familyー幸せな花婿ー

夏瀬檸檬

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真彩ちゃんー私の新しい友達

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第5話



朝のことで私はクラスで一人になった。
完璧な一人ではないものの、話しかけてくれるのは莉央だけで南は私と目も合わせない。
莉央も南といる時間の方が多くて私とはあまり話すことがない。
同じクラスの他の友達も、朝の一件を見ていたこともあって空気を読んでなのか話しかけない。
茉莉乃。あなたに言える立場じゃないね。
あなたに最低だって、言ったけど私も最低な人間になっちゃった。いや、前からそうだったんだ。自分が気づいてないだけであって。
「…もう。やだ…。」
ぼそりと独り言を言う。
一人ってこんなにきついものだなんて思わなかった。茉莉乃。何故貴方はこんなに苦しいことに耐えれたの??私はこんな孤独、一日でも御免だよ。
私は…どうして一人でいるんだろう。
どうして…。今日の朝までは、私の周りには南と莉央がいた。莉央たちが私を守ってくれた。
女の子ってなんで一人になると、それだけで悪いことをしている気分になるんだろう。周りの目からもそう。グループから外された一人の子には声をかけない。クラス公認の「ぼっち」になるから。話しかけると話しかけた子もクラス公認のうざい人間となってしまう。それに、話しかけて話が合わない人間だったら、また元いたグループに戻ることなんてできっこない。
どちらかなのだ。
善人を装って、その子に話しかけて孤独に生きるか。
見て見ぬ振りをして、加害者になるか。
道は二つ。だったら、私は後者の方になる。誰だって自分の幸せが一番でしょ?自分がいじめられるなんてまっぴら御免。
私のこういうところ本当に嫌になる。
でも、ここで生きていかなきゃならない。
どこにも逃げ場は用意されてないんだから。

「ただいま。」
私は家に帰って靴を脱ぐ。
「お帰り。雪乃ちゃん。」
「ママ。」
迎えられたその先にはママがいた。
そう。叔父さんではなく。
「どうしたの?お仕事もう終わったの?」
「うん。これから、茉莉乃を迎えに行くんだけど雪乃ちゃんも行くよね?」
「今日もう退院するの?」
「ええ。」
「うん。行く。行くよ。」
私は制服のまま車に乗った。
荷物は置いてきた。

「雪乃ちゃん。」
ママは車を走らせてから数秒もせず話しかけてきた。
「ん?」
「裕司が寂しがってたわよ。新しいお父さんと仲良くしなきゃダメじゃないの。」
え。もうお父さんって決まったの?
私の気持ちを待ってくれるんじゃなかったの?
もう…ママの心には叔父さんしかいないんだね。私のことなんて、考える心の隙間はないのね。
「…」
「裕司はね。私が愛したお父さん以外に初めての人なのよ。なんで、仲良くできないの?仲良くしてくれなきゃ困るのよ。裕司と仲良く円満な家庭を築きたいの!」
「わ、たしの思いは…。考えない?」
「私は忙しいの。雪乃ちゃんだけに心を開けとく暇はないのよ!雪乃ちゃんもお姉ちゃんでしょ?なら、ちゃんとしてよ。私はいま、貴方のこと考えてる余裕もないし考えたくもない!!…あ。」
私の頬を涙がつたっていく。
それを見たママは、口を押さえながら少し車を寄せて止める。
なんだ…。ママは私なんていらなかったんだ。
私はママにとって邪魔な存在だったんだね。
私のことなんて考えたくないんだ…
そうな…ん…だ。
「鍵開けて。私もう車から降りるから。」
そう言ってママを見る。
「あ、違うのよ。雪乃ちゃん。私は貴方のこと大好きよ?」
「もう…嘘はいいからさ。」
私は無理やり自分で鍵を開けた。
それから、私は急いで車から降りてママの顔を。いや、あの人の顔を見る。
「言えばよかったのに。嫌いなら嫌いで。別に家族が特別ってわけでもないし…私は嘘は嫌いよ。」
「雪乃ちゃ…。」
「…ないで。」
「え、?」
「私の名前を気安く呼ばないで!」
私は走って出て行った。夏だからまだ明るい。
蝉の声が聞こえる。

財布とスマホを持って出てよかった。
でも…これからどうしよう。
止めてもらうあてもない。莉央や南がいないし。
誰か…一人でもいれば…。
わたしはスマホの連絡表を見る。
あ、この子。この子だったらきっと泊めてくれる。
「後鳥羽 小百合ちゃん。」
わたしの幼馴染のさゆりん。
あの子は、中学に入学するとき引越ししてしまって、最近は会ってなかった。
さゆりんは、隣町に引っ越したから電車で一本くらい。一度遊びに行ったことがあるから間違いない。
さゆりん。わたしのこと覚えていてくれるかな。一度電話をかけてみよう。
「あ、さゆりん?私。雪乃よ。」
『わぁ!久しぶり。雪ちゃん。どうしたの?急に』
「あのさぁ…今日泊めてくれない?さゆりん家に。」
『え?』
「それがさ。ちょっと親と喧嘩してさ。」
『ごめんね。うち引っ越しちゃって…』
「え?あー。隣町でしょ?一回言ったことあんじゃん?」
『ううん。それからまたすぐに引っ越したの。埼玉に。』
「え?そっか…。うん。うん。ありがとう。うん。心配かけてごめんね。うん。ありがとう。じゃあね。」
さゆりんも私の届かないところに行っちゃった。
結局私だけ何も変わってない。
また涙が出てきて止まらない…。
惨めだ…
「…っと!ちょっと!」
私は車のクラクションの音と女の人の声にはっとした。
「え?」
振り向くと車がいた。
やば。ここ。道路だった…。赤信号で気づかなかったよ…。
「ちょっとあなた危ないわよ!」
「す、すみません。」
私は急いで道路から歩道に移る。
それを見ていた女の人は意味深な顔で車を寄せ路上駐車をして、車から降りてくる。
私は怒られるのだろうと身構えていた。
「あなた。泣いてる?」
「え?」
「はい。これ。ハンカチ。ちゃんと涙拭かないとあと着くわよ。」
「あ…りがとうございます。」
その人はバッグから缶コーヒーを出して飲みだす。ごくごく喉の音が聞こえる。
「ね。」
その人は言う。
「はい?」
「そこのカフェはいらない?」
「え?」
「ここ一回行ってみたかったんだ~、でも一人じゃ行きづらいし、ね?いいでしょ?ついでに、話聞きたいし。」
「は、はぁ。いいですよ。」
どこにも行くあてないしいい人っぽいし。別にいっか。
「よかった。ありがとう。じゃおごるね。」
「え?そんな、悪いのでいいですよ!」
「私が連れて行こうとしてんだからいいのよ。未成年は大人の言うこと聞きなさい。ね?」
「…」
「あたしは、伊藤 真彩。25歳よ。あなたは?」
真彩さんはコーヒーの缶を飲み干してゴミ箱に捨てながら言う。
「あ、ま、松谷 雪乃です!」
「そう。雪乃。可愛い名前。気に入ったわ。私は真彩って呼んで。」
「真彩ちゃん…。」
「…。まぁ、ちゃん付けでもいっか。さん付けだと他人行儀だし。よし!じゃ、カフェ行こう。」
真彩ちゃんは、髪の毛を後ろの下らへんで一つに縛っている。すごい長い髪の毛でお尻の少し上らへんくらいに長い。スタイルが良くて、クールな黒の半袖の服に、長ズボンでヒールを履いている背の高い人だった。

「何頼む?私はコーヒーとモンブランかな。雪乃は?」
「わたしは、…いちごタルトにします。」
「はいはーい。っていうか、敬語はやめてよ。普通にタメでいいからさ。」
「は、はい。じゃなくてうん。」
「ご注文は?」
「あ、コーヒーとモンブラン。それと、アールグレイの紅茶といちごタルトを一つずつ。」
真彩ちゃんがいう。
「かしこまりました。」
店員さんは深々と礼をして戻って行く。
「それで?」
「え?」
「雪乃はどうしてそんなに暗い顔?」
「…それは。」
「私とは変な出会い方だと思うけどこれはこれで運命だと思うのよ。人と人とは必ず出会う運命にあるから出会うのよ。なら、私と雪乃も運命。」
「運命…」
「何も恋愛だけが運命だとは限らないわ。人と人との運命の渦の中で、私たちの人生が成り立って幸せが生み出されるのだと思う。なら、時にはその運命に身を任せなくちゃ。自分の意思だけで生きていくときっと途中で心寂しく思うときがくるものよ。だから、運命で出会った私に何でも話してごらんなさい。」
「あ…。私は…違うんです。逆に運命に任せすぎてしまったんだと思います…。」
「え?それは、どういうこと?」
「大切な友達がいて、普通に生活して、おじさんを嫌ってそんな同じことの繰り返しの毎日に心を委ねていたんです。自分の意思なんて…持ったことがありませんから…。」
「一つ気になったんだけど、おじさんって?」
「私の新しいお父さんです。パパは、交通事故で死にました。でも、パパが死んでから、私も頑張って生きていこうと思っていたのにおじさんが来て私の人生は狂ったんだって、自分で決めつけていました。でも、私の人生が狂ったなんて自分が心の重荷を軽くしようとしていただけで、逃げていたんです…。私の運命にだけ身を任せて。だから、当然うまくいかなくなって、自分の意思さえもわからなくなりました…。友達も今はもういない。明るい光から暗い影が覗いているだけの毎日に安心していたのに。今は明るい光さえも覗いてはくれません。私は運命に見捨てられたんです…。」
「…うん。新しいお父さんね…。なら気持ちわかるわよ。私のお父さんも本当のお父さんじゃなかったから。」
「!」
真彩ちゃんの突然の驚愕の言葉に驚いて声も出なかった。
「私のところも小3の時にお父さんが死んでね。小5の時に新しいお父さんが来て、でも、私も雪乃と同じように毛嫌いしてて、その人と話した記憶でさえも数えられるくらいの数しかない。でもね…。その人がついこの前死んじゃって…妹が大泣きしてたからびっくりした。妹は23歳で2個下なの。妹はその人と過ごした時が楽しくてたまらなかったと言ってた。あんな奴と一緒が楽しかった?ありえない、って思った。でも、その人は本当にいい人だったんだって。私が見てなかっただけで、、優しく微笑んでよく勉強を見てくれて私たちが美味しいと言ったものを買ってきてくれる。そんな人。だったのに。私は気づかなくて…。今考えるとね。思い当たる節がたくさんあった。私が無視をしてもいつも微笑んでくれて毎日受験で忙しくて部屋にこもりきりな私に私の好きなお菓子を置いておいてくれたり。私はそれについての感謝は一言も言ったことがない。なのに…その人は受験が終わるまでずっとお菓子を扉の前に置いておいてくれた。『受験合格したら一緒に旅行行こうね。楽しみにしてるよ。真彩は絶対合格する!あと少しだから頑張れ!』って紙といっしょに。私はお葬式の時に考えて涙が止まらなかった。なんで、ありがとうも言えなかったの?感謝もできないの?なんて、今でも考えちゃう。その人のことをお父さんと呼んだことさえない。でも、あれでも家族なんだ。私は娘だよって言ってくれていたその人…。いい…?絶対に後悔してからじゃ遅いんだからね。大切なものは失ってから気づくものなんだから、失ってからの後悔は後悔を生むだけだよ。どうか、その人の悪いところじゃなくていいところを見つめていてちょうだいね。」
「…」
正直、何を言えばいいかわからなかった。
真彩ちゃんが、心の奥底で苦しんでいたのは理解できた。
真彩ちゃんのお父さんが本当は優しい人でそれに気づかなかったことは嘆かずにはいられなかった…。
でもね。もし、私の新しいお父さんになるであろうおじさんが真彩ちゃんのお父さんみたいにいい人じゃなかったら私は…救われない。
でも、このままじゃ私は何も進めていないことになる。なら、私は…。
「そうですね。まずは叔父さんのいい部分を見ることにします!」
私は心に決めた。
南から言われたあの言葉。『人の内を鼻から決めてかかるのは良くないのよ』なら、私はおじさんの心の内を見てみたいのです。
「お待たせしました。モンブランとコーヒーと、いちごタルトと、アールグレイの紅茶でございます。」
「ありがとう。」そう言って真彩ちゃんは受け取った。
「はい。紅茶のアールグレイ。」
「え?私頼んでないのに…。」
「あ、嫌いだった?ごめん。聞かなくて。」
「いや、好きですけど…。」
「雪乃のことだからきっとタルトの分のお金払おうとするでしょ?多分言っても聞かないから紅茶でもおごっとくかって思って。あ、やっぱりダメだった?でも、紅茶は私が勝手に頼んだんだから奢らせてよね?」
「ぷっ!あはは!」
私は笑い出してしまった。
なんだか、久しぶりに笑った。
真彩ちゃんは目を丸くして私を見ている。
「あはは。いいですよ。でもこの紅茶だけですからね!」
「はいはい。」

「今日はとても美味しかったです。ごちそうさまでした、」
「よかったわ。携帯のアドも交換できたし…。久しぶりに楽しかった!いつでも連絡していいからね。雪乃。また、一緒にお出かけしましょうね!じゃあね~!」
真彩ちゃんは車に乗って小さく手を振った。
私も小さく手を振り返した。
私はいろんな人に支えられているなぁ、、
誰かが私を嫌っても誰かが私を好きでいてくれる。それが、どれだけ幸せなことか。
誰にどれだけ嫌われてるかじゃなくて、誰にどれだけ愛されているか、が 大切なのだとやっと気づくことができた。
過去は振り返らない。でもその分、振り返らないように全力で今を生きよう。
未来へ進む時計の針はもう二度と巻き戻すことはできないのだから。
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みんなの感想(1件)

happy macaron
2017.03.10 happy macaron

夏瀬檸檬さんのやつで1番泣きました…
そして一番のお気に入りです!
雪乃ちゃんの心情が細かく書かれていて表現もわかりやすかったです。
中学生ならではの子供らしいところと大人なところがうまく表現されていてすごいなぁと思いました。
細かい設定までできていて良かったです
泣きながら読みましたよ!(本当です!)
このお話をたくさんの人に読んでほしいなぁ…と思いました

夏瀬檸檬
2017.03.10 夏瀬檸檬

感想ありがとうございます!
このお話は、私が家族についてのお話を書こう思った原点だったんです。そんな昔から考えていたお話を感動するなんて嬉しい言葉をいただけて嬉しいです!
こんなに優しくて、温かくて心から嬉しいお言葉をいただくことができて嬉しかったです!!
本当にありがとうございます!!
貴方様のように読んでくださって感動すると言ってくれる方がいることが何よりもの救いです。これからも、亀ペースですが、ゆっくりとしっかり真面目に書かせていただきたいと思います!

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