神様の手違いで転生じゃなく妊婦に憑依しました

アキヨシ

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その後のわたし(最終話)

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 その後、色々願ったよ!

 《カイン・サルマンは、リリシアに暴言暴力を振るわない事》
 《カイン・サルマンは、リリシアに接近禁止》
 《サルマン伯爵夫妻は、リリシアに暴言を吐かない事》
 《サルマン伯爵夫妻は、リリシアを丁重に扱う事》
 《サルマン家の使用人は、リリシアを丁重に扱う事》
 《サルマン家の人間は、リリシアに十分な衣食住を提供する事》

 大きくはそれくらい。後はその都度ね。

 夫の愛人メイドは、《わたしの前に姿を現さないように》って願ったからか、一度も姿を見てないし。
 クズ夫が誰とイチャコラしても構わないけど、目につくところではごめんこうむる!

 これでやっと平穏になったわー。
 贅沢ではない、普通の生活……だと思う。貴族の生活の“普通”が分からないけど。

 本当はさ、離婚してこの家を出て行きたい所よ。
 だけど妊婦が一人で出て行って、その後どうやって安全に出産するかと考えたら、今は時期尚早って判断したの。
 実家は全く当てにならなかったから尚更ね。


 こうしてわたしはついに無事出産しました。
 《安産で母子共に健康であるように》と願っておいたし。
 産婆を兼ねた医者に取り上げられた赤ちゃんは、もちろん女の子。

 だけど義両親は不満顔。この国では跡継ぎは男子限定なんだってさ。
 誰にも祝福されない娘という訳か。
 子宝に男女関係ないでしょうが! 不妊に悩む夫婦が聞いたら怒るよ!?

 薄茶色のほわほわの髪の毛の赤ちゃんを腕に抱き、語り掛ける。

「新しい人生おめでとうリリシア。今度こそ、《貴女は必ず幸せな人生を送る》」

 そう願った娘の名は、リリシア改め、ルシアーナ。

「《わたしと一緒に幸せになろうね》」



 ***



 その後間もなく、クズ夫の愛人も子供を産んだ。こちらは男児。
 それを切っ掛けに《離婚》を願って、わたし達はようやくサルマン家から解放されたのよー!
 もちろん、ルシアーナとも縁を切らせたわ。

 ついでに、《因果応報、サルマン家の人間は、他人にした仕打ちの報いを受けろ》と願っておいた。
 こっちは確実とは言えないけれど、リリシアちゃんに辛く当たった分だけ不幸になるがいいさと思って願掛け。
 何か起これば、その内噂が聞こえてくるでしょう。

 更に慰謝料ならぬ手切れ金をふんだくってやったぜ! ふっふっふ。
 でも、当面の軍資金があっても、赤ん坊を抱えた女一人で、どうやって生きていくかって?
 そりゃあ事前に、使用人に“お願い”して調べてもらってたのよ。

 就職先は、大手商会のご隠居のお世話係。
 生後間もない赤子を連れての住み込みのお仕事です。
 育児経験のないわたしを支えてくれる、人生の先輩のご指導付き。なんてありがたい。
 更に、子守を雇ってくれる代わりに、お孫さんの家庭教師も引き受けたわ。

 元のリリシアが修得していた、貴族令嬢としての礼儀作法が役に立ちました。
 下位貴族のものではあるけど、不足分はわたしの得た知識で埋められるしね。

 だってねぇ、魂の管理人が与えてくれたこの世界の知識。これが膨大な量で、少し疑問に思ったことがすぐに頭に浮かぶのよ。
 この世界の成り立ちから地図情報、各国の政治、生活習慣から風習、言語、宗教などなど。
 分からない事がないんじゃないかっていうくらい。
 どんだけだよ!

 この言語知識のおかげで、初対面のクズ夫との会話が成り立っていた訳よね。
 あの男の言い分なんて、理解出来なくても良かったけどさぁ。
 まあそれで、他国言語の本の翻訳まで頼まれたりして、臨時収入にもなってるから助かってるわ。



 ***



 働き出して数年後、サルマン伯爵家が没落間近だという噂を聞いた。
 下手を打ったのか取引先にそっぽを向かれ、事業が失敗。大きな借金を抱えている所に、元夫が暴漢に襲われ、ぼこぼこにされて再起不能になったのも重なったようだ。
 メイドだった愛人は、カインを捨てて出奔したとか。

 ついでに、リリシアちゃんに縁談を押し付けた従姉妹のベリンダは、ことごとく縁談がご破算になって、嫁ぎ遅れ道邁進中。
 本家のシーベル伯爵家自体も、投資に失敗。借金苦に喘いでいるそうな。
 そうすると分家の実家も煽りを受け、青息吐息だとか。

 助けてくれなかった元家族の事なんぞ知らんわ。
 わたしにとっては赤の他人だし。

 こちらは特に“願った”訳じゃなかったんだけど、「罰が当たればいいのに」とは思っていたから、それが“お願い”になったのかもしれないな。

 ……ふっ、ざまぁ。


 その後わたしは、ご隠居さんに紹介された男性とお付き合いを始めました!
 その人も一人子供を抱えた寡暮らしだって。
 さすが人生の先輩の目利きに適った人で、わたし達は馬が合ったし、お互いの子供たちも拒否感がなく、すぐに慣れ親しんでくれたわ。

 彼は黒髪で青い瞳のイケオジ。
 リリシアよりも十歳年上だけれど、頼れる大人の男に、恋愛経験がほとんどないわたしはあっさり陥落したの。

 婚姻誓約書にサインし、ご隠居さんたちにお祝いパーティされてお終い。
 再婚同士だからねー、結婚式は挙げなかったのよ。

 そして、一緒に暮らし始めて間もなく妊娠しちゃった。
 今度は家族に望まれた子を授かれたのが嬉しくて、ちょっと泣けたわ。

 もしも、わたしがリリシアの子供として転生していたなら、きっとあのクズ夫に虐げられ、母子共に不幸のどん底で、長生き出来なかったかもしれない。


 神様、もとい管理者様、間違って“憑依”させてくれて、どうもありがとう。
 今度こそ幸せになるよ。





 〈終わり〉



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※2/9 後半の方にざまぁ?なエピソードを加筆しました。

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