1 / 3
空白の1年間
しおりを挟む
第一死
人はいつか死ぬ。
誰もが知っていること。
ドラマでもよく見る。病院で亡くなる光景。
私は自分自身の目で見たよ。そんな悲しい光景を。
「おはよう!」
元気良く2年1組のクラスに入ってきたのは、松風 百合。この話の主人公の私のことだ。
髪の毛は長くていつも編み込みをして後ろにまとめている。背は比較的高い方。成績は普通。
特徴というものがあまりない人間の一種だ。
ここは、市立桜島中学校。おうしま。と読む。都会の中にあるこの学校は、どこにでもある普通の学校だ。
「おはよう~。百合ちゃん。」
百合ちゃんーそう声を掛けてきたのは山内 瑠美。髪の毛がふわふわしている天然系女子。男子にも人気があるのだが、それを自慢したりしない私の好きなタイプだ。
「おはよう。瑠美。」
「瑠美ね。今日数学で当たるの。瑠美数学苦手だから教えて欲しいな。百合ちゃん頭良いから教え方も上手なんだもん。」
「はいはーい。瑠美は本当に数学嫌いなんだね。」
私は持ってきたカバンを机に置いて筆箱から、シャープペンシルを取り出す。
瑠美はスポーツも勉強もまるでダメだ。
数学と英語に関しては追試。再試の大嵐が吹き荒れる。その度に私は教える。
だが、瑠奈は勉強やスポーツができない代わりに、編み物が得意中の得意だ。私は何度もお礼に編み物をプレゼントされた。手先が器用な瑠美はビーズアクセなども良く作っている。
私の学校生活は楽しくかつ平凡に送られている。たった一人の欠席者を覗いて。
クラスの人数は37人。だが、中学に上がってあの子は来ていない。
森崎 加奈ちゃん。
あの子はずっと入院している。
小学校の卒業式の日その日に倒れて救急搬送されてそのまま入院。中学二年生になった今も入院している。
加奈とは保育園からの友達。いわゆる幼馴染ってやつ。加奈は、静かだけど優しいし頭も良くて私とは気が合った。でも、小学生の時もだが、何度も入退院を繰り返して体が弱いのだと小さいなりにもわかっていた。
小学生の時はよく遊んでよくお見舞いに行っていたけれど、今はあまり行っていない。いや、もうずっと、一年近く行っていない。加奈は私の他にも友達はたくさんいた。でも、その友達も中学に入ってたくさんの友達ができたから加奈と一緒が良いとか、加奈大好き。とか、そういう想いはもう無いみたい。
だから、加奈のところへお見舞いに行く人も私以外にはもう誰一人いないだろうな。小学校が違った子は加奈という存在をよく覚えているのかどうかもわからない。加奈は入学式も休んだから、もう一度も学校へは来ていないわけ。だから、別の小学校だった子は加奈にあったことさえも無いはずだ。なら、今加奈はずっと一人なのか。
「加奈ちゃん。まだ来ないんだねぇ。」
瑠美がぼそりと言う。
「へ?瑠美って加奈に会ったことあるっけ?」
「ううん。ないよ。でも、ちょっと気になってね。だって、百合ちゃん加奈ちゃんと席が隣でしょ?今度の席替えでくじがそうなったから。だから、隣を見るとやっぱり千羽鶴があって。なんか寂しいなぁって思ってね。」
入院を繰り返している加奈の席には千羽鶴が置かれている。みんなが会ったこともない加奈のために折ったものだ。一体何人が加奈のことを思いながら折ったのだろうか。もしかしたら加奈のためを思って折った人なんていないかも知れない。
加奈。それって寂しくない?
「うん。そうだね。」
「森崎加奈ちゃんのお部屋ですか?」
「はい。」
久しぶりにお見舞いに病院に行くと2年前の看護婦さんと変わっていた。毎日お見舞いに来てその看護婦さん 華乃さんとおしゃべりをしていた。とてもよくしてくれた看護婦さんで私自身大好きだった。でもその華乃さんは今はもういない。それを見ると私がどれだけ加奈に会いに行っていなかったのか思い知らされる。
「2階の小児科に入院してます。お友達のお見舞いかしら?偉いわね。加奈ちゃんのお見舞いに来る子を見たのは初めてなの。たくさんお話ししてあげてね。」
「はい。」
やっぱり…。この1年間誰も加奈のお見舞いにはきていないんだ。
加奈。あなたは今までどう思ってきた?
面会用のカードを首から下げ小児科の病棟へ入っていく。
小児科にはまだ小さい子が沢山いた。
加奈はここで友達ができたことがあるのかな。
私は加奈の病室に向かって歩く。
病室は小さな個室だった。
カーテンで割り切られることが多い入院病棟では、お金持ちな子や病気が重い子たちが入るのは、個室。大体はそうだと思う。
加奈はお金持ちな家に生まれている。
昔、誕生会で何度か加奈の家に行ったことがあるが、大きくて和風な立派な家だった。武家屋敷のような木で出来ていて敷地もとても広かった。加奈のお母さん。おばさんはいつも着物を着て私を迎えてくれて優しい笑顔を浮かべる人だった。おじさんは、あまり見たことがない。車から降りるのを一度見たくらいだ。
だから…加奈はお金持ちだし重い病気なのかはわからない。
「加奈ちゃん。花瓶にお水を入れてくるわね。」
私が個室に入ろうとした時中からおばさんが出てきた。
「あ…ら?もしかして、百合ちゃん…なの?」
「おばさん。これまでお見舞いに来れなくてすみません。お久しぶりです。松風。百合です。」
おばさんは固まってしまっていた。
今日も着物。華やかで優しい色の着物を着ていた。変わっていませんね…。
「久しぶりね…。百合ちゃん。」
私とおばさんは加奈に会う前に二人だけで話すことにした。おばさんは花瓶にお水を入れてお花を水で少し流している。
「あのね…。百合ちゃん。私はこの約1年間ここに来なかったこと、私は決して咎めない。だから、お願いなの。」
「え?」
「あの子の側に今日一日居られるだけ居てあげて。今日だけでいいの…。あの子はもう…学校へは行けないのだから。」
「え?い…ま、何て?」
今…なんて言った?おばさん。
学校へは行けない?何で?
「あの子…もう治らないのよ。」
「え?」
「心臓がね…。悪くてね。詳しくは、言えないの…。もしかしたら、もう退院できずに…。」
おばさんは泣き出してしまった。
辛い気持ちとか、加奈の前では出せないから。
溜まっていたんだろう。おばさんは料理の得意な人だ。加奈にたくさんの料理を作って加奈の自慢だと加奈自身がそう言っていた。今は病院で食べれなくて辛いんだろうな…。
「おばさん。泣いちゃダメです。」
「え?」
「加奈のことを一番信じてあげなくちゃいけないのはおばさんですよ。加奈は今も一人で闘っているんですから。分かりました。今日一日。加奈のそばを離れません。私はその為にここに来たんです。」
これまでここに来なかったことの罪滅ぼし。
そんな言葉で片付けていいものではないが、加奈のそばにいたい。加奈に会いたい。
そんな気持ちしか私にはもうない。
「お母さん。遅いよぉー。あ…れ。」
私の顔を見た加奈は瞬間的に固まった。
やはり怒っているのだろうか。
「百合ちゃん?百合ちゃんだよね!」
私の予想とはまるで違った加奈の反応だった。
「え?」
「久しぶりだねぇ。百合ちゃん。来てくれてありがとう~!」
あぁ。この子は私が思っている以上に心の広い優しい子なんだな。と、そう思った。
「御免なさいね。加奈ちゃん。お母さん先に百合ちゃんにあって久しぶりだからお話ししていたのよ。私は外で待っているから2人でお話ししなさいね。」
「ううん。お母さん。ちょっと外歩いてくるよ。」
「「え?」」
おばさんと私の声が重なる。
「一人で大丈夫なの?加奈ちゃん。」
「百合ちゃんがいるから。平気だよ。お母さん。百合ちゃん歩いていいかな?」
「もちろん。いいよ。」
私と加奈は結局一緒に廊下を歩くことにした。
加奈は点滴をぶら下げている棒にもたれかかりながら歩く。
「加奈。私にもたれかかって良いよ。背丈も一緒だしもたれかかりやすいでしょ?」
「ありがとう。百合ちゃん。」
「点滴のやつは私が持つから。」
「ありがとう。百合ちゃん。変わってないんだね。」
「変わってない?」
私が大きく聞き返す。
「うん。百合ちゃんは優しいまま。」
そう言って加奈はへらへら笑う。
でもね。違うよ。加奈。優しかったら、1年ぶりのお見舞いなんてありえないよ。
優しかったら毎日来るよ。加奈。もう加奈の思っている私とは変わってしまったんだよ。
ーそう…言えなかった。
「そういえばね。瑠美…中学で出来た友達の瑠美がね。加奈に会いたがってたよ。」
「瑠美ちゃん?どんな子?」
「えっとね。勉強はできないけど、編み物が得意で女子力が高いかな。いつもキャンディを持ってて、そのキャンディもすごいかわいい包装紙で包まれてる。そんな子。」
「へぇ。百合ちゃんがそこまで信頼しているのなら私も話してみたいな。また、連れて来てくれる?」
「もちろん。瑠美も誘ってくるよ。加奈とも、仲良くなれると思うし。」
瑠美ちゃんに早く会いたい。そう言って加奈は少し黙って歩き続ける。
「加奈…。」
「そういえばね。わたし妹が出来たのよ。」
「妹?加奈の?」
「そう!この前生まれたんだけど、まだ小さいから連れてこれないし、小児科だから、まだ入れないのよ。」
そう言ってニコニコして笑う。
「おばさん。加奈の妹がお腹にいたんだね…。」
知らなかった。加奈のお母さん。おばさんには何度も会っておしゃべりしたのに。
なんで、気づかなかったんだろう。
「凛。」
「へ?」
「凛っていうの。妹ちゃん。」
「そ、うなんだ。」
「百合ちゃん。1年間私のお見舞いに来なかったこと気にしてるの?」
いきなりその話か…。
気にしてないわけじゃない。辛い治療受けている加奈が明るく振舞っているのを見て私が恥ずかしい人間だと思っているだけ…。
「そりゃあ。気にするよ。ごめんね。今まで。」
「百合ちゃん。謝る必要なんて無いんだよ。」
「え?」
「だって、中学に入ると環境も変わるし下校時刻だって小学校の頃より遅くなるし、毎日来れるわけないもん。それに、今はもう二年生だけど、一年生の時は新しい環境に慣れるのに必死だもん。仕方ないよ。それに、あんまり気にしないで。百合ちゃんが思ってるほど私は気にしてないから。ね。それに、今は凛もいて。お父さんもお母さんも毎日来てくれる。寂しいなんて思わないよ。だから、百合ちゃん。生まれた病院が一緒で家も近くで保育園から一緒に遊んでくれた百合ちゃん。何度も入退院を繰り返しても励ましてくれてお見舞いに毎日来てくれた百合ちゃん。これからは、百合ちゃんの人生を百合ちゃんのために生きて。大切な人が幸せになることが私にとって一番幸福なのよ。」
私の顔をしっかりと見つめる加奈。
加奈。その言葉、口癖だったね。
『大切な人が幸せになることが私にとって一番の幸せなの。大切な百合ちゃんは一生幸せでいなきゃいけないよ。ふふ。私も幸せでいられるから。』
小学校4年生の頃病院で加奈は消え入りそうな声でそう言った。
私は覚えてるよ。加奈。自分のために生きるなんて、実は難しいことなんだよ。加奈。どうか自分の心の扉を閉めないで。
「…加奈。」
私が呼ぶと加奈は真っ青な顔をして胸を抑えていた。心臓が痛いのか?一瞬でそう察知した。加奈は倒れこみ床に身体がくっつく。
苦しそうだ。私は怖くてどうしていいかわからなくなった。周りの人たちはみんな心配そうな顔をして急いで先生たちを呼んできてくれた。
加奈は急いで治療室に運ばれていった。
私はその時顔が真っ青になっていたという。
怖くて何もできなかった自分が情けなくて…。
私も一緒に診察を受けた。
体温が一気に下がっていたと先生が言った。
「瑠美…。私どうしよう。」
私はとりあえず家に帰った。
ここにいても邪魔になるだけだと、思ったから。
人はいつか死ぬ。
誰もが知っていること。
ドラマでもよく見る。病院で亡くなる光景。
私は自分自身の目で見たよ。そんな悲しい光景を。
「おはよう!」
元気良く2年1組のクラスに入ってきたのは、松風 百合。この話の主人公の私のことだ。
髪の毛は長くていつも編み込みをして後ろにまとめている。背は比較的高い方。成績は普通。
特徴というものがあまりない人間の一種だ。
ここは、市立桜島中学校。おうしま。と読む。都会の中にあるこの学校は、どこにでもある普通の学校だ。
「おはよう~。百合ちゃん。」
百合ちゃんーそう声を掛けてきたのは山内 瑠美。髪の毛がふわふわしている天然系女子。男子にも人気があるのだが、それを自慢したりしない私の好きなタイプだ。
「おはよう。瑠美。」
「瑠美ね。今日数学で当たるの。瑠美数学苦手だから教えて欲しいな。百合ちゃん頭良いから教え方も上手なんだもん。」
「はいはーい。瑠美は本当に数学嫌いなんだね。」
私は持ってきたカバンを机に置いて筆箱から、シャープペンシルを取り出す。
瑠美はスポーツも勉強もまるでダメだ。
数学と英語に関しては追試。再試の大嵐が吹き荒れる。その度に私は教える。
だが、瑠奈は勉強やスポーツができない代わりに、編み物が得意中の得意だ。私は何度もお礼に編み物をプレゼントされた。手先が器用な瑠美はビーズアクセなども良く作っている。
私の学校生活は楽しくかつ平凡に送られている。たった一人の欠席者を覗いて。
クラスの人数は37人。だが、中学に上がってあの子は来ていない。
森崎 加奈ちゃん。
あの子はずっと入院している。
小学校の卒業式の日その日に倒れて救急搬送されてそのまま入院。中学二年生になった今も入院している。
加奈とは保育園からの友達。いわゆる幼馴染ってやつ。加奈は、静かだけど優しいし頭も良くて私とは気が合った。でも、小学生の時もだが、何度も入退院を繰り返して体が弱いのだと小さいなりにもわかっていた。
小学生の時はよく遊んでよくお見舞いに行っていたけれど、今はあまり行っていない。いや、もうずっと、一年近く行っていない。加奈は私の他にも友達はたくさんいた。でも、その友達も中学に入ってたくさんの友達ができたから加奈と一緒が良いとか、加奈大好き。とか、そういう想いはもう無いみたい。
だから、加奈のところへお見舞いに行く人も私以外にはもう誰一人いないだろうな。小学校が違った子は加奈という存在をよく覚えているのかどうかもわからない。加奈は入学式も休んだから、もう一度も学校へは来ていないわけ。だから、別の小学校だった子は加奈にあったことさえも無いはずだ。なら、今加奈はずっと一人なのか。
「加奈ちゃん。まだ来ないんだねぇ。」
瑠美がぼそりと言う。
「へ?瑠美って加奈に会ったことあるっけ?」
「ううん。ないよ。でも、ちょっと気になってね。だって、百合ちゃん加奈ちゃんと席が隣でしょ?今度の席替えでくじがそうなったから。だから、隣を見るとやっぱり千羽鶴があって。なんか寂しいなぁって思ってね。」
入院を繰り返している加奈の席には千羽鶴が置かれている。みんなが会ったこともない加奈のために折ったものだ。一体何人が加奈のことを思いながら折ったのだろうか。もしかしたら加奈のためを思って折った人なんていないかも知れない。
加奈。それって寂しくない?
「うん。そうだね。」
「森崎加奈ちゃんのお部屋ですか?」
「はい。」
久しぶりにお見舞いに病院に行くと2年前の看護婦さんと変わっていた。毎日お見舞いに来てその看護婦さん 華乃さんとおしゃべりをしていた。とてもよくしてくれた看護婦さんで私自身大好きだった。でもその華乃さんは今はもういない。それを見ると私がどれだけ加奈に会いに行っていなかったのか思い知らされる。
「2階の小児科に入院してます。お友達のお見舞いかしら?偉いわね。加奈ちゃんのお見舞いに来る子を見たのは初めてなの。たくさんお話ししてあげてね。」
「はい。」
やっぱり…。この1年間誰も加奈のお見舞いにはきていないんだ。
加奈。あなたは今までどう思ってきた?
面会用のカードを首から下げ小児科の病棟へ入っていく。
小児科にはまだ小さい子が沢山いた。
加奈はここで友達ができたことがあるのかな。
私は加奈の病室に向かって歩く。
病室は小さな個室だった。
カーテンで割り切られることが多い入院病棟では、お金持ちな子や病気が重い子たちが入るのは、個室。大体はそうだと思う。
加奈はお金持ちな家に生まれている。
昔、誕生会で何度か加奈の家に行ったことがあるが、大きくて和風な立派な家だった。武家屋敷のような木で出来ていて敷地もとても広かった。加奈のお母さん。おばさんはいつも着物を着て私を迎えてくれて優しい笑顔を浮かべる人だった。おじさんは、あまり見たことがない。車から降りるのを一度見たくらいだ。
だから…加奈はお金持ちだし重い病気なのかはわからない。
「加奈ちゃん。花瓶にお水を入れてくるわね。」
私が個室に入ろうとした時中からおばさんが出てきた。
「あ…ら?もしかして、百合ちゃん…なの?」
「おばさん。これまでお見舞いに来れなくてすみません。お久しぶりです。松風。百合です。」
おばさんは固まってしまっていた。
今日も着物。華やかで優しい色の着物を着ていた。変わっていませんね…。
「久しぶりね…。百合ちゃん。」
私とおばさんは加奈に会う前に二人だけで話すことにした。おばさんは花瓶にお水を入れてお花を水で少し流している。
「あのね…。百合ちゃん。私はこの約1年間ここに来なかったこと、私は決して咎めない。だから、お願いなの。」
「え?」
「あの子の側に今日一日居られるだけ居てあげて。今日だけでいいの…。あの子はもう…学校へは行けないのだから。」
「え?い…ま、何て?」
今…なんて言った?おばさん。
学校へは行けない?何で?
「あの子…もう治らないのよ。」
「え?」
「心臓がね…。悪くてね。詳しくは、言えないの…。もしかしたら、もう退院できずに…。」
おばさんは泣き出してしまった。
辛い気持ちとか、加奈の前では出せないから。
溜まっていたんだろう。おばさんは料理の得意な人だ。加奈にたくさんの料理を作って加奈の自慢だと加奈自身がそう言っていた。今は病院で食べれなくて辛いんだろうな…。
「おばさん。泣いちゃダメです。」
「え?」
「加奈のことを一番信じてあげなくちゃいけないのはおばさんですよ。加奈は今も一人で闘っているんですから。分かりました。今日一日。加奈のそばを離れません。私はその為にここに来たんです。」
これまでここに来なかったことの罪滅ぼし。
そんな言葉で片付けていいものではないが、加奈のそばにいたい。加奈に会いたい。
そんな気持ちしか私にはもうない。
「お母さん。遅いよぉー。あ…れ。」
私の顔を見た加奈は瞬間的に固まった。
やはり怒っているのだろうか。
「百合ちゃん?百合ちゃんだよね!」
私の予想とはまるで違った加奈の反応だった。
「え?」
「久しぶりだねぇ。百合ちゃん。来てくれてありがとう~!」
あぁ。この子は私が思っている以上に心の広い優しい子なんだな。と、そう思った。
「御免なさいね。加奈ちゃん。お母さん先に百合ちゃんにあって久しぶりだからお話ししていたのよ。私は外で待っているから2人でお話ししなさいね。」
「ううん。お母さん。ちょっと外歩いてくるよ。」
「「え?」」
おばさんと私の声が重なる。
「一人で大丈夫なの?加奈ちゃん。」
「百合ちゃんがいるから。平気だよ。お母さん。百合ちゃん歩いていいかな?」
「もちろん。いいよ。」
私と加奈は結局一緒に廊下を歩くことにした。
加奈は点滴をぶら下げている棒にもたれかかりながら歩く。
「加奈。私にもたれかかって良いよ。背丈も一緒だしもたれかかりやすいでしょ?」
「ありがとう。百合ちゃん。」
「点滴のやつは私が持つから。」
「ありがとう。百合ちゃん。変わってないんだね。」
「変わってない?」
私が大きく聞き返す。
「うん。百合ちゃんは優しいまま。」
そう言って加奈はへらへら笑う。
でもね。違うよ。加奈。優しかったら、1年ぶりのお見舞いなんてありえないよ。
優しかったら毎日来るよ。加奈。もう加奈の思っている私とは変わってしまったんだよ。
ーそう…言えなかった。
「そういえばね。瑠美…中学で出来た友達の瑠美がね。加奈に会いたがってたよ。」
「瑠美ちゃん?どんな子?」
「えっとね。勉強はできないけど、編み物が得意で女子力が高いかな。いつもキャンディを持ってて、そのキャンディもすごいかわいい包装紙で包まれてる。そんな子。」
「へぇ。百合ちゃんがそこまで信頼しているのなら私も話してみたいな。また、連れて来てくれる?」
「もちろん。瑠美も誘ってくるよ。加奈とも、仲良くなれると思うし。」
瑠美ちゃんに早く会いたい。そう言って加奈は少し黙って歩き続ける。
「加奈…。」
「そういえばね。わたし妹が出来たのよ。」
「妹?加奈の?」
「そう!この前生まれたんだけど、まだ小さいから連れてこれないし、小児科だから、まだ入れないのよ。」
そう言ってニコニコして笑う。
「おばさん。加奈の妹がお腹にいたんだね…。」
知らなかった。加奈のお母さん。おばさんには何度も会っておしゃべりしたのに。
なんで、気づかなかったんだろう。
「凛。」
「へ?」
「凛っていうの。妹ちゃん。」
「そ、うなんだ。」
「百合ちゃん。1年間私のお見舞いに来なかったこと気にしてるの?」
いきなりその話か…。
気にしてないわけじゃない。辛い治療受けている加奈が明るく振舞っているのを見て私が恥ずかしい人間だと思っているだけ…。
「そりゃあ。気にするよ。ごめんね。今まで。」
「百合ちゃん。謝る必要なんて無いんだよ。」
「え?」
「だって、中学に入ると環境も変わるし下校時刻だって小学校の頃より遅くなるし、毎日来れるわけないもん。それに、今はもう二年生だけど、一年生の時は新しい環境に慣れるのに必死だもん。仕方ないよ。それに、あんまり気にしないで。百合ちゃんが思ってるほど私は気にしてないから。ね。それに、今は凛もいて。お父さんもお母さんも毎日来てくれる。寂しいなんて思わないよ。だから、百合ちゃん。生まれた病院が一緒で家も近くで保育園から一緒に遊んでくれた百合ちゃん。何度も入退院を繰り返しても励ましてくれてお見舞いに毎日来てくれた百合ちゃん。これからは、百合ちゃんの人生を百合ちゃんのために生きて。大切な人が幸せになることが私にとって一番幸福なのよ。」
私の顔をしっかりと見つめる加奈。
加奈。その言葉、口癖だったね。
『大切な人が幸せになることが私にとって一番の幸せなの。大切な百合ちゃんは一生幸せでいなきゃいけないよ。ふふ。私も幸せでいられるから。』
小学校4年生の頃病院で加奈は消え入りそうな声でそう言った。
私は覚えてるよ。加奈。自分のために生きるなんて、実は難しいことなんだよ。加奈。どうか自分の心の扉を閉めないで。
「…加奈。」
私が呼ぶと加奈は真っ青な顔をして胸を抑えていた。心臓が痛いのか?一瞬でそう察知した。加奈は倒れこみ床に身体がくっつく。
苦しそうだ。私は怖くてどうしていいかわからなくなった。周りの人たちはみんな心配そうな顔をして急いで先生たちを呼んできてくれた。
加奈は急いで治療室に運ばれていった。
私はその時顔が真っ青になっていたという。
怖くて何もできなかった自分が情けなくて…。
私も一緒に診察を受けた。
体温が一気に下がっていたと先生が言った。
「瑠美…。私どうしよう。」
私はとりあえず家に帰った。
ここにいても邪魔になるだけだと、思ったから。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる