86の約束

仙道 神明

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Lap 16 「Lexus RC F GT3 始動」

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──早朝のガレージ風馬。

 ピットの奥に鎮座する、Lexus RC F GT3。

 悟と早矢がその前に立っていた。

「……やっぱ、すげぇ迫力だな。こいつがGT3のマシンか」

「ね、音もビリビリするし、オーラもある。これ、ほんとに動かせるのかな……?」

 そう言いつつ、早矢の目はわずかに震えていた。市販車とは違う、“勝つためだけに作られマシン”。
 その迫力は、早矢の胸を高鳴らせると同時に、未知への緊張を与えていた。

──そこへ、古川がガレージの奥から出てきた。

「よう。2人とも、気合入ってるな」

「古川さん、これ……まさか自腹で?」

「ああ。全額じゃねえけどな、融資と借金で何とか」

 古川は笑って、苦い缶コーヒーをあおる。

「馬鹿な話だろ?自分とこの客にせっつかれて、オッサンがGT3買うなんてよ」

「……ごめん、無茶させて」

「別にいいさ。なにより──面白ぇじゃねえか」

 古川はマシンを見上げ、にやりと笑う。

「借金返すには、勝つしかねえ。やるぞ、風馬レーシング!」

 その言葉に、ガレージ全体の空気が熱を帯びた。

──

 ある日、取材用にガレージの写真を撮るため、早矢は朝からメイクをバッチリ決めて現れた。
 ハイライトの入った髪、華やかなアイシャドウ、目元は鋭く──だが美しく。
 いつもの早矢とはひと味違う、まさに“戦う女性ドライバー”の顔だった。

そして──後日、完成したポスターが届いた。

「New Generation Driver:Haya」
Presented by Lunaire Cosmetics(ルネール化粧品)

「えええっ、ガレージ中に貼るんですかこれ!?しかもこの顔、決めすぎてない!?」

 早矢は耳まで真っ赤になりながら、壁に貼られた自分のポスターを見上げていた。
 ピット横、事務所の壁、休憩スペースの冷蔵庫──

 至る所に、華やかな早矢の顔がある。

「いいじゃん。見栄えするし、うちのイメージモデルってことでさ」

 悟は笑いながら、少しだけ嬉しそうに言った。

「スポンサーに感謝だな、悠斗くんの紹介だっけ?」

「うん、あいつ……こういうの得意だから。ちょっと悔しいけど」

──悠斗。早矢と同じジュニア出身で、今はGT300で活躍中の同期。

 今では彼のチームとの関係も良好で、風馬レーシングは経験面で多くを支えてもらっていた。

「ま、持つべきものは頼れる同期ってやつだな」

 悟はそう言って、Lexus RC F GT3のボンネットを軽く叩いた。

「……さぁて、老骨に鞭打ってやるか。この借金返すには、勝ち続けるしかねえからな」

「ふふっ、じゃあ、ポスターの子も頑張らなきゃね」

「そいつは大変だ」

Lexus RC F GT3── 風馬レーシング仕様、初公開。

 その車体は、情熱の赤をベースに、ボンネットやルーフには悟の愛車・AE86をオマージュしたパールホワイトのラインが大胆に走っていた。
 リアウイングの端には、小さく「FUMA RACING」と書かれたロゴ。

──そして数日後。

風馬レーシングは岡山国際サーキットにいた。

 Lexus RC F GT3のシェイクダウンを兼ねたプライベートテストと、次週開催のスーパー耐久の練習といったところか。

 隣のピットには、悠斗の所属する現役GTチーム。サインボードや無線機器の使い方、タイヤの温め方に至るまで、彼らのクルーが手取り足取り、風馬チームをサポートしてくれていた。

「マシン下がりすぎてるな、フロントのバネ固めよう」

「無線、タイミングズレてるよ!セクター1抜けたら入れる感じで!」

──経験の浅いチームに、プロの現場の空気が流れ込む。

 ピット内では、悟がモニターを見つめ、データロガーをチェックしていた。

「うーん……ブレーキングが深すぎるな、早矢、もう少し手前から減速してみようか」

「了解!でもこの車、思ったより曲がる。楽しい!」

──早矢は嬉しそうにレーシングスーツの袖をまくりながら、何度もコースインしていく。

 一方、悟も走行セッションに参加。86では経験したことのない強烈なダウンフォース、GTマシン特有のハイグリップタイヤ──

「……こりゃ、ゲームより全然ムズいな……!」

 とは言いつつも、走行3本目にはコンマ秒単位でタイムを詰めていた。
 ピットウォールの裏で見ていた悠斗は、思わず口笛を吹いた。

「マジで……この人、やば!」

 夕暮れどき、ピットでマシンを囲みながら、古川が言った。

「ようやく“形”にはなってきたな。あとは……レースで結果を出すだけか」

 悟は首にかけたタオルで額の汗を拭きながら頷く。

「準備はできた。あとは、やるだけだな」

──風馬レーシング、GT300への挑戦。

 その始まりの光は、静かに、しかし確かに、岡山の空の下で燃え上がっていた。
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