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神竜家

価値が0円だから『ゼロ』だ

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 ─ 神竜家のリビング ──




 
「あなた、たて貴史たかしはもう駄目かもしれないわね」

「ああ、あれは出来損ないだな。そして、呪われている。──世間の皆が神竜家は呪われていると言う気持ちが、ほんの少しだが分かった気がする……」

 父の巌上と母の里見が隣り合ってソファに座り、頭を抱えながら話をしている。
 テーブルで絵描きをしていた兄の智也と姉の光が、父と母の話を聞いていたのだろう、揃って声を上げた。

「バカな弟を持つと苦労するよな、光」

「ほんとね。私、バカは嫌い」

 弟の貴史たかしのことをバカにする2人に里見が。

「──はぁ~……コラコラって貴方達を怒らないといけないのに、お母さんも貴方達と同じ気持ちだなんて、酷いお母さんよね」

 4人が笑い出す。

「よし、あいつの名は今日から『ゼロ』だ」

 何を思ったのか、巌上が突然そんなことを言い出した。

「どうして『ゼロ』なの?」

 智也の問に巌上が答える。

「価値が0円だから『ゼロ』だ。あいつに名前は勿体ない。まあ、もしかしたら価値が上がる可能性もあるから、一応鍛えてやるが……。外出は禁止にして、徹底的に厳しくする。0円などという無価値の物は俺は嫌いだ。金にならん物はいらん」

「私もあなたに協力します」

 里見がそう声を上げると、智也と光が頷き合った。

「僕達も手伝うよ。訓練だと言って虐めてやるんだ!」

「きゃははっ、私もやる~!」

 巌上と里見は、2人の子供の話を聞きながら笑顔でお茶を飲んでいる。

「智也と光はすくすくと育っているというのに……。あいつは本当に呪われてるかもしれないな……」

「あなたがさっきからそんなことを言うから、2人が怖がってるじゃない」

 智也と光の笑い顔が引きつっている。

貴史たかしが本当に呪われてるなら、俺にも光にも伝染るかもしれない……。そうだ! お父さん、俺達と同じ部屋にいるゼロを物置きかどこかに追い出してよ。呪いが伝染ると嫌だもん」

「私も嫌よ! お父さんお母さんどうにかして!」

 暫し考える巌上。

「──よし、二階にある物置きを整理してゼロのベッドをそこに運ぼう。本当に呪われていたら大変だからな。お前達にまで呪が伝染ったらお父さんは悲しい」

 巌上の言葉に、自分達にも本当に呪いが伝染るかもしれないと思ったのか、母と兄姉の顔が青くなった。









 ━━━━━━━━━━




 ─ 黒い目の人らしからぬ人 ──




「どうしてこんなに我慢しなくてはいけないのですか!」

「私も同じです! アルティナ様、どうか裁きを!」

 高い背もたれに、赤い革のような素材で覆われた背面と座面。
 その座面の膨らみに腰を下ろし、艶のある肘置きに腕を置き、座っているだけでその貫禄を見せつけているアルティナ。

 座面に出来たシワが、座り心地の良さそうな柔かい感触なのだろうと想像させる。

 そんな貫禄のあるアルティナに面と向かい合っているニックの父親と民達が、思いの丈をぶつけている。

「アルティナ様は、まだ我慢なさるおつもりですか? 私は、─しんりゅうがんじょう─という人間を許せません!」

 アルティナがそう問われると、血管が浮き出る程拳を握り体を震わせた。

 直後、地面がゆっくりと揺れていく。

 その揺れが次第に強くなり、激震となっていった。

「うわーーっ! アルティナ様! お気をお鎮め下さい! アルティナ様がここで力を開放してしまうと、地球が崩壊してしまいます! どうか、どうかお鎮め下さい!」

 民達の声に、力を入れるのを徐々に止めていき心を落ち着かせるアルティナ。

「ふ~、我慢出来るかだと? そんなもの出来る訳がないであろう。だが、出来ないではなく、しなくてはならないのだ。──分かってくれ、妾《わらわ》も辛い……」

 揺れは完全に止まった。
 そして、アルティナが辛い思いをしているのに、自分達が無理を言うわけにはいかなくなった民達。

「──どうしてそこまで我慢されるのですか……アルティナ様」

「──神竜巌上しんりゅうがんじょう、あの外道の命だけでは足らぬ。が、神竜一族の血を、今根絶やしにする訳にはいかぬ。そうすれば、裏切ることになってしまうからな……。──暫し待て、あの者が情報を持ってくる筈。妾が動くのはそれからだ。──して、ニックはどうだ?」

 アルティナに問われたニックの父親が。

「はっ、アルティナ様のスキルのお陰で、息を吹き返した後も元気に遊んでおります。──ただ……少しトラウマになっているかもしれませんが……」

「トラウマか……。心に傷が残ってしまったな。──神竜巌上しんりゅうがんじょう……神竜剣介しんりゅうけんすけの息子……ヤツの命は必ず絶つ。わらわの相手が奴でなくて良かった……あのような外道が相手だとしたら、面白くも何ともないからな」

 そこへ扉をノックする音が聞こえる。

「入れ」

 一人の男が入室してきた。

「アルティナ様、ご報告に上がりました」

「佐山か、待っておったぞ」

 佐山と呼ばれるこの人物は、人らしからぬ人とは違う容姿をしている。

「──神竜の息子ですが、価値が0円で産まれてからまだなにも変わっておりません。やはり、10歳の誕生日を待つしかないかと存じます」

「それは分かっておる。それまでに変わるようなら望みは無いからな……運が悪いというか、何故あの外道の息子なのだ……。その子の心は綺麗なら良いがな。わらわは人が嫌いな訳では無い。だが人は自分勝手な生き物。どうしたものか……」

「心中お察しします。──私は、個人的ではありますが、あの子のことが嫌いではありません」

 アルティナがため息をつき、佐山に話す。

「そうか。お前がそう言うのなら、安心だな。──つまらん仕事を頼んだ。すまん」

「なんと仰せられます……。私はアルティナ様に助けられた身であります。あの御恩は返しても返しきれません。私は人を捨てましたので……。ここに住まわせて頂き感謝しております」

「たまたまだと言ったであろう、そんなに堅くなるな。──後もう少し、監視を頼んだぞ」

「はっ! かしこまりました」

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