祟り神は守り神

仙道 神明

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第一話 違うんだよなぁ

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 境内はしんと静まり返っていた。

 九月の風に舞う落ち葉が、参道の石畳を転がっていく。

 昼下がりの神社には、母と幼い子どもの姿しかなかった。

「ほら、鈴を鳴らしてごらん」

 母に促され、子どもは両手で大きな鈴の縄を揺らした。からん、ころん、と澄んだ音が秋空に広がる。

「ねえ、お母さん。ここって、どんな神様がいるの?」

 子が首をかしげる。

 母は微笑み、手を合わせたまま答えた。

「ここの神様はね、昔、この村を鬼から守ってくれたり、雨が降らないときに雨を降らせてくれたりしたんだって。だからみんな大切に祀ってるのよ」

「へぇー! すごい神様だね!」

 ぱちぱちと手を合わせる子を見て、母は満足そうにうなずいた。

 その様子を、拝殿の奥で聞いていた“当の本人”は、なんとも言えない顔をしていた。

「……いやいや、違うんだよなぁ」

 氏神は、古びた木像の奥に潜みながら、頭を抱えた。

 人々から見れば“守り神”だの“雨を降らす霊験あらたかな神”だのと讃えられているが、実際のところはまるで違う。

 この地に現れたとき、彼は神などではなく、むしろ“悪”として畏れられる存在だった。

「鬼を懲らしめようとした? 雨を恵んだ? とんでもない。オレはただ……」

 社殿の隙間から母子の姿をのぞき見ながら、氏神は小さくつぶやく。

 悪さをしようとしたら、なぜか良いことになってしまった。それが積み重なって“ありがたい神様”になってしまったのだ。

「いやぁ……困ったもんだよな」

 鈴の音が風に消える。

 母と子は拝礼を終え、参道を歩いて帰っていく。

 小さな背中を見送りながら、氏神は深くため息をついた。

「違うんだよなぁ……ほんと、違うんだよなぁ……」
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