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Lap 23 「共鳴する鼓動」
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── 4月初旬、岡山国際サーキット。
桜の花びらがひらりと舞う中、開幕戦の熱気がパドックを包み込む。
その一角で、Lexus RC F GT3 のボディに手を添えながら、悟と早矢が並んで立っていた。
「……やっと、ここまで来たな」
悟が呟くと、隣の早矢が小さく笑う。
「本当に。こうして並んでパドックに立ってるなんて、数年前じゃ想像もできなかった」
「ゲームの中だけで満足してた俺が、実車でスーパーGTの開幕戦か……なあ、人生ってのは面白いもんだな」
「でも、それを引き寄せたのは悟さんの腕と── 覚悟」
悟はその言葉にわずかに肩をすくめ、照れたように笑った。
「……ま、そいつを証明するのは今日の俺たちの走りだ。見せてやろうぜ、“風馬レーシング”の名をな」
「うん!」
早矢の声に力がこもる。それは単なる気合ではなく、この数ヶ月を共に駆け抜けてきた仲間としての、静かな信頼の証だった。
古川はチームスタッフたちに最終確認を指示しながらも、時折ふたりのドライバーを見守る。
早矢はレーシングスーツに身を包み、ヘルメットを手に静かに集中を高めている。
悟はメカニックたちと車の最終調整を進めつつ、表情にはいつもの穏やかさの中に闘志が灯っていた。
スタッフの声が飛び交い、ピット内はまさに戦いの舞台となっている。
全員の視線はこれから始まる予選に向けて一つに結ばれていた。
──予選Q1開始
空は明るく澄み、春の陽光がサーキットを照らしていた。だが、ピットの空気は重たく、静寂の中に焦燥と緊張が潜んでいた。
最初にコースインしたのは悟。
Lexus RC F GT3のエンジンが唸りを上げ、ピットロードからゆっくりと滑り出す。その背中を、早矢とチームスタッフが無言で見送った。
「……悟さん……」
早矢は小さく呟き、両手を胸の前でぎゅっと組んだ。ヘルメットを脱いだまま、悟のステアリング操作をモニター越しに見つめる。
──1コーナー、2コーナー、ラインは外していない。
ただ、どこかぎこちなさが残る。タイヤの温まりが遅いのか、それとも……。
古川も腕を組み、モニターを睨みつけていた。
「目……か?」
悟のコクピット内。
ヘルメット越しに伝わる自分の鼓動。息を整えながら、視線を先に送る。
「手が、鈍ってる……いや、目か……いや、どっちもだ」
だがその瞬間、早矢の言葉がふと胸をよぎった。
「……一緒に乗ってる時、安心できるんです。悟さんとなら、限界ギリギリでも絶対大丈夫って思える」
「……そうか」
左足をブレーキに、右足をスロットルに置き直す。シフトダウン、そして最終コーナーの立ち上がり。
「甘えさせてもらうぜ、早矢……俺は、まだ走れる
タイムが更新された。
9番手──ギリギリの突破。
だが、堂々たるQ1通過。
ピット内にざわめきが戻った。スタッフが拍手を交わし、古川は深く息をついた。
「やるな、じいさん……」
モニターの前で、早矢は小さく目を潤ませながら微笑んだ。
「……やっぱり、悟さんは“本物”だよ」
──
午後、Q2が始まった。
澄みきった空の下、コースインしていくマシンたちの咆哮が、岡山国際サーキットの山あいに響き渡る。
「……いきます」
無線越しの早矢の声には、迷いがなかった。
タイヤの熱が入り、グリップが立ち上がった瞬間を狙い、彼女はLexus RC F GT3を一気に全開へと持ち込んだ。
各セクターで紫のタイムが灯る。メカニックの誰もが息を止める中、チーム“風馬レーシング”のガレージでは、モニターに映る走行ラインを固唾を飲んで見守っていた。
──フィニッシュライン通過。
表示されたタイムは、1分25秒473。トップとの差は、わずかに0.1秒。
場内実況が告げる。
「トップはカーナンバー15、浅倉悠斗選手!2番手には風馬レーシング、カーナンバー86の宮下早矢選手!僅差です!」
「うおおおっ!」
ピットに歓声が上がった。スタッフの肩が叩かれ、拍手が飛び交う。
やがて、早矢のマシンがピットに戻ってくる。ヘルメットを外し、肩で息をしながらマシンを降りた彼女の顔には、わずかに悔しさがにじんでいた。
「……すみません。あと一歩、足りませんでした」
だがその言葉に、古川がすぐさま笑い声で応じる。
「上出来上出来!なに言ってんだ、初戦でフロントロウだぜ?」
「たいしたもんだ、早矢」
悟が歩み寄り、ポンと軽く彼女の肩を叩いた。
「よく攻めたな。お前の気迫、ちゃんと伝わってきたよ」
早矢は目を伏せ、息を吐いたあと、小さく笑った。
「ありがとう。……でも、次は絶対ポール、獲るから」
その背後、遠巻きにモニターを見ていた椎名が、苦い顔で自分の順位を確認していた──9番手。彼の視線の先には、悠斗と、そして早矢の背中があった。
桜の花びらがひらりと舞う中、開幕戦の熱気がパドックを包み込む。
その一角で、Lexus RC F GT3 のボディに手を添えながら、悟と早矢が並んで立っていた。
「……やっと、ここまで来たな」
悟が呟くと、隣の早矢が小さく笑う。
「本当に。こうして並んでパドックに立ってるなんて、数年前じゃ想像もできなかった」
「ゲームの中だけで満足してた俺が、実車でスーパーGTの開幕戦か……なあ、人生ってのは面白いもんだな」
「でも、それを引き寄せたのは悟さんの腕と── 覚悟」
悟はその言葉にわずかに肩をすくめ、照れたように笑った。
「……ま、そいつを証明するのは今日の俺たちの走りだ。見せてやろうぜ、“風馬レーシング”の名をな」
「うん!」
早矢の声に力がこもる。それは単なる気合ではなく、この数ヶ月を共に駆け抜けてきた仲間としての、静かな信頼の証だった。
古川はチームスタッフたちに最終確認を指示しながらも、時折ふたりのドライバーを見守る。
早矢はレーシングスーツに身を包み、ヘルメットを手に静かに集中を高めている。
悟はメカニックたちと車の最終調整を進めつつ、表情にはいつもの穏やかさの中に闘志が灯っていた。
スタッフの声が飛び交い、ピット内はまさに戦いの舞台となっている。
全員の視線はこれから始まる予選に向けて一つに結ばれていた。
──予選Q1開始
空は明るく澄み、春の陽光がサーキットを照らしていた。だが、ピットの空気は重たく、静寂の中に焦燥と緊張が潜んでいた。
最初にコースインしたのは悟。
Lexus RC F GT3のエンジンが唸りを上げ、ピットロードからゆっくりと滑り出す。その背中を、早矢とチームスタッフが無言で見送った。
「……悟さん……」
早矢は小さく呟き、両手を胸の前でぎゅっと組んだ。ヘルメットを脱いだまま、悟のステアリング操作をモニター越しに見つめる。
──1コーナー、2コーナー、ラインは外していない。
ただ、どこかぎこちなさが残る。タイヤの温まりが遅いのか、それとも……。
古川も腕を組み、モニターを睨みつけていた。
「目……か?」
悟のコクピット内。
ヘルメット越しに伝わる自分の鼓動。息を整えながら、視線を先に送る。
「手が、鈍ってる……いや、目か……いや、どっちもだ」
だがその瞬間、早矢の言葉がふと胸をよぎった。
「……一緒に乗ってる時、安心できるんです。悟さんとなら、限界ギリギリでも絶対大丈夫って思える」
「……そうか」
左足をブレーキに、右足をスロットルに置き直す。シフトダウン、そして最終コーナーの立ち上がり。
「甘えさせてもらうぜ、早矢……俺は、まだ走れる
タイムが更新された。
9番手──ギリギリの突破。
だが、堂々たるQ1通過。
ピット内にざわめきが戻った。スタッフが拍手を交わし、古川は深く息をついた。
「やるな、じいさん……」
モニターの前で、早矢は小さく目を潤ませながら微笑んだ。
「……やっぱり、悟さんは“本物”だよ」
──
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澄みきった空の下、コースインしていくマシンたちの咆哮が、岡山国際サーキットの山あいに響き渡る。
「……いきます」
無線越しの早矢の声には、迷いがなかった。
タイヤの熱が入り、グリップが立ち上がった瞬間を狙い、彼女はLexus RC F GT3を一気に全開へと持ち込んだ。
各セクターで紫のタイムが灯る。メカニックの誰もが息を止める中、チーム“風馬レーシング”のガレージでは、モニターに映る走行ラインを固唾を飲んで見守っていた。
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場内実況が告げる。
「トップはカーナンバー15、浅倉悠斗選手!2番手には風馬レーシング、カーナンバー86の宮下早矢選手!僅差です!」
「うおおおっ!」
ピットに歓声が上がった。スタッフの肩が叩かれ、拍手が飛び交う。
やがて、早矢のマシンがピットに戻ってくる。ヘルメットを外し、肩で息をしながらマシンを降りた彼女の顔には、わずかに悔しさがにじんでいた。
「……すみません。あと一歩、足りませんでした」
だがその言葉に、古川がすぐさま笑い声で応じる。
「上出来上出来!なに言ってんだ、初戦でフロントロウだぜ?」
「たいしたもんだ、早矢」
悟が歩み寄り、ポンと軽く彼女の肩を叩いた。
「よく攻めたな。お前の気迫、ちゃんと伝わってきたよ」
早矢は目を伏せ、息を吐いたあと、小さく笑った。
「ありがとう。……でも、次は絶対ポール、獲るから」
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