天熾が顔の前で手を振る。
「……」
数秒して、ゆっくりと三上の手が動く。彼は右手で己の頭を確認し、未だ虚空を見つめながら。
「天熾、ごめん俺ちょっと行ってくるわ」
「どこへ」
「先生に言っといて」
「僕もお供しますよ⁉︎ 先輩⁉︎ せんぱーい⁉︎」
右手右足左手左足が揃った、ぎこちない動きのくせに妙に早い速度で三上が校舎裏へ回っていく。
天熾は仕方なく「雀居君の様子がおかしいので見てきます」と体育教師に報告して後を追った。
発見された三上は、校舎裏の蛇口の下でずぶ濡れになっていた。
「何してるんですか」
「滝行」
「ここ滝じゃないですよ」
「できるだけ再現した結果ごぼぼぼ」
「ああ、水を浴びながら喋るから」
「ごぼぼぼぼぼぼ」
天熾は仕方なく蛇口を閉めた。
見るも無惨に全身びしょ濡れになった雀居は野外用の広い手洗い場で座禅を組んだまま。
「どうしたんですか。流石に親友の僕でも理解しきれませんよ」
「勝手に親友認定するな」
「え。今僕が責められるターンでしたか?」
戸惑いながらもハンカチを渡す天熾。
「……氷月先輩に」
「? はい」
「氷月先輩に頭ポンポンされた!」
「そういえば先輩頭撫でられてましたね」
「崇高な世界を見た……イケメンにチヤホヤされるという理想に俺は触れた……」
「そんなに?」
「しかしBLと現実は非なるもの。冷静になれ雀居三上。もう一回ポンポンして欲しいとかあわよくば後輩として可愛がって欲しいとか暴走する俺の欲望に氷月先輩を巻き込むわけにはいかないんだ!」
「リビドーってほどじゃなくないですか?」
「イエスイケメン! ノータッチ!」
「えい」
水道の水より冷めた目をした天熾が、三上の頬に人差し指を突きさす。
「やめろ! 触るやつがいるかノータッチって言ってるのに」
「あ、僕も一応イケメン枠には入ってるんですね」
「え? ああ、うん、まあ……」
ようやく頭が冷えてきたのか、雀居がびしょびしょになったジャージの上着を絞る。
「僕のジャージ貸すんで体操服は脱いじゃったほうがいいですよ、着てるほうが寒そうです」
「……ありがとう天熾……」
「一つ貸し、もとい一つ親友にステップアップですからねこれで」
「……今回だけは認める……」
へくしょん、とくしゃみをしながら三上が『天熾』と名前の書かれたジャージに袖を通した。
「よし。これで先輩に一生ついてく計画は少し前進。服の貸し借りまではオッケー、と……」
「天熾? なんか怖い呟き聞こえたんだけど」
「安心してくださいね先輩、先輩がどんな人と結婚しようが相棒になろうがイケメンの僕がずーっっと横にいますからね」
「だから怖いんだよ。顔の良さを差し引いても怖い。まだ恋人になろうとしてくるほうがマシ」
きゅるり、とかわいこぶった天熾だがやっていることは親友ヤクザだ。
「ルートは友情エンドだと嬉しいです」
「なんでこいつからジャージ借りちゃったんだろ俺」
「攻略対象情報は教えてあげてもいいですけど、やっぱり素のままで親友との友情がずっと続いたほうがいいですよね?」
「俺この世界を恋愛ゲームとして見てねぇんだよなあ」
ヘアピンを外した髪から水滴が滴っている。ゲームだったらスチルになりそうだが、生憎とプレイヤーがいない。
「そうですね、意外でした。てっきり学校中のイケメンを集めてハーレムを築く気だとばかり」
「俺はちゃんと夢と現実の区別がはっきり付けられる人間です。それに校内のイケメン、部長と氷月先輩ぐらいしかいねーよ。あと俺とお前」
「区別がつく人間が滝行しますかね」
「区別つけるためにやってんだろ」
青空に鳴り響く二限目開始のチャイム。
「とりあえず校庭に戻りましょう先輩、濡れてる件は先生に謝って」
「……何で俺滝行しちゃったんだろうな」
「やっと先輩が正気に戻った」
「そこは同意しますが僕はパセリを推していきたいです」
一限目と二限目の間。運動場。
「おや、しぃちゃんのとこの……雀居くんと、天熾くん」
「氷月先輩」
「この前はどうも」
「何の話をしていたんだい」
「一限目に来た先生の歯についていた緑色の物体について話し合ってました」
「なるほど」
体育終わりでジャージ姿の氷月律は曖昧に頷いた。
「どうだい? しぃちゃんの無茶には慣れた?」
「大分」
「先輩結構順応性高いですもんね」
「あれ? 天熾くんは……」
「僕製菓部です」
「そうなのか、てっきり君も文芸部だと。じゃあ雀居くんだけか、新入部員は」
「そうすね」
「しぃちゃんがまた手に負えなくなったら遠慮せず呼んで。迷惑をかけてごめんね」
申し訳なさそうに笑った氷月の手が三上の頭上に乗る。
「時間取っちゃったね、体育頑張って」
「はい、ありがとうございます」
去っていく氷月に天熾が頭を下げた。
「……」
「……先輩?」
三上が直立したまま動かない。
「氷月先輩行っちゃいましたよ?」
雀居三上は割と礼儀正しいの人間のはずだ。天熾が顔の前で手を振る。
「……」
数秒して、ゆっくりと三上の手が動く。彼は右手で己の頭を確認し、未だ虚空を見つめながら。
「天熾、ごめん俺ちょっと行ってくるわ」
「どこへ」
「先生に言っといて」
「僕もお供しますよ⁉︎ 先輩⁉︎ せんぱーい⁉︎」
右手右足左手左足が揃った、ぎこちない動きのくせに妙に早い速度で三上が校舎裏へ回っていく。
天熾は仕方なく「雀居君の様子がおかしいので見てきます」と体育教師に報告して後を追った。
発見された三上は、校舎裏の蛇口の下でずぶ濡れになっていた。
「何してるんですか」
「滝行」
「ここ滝じゃないですよ」
「できるだけ再現した結果ごぼぼぼ」
「ああ、水を浴びながら喋るから」
「ごぼぼぼぼぼぼ」
天熾は仕方なく蛇口を閉めた。
見るも無惨に全身びしょ濡れになった雀居は野外用の広い手洗い場で座禅を組んだまま。
「どうしたんですか。流石に親友の僕でも理解しきれませんよ」
「勝手に親友認定するな」
「え。今僕が責められるターンでしたか?」
戸惑いながらもハンカチを渡す天熾。
「……氷月先輩に」
「? はい」
「氷月先輩に頭ポンポンされた!」
「そういえば先輩頭撫でられてましたね」
「崇高な世界を見た……イケメンにチヤホヤされるという理想に俺は触れた……」
「そんなに?」
「しかしBLと現実は非なるもの。冷静になれ雀居三上。もう一回ポンポンして欲しいとかあわよくば後輩として可愛がって欲しいとか暴走する俺の欲望に氷月先輩を巻き込むわけにはいかないんだ!」
「リビドーってほどじゃなくないですか?」
「イエスイケメン! ノータッチ!」
「えい」
水道の水より冷めた目をした天熾が、三上の頬に人差し指を突きさす。
「やめろ! 触るやつがいるかノータッチって言ってるのに」
「あ、僕も一応イケメン枠には入ってるんですね」
「え? ああ、うん、まあ……」
ようやく頭が冷えてきたのか、雀居がびしょびしょになったジャージの上着を絞る。
「僕のジャージ貸すんで体操服は脱いじゃったほうがいいですよ、着てるほうが寒そうです」
「……ありがとう天熾……」
「一つ貸し、もとい一つ親友にステップアップですからねこれで」
「……今回だけは認める……」
へくしょん、とくしゃみをしながら三上が『天熾』と名前の書かれたジャージに袖を通した。
「よし。これで先輩に一生ついてく計画は少し前進。服の貸し借りまではオッケー、と……」
「天熾? なんか怖い呟き聞こえたんだけど」
「安心してくださいね先輩、先輩がどんな人と結婚しようが相棒になろうがイケメンの僕がずーっっと横にいますからね」
「だから怖いんだよ。顔の良さを差し引いても怖い。まだ恋人になろうとしてくるほうがマシ」
きゅるり、とかわいこぶった天熾だがやっていることは親友ヤクザだ。
「ルートは友情エンドだと嬉しいです」
「なんでこいつからジャージ借りちゃったんだろ俺」
「攻略対象情報は教えてあげてもいいですけど、やっぱり素のままで親友との友情がずっと続いたほうがいいですよね?」
「俺この世界を恋愛ゲームとして見てねぇんだよなあ」
ヘアピンを外した髪から水滴が滴っている。ゲームだったらスチルになりそうだが、生憎とプレイヤーがいない。
「そうですね、意外でした。てっきり学校中のイケメンを集めてハーレムを築く気だとばかり」
「俺はちゃんと夢と現実の区別がはっきり付けられる人間です。それに校内のイケメン、部長と氷月先輩ぐらいしかいねーよ。あと俺とお前」
「区別がつく人間が滝行しますかね」
「区別つけるためにやってんだろ」
青空に鳴り響く二限目開始のチャイム。
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「……何で俺滝行しちゃったんだろうな」
「やっと先輩が正気に戻った」
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