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第一章
富士山噴火
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その日、数百年ぶりに日本の霊峰富士山が、噴火、爆発を起こした。
日曜の夕方、まだ夕飯の支度には、少しばかり早い頃、大きめの地震の揺れを感じて、私、小日向真奈は、犬の散歩に行こうと仕度していた手を止めて、テレビのスイッチを入れた。
地震の時には、震度や震源地、津波の有無の確認の為に、いつもしている事だ。
そこに飛び込んできたのは、緊急速報の富士山噴火のニュース。
慌てている様子のキャスターが、画面に映る。
「本日、夕刻4時46分、数百年ぶりに富士山が噴火、爆発を起こしました。現在、被害の規模は、まだ分かっておりませんが、近隣の住民は直ちに避難してください。命を優先してください。また、噴火に伴う地震が頻発する恐れがあります。建物の倒壊などに十分注意しながら、指定の避難所に避難を開始してください。なお、今のところ、津波の心配はありません」
その後、各地の震度が発表されていく。
さっきの地震、この辺は、震度4だったみたい。
我が家は、自慢じゃないが、おばあちゃんの時代からの古い一戸建てだ、つまり、現代規格の耐震構造ではない。
富士山近郊ではないから、噴火の被害の影響は、すぐにはないだろうけど、地震に耐えられるかは微妙かも?
幸い、散歩に出るつもりだったので、すぐ外には出られる状態。
なので、ひとまず避難所に向かう事にしよう、と動き出す。
お散歩グッズの他に、普段から用意していた避難リュックを背負い、更に念の為に、犬用のケージを一個、肩から下げる。
「ココ、ハク、ミルク、お散歩行くよ」
そう声を掛けて、ウチの犬達、パピヨン三匹の首輪にリードを繋ぐ。
念の為、歩きやすいトレッキングシューズを履き、戸締りしながらつぶやく。
「行って来ます。どうか、家が無事に残りますように」
そして、散歩にはしゃぐ犬達を連れて、指定避難所である、少し先の中学校へと歩を向ける。
いつもとは散歩コースが違うので、犬達は、さらに浮かれているようだ。
道路に人は歩いておらず、避難を始めているのは私達だけみたい。
まだ地震直後だから、様子見の人が多いのかな。
ウチは、私と犬三匹だから、避難所に入れてもらえるかどうかわからないけど、まずは、犬達を先に連れて行って、長引くようなら、後でもう一度家に引き返して、テントを取って来るつもりだった。
避難所の校庭で、テントを設営させてくれるといいんだけれど。
そんな事を考えながら歩いていると、一番ちびのミルクが、グっ、と手足を突っ張って後ずさりする。
「ミルク、歩くの嫌なの? 行こうよ」
そう声を掛けた瞬間、余震だろうか? また地面がぐらりと揺れた。
「え、え?」
揺れは、さほど大きくなかったのに、足元がぐんにゃりと変形していくような、妙な感覚。
液状化現象だろうか?
足が取られて、立っていられない。
「ココ、ハク、ミルク!」
犬達を踏んでしまわないように、でも、しっかりとリードを引き寄せる。
と、体がぐるんと回転したような、眩暈のような感じがした途端、世界は暗転した。
どれほどの時間が、経ったのだろうか。
犬達のクンクン心配そうな声と、舌が頬を舐める、温かな濡れた感触で目を開けると、
なぜかそこは、うっそうとした深い森の中だった。
「 ? 」
え、なんで森?
びっくりしながら、辺りを見回す。
犬達は、3匹共無事。
というか、わたしが起きたので嬉しいらしく、みんな、尻尾をぶんぶん振っている。
良かった、リードは、しっかり持ったままでいたみたい。
しかし、どう見ても森だ。
背の高い樹木が繁って、どこまで続いているのか終わりの見えない森。
更に、家を出たのは夕方だったのに、今は、もう昼前位なのだろうか、凄く日が高いみたい。
そんなに長い間、寝てしまっていたのだろうか?
それにしては、お腹は空いていないけど。
まずは、リュックから、ラジオを取り出して電源を入れる。
が、うんともすんとも言わない。
おかしいな、電池は、最近、避難用具の見直しをしたばかりだから、新品なんだけど。
スマホを取り出して、電源を入れる、こちらは圏外。
何の情報も拾えない。
充電がもったいないので、すぐにまた電源を落とす。
富士山の噴火と地震、どうなったんだろう?
とりあえず、遭難した時のキャンパーの心得は、その場をいたずらに動かない事。
なんだけど、少し移動して道路に出たいなぁ。
これが山の中なら、尾根に向かって登った方が、道は探しやすいはずなんだけど、この森は平坦な地形だし。
避難リュックに、水や、ある程度の食料に、ドッグフードは入っているから、数日は大丈夫とはいえ、早めにここを抜け出さないと。
避難したはずが、見知らぬ森で遭難、餓死、なんて冗談じゃない。
暗くなる前に、少し移動してみようかな。
「さー、みんな。 お散歩しよう」
そうして、少しの逡巡の後、意を決して、そこらをクンクンと探索していた犬達と、恐る恐る歩き出したのだった。
う───ん。
やっぱりこの森、見た感じに違わず、結構な規模の大きさみたい。
歩けども歩けども、ちっとも、道路になんて辿り着かない。
そうして、歩いているうちに、木がまばらになって途切れた、と思ったら、目の前に川が現れた。
そんなに、大きな河川ではないけど、小川と言うには大きい感じ。
覗き込むと、水は澄んでいるし、小さな魚が泳いでいるのが見える。
これ、飲めるんじゃない?
一応、不安なので、手ですくって口をすすいでみる。
うん、変な味も刺激もないし、いけそう。
一応、避難グッズから、携帯用のろ過機能付きボトルを出して、水をたっぷり汲む。
ストローを吸うと、ろ過された水が飲める仕組みなのだが、少し飲んでみたら、普通においしい水に感じる。
犬達も喉が渇いているだろうと、家から持って来ていたペットボトルの水を、容器に入れて飲ませてあげる。
このまま、数時間しても、私に異常が出なければ飲み水として使おう。
時間的にも、もう夕方っぽいし、今日はここでビバークかな。
とはいえ、テントは持って来ていないので、完全に野宿状態だけど。
少し、川から遠ざかって、気持ち小高くなってる場所の木々の間に、少しだけあった、落ち葉や枯草などを集めて、こんもりさせる。
その上に、非常用アルミシートを敷いて、更に、その上に寝袋を出す。
寝袋とは言っても本格的なシュラフではなく、封筒型と言われる、ジッパーを閉めると袋状にもなるし、拡げれば毛布としても使える簡易な物だけど。
犬達と、一緒に入って寝られるから、こちらの方が使い勝手がいい。
食事は、犬達には持ってきていたドッグフードをあげて、自分用には、クッキーっぽい総合栄養食をかじる。
本当は、コンロを持ってきているので、多少の暖かい物も出来るのだが、いつ、この森から抜けられるか分からない今、燃料は貴重なので今夜は我慢。
でも、暗闇は怖いから、後でランタンは点けよう。
翌日、思ったよりも快適に眠れて、目覚めはすっきり。
春から夏に移行する、いい季節で助かった。
川に降りて、洗面と歯磨きを済ませると、犬達にドッグフード、自分用には、残りの総合栄養食と、コンロでお湯を沸かしてコーヒーを淹れる。
インスタントの、砂糖とミルクの入ったスティックコーヒー、いくつか入れておいて良かった。
暖かい飲み物は、気持ちを豊かにしてくれる。
本当は、
(ここどこー?)
と、ギスギスしそうになる気持ちも、落ち着くってものだ。
食事の後で、もう一度、ラジオとスマホを試してみるが、相変わらず何も聞こえないし圏外のまま。
ため息が出るが仕方ない、今日は、この川沿いに下って行ってみよう。
それなら、少なくとも水は確保できるものね。
あるく、あるく、あるく。
ひたすら歩き続けているが、全く、景色が変わり映えしない。
くじけそうになってきたが、そろそろお昼、
(休みつつ、ご飯にしようかな)
と、思っていたら、いきなり開けた原っぱに出ていた。
そして、その原っぱの向こうに、馬車と馬と、なんだか、カラフルな髪色の一行が見えたのだった。
馬? 馬車? あの髪色からしてバンドマンとか? そんな感じかな?
(何にしても助かった)
そう思いながら、わたし達は、一直線に彼らのもとへ近づいて行く。
それにしても凄いな、ピンクや水色、濃い緑からパステルっぽい紫と、綺麗だけど、目に眩しい色合いの髪色だ。
近づくにつれ、彼らも、こちらに気が付いて手を振ってくれる。
そして気付く、お顔立ちが、皆さん外国人っぽいんですけど、日本語通じるかな。
「こんにちは」
「こんにちは~、こんな所に、一人とワンちゃん?」
良かった、通じた。
「そうなんです。 なんだか、地震の後に変な所に来ちゃってて」
「ん~、地震? ワンちゃん達、可愛いね~。 珍しい種類みたい、撫でていい~?」
「あ、いいですよ、撫でられるの好きなんで。 このこ達は、パピヨンって犬種です」
お散歩の時に、余所の犬飼いさんと、よくする会話の延長線のような、無難な話。
この人達、すごく若いな、そして、気さくでありがたい。
ピンクとパープルの子は女の子で、どちらも可愛い顔立ちだが、ドイツ系っぽい素朴な感じ。
ピンクの子はそばかすがあって、更に可愛らしい。
水色と緑の子は男の子で、水色の子は線が細くて美少年って感じ。
緑の子が一番年長に見える、ちょっと、日本人が混ざったような、ハーフっぽいお顔だった。
たき火で、鍋を煮ているようで、これからお食事だったみたい。
「えーっと、みなさん海外の方ですか?」
「? 私達は、東のコリン村の出身だけど。 私はミミア、こっちはリム。」
ピンクの子がそう言って、パープルさんを指す。
ってか、ここ海外?
何で? いつの間に?
軽く、絶望感が襲うが、顔には出さないように、にこにこ愛想笑いを貼り付けておく。
「向こうの、鍋煮てる子がイシュリーで。 リーダーがコータ」
イシュリーと呼ばれた子は、水色の美少年で、緑の年長さんは、やっぱりリーダーなんだ。
「わたしは小日向真奈、と言います。 わんこはココとハクとミルク。 ココがお母さんで、ハクとミルクは、同じ日に生まれた兄妹犬。 ハクだけ男の子なので、ちょっと大きく育っちゃって」
自己紹介がてら、説明すると、
「えー、親子と兄妹なんだ~。 いいねぇ、可愛い可愛い」
ミミアとリムは、夢中で犬達を撫でてくれている。
そうしていると、コータがゆっくりと近付いて来た。
「マナちゃん? 良かったら一緒に昼飯食う? 出先だから、たいしたモンないけど」
「あ、ありがたくいただきます。 うれしい」
「そ? じゃあ、こっち来て座りなよ。 飲み物いるよな」
そう言って、手招きされた先に、丸太が椅子の様に置かれていたので腰掛けると、木のコップに、なみなみと冷たい飲み物が注がれる。
濃い紫でフルーティな香り、ごくり、と、ひと口飲み込むと果物のジュースだった。
「山ぶどうのジュース。 村の特産なんだ、うまいだろ」
コータが、得意そうに微笑む。
コクコク頷きながら、心の中では、
(めっちゃ、おいしいです)
と、叫んでいた。
たくさん歩いて、水しか飲んでなかった喉と体にしみ渡るようで、涙がウルッと出そうになる。
次いでイシュリーが、かき混ぜていた鍋から、汁物を、やはり木のお椀によそって、さじと一緒に、無言で渡してくれる。
すうっと匂いを嗅いでから、火傷しないよう慎重にすすると、これも、ちょっと豚汁っぽくて、凄く美味しい。
涙だけじゃなく、ハナミズまで出そうで、思わず鼻をすすりあげる。
「これは、野菜と干し肉のスープなんだけど、発酵した豆の調味料で味付けしてるんだ、口に合うといいけど」
「すっごく、おいしいです」
「そっか、良かった」
スープを、お替わりまでして、人心地ついた後、食後のコーヒーを出してもらいながら、ホウっ、と溜息をついていたら、コータが、自分もコーヒーのカップを片手に、向かい側に座って話しかけてきた。
「さて、マナちゃんは、この後どうする? 俺らは、交易品を届けに、ハンブルって町に行く途中なんだけど、一緒に行くか? どの道、この森を歩きで越えるのは、かなり無理があるぜ」
「連れて行ってもらえるなら、すごく助かります。 お願いしてもいいですか」
「うっし、OK。 そうと決まったら、担いでた荷物と犬達連れて、馬車の荷台に乗んな」
「はい、よろしくお願いします」
勢い込んで、頭を下げる。
「マナちゃん、一緒に行くの~? ワンちゃん達も一緒、うれしい~」
ミミアとリムは、ニコニコとはしゃいでくれてる、可愛いな。
コーヒーを、急いで飲み終えると、犬達と共に馬車の荷台に乗り込む。
たくさんの、積み荷が乗せてあるので、そんなに広くはないが、大人3人に犬3匹、余裕で座れるスペースはあった。
男の子たちは、御車台で馬を操ってくれるらしい。
お腹いっぱいなのと、昨日から、歩きっぱなしだった疲労感とで、馬車が動き始めると、すぐにウトウトしてしまう。
「マナちゃん寝ちゃった。 一応、酔い止め掛けとく?」
「うんうん、具合悪くなったら可哀想だし。 前もって掛けておこう」
うっすらと、そんな会話が聞こえてきた気がするが、眠くて、あまり気にも留めずに、そのまま深い眠りについてしまった。
翌日の朝、
「マナちゃん、朝ご飯だよ~」
という、リムの声で目が覚めた。
どうやら一晩中、ぐっすりと寝てしまっていたみたい。
携帯ろ過機能付きボトルに、汲んでおいたお水で、軽く口をすすいでから、みんなの所に行くと、パンに塩漬け肉を焼いた物を挟んだ、サンドイッチを手渡される。
塩漬け肉は、ベーコンみたいに脂が乗ってて、少し燻製してあるみたい。
ちょっと、焦げ目もついてて、香ばしくっておいしい。
ワンコ達も、パンをもらっていたので、後で、ドッグフードを少なめにあげる事にしよう。
食後のコーヒーを飲んで、
(そういえば、昨日は使った食器を、洗いもせずに返しちゃったな)
と、気付く。
色々、良くしてもらって申し訳ないし、洗い物くらいはやりたいな。
そう思って、カップの回収をしに来た、ミミアに聞いてみる。
「あ、洗い物手伝うよ?」
「ん~? 大丈夫よ~。 洗浄で、パパッと終わるから」
そう言うと、事もなげに、集めたカップを仕切りのついた箱に戻して、その上で、くるくるっと指を回す。
中を見ると、カップは、まるで新品のごとく綺麗になっていた。
?
「ミミアちゃん、あの。 今の、洗浄って……」
「洗浄魔法。 生活基本魔法だけど~」
「ま、魔法なんだ。 やっぱり……」
「マナちゃん、どうしたの~? 顔色悪いかも? 調子悪い~?」
どうやら、わたし。
国内でも海外でもない、魔法のある世界に来ちゃってるみたいです。
日曜の夕方、まだ夕飯の支度には、少しばかり早い頃、大きめの地震の揺れを感じて、私、小日向真奈は、犬の散歩に行こうと仕度していた手を止めて、テレビのスイッチを入れた。
地震の時には、震度や震源地、津波の有無の確認の為に、いつもしている事だ。
そこに飛び込んできたのは、緊急速報の富士山噴火のニュース。
慌てている様子のキャスターが、画面に映る。
「本日、夕刻4時46分、数百年ぶりに富士山が噴火、爆発を起こしました。現在、被害の規模は、まだ分かっておりませんが、近隣の住民は直ちに避難してください。命を優先してください。また、噴火に伴う地震が頻発する恐れがあります。建物の倒壊などに十分注意しながら、指定の避難所に避難を開始してください。なお、今のところ、津波の心配はありません」
その後、各地の震度が発表されていく。
さっきの地震、この辺は、震度4だったみたい。
我が家は、自慢じゃないが、おばあちゃんの時代からの古い一戸建てだ、つまり、現代規格の耐震構造ではない。
富士山近郊ではないから、噴火の被害の影響は、すぐにはないだろうけど、地震に耐えられるかは微妙かも?
幸い、散歩に出るつもりだったので、すぐ外には出られる状態。
なので、ひとまず避難所に向かう事にしよう、と動き出す。
お散歩グッズの他に、普段から用意していた避難リュックを背負い、更に念の為に、犬用のケージを一個、肩から下げる。
「ココ、ハク、ミルク、お散歩行くよ」
そう声を掛けて、ウチの犬達、パピヨン三匹の首輪にリードを繋ぐ。
念の為、歩きやすいトレッキングシューズを履き、戸締りしながらつぶやく。
「行って来ます。どうか、家が無事に残りますように」
そして、散歩にはしゃぐ犬達を連れて、指定避難所である、少し先の中学校へと歩を向ける。
いつもとは散歩コースが違うので、犬達は、さらに浮かれているようだ。
道路に人は歩いておらず、避難を始めているのは私達だけみたい。
まだ地震直後だから、様子見の人が多いのかな。
ウチは、私と犬三匹だから、避難所に入れてもらえるかどうかわからないけど、まずは、犬達を先に連れて行って、長引くようなら、後でもう一度家に引き返して、テントを取って来るつもりだった。
避難所の校庭で、テントを設営させてくれるといいんだけれど。
そんな事を考えながら歩いていると、一番ちびのミルクが、グっ、と手足を突っ張って後ずさりする。
「ミルク、歩くの嫌なの? 行こうよ」
そう声を掛けた瞬間、余震だろうか? また地面がぐらりと揺れた。
「え、え?」
揺れは、さほど大きくなかったのに、足元がぐんにゃりと変形していくような、妙な感覚。
液状化現象だろうか?
足が取られて、立っていられない。
「ココ、ハク、ミルク!」
犬達を踏んでしまわないように、でも、しっかりとリードを引き寄せる。
と、体がぐるんと回転したような、眩暈のような感じがした途端、世界は暗転した。
どれほどの時間が、経ったのだろうか。
犬達のクンクン心配そうな声と、舌が頬を舐める、温かな濡れた感触で目を開けると、
なぜかそこは、うっそうとした深い森の中だった。
「 ? 」
え、なんで森?
びっくりしながら、辺りを見回す。
犬達は、3匹共無事。
というか、わたしが起きたので嬉しいらしく、みんな、尻尾をぶんぶん振っている。
良かった、リードは、しっかり持ったままでいたみたい。
しかし、どう見ても森だ。
背の高い樹木が繁って、どこまで続いているのか終わりの見えない森。
更に、家を出たのは夕方だったのに、今は、もう昼前位なのだろうか、凄く日が高いみたい。
そんなに長い間、寝てしまっていたのだろうか?
それにしては、お腹は空いていないけど。
まずは、リュックから、ラジオを取り出して電源を入れる。
が、うんともすんとも言わない。
おかしいな、電池は、最近、避難用具の見直しをしたばかりだから、新品なんだけど。
スマホを取り出して、電源を入れる、こちらは圏外。
何の情報も拾えない。
充電がもったいないので、すぐにまた電源を落とす。
富士山の噴火と地震、どうなったんだろう?
とりあえず、遭難した時のキャンパーの心得は、その場をいたずらに動かない事。
なんだけど、少し移動して道路に出たいなぁ。
これが山の中なら、尾根に向かって登った方が、道は探しやすいはずなんだけど、この森は平坦な地形だし。
避難リュックに、水や、ある程度の食料に、ドッグフードは入っているから、数日は大丈夫とはいえ、早めにここを抜け出さないと。
避難したはずが、見知らぬ森で遭難、餓死、なんて冗談じゃない。
暗くなる前に、少し移動してみようかな。
「さー、みんな。 お散歩しよう」
そうして、少しの逡巡の後、意を決して、そこらをクンクンと探索していた犬達と、恐る恐る歩き出したのだった。
う───ん。
やっぱりこの森、見た感じに違わず、結構な規模の大きさみたい。
歩けども歩けども、ちっとも、道路になんて辿り着かない。
そうして、歩いているうちに、木がまばらになって途切れた、と思ったら、目の前に川が現れた。
そんなに、大きな河川ではないけど、小川と言うには大きい感じ。
覗き込むと、水は澄んでいるし、小さな魚が泳いでいるのが見える。
これ、飲めるんじゃない?
一応、不安なので、手ですくって口をすすいでみる。
うん、変な味も刺激もないし、いけそう。
一応、避難グッズから、携帯用のろ過機能付きボトルを出して、水をたっぷり汲む。
ストローを吸うと、ろ過された水が飲める仕組みなのだが、少し飲んでみたら、普通においしい水に感じる。
犬達も喉が渇いているだろうと、家から持って来ていたペットボトルの水を、容器に入れて飲ませてあげる。
このまま、数時間しても、私に異常が出なければ飲み水として使おう。
時間的にも、もう夕方っぽいし、今日はここでビバークかな。
とはいえ、テントは持って来ていないので、完全に野宿状態だけど。
少し、川から遠ざかって、気持ち小高くなってる場所の木々の間に、少しだけあった、落ち葉や枯草などを集めて、こんもりさせる。
その上に、非常用アルミシートを敷いて、更に、その上に寝袋を出す。
寝袋とは言っても本格的なシュラフではなく、封筒型と言われる、ジッパーを閉めると袋状にもなるし、拡げれば毛布としても使える簡易な物だけど。
犬達と、一緒に入って寝られるから、こちらの方が使い勝手がいい。
食事は、犬達には持ってきていたドッグフードをあげて、自分用には、クッキーっぽい総合栄養食をかじる。
本当は、コンロを持ってきているので、多少の暖かい物も出来るのだが、いつ、この森から抜けられるか分からない今、燃料は貴重なので今夜は我慢。
でも、暗闇は怖いから、後でランタンは点けよう。
翌日、思ったよりも快適に眠れて、目覚めはすっきり。
春から夏に移行する、いい季節で助かった。
川に降りて、洗面と歯磨きを済ませると、犬達にドッグフード、自分用には、残りの総合栄養食と、コンロでお湯を沸かしてコーヒーを淹れる。
インスタントの、砂糖とミルクの入ったスティックコーヒー、いくつか入れておいて良かった。
暖かい飲み物は、気持ちを豊かにしてくれる。
本当は、
(ここどこー?)
と、ギスギスしそうになる気持ちも、落ち着くってものだ。
食事の後で、もう一度、ラジオとスマホを試してみるが、相変わらず何も聞こえないし圏外のまま。
ため息が出るが仕方ない、今日は、この川沿いに下って行ってみよう。
それなら、少なくとも水は確保できるものね。
あるく、あるく、あるく。
ひたすら歩き続けているが、全く、景色が変わり映えしない。
くじけそうになってきたが、そろそろお昼、
(休みつつ、ご飯にしようかな)
と、思っていたら、いきなり開けた原っぱに出ていた。
そして、その原っぱの向こうに、馬車と馬と、なんだか、カラフルな髪色の一行が見えたのだった。
馬? 馬車? あの髪色からしてバンドマンとか? そんな感じかな?
(何にしても助かった)
そう思いながら、わたし達は、一直線に彼らのもとへ近づいて行く。
それにしても凄いな、ピンクや水色、濃い緑からパステルっぽい紫と、綺麗だけど、目に眩しい色合いの髪色だ。
近づくにつれ、彼らも、こちらに気が付いて手を振ってくれる。
そして気付く、お顔立ちが、皆さん外国人っぽいんですけど、日本語通じるかな。
「こんにちは」
「こんにちは~、こんな所に、一人とワンちゃん?」
良かった、通じた。
「そうなんです。 なんだか、地震の後に変な所に来ちゃってて」
「ん~、地震? ワンちゃん達、可愛いね~。 珍しい種類みたい、撫でていい~?」
「あ、いいですよ、撫でられるの好きなんで。 このこ達は、パピヨンって犬種です」
お散歩の時に、余所の犬飼いさんと、よくする会話の延長線のような、無難な話。
この人達、すごく若いな、そして、気さくでありがたい。
ピンクとパープルの子は女の子で、どちらも可愛い顔立ちだが、ドイツ系っぽい素朴な感じ。
ピンクの子はそばかすがあって、更に可愛らしい。
水色と緑の子は男の子で、水色の子は線が細くて美少年って感じ。
緑の子が一番年長に見える、ちょっと、日本人が混ざったような、ハーフっぽいお顔だった。
たき火で、鍋を煮ているようで、これからお食事だったみたい。
「えーっと、みなさん海外の方ですか?」
「? 私達は、東のコリン村の出身だけど。 私はミミア、こっちはリム。」
ピンクの子がそう言って、パープルさんを指す。
ってか、ここ海外?
何で? いつの間に?
軽く、絶望感が襲うが、顔には出さないように、にこにこ愛想笑いを貼り付けておく。
「向こうの、鍋煮てる子がイシュリーで。 リーダーがコータ」
イシュリーと呼ばれた子は、水色の美少年で、緑の年長さんは、やっぱりリーダーなんだ。
「わたしは小日向真奈、と言います。 わんこはココとハクとミルク。 ココがお母さんで、ハクとミルクは、同じ日に生まれた兄妹犬。 ハクだけ男の子なので、ちょっと大きく育っちゃって」
自己紹介がてら、説明すると、
「えー、親子と兄妹なんだ~。 いいねぇ、可愛い可愛い」
ミミアとリムは、夢中で犬達を撫でてくれている。
そうしていると、コータがゆっくりと近付いて来た。
「マナちゃん? 良かったら一緒に昼飯食う? 出先だから、たいしたモンないけど」
「あ、ありがたくいただきます。 うれしい」
「そ? じゃあ、こっち来て座りなよ。 飲み物いるよな」
そう言って、手招きされた先に、丸太が椅子の様に置かれていたので腰掛けると、木のコップに、なみなみと冷たい飲み物が注がれる。
濃い紫でフルーティな香り、ごくり、と、ひと口飲み込むと果物のジュースだった。
「山ぶどうのジュース。 村の特産なんだ、うまいだろ」
コータが、得意そうに微笑む。
コクコク頷きながら、心の中では、
(めっちゃ、おいしいです)
と、叫んでいた。
たくさん歩いて、水しか飲んでなかった喉と体にしみ渡るようで、涙がウルッと出そうになる。
次いでイシュリーが、かき混ぜていた鍋から、汁物を、やはり木のお椀によそって、さじと一緒に、無言で渡してくれる。
すうっと匂いを嗅いでから、火傷しないよう慎重にすすると、これも、ちょっと豚汁っぽくて、凄く美味しい。
涙だけじゃなく、ハナミズまで出そうで、思わず鼻をすすりあげる。
「これは、野菜と干し肉のスープなんだけど、発酵した豆の調味料で味付けしてるんだ、口に合うといいけど」
「すっごく、おいしいです」
「そっか、良かった」
スープを、お替わりまでして、人心地ついた後、食後のコーヒーを出してもらいながら、ホウっ、と溜息をついていたら、コータが、自分もコーヒーのカップを片手に、向かい側に座って話しかけてきた。
「さて、マナちゃんは、この後どうする? 俺らは、交易品を届けに、ハンブルって町に行く途中なんだけど、一緒に行くか? どの道、この森を歩きで越えるのは、かなり無理があるぜ」
「連れて行ってもらえるなら、すごく助かります。 お願いしてもいいですか」
「うっし、OK。 そうと決まったら、担いでた荷物と犬達連れて、馬車の荷台に乗んな」
「はい、よろしくお願いします」
勢い込んで、頭を下げる。
「マナちゃん、一緒に行くの~? ワンちゃん達も一緒、うれしい~」
ミミアとリムは、ニコニコとはしゃいでくれてる、可愛いな。
コーヒーを、急いで飲み終えると、犬達と共に馬車の荷台に乗り込む。
たくさんの、積み荷が乗せてあるので、そんなに広くはないが、大人3人に犬3匹、余裕で座れるスペースはあった。
男の子たちは、御車台で馬を操ってくれるらしい。
お腹いっぱいなのと、昨日から、歩きっぱなしだった疲労感とで、馬車が動き始めると、すぐにウトウトしてしまう。
「マナちゃん寝ちゃった。 一応、酔い止め掛けとく?」
「うんうん、具合悪くなったら可哀想だし。 前もって掛けておこう」
うっすらと、そんな会話が聞こえてきた気がするが、眠くて、あまり気にも留めずに、そのまま深い眠りについてしまった。
翌日の朝、
「マナちゃん、朝ご飯だよ~」
という、リムの声で目が覚めた。
どうやら一晩中、ぐっすりと寝てしまっていたみたい。
携帯ろ過機能付きボトルに、汲んでおいたお水で、軽く口をすすいでから、みんなの所に行くと、パンに塩漬け肉を焼いた物を挟んだ、サンドイッチを手渡される。
塩漬け肉は、ベーコンみたいに脂が乗ってて、少し燻製してあるみたい。
ちょっと、焦げ目もついてて、香ばしくっておいしい。
ワンコ達も、パンをもらっていたので、後で、ドッグフードを少なめにあげる事にしよう。
食後のコーヒーを飲んで、
(そういえば、昨日は使った食器を、洗いもせずに返しちゃったな)
と、気付く。
色々、良くしてもらって申し訳ないし、洗い物くらいはやりたいな。
そう思って、カップの回収をしに来た、ミミアに聞いてみる。
「あ、洗い物手伝うよ?」
「ん~? 大丈夫よ~。 洗浄で、パパッと終わるから」
そう言うと、事もなげに、集めたカップを仕切りのついた箱に戻して、その上で、くるくるっと指を回す。
中を見ると、カップは、まるで新品のごとく綺麗になっていた。
?
「ミミアちゃん、あの。 今の、洗浄って……」
「洗浄魔法。 生活基本魔法だけど~」
「ま、魔法なんだ。 やっぱり……」
「マナちゃん、どうしたの~? 顔色悪いかも? 調子悪い~?」
どうやら、わたし。
国内でも海外でもない、魔法のある世界に来ちゃってるみたいです。
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そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
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