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朝が来た。クオのテントの中では、クオの隣にフローがまだ寝ていた。いつもフローは目覚めが早くクオより先に起きているので、今朝は珍しかった。クオは緩やかな多幸感が頭に昇ってきた。それと同時にばつの悪さを心の隅で覚えた。ガーラとの関係は淡い恋心で繋がっていた。その気持ちは大事に育てたかった。
クオはフローの眠りを邪魔しないように外に出た。
天幕の外では、ガーラとディアドラが朝ご飯の準備をしていた。クオはやはり居心地が悪かった。ガーラはクオの天幕を見て、いつものように明るく声をかけた。
「あら、フローはまだ起きてないの?」
「そうだな……」
クオは言葉を濁した。ガーラは気にすることなく、あっけらかんと質問した。
「昨日は一緒だったんでしょ?」
「まあ、な。ガーラにきちんと伝えなければならないことなんだが……」
クオの言いにくそうな様子を見て、ガーラは言った。
「西大陸ではこういう時って、二人に赤い実を贈るのよね? 今はあいにく持ち合わせがないんだけど、町に着いたら、赤い実のケーキでもご馳走しようかしら?」
ガーラに西大陸の恋人たちが初めて一緒に夜を過ごした時の習慣を指摘され、クオは言葉に困った。ガーラは動じなかった。
「知っていたか。その……」
「クオが困ることはないわ。フローが好きなんでしょ?」
ガーラはいつもと変わらなかった。
「クオがフローと恋人になっても、私はクオとの関係が好きなのは変わらないけど、クオも同じだと思っていたわ。でしょ?」
ガーラの意外な気持ちに、クオは心が温まった。クオはガーラに愛情を確認した。
「そうだな、……いいのか?」
ガーラは慎重なクオに苦笑した。
「ええ、いいわよ」
「そうか……」
クオはまだ頭が整理されていなかった。ガーラが背を押した。
「好きな人が二人以上いるのって、そんなに珍しいことかしら? 大切な繋がりが多いのは、幸せがかさ上げされていいのだと思うのだけど」
ガーラはにこりと笑った。クオはガーラに文化の違いを感じた。その様子を見てガーラは自分の出自を語った。
「私の話をした方がいいかしら? 私の生まれた中央大陸の砂漠地帯は、大小様々な王国があるんだけど、私はそのうちの一つの王国で生まれたの。中央大陸では、結婚は二人組とは限らなくて、好きになった人同士が人数に関係なく一緒にいられるの。お互いが認め合えていれば、だけどね。そういう気風なのだけど、西大陸では珍しいのかしら?」
ガーラの黄色い眼は輝いていた。クオは馴染みのない世界の話なので問うた。
「その、ガーラ。……俺がフローといる時間を持ったらガーラは辛くならないのか?」
「そうねぇ? でもフローも独占欲が強くはなさそうだと思うわ」
クオは同じような言葉をフローからも聞いたことを思った。二人ともクオから見たら楽天的だった。ガーラは続けた。
「自分の愛する人が、他の愛する人と楽しい時間を持っていたら、二倍に幸せを感じるという家庭で育ったから、愛情の感じ方が違うのでしょうね。もちろん信頼がないとできないんだけどね。クオとの信頼感は大切にしたいわ」
クオはガーラの最後の言葉に再び心が温かくなった。
「クオはどう思うの?」
クオは少し間を置いて、よく考えた。二人とも好きだというのは、強欲にしか思えなかった。クオの常識では一人しか恋人として付き合えないと思った。しかし心の内側を読むと、どちらも大切にしたいという熱情があった。クオは表向きの冷めた常識と、心の中の熱い本心が分かれていることに気付いて戸惑った。
「チェス」を終えて、クオは肩肘張らずに素直な本心を選べるようになった。今回も常識ではわがままと言えることを選んだ。
クオは低く呟いた。
「……俺は三人で一緒にいたい」
ガーラは笑んだ。
「それなら大丈夫ね」
「すまないが、頭の整理をさせてくれ」
クオはガーラに一言断ると、小川へ顔を洗いに行った。
クオはフローの眠りを邪魔しないように外に出た。
天幕の外では、ガーラとディアドラが朝ご飯の準備をしていた。クオはやはり居心地が悪かった。ガーラはクオの天幕を見て、いつものように明るく声をかけた。
「あら、フローはまだ起きてないの?」
「そうだな……」
クオは言葉を濁した。ガーラは気にすることなく、あっけらかんと質問した。
「昨日は一緒だったんでしょ?」
「まあ、な。ガーラにきちんと伝えなければならないことなんだが……」
クオの言いにくそうな様子を見て、ガーラは言った。
「西大陸ではこういう時って、二人に赤い実を贈るのよね? 今はあいにく持ち合わせがないんだけど、町に着いたら、赤い実のケーキでもご馳走しようかしら?」
ガーラに西大陸の恋人たちが初めて一緒に夜を過ごした時の習慣を指摘され、クオは言葉に困った。ガーラは動じなかった。
「知っていたか。その……」
「クオが困ることはないわ。フローが好きなんでしょ?」
ガーラはいつもと変わらなかった。
「クオがフローと恋人になっても、私はクオとの関係が好きなのは変わらないけど、クオも同じだと思っていたわ。でしょ?」
ガーラの意外な気持ちに、クオは心が温まった。クオはガーラに愛情を確認した。
「そうだな、……いいのか?」
ガーラは慎重なクオに苦笑した。
「ええ、いいわよ」
「そうか……」
クオはまだ頭が整理されていなかった。ガーラが背を押した。
「好きな人が二人以上いるのって、そんなに珍しいことかしら? 大切な繋がりが多いのは、幸せがかさ上げされていいのだと思うのだけど」
ガーラはにこりと笑った。クオはガーラに文化の違いを感じた。その様子を見てガーラは自分の出自を語った。
「私の話をした方がいいかしら? 私の生まれた中央大陸の砂漠地帯は、大小様々な王国があるんだけど、私はそのうちの一つの王国で生まれたの。中央大陸では、結婚は二人組とは限らなくて、好きになった人同士が人数に関係なく一緒にいられるの。お互いが認め合えていれば、だけどね。そういう気風なのだけど、西大陸では珍しいのかしら?」
ガーラの黄色い眼は輝いていた。クオは馴染みのない世界の話なので問うた。
「その、ガーラ。……俺がフローといる時間を持ったらガーラは辛くならないのか?」
「そうねぇ? でもフローも独占欲が強くはなさそうだと思うわ」
クオは同じような言葉をフローからも聞いたことを思った。二人ともクオから見たら楽天的だった。ガーラは続けた。
「自分の愛する人が、他の愛する人と楽しい時間を持っていたら、二倍に幸せを感じるという家庭で育ったから、愛情の感じ方が違うのでしょうね。もちろん信頼がないとできないんだけどね。クオとの信頼感は大切にしたいわ」
クオはガーラの最後の言葉に再び心が温かくなった。
「クオはどう思うの?」
クオは少し間を置いて、よく考えた。二人とも好きだというのは、強欲にしか思えなかった。クオの常識では一人しか恋人として付き合えないと思った。しかし心の内側を読むと、どちらも大切にしたいという熱情があった。クオは表向きの冷めた常識と、心の中の熱い本心が分かれていることに気付いて戸惑った。
「チェス」を終えて、クオは肩肘張らずに素直な本心を選べるようになった。今回も常識ではわがままと言えることを選んだ。
クオは低く呟いた。
「……俺は三人で一緒にいたい」
ガーラは笑んだ。
「それなら大丈夫ね」
「すまないが、頭の整理をさせてくれ」
クオはガーラに一言断ると、小川へ顔を洗いに行った。
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