The Chess 番外編 魔術師と盗賊と行商娘篇 〜 三人組で結婚します

今日のジャム

文字の大きさ
8 / 22

8

しおりを挟む
 クオがその場から去ると、フローがクオの天幕から出てきた。

「おはよ~、ガーラ」

 フローは上機嫌だった。ガーラはにこやかに返した。

「おはよう。さっきのクオとの話は聞いていたようね」
「さすが、ガーラだね」

 フローは短く肯った。

「フローって嫉妬はしないの?」

 ガーラは短く訊いた。言葉は軽いが、重く確かめるように。

「ん、オレ? 別に。クオは物じゃないし。クオがオレじゃない人と恋愛しても、何人と付き合っても、自由にすればいいって感じだね。人の独占欲は無駄って思うのは、シーフだからだろね」

 フローは軽く答えた。そしてガーラに軽く尋ねた。

「そういうガーラもだよね。ガーラは依存心がないよね~? オレとクオの間柄に対しても、遠慮じゃなくて認めてるって感じだしさ」

 ガーラは明るく答えた。

「私の産まれた中央大陸では、三人以上の縁の繋がった恋人たちが結婚することもあるんだけど、西大陸にはないのかしら?」

 フローは得たりと笑った。

「そーだね~。西大陸の中央にあるバラ族の国には、そういう繋がりを認める式を挙げられるらしいね」

 ガーラは頷いた。

「そう。やっぱりあるのね。私の育った中央大陸では珍しくないし、そういう繋がり、いいわよね。別に嫉妬する人を否定したいわけじゃないわ。独占欲が本当の愛って考え方と私は違うだけ。
 元々、フローが『チェス』で私の元に来たのは、クオのことが話したかったからでしょ? フローと気が合ったのも、クオとの間柄はお互い了解済みだと思っていたわ」

 フローは笑った。

「心が追いついてないのはクオだけだからね~」
「そうみたいね」

 ガーラもにこりと笑った。

「クオ、真面目だからね~」

 ガーラとフローは笑いあった。

「じゃ、ちょっと用事があるから、クオが戻ったら先に朝食を食べてていいぜ」

 フローはガーラに言い残すとその場から消えた。


 クオが朝の支度から戻ると、クオとガーラはひとまず先に白パンと乾し肉の軽い食事を済ませることにした。
 しばらく経つと、フローが姿を見せた。手には摘みたての野いちごが入った籠を携えていた。
 フローは明るく二人に赤い実を勧めた。

「コレさぁ、用意したから食べようぜ。ガーラもさ、嫌じゃなければ一緒にどう~?」

 フローの言葉には微かな気遣いが含まれていた。ガーラは笑顔で応えた。

「そうね、私もお相伴させてもらうわね」

 クオは和やかな空気に安堵した。そして赤い実を一つ口にした。甘かった。フローと目が合う。フローはにっと笑う。視線には艶っぽさがあった。クオはそれを温かく受け入れた。その様子を見てガーラは微笑んだ。クオはフローからの年を重ねた深い愛情とともに、クオの心を大切にするガーラの愛情も受け入れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...