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波瀾の婚姻式➃(最終話)
しおりを挟むわたしが締めくくり、お父様が後を引き継いだ。
「王は務めを果たさず、品性下劣なる罪を犯した。このまま玉座に付けておいてはアルステッド王国は、国際的に無法国家と誹られよう。
また、忠臣を蔑ろにし、人の命を駒のように扱う王子は、罪を罪とも思わぬ下種。次代を担う権利はもはやない。
我らリズボーン家は、これまで延々とバスク家の尻拭いをしてきたが、それにも限度があり、堪忍も寛容も底をついた」
リズボーン家は、今のバスク王朝の前から似たような立ち位置にあった。
ずーっと影から王家を支える役目を担ってきていたらしいんだけど、建国以来王家の血筋を取り入れてきたので、本来ならバスク家より古い由緒正しい家柄なのよ。
そうなのよ! 歴史を学んでいれば分かるはずなのに、例の四馬鹿次男ズは分かってなかった。不思議だわー。
お父様が一旦言葉を切った後、大きく息を吸って胸を張った。なんだかこれから一大決心した言葉を告げるように。
「決議を取りたいと思う。バスク王朝の廃止と、リズボーン家が王朝を開く事を。賛成の者は挙手を願う」
うえぇ!? 妥当だとは思うけど、思うけれどもぉ!?
すぐに挙手する者たちに続き、隣近所と顔を見合わせてから挙手する者たち。
ざっと見回したら全員が挙手していた。つまり全会一致。
ついでに大神官様も挙手していたのにはちょっと笑ってしまった。
「満場一致でバスク王朝はジェレミー王で終焉する」
「簒奪だ!!」
今まで放心してたようにおとなしかった王様が、にわかに元気を取り戻して叫んだ。
「バスク家の血を引く、余の第一子レオナルドがいる!
元からジェラルドではなくレオナルドを後継にしたかったのだ!
それを押し退けて貴様が王に成り代わろうとする簒奪だ!!」
パシーンと小気味よい音が響いた。
おお!? お母様が扇を閉じた音だった。
「お黙りなさい! よくもそのような戯言をほざけたものね。
レオナルドが産まれた後も認知もせず、我関せずと連絡さえ取らずにいたものを!
何が第一子ですか! 初めて顔を会わせたのは、ジルが十五歳のデビュタントだったくせに、馴れ馴れしくも摺り寄ってくる恥知らずが!
ジルは法的には父親のいない私生児。そしてわたくし達の養子で、オルランド伯爵としてリズボーン家に婿入りしたのです。あなたの出る幕などない!!」
淑女はいかなる時も大声を出してはいけません――てあなたに教わりましたが?
ま、そんなん一々わたしは注意しませんよ。
ちろりと当事者様を見上げてみたら、冷ややかな無表情。
「たった今、大神官様と貴族議会により国主の座を失った無能の元国王。
わずか数か月前に行われた貴族議会で、ジェラルドを王太子にすると決議された時、何ら異議を唱えなかったにもかかわらず、ここに至ってわたしを担ぎ出そうとするとは呆れ果てる。
親子の名乗りを上げたこともなければ、元より貴様を父親と思ったこともない」
あー、王様は物言いたげにジルを見てはいるけれど、それだけだったもんねぇ。
しかしもう見下した発言。”貴様”呼ばわり。誰も彼をも傷つける発言しかしない元王様じゃあ仕方ないかぁ。
ジェラルドだって屈辱に顔を歪めて呻いているよ。無数の電撃を食らってボロボロだってのもあるだろうけど。
ジルの言葉に傷ついた顔をした元王様をじろりと睨み、お父様が一歩前へ出た。
「簒奪ではない。しかもわたしが玉座に就くことはない。
新しい王朝には穢れ無き者を!
貴卿らもこの場で見たであろう? 王者を裁く堂々とした立ち居振る舞い、聖魔法の使い手であり、誰よりも強い魔力を持ち、我が国の魔導具に革新をもたらした『リズボーン家の至宝』、我が娘、マリアージェを初代女王に戴きたい!
貴卿らの判断は如何に!?」
は? 今なんて!?
呆気に取られていると、聖堂内にいた貴族たちが次々と膝を折る。
「「「「「――新たなる女王に忠誠を――」」」」」
「国教会は新女王を歓迎いたしますぞ」って大神官様!?
はぁぁぁ!? ちょっと待って!!
聞いてない! 聞いてないよぉぉぉぉぉ!!!
お父様が国王になるんじゃないのぉぉぉ!?
おい、ちょっと待てこらジル。何隣で跪いて手を取ってるの!
指先にキスして「女王に忠誠を誓います」とか言ってんじゃねぇよ!!
見上げた顔が、ニヤリとしたんだけど!?
想定内? 予定通り? どこまで根回し済んでるのよ!
冷静に対処? 出来るかーーーっっ!!
と言っても、みぃんな頭を下げているのよ、ウチの両親も。
どーすんのよこれ。
――立ち上がらなければならない時、例え不調であっても為さねばならない事もある――
かつてお父様に言われた言葉が蘇る。
――貴女がなりなさい――
昨日、母から言われた言葉。
――ジルは子供の頃から貴女を支える夫になりたいって言ってたのよ――
まさか……まさかまさか!?
その時からわたしの女王計画があったって言うんじゃないでしょうね!!?
わたしは誰の手の平の上でコロコロ転がされているの?
じとりとジルを睨むも、微笑しか返ってこない。
周囲をぐるりと見回すと、キラキラした目で見つめるセシルと目が合った。
オルティスくん、君もどうして目をキラキラさせてんの!?
はぁ、聞いてない、知らないと言える雰囲気ではない。許諾一択しかない戦略に嵌ってしまったのね。
あーあ、自由気ままな外国暮らしよ、さらば。
でも……一人で苦労を背負う訳じゃないよね。お祖父様もお祖母様も、両親もいる。それに――
夫になったばかりのジルの手を引いて立ち上がらせ、パチンと指を鳴らして拡声魔法を展開する。
「……面を上げなさい」
次々と顔を上げる面々は、王朝の始まりに立ち会えた興奮があるみたいで顔が上気している。
「わたくし、マリアージェ・レネ=リズボーンが、新王朝初代国主としてアルステッド王国に身を捧げる事を、今日この日、神に誓う!
この場に集いし国教会大神官並びに諸卿らが証人である!」
万雷の拍手がわたしに応えた。
「尚、既にわたくしの夫である、レオナルド・ジル=オルランドを王配、共同統治者として指名する」
一瞬間があったが、拍手で受け入れられた。勢いって大事ね!
王配は予定通りでも、『共同統治者』はどうかな?
ねぇ、わたし、してやった?
隣のジルの顔を見上げる。
口角を片方だけ引き上げて、苦笑いしている……ような気がする。
ふふ、まぁいいか。反対意見が出ないんだから良しとしよう。
それにしても――
あーあ。
せっかく治ったのに、またしくしく胃が痛み始めたよ。
*****
大聖堂での騒動の後、そのまま簡易な即位式まで執り行ったの。
つまり、わたしは女王として即位したのだ。
その後、元王と元第一王子は、二人とも魔力封じの枷を嵌めて『北の離宮』へ転移させた。
北の離宮も賑やかになるわねぇ。
中からも外からも出入りできない、封じられた離宮で、家族水入らずでしばし過ごしてもらいましょう。
罪の全てを調べない内に、毒杯を与えないことになったから。
彼らには教えてないんだけど、食料や生活物資を転送した後、離宮直通の転移魔法陣は破壊した。だから彼らはそれだけで生きなければならない。
離宮は設備がちゃんと整っているらしいの。上下水道に調理場、お風呂場にトイレまで完備されてるんだから、一般人ならしばらく問題なく暮らせるはずよ?
あら、あの人たち、元王族ね。
戴冠式後に恩赦で封印を解除して、生存を確認することになったわ。戴冠式は一年後よ。
救いようのない罪人の心配より、これからの事を考えないといけないわね。
政権交代が起きたことを、広く国民に周知しなければと、新聞を発行し、文字を読めない平民の為に魔導具を駆使して、世界初の『全国放送』をしたの。
映像を多数の受け手に配信する技術はまだだけど、音声だけならイケるってイリヤ氏が言うから採用した。
わたしの思い付きで始める事だから個人資産で……と思ってたら、女王の即位を公布する為なのだから国庫から出すべきだとジルに窘められた。
そういえばそうかも。
特別予算枠は、取り潰された貴族家の財産で賄われたけど、他にもっといい使い道があるんじゃないのかしらね。
また、王宮の地下に、今は使われなくなった祭壇があって、大きな魔石と護国の結界魔法陣が放置されていた。
昔、王族に聖属性持ちがいた頃の名残らしく、魔石に魔力を込めると今でも発動出来るとあってチャレンジしたよね。
ぴかーっと七色に魔石が輝いて、魔法が展開された。
実際結界が機能しているかは、辺境を守る騎士や兵士に確認しないといけないけど、うまくすれば越境してくる魔獣被害が無くなるのよ。
なかなか使いどころのない聖属性だけど、こういう所で役に立つとは。
無駄にチートだと、宝の持ち腐れだと嘆いていたけど、ちょっと満たされたわ。
ともかく、いきなり降って湧いた女王という役目に、手探りで邁進していく。
兄改め、夫と共に。
うん、認めてる。ちゃんと認めてるよ? 夫だって。
だから毎晩、抱き潰そうとしないでよ!
分からせるまでヤルってなに!?
以前セシルに「ヒロインがスパダリに溺愛される」小説を書いてみてはと言ったけど、はっ、もしや今それが自分の身に降りかかっている!?
戴冠式が終わって一段落。
避妊を止めたとたん妊娠した。
当然の成り行きよねー。
覚えてろよ、ジルめ!
*****本編終了*****
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