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第二章
家庭料理
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魔法バッグの家のなかで、台所にこもったわたしは、ひたすら玉ねぎのみじん切りを炒めていた。
「飴色になるまで炒めるって、結構時間がかかるんだよね」
ハンブルで買ったカレー粉で、カレーライスを作るべく、まずは、玉ねぎを飴色にしてからカレールーを作ろうとしているのだ。
レシピでは、小麦粉を炒めてカレー粉を加えて、というのが一般的なのかもしれないけど、わたしはカレーもグラタンもシチューやクリーム煮なども、ルーを作る時には、まず玉ねぎを炒める。
玉ねぎを炒めてから、そこに小麦粉を入れてあげるとダマにならないからだ。
先日、ロレンツォで台所用品とコンロも手に入れたし。
コンロはランプと同じように、魔力を込めておいて、生活魔法の火を着けるだけで使えるものだ。
わたしの魔力が多いので、使い放題である。
すでに別の鍋では、和風だしを使った肉じゃがが煮えていて、今は、冷ましながら味をしみこませているし、土鍋には研いだお米が水に浸かっている。
これらは一度バッグから出して、ロッジのテーブルの上で、時間経過が必要な工程を進めている状態。
惜しいのは肉じゃがに白滝が入れられなかった事だけど、手に入りそうにないので仕方ない。
カレー用の具も別鍋で茹でてあるので、あとはルーを作って、お肉を焼いて、全部を合わせて煮込むだけ。
なんだけど、なかなか飴色にならないので、ひたすらに炒め続けている。
今回、レストランの厨房にお願いしたのは、フォンドボーを作ってもらう事。
魔法バッグの中は時間が止まって腐らないので、大量にストックしたくて、ロレンツォで購入した寸胴5つを全部預けて作ってもらったのだ。
こちらで料理をするのに、困った点は、コンソメキューブがない事だった。
結構、なんにでも使っていたから、あれがないと味が決まらないんだけど、ない物は仕方ない。
だったら、基本に立ち返って、洋風だしであるフォンドボーを手に入れてしまえば、色々美味しく作れるのでは? と思ったのだ。
レストランでも、今が閑散期なので快く引き受けてくれたけど、本来だったら、とっても迷惑なお願いだと思う。
でも、こちらからの支払いを提示すると、二つ返事だった。
その支払いと言うのは、例のドードーのお肉。
希少で高価なお肉が、ギルドでの買取価格で15万クベーラなのだ。
末端価格では、いったいいくらになるんだろう?
よく分からないけれど、きっとすごく価値があるだろうと、ドードーのお肉の話をしたら、是非に、と言われたので、遠慮なく寸胴をお預けしたという次第だった。
もちろん、支払いにドードーのお肉を使ったのは、ココには内緒である。
そのフォンドボーでカレー用の具を煮ているので、もうそれだけで美味しそうな匂いがしている。
んー、きらきらと照りがあった玉ねぎが、色づいてしんなり、ひと固まりになってきた。
そろそろ小麦粉を入れていいかな。
小麦粉をスプーンで4杯程入れて、更に炒める。
ある程度したらカレー粉を、辛めがいいかな? 大盛りで2杯にしておこう。
炒めて、炒めて、次にフォンドボーを、お玉ですくって少しずつ加えルーをのばしていく。
さて、もうひと口のコンロにも火を着けて、今度は、フライパンでゴロゴロとした牛肉を焼き付ける。
表面をちょっと強火で焼き色をつけてから、赤ワインを入れる。
ジュウジュウといい音をさせてお肉が焼けると、肉汁ごと全部、フォンドボーで煮ていた人参、玉ねぎ、ジャガイモの鍋に投入する。
そこにカレールーも入れて、おまけでもらったローリエも放り込み、しばらく煮込むととろみがついてくる。
ここで塩やお砂糖で味を整えるのだけど、今回は、ちょっと隠し味にお醤油も使おう。
さて、そろそろ土鍋にも火を着けようかな。
米を浸していた土鍋を、テーブルからコンロに移動して、まず強火にして沸騰させたら、弱火にして10分。
時間を計るのに10分計の砂時計を買ってあるので、コトンとひっくり返す。
砂が落ち切って10分経過と同時に火を止めて、今度は10分蒸らしの時間なのでもう一度砂時計をひっくり返す。
これ、砂が落ち切ったらアラームが鳴るように細工できないかしら?
何度もチェックするのが不便かも。
10分経ったので蓋を取ってみると、つやつやふっくら土鍋ご飯が、ちゃんと炊けている。
すこしヘラで返して空気を入れると、底の方にうっすらおこげができている、大成功だね。
あとは軽くサラダを作って、ドレッシングは、醤油とオリーブオイルで和風にしておこう。
それぞれ味見をしてみると、肉じゃがも味がしみているし、カレーは少し辛めに仕上がっている。
まぁまぁ、良く出来た方じゃないかしら?
もう一度、肉じゃがを温め直して、それぞれをお皿に盛り付ける。
盛り付けをしても、アツアツの状態が保てるのはとてもありがたいな、などと思いながら、全部の支度を終えると、エプロンを外してロッジの部屋に戻る。
これで、あとはフレッドとセイさんを、夕食に誘うだけだ。
部屋の中で、まだ、わんこ達はぐっすり寝ていた。
窓の外は、少し薄暗くなり始めている。
さて、お隣のロッジに声をかけに行ってみよう。
外套を羽織って、隣のロッジの呼び鈴を鳴らすと、すぐにセイさんが顔を出してくれる。
「マナさん。 そろそろ、夕飯に誘いに行くつもりでした」
「あの、それなんですけど。 よければ、わたしの部屋にいらっしゃいませんか?」
と誘うと、
「マナさんの部屋ですか?」
と、ちょっと怪訝そうな顔をされる。
「はい、肉じゃがとカレーライスを作ってみました」
「え、本当に? それは……。 ぜひご馳走になります、ありがとう」
セイさんは、ちょっと驚いたようだったが、すぐに快く応じてくれる。
「いえいえ、もう用意できてますので、フレッドと一緒にいらしてくださいね」
そう言って、先に自分のロッジに戻る。
だが、間を置かず、ふたり共すぐにこちらのロッジに来てくれた。
「マナ! 料理を作ってくれたんだって? すごいじゃないか。 あぁ、とても楽しみだよ」
フレッドは、すでに興奮気味である。
そんなに期待されても困るんだけどな。
「いえ、ただの家庭料理ですから。 あまり期待はなさらないでください」
そう言いつつ、
「家の方に準備してあるので」
と、魔法バッグに入ってもらう。
犬達は、まだ起きる様子がないので、あとでいいかな?
わたしも続けて中に入ると、食卓に並べた料理に、ふたり共いたく感激しているようだった。
「えーと、どうぞお座りになって召し上がってください」
それぞれ、ハッとしたように席に着くと、
「ありがとう、いただきます」
と、セイさんが、まず肉じゃがに箸をつける。
「あ、肉じゃがのお肉は豚肉を使ったんですが、よかったですか? 関西だと牛肉なんでしたっけ?」
「俺は、出身は北海道なので、豚肉で大丈夫です。 これ凄く出汁が効いていて、うまいです」
フレッドもスプーンを手に取って、カレーをひと口、口にする。
「うわぁ、これは結構辛いね、でも、すっごくおいしい。 中のお肉がステーキみたいだ、食べ応えがあるね」
「良かった、お肉を焼いてからあまり煮込んでないので、旨味がまだ閉じ込められている状態なんです。 沢山作ったので、お替わりもありますから、いっぱい食べてください」
料理の取り合わせとしては、ちょっと変かもしれないけど、セイさんと約束したからね、とりあえずは、好評なようでホッとする。
わたしも席に着いて、まずサラダから食べ始める。
ちょっと、ドレッシングの酸味が強かったかな?
肉じゃがもカレーもまずまず成功、良かった。
「ふっ、ぅっ……」
詰まったような声に驚いて見ると、セイさんの頬を涙が伝っていた。
「セイさん、あの、ごめんなさい、何かまずかったですか」
「いえ、っ、……すいません。 堪えようと思ったんですが、どうしても懐かしくて……っ」
「 ? セーイ、ワショクなら今までだって、結構色々食べてたじゃないか、どうした?」
フレッドも、訝し気に首を傾げる。
「ぜんぜん……、全然違うんだよ。 店で食べる料理は、確かにおいしい。 和食だって、別に味が間違ってる訳じゃない。 ……でも、こうして人に台所に立って作ってもらった料理は、血が通ったものだ。 そんな家庭の味を、俺は、長い事味わっていなかった気がするんだ」
そう言って、また涙が零れていく。
王城での王室シェフの作った料理、外食でのプロの料理、どれも味はいいに決まっている。
でも、こうして人が心を込めて自分の為に作ってくれた料理の温かみは、セイにはずいぶん久しぶり過ぎて、忘れかけていたぬくもりだった。
記憶はもうおぼろげになっているが、昔、母が台所に立って味噌汁の出汁を取っている匂い、包丁でまな板をトントンと鳴らす音。
セイの中で、そんな記憶が、一気に押し寄せてくる。
セイの、堪えながらも涙を流す様子を見て、
(この人は小さい頃に家族と離れて、この地で、どれだけの思いを抱えてきたんだろう)
と、わたしは考えていた。
一人暮らしで、外食やコンビニご飯が続いちゃうだけでもキツいものがあるのに、そんな孤独を、小学生の年の頃から味わってきているなんて。
「ゆっくり、召し上がってください」
静かに、声をかける。
あまりにも大きなその心の痛みを、わたしが簡単に癒せるものではないけれど。
「また、いつでも作りますから」
そう笑顔で話す。
「はい、……お願いします」
声を詰まらせながらも、セイさんはそう言うと、吹っ切ったようにばくばくと食べ始める。
あっという間にカレーを完食すると、
「おかわり、お願いします」
と、空になったお皿を差し出す。
「はい!」
受け取って、土鍋ご飯とカレーを盛り付けて手渡す。
「あ、僕もおかわりしたい」
と、慌ててフレッドもかき込みだす。
「たくさんあるんですから、ゆっくり食べてくださいー」
食卓の空気が一気に和む。
結局、セイさんは肉じゃがもお替わりして、フレッドはカレーを3杯も食べた。
食後のデザートには、先日の交易商から買い取った果物を、桃は皮をむいてカットして、ビワとさくらんぼを添えて出す。
熱い紅茶を淹れて、フルーツと味わう。
やっぱり、旬の果物は甘味がたっぷり、ジューシィで美味しい。
交易商さん達には申し訳なかったけれど、フレッドが買い取ってくれて良かった。
「ふぅ、もうお腹いっぱいで、はち切れそうだけど、こういうフルーツは別腹になっちゃうよね」
「そうですね、瑞々しくて、おいしいです」
「ね、マナ。 本当に僕は感動したよ。 セイみたいに懐かしんで涙したりはしないけどさ、でもこうして手づから僕の為に料理をしてくれるなんて、心から嬉しいよ」
んー、フレッドの為だけという訳じゃないんだけどなぁ、と思いつつ、
「いえいえ、わたしも美味しいお料理をご馳走していただいてますし、そこまでたいしたものでもありませんから」
と答えると、
「いえ、俺も感動しましたし、感謝します。 正直、こんなにも懐かしさに心が揺さぶられるとは、思ってもみませんでした。 マナさんの料理には、温かい心が込もっている気がします」
セイさんも、真っ直ぐにこちらを見詰めてくる。
「そんな、おおげさですから……」
さすがにちょっと照れくさい。
「また、作ってね」
「また、作って下さい」
ああ、もうそんなに真摯に見つめられたら、本当に困るんです。
「機会があったら、またご馳走します、から」
「「やった!」」
二人共ハイタッチで喜んでる。
うん。
これだけ沢山食べてもらえて、こんなにも喜んでもらえて、お料理がんばって作ってよかったな。
「飴色になるまで炒めるって、結構時間がかかるんだよね」
ハンブルで買ったカレー粉で、カレーライスを作るべく、まずは、玉ねぎを飴色にしてからカレールーを作ろうとしているのだ。
レシピでは、小麦粉を炒めてカレー粉を加えて、というのが一般的なのかもしれないけど、わたしはカレーもグラタンもシチューやクリーム煮なども、ルーを作る時には、まず玉ねぎを炒める。
玉ねぎを炒めてから、そこに小麦粉を入れてあげるとダマにならないからだ。
先日、ロレンツォで台所用品とコンロも手に入れたし。
コンロはランプと同じように、魔力を込めておいて、生活魔法の火を着けるだけで使えるものだ。
わたしの魔力が多いので、使い放題である。
すでに別の鍋では、和風だしを使った肉じゃがが煮えていて、今は、冷ましながら味をしみこませているし、土鍋には研いだお米が水に浸かっている。
これらは一度バッグから出して、ロッジのテーブルの上で、時間経過が必要な工程を進めている状態。
惜しいのは肉じゃがに白滝が入れられなかった事だけど、手に入りそうにないので仕方ない。
カレー用の具も別鍋で茹でてあるので、あとはルーを作って、お肉を焼いて、全部を合わせて煮込むだけ。
なんだけど、なかなか飴色にならないので、ひたすらに炒め続けている。
今回、レストランの厨房にお願いしたのは、フォンドボーを作ってもらう事。
魔法バッグの中は時間が止まって腐らないので、大量にストックしたくて、ロレンツォで購入した寸胴5つを全部預けて作ってもらったのだ。
こちらで料理をするのに、困った点は、コンソメキューブがない事だった。
結構、なんにでも使っていたから、あれがないと味が決まらないんだけど、ない物は仕方ない。
だったら、基本に立ち返って、洋風だしであるフォンドボーを手に入れてしまえば、色々美味しく作れるのでは? と思ったのだ。
レストランでも、今が閑散期なので快く引き受けてくれたけど、本来だったら、とっても迷惑なお願いだと思う。
でも、こちらからの支払いを提示すると、二つ返事だった。
その支払いと言うのは、例のドードーのお肉。
希少で高価なお肉が、ギルドでの買取価格で15万クベーラなのだ。
末端価格では、いったいいくらになるんだろう?
よく分からないけれど、きっとすごく価値があるだろうと、ドードーのお肉の話をしたら、是非に、と言われたので、遠慮なく寸胴をお預けしたという次第だった。
もちろん、支払いにドードーのお肉を使ったのは、ココには内緒である。
そのフォンドボーでカレー用の具を煮ているので、もうそれだけで美味しそうな匂いがしている。
んー、きらきらと照りがあった玉ねぎが、色づいてしんなり、ひと固まりになってきた。
そろそろ小麦粉を入れていいかな。
小麦粉をスプーンで4杯程入れて、更に炒める。
ある程度したらカレー粉を、辛めがいいかな? 大盛りで2杯にしておこう。
炒めて、炒めて、次にフォンドボーを、お玉ですくって少しずつ加えルーをのばしていく。
さて、もうひと口のコンロにも火を着けて、今度は、フライパンでゴロゴロとした牛肉を焼き付ける。
表面をちょっと強火で焼き色をつけてから、赤ワインを入れる。
ジュウジュウといい音をさせてお肉が焼けると、肉汁ごと全部、フォンドボーで煮ていた人参、玉ねぎ、ジャガイモの鍋に投入する。
そこにカレールーも入れて、おまけでもらったローリエも放り込み、しばらく煮込むととろみがついてくる。
ここで塩やお砂糖で味を整えるのだけど、今回は、ちょっと隠し味にお醤油も使おう。
さて、そろそろ土鍋にも火を着けようかな。
米を浸していた土鍋を、テーブルからコンロに移動して、まず強火にして沸騰させたら、弱火にして10分。
時間を計るのに10分計の砂時計を買ってあるので、コトンとひっくり返す。
砂が落ち切って10分経過と同時に火を止めて、今度は10分蒸らしの時間なのでもう一度砂時計をひっくり返す。
これ、砂が落ち切ったらアラームが鳴るように細工できないかしら?
何度もチェックするのが不便かも。
10分経ったので蓋を取ってみると、つやつやふっくら土鍋ご飯が、ちゃんと炊けている。
すこしヘラで返して空気を入れると、底の方にうっすらおこげができている、大成功だね。
あとは軽くサラダを作って、ドレッシングは、醤油とオリーブオイルで和風にしておこう。
それぞれ味見をしてみると、肉じゃがも味がしみているし、カレーは少し辛めに仕上がっている。
まぁまぁ、良く出来た方じゃないかしら?
もう一度、肉じゃがを温め直して、それぞれをお皿に盛り付ける。
盛り付けをしても、アツアツの状態が保てるのはとてもありがたいな、などと思いながら、全部の支度を終えると、エプロンを外してロッジの部屋に戻る。
これで、あとはフレッドとセイさんを、夕食に誘うだけだ。
部屋の中で、まだ、わんこ達はぐっすり寝ていた。
窓の外は、少し薄暗くなり始めている。
さて、お隣のロッジに声をかけに行ってみよう。
外套を羽織って、隣のロッジの呼び鈴を鳴らすと、すぐにセイさんが顔を出してくれる。
「マナさん。 そろそろ、夕飯に誘いに行くつもりでした」
「あの、それなんですけど。 よければ、わたしの部屋にいらっしゃいませんか?」
と誘うと、
「マナさんの部屋ですか?」
と、ちょっと怪訝そうな顔をされる。
「はい、肉じゃがとカレーライスを作ってみました」
「え、本当に? それは……。 ぜひご馳走になります、ありがとう」
セイさんは、ちょっと驚いたようだったが、すぐに快く応じてくれる。
「いえいえ、もう用意できてますので、フレッドと一緒にいらしてくださいね」
そう言って、先に自分のロッジに戻る。
だが、間を置かず、ふたり共すぐにこちらのロッジに来てくれた。
「マナ! 料理を作ってくれたんだって? すごいじゃないか。 あぁ、とても楽しみだよ」
フレッドは、すでに興奮気味である。
そんなに期待されても困るんだけどな。
「いえ、ただの家庭料理ですから。 あまり期待はなさらないでください」
そう言いつつ、
「家の方に準備してあるので」
と、魔法バッグに入ってもらう。
犬達は、まだ起きる様子がないので、あとでいいかな?
わたしも続けて中に入ると、食卓に並べた料理に、ふたり共いたく感激しているようだった。
「えーと、どうぞお座りになって召し上がってください」
それぞれ、ハッとしたように席に着くと、
「ありがとう、いただきます」
と、セイさんが、まず肉じゃがに箸をつける。
「あ、肉じゃがのお肉は豚肉を使ったんですが、よかったですか? 関西だと牛肉なんでしたっけ?」
「俺は、出身は北海道なので、豚肉で大丈夫です。 これ凄く出汁が効いていて、うまいです」
フレッドもスプーンを手に取って、カレーをひと口、口にする。
「うわぁ、これは結構辛いね、でも、すっごくおいしい。 中のお肉がステーキみたいだ、食べ応えがあるね」
「良かった、お肉を焼いてからあまり煮込んでないので、旨味がまだ閉じ込められている状態なんです。 沢山作ったので、お替わりもありますから、いっぱい食べてください」
料理の取り合わせとしては、ちょっと変かもしれないけど、セイさんと約束したからね、とりあえずは、好評なようでホッとする。
わたしも席に着いて、まずサラダから食べ始める。
ちょっと、ドレッシングの酸味が強かったかな?
肉じゃがもカレーもまずまず成功、良かった。
「ふっ、ぅっ……」
詰まったような声に驚いて見ると、セイさんの頬を涙が伝っていた。
「セイさん、あの、ごめんなさい、何かまずかったですか」
「いえ、っ、……すいません。 堪えようと思ったんですが、どうしても懐かしくて……っ」
「 ? セーイ、ワショクなら今までだって、結構色々食べてたじゃないか、どうした?」
フレッドも、訝し気に首を傾げる。
「ぜんぜん……、全然違うんだよ。 店で食べる料理は、確かにおいしい。 和食だって、別に味が間違ってる訳じゃない。 ……でも、こうして人に台所に立って作ってもらった料理は、血が通ったものだ。 そんな家庭の味を、俺は、長い事味わっていなかった気がするんだ」
そう言って、また涙が零れていく。
王城での王室シェフの作った料理、外食でのプロの料理、どれも味はいいに決まっている。
でも、こうして人が心を込めて自分の為に作ってくれた料理の温かみは、セイにはずいぶん久しぶり過ぎて、忘れかけていたぬくもりだった。
記憶はもうおぼろげになっているが、昔、母が台所に立って味噌汁の出汁を取っている匂い、包丁でまな板をトントンと鳴らす音。
セイの中で、そんな記憶が、一気に押し寄せてくる。
セイの、堪えながらも涙を流す様子を見て、
(この人は小さい頃に家族と離れて、この地で、どれだけの思いを抱えてきたんだろう)
と、わたしは考えていた。
一人暮らしで、外食やコンビニご飯が続いちゃうだけでもキツいものがあるのに、そんな孤独を、小学生の年の頃から味わってきているなんて。
「ゆっくり、召し上がってください」
静かに、声をかける。
あまりにも大きなその心の痛みを、わたしが簡単に癒せるものではないけれど。
「また、いつでも作りますから」
そう笑顔で話す。
「はい、……お願いします」
声を詰まらせながらも、セイさんはそう言うと、吹っ切ったようにばくばくと食べ始める。
あっという間にカレーを完食すると、
「おかわり、お願いします」
と、空になったお皿を差し出す。
「はい!」
受け取って、土鍋ご飯とカレーを盛り付けて手渡す。
「あ、僕もおかわりしたい」
と、慌ててフレッドもかき込みだす。
「たくさんあるんですから、ゆっくり食べてくださいー」
食卓の空気が一気に和む。
結局、セイさんは肉じゃがもお替わりして、フレッドはカレーを3杯も食べた。
食後のデザートには、先日の交易商から買い取った果物を、桃は皮をむいてカットして、ビワとさくらんぼを添えて出す。
熱い紅茶を淹れて、フルーツと味わう。
やっぱり、旬の果物は甘味がたっぷり、ジューシィで美味しい。
交易商さん達には申し訳なかったけれど、フレッドが買い取ってくれて良かった。
「ふぅ、もうお腹いっぱいで、はち切れそうだけど、こういうフルーツは別腹になっちゃうよね」
「そうですね、瑞々しくて、おいしいです」
「ね、マナ。 本当に僕は感動したよ。 セイみたいに懐かしんで涙したりはしないけどさ、でもこうして手づから僕の為に料理をしてくれるなんて、心から嬉しいよ」
んー、フレッドの為だけという訳じゃないんだけどなぁ、と思いつつ、
「いえいえ、わたしも美味しいお料理をご馳走していただいてますし、そこまでたいしたものでもありませんから」
と答えると、
「いえ、俺も感動しましたし、感謝します。 正直、こんなにも懐かしさに心が揺さぶられるとは、思ってもみませんでした。 マナさんの料理には、温かい心が込もっている気がします」
セイさんも、真っ直ぐにこちらを見詰めてくる。
「そんな、おおげさですから……」
さすがにちょっと照れくさい。
「また、作ってね」
「また、作って下さい」
ああ、もうそんなに真摯に見つめられたら、本当に困るんです。
「機会があったら、またご馳走します、から」
「「やった!」」
二人共ハイタッチで喜んでる。
うん。
これだけ沢山食べてもらえて、こんなにも喜んでもらえて、お料理がんばって作ってよかったな。
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