さようなら思い出

夏瀬檸檬

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好きだから

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第三死


「ただいまー。」
私は家に帰ってきた。
家は一戸建てで、普通の中の少し上の家。
父はサラリーマンで母は公務員。
そんな家系。妹も弟も私にはいない。
「おかえりー。遅かったね~。お友達とご飯でも行ってきたの?なら、メールしてよー。お母さん麻婆豆腐作っちゃったじゃない。」
現在8時を回ったところ。
加奈の病院は電車を三本乗って乗り換えがあるから意外に遠い。帰ってくるのに遅くなっちゃった。
「あ、ごめん。でも食べてきてないから。麻婆豆腐食べる。」
「そ?こんなに遅かったのに食べてきてないなんて珍しいわね。」
「…きょ、今日ね。加奈の病院にお見舞い行ってきたの。」
「加奈ちゃん?新しく出来た友達って入院してたの?」
お母さんが麻婆豆腐をよそいながら聞く。
「違うよ。森崎加奈よ。」
「森崎さん?あ、あのお金持ちの!懐かしい子ね。まだ入院しているのね…。大変ね。」
お母さんはその一言で他には何も言わなかった。お母さんの中での加奈の存在はその程度。
1年間の空白がここまで大きな気持ちの差を生むとは思ってもいなかった。でも、加奈は私たちを待っていてくれてた。
「お母さん。これから、今日みたいに帰ってくるの遅くなると思う。」
「え?学校で残ってくるの?」
「違うよ。加奈のお見舞い。」
「えー?1年間も行かなかったのに珍しいこともあるもんね。わかったわ。でも気を付けなさいよ。暗いもの。加奈ちゃん早く良くなるといいわね。前みたいに学校一緒に行けるようになるといいね。」
お母さんはニコニコしながらそういった。
私はーうん。とだけ言って黙々と麻婆豆腐を口に運ぶ。

「お母さんにとって、加奈はその程度の存在…か。」
私は自分の部屋のベッドに突っ伏しながらボソリという。
ベッドの周りにはたくさんの写真が飾られている。加奈と撮った二人だけの写真。
海や山、学校の野外合宿。
懐かしいものばかりだ。
「加奈を置いて時間だけが過ぎて行ってるよなぁ…」
また独り言。

「おはよう~!百合ちゃん。」
朝一番に話しかけてきたのは瑠美だった。
「瑠美。おはよう。」
「あれ?百合ちゃん目の下のくまできてるよ。昨日寝てないの?」
瑠美の女子力の高い持ち物の中の鏡を渡されて顔を見ると確かにあるくま。
昨日あまり寝ていないのは本当だ。
私がぼおっとしながら席に着くと頭をぽかっと殴られた。
「ちょっとー!なにすんのよ!春樹!」
ニヤニヤ笑いながら私の頭を殴ったのは、今年から同じクラスになった水野 春樹。
スポーツも運動もできて顔も良いから女子からは憧れ的存在。
私は、結構男に興味のないタイプだからどうでも良いんだけど。あっちはものすごーくいじってくんのよね。。本当にどうにかしてほしい。
「春樹くんと仲良いよね。百合ちゃん。」
「どこがよ。からかわれてるだけだし。」
「春樹くんはそうじゃないかもよ?」
「は?」
「瑠美思うんだよね。春樹くんはぜーったい百合ちゃんのことが好きだって。」
「なわけないでしょ。ふふ。瑠美のほうが男共にも人気あるし。私と一緒にいる瑠美がきになるんじゃない?」
「な、なに言ってるの。百合ちゃん。」
顔を赤らめて瑠美は必死に言う。
かわいいなぁ。同じ女の子とは思えないくらい。そう思った。
瑠美に比べたら私はゴリラ同然だなぁ。なんて思った。
こんな平凡な私の人生に、加奈がいる。加奈という存在がある。それだけで、私の平凡は守られているのかな。加奈がもし死んじゃったら、私の平凡は壊れる?加奈がいなくなったら、私は自分を責めるだろう。でも、当然かな。私は一年も加奈に会おうとしなかった。加奈。謝るから。謝るから。いなくならないで。
真剣にそんなことを考えている自分がいる。
加奈がいなくなるとは決まったわけではないのに。加奈はまだこの世にいるのに。
「おい。」
「!」
春樹に声をかけられてハッとした。
もう朝のSTが始まってたのに、ぼおっとしてた。
春樹がプリントを後ろに回そうとしてたのに私がぼおっとしてて気づかなかったから春樹は話しかけたんだろう。
「あ、ごめん。」
「なんか最近よくぼーっとしてるけどなんかあったのか?」
春樹に聞かれる。
「なんで、あんたに言わなきゃなんないのよ。」
ぶっきらぼうに私は言う。
「なんでって。お前。。」
「なんで?」
「もう良いし!ったく可愛げがねぇのな!」
「な!なに怒ってんのよ。」
なに怒ってんの?こいつ。
子供みたい。
でも、何も考えてないような春樹にも私がぼーっとしてることわかるんだよね。
気を引き締めないと。
担任にもなんか言われそうだし。

「あら、今日も来てくれたの?百合ちゃん。」
昨日来た時にいた看護師さんが今日もいた。
「あ、はい。」
「加奈ちゃん。嬉しそうだったわよ。初めてあんなに楽しそうな笑顔見たもの。私も加奈ちゃんのことは心配していたんだけれど、百合ちゃんのおかげよ。ありがとう。」
そう言って私に首から下げる面会カードを手渡す。
感謝されるっていいことだなぁ。としみじみ感じた。
加奈が笑顔を見せてくれたんだ…。よかった。このまま元気になってくれるといいのに。
治らないなんて、おばさんそんなこと言っちゃダメだよね。
「加奈~。今日も来たよー。」
私が病室の扉を開けるとリンゴを食べている加奈がいた。
おばさんはびっくりした顔をしながら私の方へ来て私を外に出した。
「おばさん?」
「百合ちゃん…。何で来てくれたの?」
「え?」
「罪滅ぼしのため?なら、来ないでいいのよ。」
「違います。そばにいたいんです。加奈のそばに。まあ、昔みたいにずっと一緒は無理なんですけど、側に居られるだけいたいんです。迷惑でしょうか。」
私がおばさんの顔を見ると、おばさんは涙をたくさん貯めている。
「お、おばさん?」
「あ、ありがとう。ありがとう。嬉しい。嬉しい。百合ちゃんが加奈の友達でよかった。百合ちゃん。百合ちゃん。ありがとう。」
「いえ。」
おばさんは涙を引かせるためにトイレに行った。
「加奈~。ただいま。」
「おかえりー。どうしたの??」
「いや、何でもないよ。おばさんトイレに行った。それより、何かしようよ。」
「じゃ、絵でも描かない?待合室とか言って。」
「えー?動いてる人間なんて書けないよ。加奈は絵うまいからいいけどー。」
加奈はふふっとニコニコしながら笑う。
加奈は絵がうまいのだ。
全国写生大会でも優勝と入賞を何度も撮っている絵の秀才さん。
私も絵画を習っていたし絵に自信はあるけれど加奈に圧倒的に負けている。それくらい上手なのだ。
「いいじゃない。やろうよ。」
「仕方ないなぁ。いいよ。あ、でも私スケッチブックと色鉛筆持ってない。って思ったら持ってたわ。」
「どっちなのよ。ふふ。」
「今日美術があったから持ってた。加奈は相変わらず側にスケッチブックと色鉛筆があるのね。」
「うん。すぐ絵が描けるようにしたくてね。」
「加奈は将来画家になるんだもんね。」
「私には将来なんてないよ。もう…死ぬもん。」
パシッ!
私は固まってしまったその数秒後加奈を叩いていた。
「百合ちゃん…?」
「取り消しなさいよ。」
「え?」
「死ぬって言ったこと取り消しなさい!二度とそんなこと言わないで!加奈のこと大切に思っている私たちがどれだけ悲しいか!加奈は死なない!私が絶対死なせない!加奈…。だから、だから、生きていてよ…。」
私は涙が止まらなくて滑舌まで悪くなった。
加奈…加奈のことは一番加奈が分かってるよね。でも、言っていいことと悪いことがあるよ。加奈、何で死ぬことを強調するの?長く生きて二人で瑠美も入れて楽しくやろうよ。加奈。逝かないでよ。お願いだから。この世に存在してくれている加奈という存在が私にとってどれだけ大きかったか。
私は床に座り込んだ…。
まさか加奈の口からそんな言葉を聞くなんて思いもよらなかった。
部屋にはたくさんの看護師さんが集まる。
私の怒鳴り声を聞いたからであろう。
「ごめんね…ごめんね…。辛いとき加奈の側にいなきゃならなかったのに…。加奈の側にいなくてごめんね。これからは側にいるよ。加奈の側にいるよ。怖くないよ。だから、死なないでよ…。」
私は看護師さんに背中をさすられていた。
ほら、こうやって背中をさすってあげるよ。
辛いときは、泣きたいときは、耐えられないときはこうやって私がさすってあげるよ。だから、生きていこうよ。

私は、看護師さんに連れられて加奈の病室を出た。
「今日は本当に迷惑をおかけしました…。」
私は看護師さんに頭を深く下げる。
「あらあら、いいのよ。気にしないで。」
「…ありがとうございます。」
「まだ、気にしてる?」
「…はい。正直、私が怒鳴ったところで加奈の気持ちが変わるかどうかわかりません。加奈は加奈で辛い治療を頑張ってきたのに。生きろだなんて…残酷ですよね。」
「確かに辛い治療を受けている患者さん特に重い病気の子たちに『頑張れ』っていう言葉はプレッシャーを与えるだけね。面会の人たちに泣きながらこういう子たちを私たちはよく見るのよ。」
「なんて、おっしゃってるんですか?」
「『もう十分頑張ったのに一体何を頑張ればいいの?』って。でもね。百合ちゃん。生きていろって言葉は患者にとっていい言葉だと思う。」
「え?」
「患者にとって必要とされていることはとても嬉しいと思うの。だから、面会に来た人から生きていてと言われれば、目標ができるのよ。生きるっていう目標が。」
「…。」
「患者さんにとって目標があるってすごくいいことだからね。だから、たくさん。必要としてあげて。ね。あ、ごめんね。もう仕事に戻らなきゃ。気をつけて帰ってね。」
「あ、はい。ありがとうございました…」
わたしに手を振って看護士さんたちは仕事に戻って行った。
そうだよね。小さな子さえも辛い治療で頑張ってるのに頑張れって言っちゃダメだよね…。
でも、生きていろって言葉は加奈に勇気を与えられたかな。

わたしは帰るバスに乗った。
良かった。加奈の病院は定期圏内だからお金かかることなくて…。

バスは急に混みだした。
私はスマホを触りながら座っている。隣にはまだ誰も座っていない。
「はぁ。」
ため息をつく。
ハッとした。隣に誰かが座ったみたいだ。
振り向くと春樹がいた。
「春樹。」
「百合。」
「珍しいわね。こんな時間にバスなんて。」
「それはこっちの台詞だっつの。こんな時間に帰ったら女はあぶねーよ。」
「え?春樹のくせに女の子の心配とかするんだ。」
「ったりめぇだろ。百合が好きなんだから。」
「え…。」
好きなんだから…?って言った?こいつ。
どういうこと…?!
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感想 1

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みんなの感想(1件)

happy macaron
2017.03.09 happy macaron

とても感動するお話でした!
アルファポリスを初めて直ぐなのでお気に入りのやり方がわからず…わかり次第したいと思います!
感動をありがとうございました!

2017.03.09 夏瀬檸檬

感想ありがとうございます!!
この小説は、本当に悩んで書いたもので友達にも読んでもらったりしたのですが、感動を与えられていただなんて驚きですし、温かく嬉しいお言葉をいただけるようになった自分にも驚いています。読んでくださる方がちゃんといるんだと気付き身が引き締まる思いです。私は描くのが上手ではないし、簡単にいうと下手くそで、読んでくださってる方も煩わしいと思うこともあると思います。私自身小説は描くのが楽しいし、どんどん描くことが増えていくのもワクワクします。下手くそでどうしようもない中学生の私ですが、本当に感想ありがとうございます!!本当に励みになります!これをバネに一気に更新して行きます!!完結までお付き合いいただけると嬉しいです!
本当に心から感謝します!

解除

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