The Chess 番外編 魔術師と盗賊と行商娘篇 〜 三人組で結婚します

今日のジャム

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 銀の月が黒い空に浮かんでいた。
 クオとフローとガーラは、森の中で野宿をしていた。旅の中でガーラの館を現す場所のない狭い森の道などでは、三人それぞれテントを立てて、別々に眠っていた。
 三つのテントの前では焚き火が焚かれ、三人は火の前で食後の休息をとっていた。

 ディアドラが弦楽器で中央大陸の音楽を奏でる。夜の似合う不思議な音階の曲だった。ガーラが中央大陸の言葉で歌を紡ぐ。優しいソプラノの声が、言葉が分からぬクオやフローにも、この曲が旅の歌だと伝わる。ガーラが歌い終わると、フローがひゅう~と口笛で賞賛した。

「いいねぇ、ガーラ!」

 フローの上機嫌に、クオも便乗した。

「この歌詞の意味を聞いてもいいか?」

 ガーラはにこりと笑った。

「ええ、良いわよ。タイトルは三人の旅人たちの歌。


 旅人が三人いました。
 彼らは仲が良かったです。
 狩った獣は分け合って、得た喜びも分け合って。

 旅人たちは王の城に泊まりました。
 王は旅人の一人を気に入りました。
 王はお気に入りの旅人を引き止めます。
 ずっとそばにいて欲しいと。
 口説かれた旅人は優しく説きます。

「私たち三人は離れることがありません。
 あなたは旅の仲間を好いて下さりますか?」

 王は答えます。

「私は、あなたは私だけのものになって欲しいのだ」

 口説かれた旅人は申します。

「あなたの望み通りにはできません。
 私たち三人は絆を結んでいます。
 その絆の中にあなたが入りたいなら、
 旅の仲間に相談します」

 王は旅人を引き止められませんでした。
 王は旅人に豪華な土産を渡して、
 旅人が去るのを見送ります。


 旅人たちは旅を続けます。
 旅人たちは町に入りました。
 町ではお祭りがありました。
 焚き火を囲って町人たちは踊っていました。
 町人は三人の旅人たちに申します。

「踊りは二人一組です。
 三人のうち、一人は交代で踊ることになりますね」

 旅人たちは言いました。

「私たちは三人で踊ります」

 旅人たちは言葉通りに、
 三人が手を結んで踊りの輪に入りました。
 旅人たちは踊りが上手で、
 踊りの輪を乱すことはありませんでした。


 旅人たちは旅を続けます。
 旅人の一人が仕事の関係で
 遠い場所に呼ばれました。
 同じ時に旅人の一人が、
 故郷の家族に呼ばれました。
 残った旅人は、どちらの旅人を選ぶことなく、
 今いる町で待つことにしました。
 遠くへ行った二人の旅人は、
 用事が済むと、待ち人の元へ戻りました。

 旅人たちの旅は続きます。
 旅人たちは教会へ行きました。
 僧侶は三人を迎えました。
 僧侶が旅人の一人に尋ねます。

「あなたはどちらの旅人が好きですか?」

 尋ねられた旅人は答えます。

「私はどちらも大切です。一人を選べません」

 僧侶が別の旅人へ同じ質問を尋ねます。

「あなたはどちらの旅人が好きですか?」

 尋ねられた旅人は答えます。

「私はどちらも大事です。
 片方は友情、片方は恋情。
 どちらも同じ重さです」

 僧侶は残る三人目の旅人に尋ねます。

「あなたはどちらの旅人が好きですか?」

 尋ねられた旅人は答えます。

「私は恋心と友情とを分けません。
どちらも大切です」

 僧侶は三人を祝福しました。


 三人の旅人たちはずっと旅をしたようです」


 ガーラの目は輝いていた。クオはそっと微笑み、フローは再びひゅうと口笛を吹いた。

「良い歌だな」

 クオは呟いた。

「次は西大陸の歌が聞きたいわね」
「じゃ、オレの番だね~!」

 フローの言葉と共に、ディアドラが明るい曲を奏で始めた。空を駆けて旅する歌だった。フローの陽気な歌声に、ガーラがそっと声を重ねた。フローは大胆に、ガーラはささやかに。歌は冒険の幸運を語った。ガーラはフローの自信のある歌声から元気を貰うように歌った。
 クオはフローとガーラの息の合った歌声に、温かく微笑んだ。

 歌が終わると、フローがガーラに言った。

「西大陸の歌も上手いね~、ガーラ」

 ガーラは控えめに答えた。

「フローの歌を聞いて覚えたの。フローほど自信を持って歌えないけど、良い歌よね」
「今度はクオも知っている歌を歌おうぜ」

 クオはフローとガーラの距離感を思って遠慮した。

「その、お前のように上手くは歌えないから、な」
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