ぼくとティラノのほんとの話

ゆらゆらワカメ

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ぼくとティラノのほんとの話

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「ワタルー、ワタルー、おきてー」

お母さんのでっかい声。

「ん、ん~…」

もうちょっと…。まだ寝ていたくて、ふとんの中でぐずぐずしていると
またまたお母さんの声。

「学校、ちこくするよー」

「ふぁ~い」

ぼくは、あくびをしながら返事をして、のそのそ起き上がると
寝るときに枕元においたティラノサウルスのおもちゃを 手にとった。
そして、いつものように、ベッドの横の机の上に作った
『恐竜の国』を 見わたした。

「まただ。今日もまた、子供のティラノサウルスだけが、倒れてる…」


ぼくの名前は、トキオ ワタル。恐竜が大好きな小学2年生。だから、
手のひらサイズの恐竜のおもちゃが、ぼくの宝物なんだ。ティラノサウルスの
親子、トリケラトプスの兄弟、ステゴサウルスの家族、プテラノドンや
モササウルスとかたくさん持っていて、その大切な恐竜たちを集めて
かざっておくところを『恐竜の国』と よんでいるんだ。
恐竜の国は、自分で作ることができるよ。まず、大きな紙とペンを用意する。
その紙に、ふじ山のような山、木がいっぱいの森、ぐねぐねした川、
波だらけの海をかく。そして、そこに恐竜たちをおいていくと、恐竜の国の
完成というわけ。
でも、今、その恐竜の国で、異変が起きている。夜、ぼくが寝るとき、
恐竜たちは、みんな立っているのに、朝、起きて見てみると、子供の
ティラノサウルスだけが、倒れているんだ。
なぜ?
家で飼っているねこのレオが、夜中に恐竜の国を歩いて、子供の
ティラノサウルスだけを たおしたのかな。…でも、それは、ちょっと違う
気がする。だって、もう一週間も、同じことが続いてるから。
だとしたら、なぜ?
その日も、寝る前に、ぼくは親のティラノサウルスを手に持ちながら、
恐竜の国をのぞいた。恐竜たちは、みんな立っている。子供のティラノサウルスも
しっかり立っている。
よし。
何度も確認をすると 手に持っていた親のティラノサウルスといっしょに
ふとんの中に入った。

「明日の朝は、どうなっているかな?」

ぼくは、親のティラノサウルスにそう話かけながら、枕元にそっとおいた。
明日の朝、子供のティラノサウルスは、また倒れている?
倒れていない?
そんなことを考えていたら、まぶたが重くなっていき、いつの間にか
ぼくは眠ってしまっていた。


「ワタルくん、ワタルくん、おきて」

お母さんのでっかい声…って、ちがう。お母さんは、ぼくのことを
ワタルくんなんて呼ばない。…だれ?

「ワタルくん、ワタルくん、おきて」

いったいだれ?
ぼくは、恐る恐る目をあけて、呼ばれた方を見た。そして、ビックリして
思わず飛びおきた。

「ワタルくん、わたしです」

えーー!声をだそうにも、ビックリしすぎて声がでない。目をゴシゴシ
こすり、唾をゴクリと飲み込んだ。

「いつもワタルくんと一緒にいるティラノです」

そう言って、ニヤリと笑ったその顔は、まさしくティラノサウルスの顔。
しかも、いつも、ぼくと一緒にいると言っている。
…まさか。

「ぼ、ぼくのティラノ?一緒に寝たり、お風呂に入ったりしてる
ティラノ?」

なんとか声をしぼり出して、聞いてみた。ぼくは、親のティラノサウルスが
大好きで、クラスの友達にはナイショだけど、寝るときには枕元において
寝るし、お風呂にも持っていって、一緒に入ったりしてるんだ。
お母さんには、もう2年生なんだから、やめなさいって言われてるけど
やめられてないんだ。

「そうです。一緒に寝たりお風呂に入ったりしてるティラノです」

そう言って、またまたニヤリと笑った。
ぼくのティラノだってーー?!
どういうこと?しかも、いつもは片手でつかめるティラノが、今は
ものすごい大きさになっている。と、その時、ぼくは、とんでもない
ことに 気がついた。そして、また、唾をゴクリと飲み込んだ。
…ここは、ぼくの部屋じゃない。
ティラノのまわりの景色が、森みたいになっている。

「ここは、どこ?」

心臓がドキドキしてきた。

「ここ?ここは恐竜の国」

「恐竜の国?恐竜の国って、もしかして、ぼくが紙にかいて作った?」

「そうです。ワタルくんが作った恐竜の国です」

えーー!まさか!?
ぼくは、慌ててまわりを見てみた。もし、本当に、ぼくが作った
恐竜の国だったら、山や川があるはずだ。すると、驚いたことに、
ぼくが描いたのとそっくりなふじ山みたいな山が、森の向こうに
そびえていた。
…だとしたら…。
ぼくは、思いあたる場所に、走って行ってみた。やはりそこには、
ぐねぐねした川があった。そして、その川の流れに沿って、どんどん
走っていくと やがて海にたどり着いた。
ドシン、ドシン、ドシン、ドシン、
ティラノが、ぼくの後を追って、走ってきた。

「ね。ワタルくんが作った恐竜の国でしょ」

「うん。たしかにそうだ」

信じられないけど、どうやらぼくは、本当に、自分で作った
恐竜の国に来てしまったみたいだ。

「でも、どうして…?」

ひとり言のようにつぶやくと、ティラノが、悲しそうな声でこたえた。

「実は、ワタルくんに助けてほしいことがあって、来てもらった
のです」

「ぼくに助けてほしいこと?」

「はい。案内します。わたしについて来てください」

ドシン、ドシン、ドシン、ドシン
ティラノが、森の方にむかって行ったので、ぼくは、
その後をついて行った。森の奥深くまで来た時だった。

「クゥーン、クゥーン」

と 弱々しい声が聞こえてきた。

「こちらです」

ティラノが案内したところには、横たわった子供のティラノサウルスが
いた。

「どうしたの!」

ぼくは、とっさに子供のティラノサウルスにかけよった。

「足を骨折してしまい、立てないのです」

泣きそうな声で、親のティラノが言った。

「骨折って…」

足を見てみると、確かに大きく腫れているところが
あった。子供のティラノサウルスは、ずっと泣いている。
とても痛そうだ。

「クゥーン、クゥーン」

親のティラノが、不安そうな顔で、ぼくを見ている。
どうしよう、どうしよう…
どうしたらいいの?ぼくだけじゃ、無理だよ…
目のあたりが、だんだん熱くなってくるのが 分かった。
心細くて、今にも涙があふれそうだ。
目の前には、泣き続ける子供のティラノサウルス。
ぼくの大好きな恐竜、ぼくの宝物。
……助けてあげたい…
…ぼくは、
…ぼくが助ける!
勇気をふりしぼり、そう心に決めたぼくは、
こぼれそうになる涙を ぐっと我慢して考えた。
どうすればいい?どうすれば?
…骨折したら…骨折…
そう言えば少し前に、同じクラスのユメカちゃんが、
学校の階段で転んで、手を骨折したことがあったっけ。
ぼくは、その時のことを よく思い出してみた。
手を骨折したユメカちゃんは、その骨折したところに、
何か棒のような物をあてて、そこを包帯でグルグル
まかれていた。
そうだ!同じことをすればいいんだ。
やるべきことが分かったら、少し勇気がでてきた。
怖がって泣きそうになっていたぼくは、もういない。

「大丈夫だよ。今から、手当てをするからね」

親のティラノが安心できるようにそう言うと、
ぼくは、まわりを見渡した。いつの間にか、
他の恐竜たちが、心配して集まってきていた。

「どうするの?」

「手伝うよ」

トリケラトプスやステゴサウルスたちが、言った。

「ありがとう。何か棒になるもの…あっ、できるだけ
まっすぐな木の枝を 集めてきてほしいんだ」

そう言って、ぼくはこれから始める手当てについて
話をした。

「それから、包帯みたいにまけるもの…ひもみたいな
ものが いるんだけど」

「それなら、木にからみついてる、植物のツルは、
どう?」

突然、上の方から声がした。見上げると、大きな
木の枝に、プテラノドンがとまっていた。

「ちょうどいいね!でも、すごく高いところまで
巻きついてるな…」

ぼくが、木の高いところを見ながら言うと

「ぼくが取ってくるよ」

プテラノドンはそう言って、バサバサと 飛んで
いった。そして、長いくちばしで、木の高いところに
からみついてるツルの先端を挟み、力強く飛んだ。
ワサ、ワサ、ワサ
木と木の枝が、大きく揺れる。
ブチッ!
大きな音がしてツルが切れ、長いひもになったその
ツルを ぼくのところに届けてくれた。

「はい。どうぞ」

「ありがとう」

ぼくは、プテラノドンからツルを受け取った。
木の枝は、トリケラトプスやステゴサウルスたちが、
口にくわえて、たくさん取ってきてくれていた。

「よし。始めるよ」

ぼくは、まず子供のティラノサウルスの骨折した足に、
たくさんの木の枝をあてた。そして、ツルで足と枝を
一緒にグルグル巻いていった。子供とはいえ、
ティラノサウルスだ。その足は、思った以上に
大きくて、太くて、重かった。枝をあてた足に、
ツルをすべて巻き終えた時には、ぼくは、ヘトヘトに
なっていた。

「終わったよ。きっと、もう大丈夫」

心配そうに手当てを見ていた親のティラノに、
そう言うと、ぼくはチカラが抜けてしまい、
その場に座りこんだ。

「ワタルくん、ありがとう」

親のティラノが、ぼくの頭の上から、嬉しそうに言った。
その顔を見上げながら、ぼくは思った。
よかった…なんだか眠たい…

「本当にありがとう…ありがと…」

その声が、だんだん遠くなっていった。そして…。


「ワタルー、ワタルー、おきてー」

また、誰かによばれてる。今度は、誰?

「学校、ちこくするよー」

お母さんだ!
ぼくは、ガバッと飛びおきた。ここは…見覚えのある
場所…ぼくは、自分の部屋に戻っていた。枕元には、
親のティラノ。すばやく親のティラノを手でつかみ、
急いで恐竜の国を見てみた。

「あっ!!」

子供のティラノサウルスが、倒れていない!立っている!
今朝は、しっかり立っている!

「もしかして…もしかして…」

ぼくは、ジワジワと嬉しさがこみ上げてきた。

「あれは、夢じゃなくて…」

顔をニヤニヤさせながら、恐竜の国をながめた。

「ほんとのこと…」

子供のティラノサウルスの足が治ったということ…
だとしたら…。
ぼくは、ある事を思いついた。

「これでよしっと」

黒いペンで、恐竜の国に、四角い建物と看板を描き、
ぼくは、こう字を書いた。

「「きょうりゅうのびょういん」」

「これで、もう、ケガをしても、安心だね」

ぼくは、手に持っていた親のティラノにそう話しかけると 
ティラノの顔が、ニヤリと笑ったように見えた。







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