The Chess 番外編魔術師と盗賊と行商娘篇〜三人組で結婚します

今日のジャム

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　夜になり、クオとフローとガーラは宿屋の食堂で食事を済ませると、フローは町の知り合いと旧交を温めるため二人と離れ、クオとガーラは宿屋のクオの部屋で休むことにした。ディアドラはガーラの部屋へ先に引き取った。

　ガーラは今宵はふわふわに泡立てた温かなミルクに、エスプレッソコーヒーを流し込んだカフェラテを作ってクオと一緒に飲んでいた。
　クオは寝台に腰を下ろし、ガーラはクオの隣に座っていた。ガーラは楽しそうに話した。

「今日はフローが楽しそうだったわね」
「そうだな。フローにはこの町の職人たちは身内のようなものらしいな」
「フローは顔が広いわよね。西大陸の町のことも詳しいし」
「盗賊のネットワークは強いもののようだからな。子どもの頃からウィンデラの親方から仕事を受けていたからな、フローは。俺も知らない西大陸の裏情報も耳に入っているから、子どもの頃はたまに俺も話を聞いていた」

「ねぇ、クオってなぜウィンデラに住み始めたのか聞いてもいい？」

　ガーラはクオの心に踏み込んだ。クオは一口カフェラテを飲むと、「そうだな」と呟き、語った。

「フローに聞いているかもしれないが、俺には家族がいなくて、な。物心がついた頃には親代わりだった町医者の親父から離れて旅をしていた。エルシウェルドで魔術師の子弟に入りたかったが、浮浪児は受け入れて貰えなかった。隣町のウィンデラは有象無象ばかりだから、空き家に住み着いて働きながら魔術の勉強をしていた」

　クオの隣で寝台に座っていたガーラは、寝台に乗ってクオの背後に回り、クオの体を後ろから包み込んで抱きしめた。

「クオが良かったら、私の家族になって欲しいわ。数の多さなら誰にも負けない自信があるわよ」

　ガーラは温かく、冗談を含めながら口説いた。クオはガーラの温もりの中で俯きながら小さく言葉を告げた。

「俺はガーラを大事にしたい」

　ガーラはクオの迷いを察した。クオの呟きには、ガーラと距離をおいてガーラが好きにできることが、大事にすることだと含まれていた。ガーラは抱きしめる腕に力を入れた。

「私にとって好きな人と一緒にいられることが大事にされることよ」

　クオは低い声でガーラの気持ちを確かめた。

「フローとは生涯恋人だと思うが、ガーラはそれでも俺を選ぶのか？」

　ガーラは熱のこもった心を言葉にした。

「ええ。安心して。フローは私にとっても大事な友人よ。フローとは一生を共に旅する友人でいたいわ。私にとってクオへの恋愛とフローへの友情は、同じ重さよ。三人がとても良いと思うの。
　クオはフローと一生を共にする伴侶でも、私もクオと伴侶でいたいわ」

　クオは呟いた。

「俺はガーラと一緒にいると、その、甘えてしまう」

　クオはフローへの愛情が溢れた時、ガーラを一番にできないままガーラに励まされて、心地良く甘えてしまうことが申し訳なく思っていた。ガーラはクオの心配を温かい心で包んだ。

「ええ、甘え合う仲はいいわよね。好きよ」

　ガーラはそっとクオの髪紐を解いた。クオの黒いつやのある髪が広がった。ガーラは髪紐を左手首に巻いた。

「西大陸でも、魔力は髪に蓄えられると言われているのよね？　魔術師は髪を束ねる髪紐を、師匠や恋人などの親しい人にしか預けないと聞いたわ。今日は私が髪紐を預かるわ」

　クオの心は、今まで旅の中で大切にしてきたガーラへの温かい気持ちが大きくなっていた。ガーラはクオを大切にする。その確信が安心感となり、クオはその心を大切にしたかった。

　成熟した恋心は穏やかな愛情となり、ガーラの気持ちを受け入れた。クオは心の中でフローへの愛情がそっと小さく浮かんだ。それと同じくらいガーラへの愛情を大事にしたいと、今満たされている心を守るように思った。二つの愛情を持つのは誠実かと悩んだが、目の前のガーラとの関係を大切にしたい気持ちと、フローへの愛情は反発することがなかった。クオは自分の心を認めた。

　ガーラはクオの隣に座った。クオはガーラを見つめ、赤面して目をそらした。

「すまない、ガーラ……照れるな」
「私からでいいかしら？」

　ガーラはクオの手に自分の手を重ねた。クオはガーラを見た。ガーラはクオの唇に自分の唇を重ねた。二人は舌で、穏やかに睦言を紡ぎあった。ゆっくりと、温かい時間が流れた。
　唇を外すと、クオとガーラは紅潮した顔を見つめ合った。クオは恥ずかしくなり、動けなかった。ガーラはクオに甘く囁いた。

「西大陸では、恋人たちが初めて夜を共にした朝に赤い実を一緒に食べる習慣があるのよね？　中央大陸では、恋人たちの最初の夜は、キスのあと、一緒に故郷の昔話を交互に話しながら眠る習わしがあるの。今夜は寝物語を一緒にしてくれるかしら？」

　クオはガーラの優しい提案に心が落ち着いた。

「そうか……ガーラがいいなら、俺もいい」
「じゃ、決まりね」

　二人は下着姿で一緒に床に入った。ガーラは床の中でクオを抱きしめた。クオは体が温かくなっていたが、ガーラも体が温かかった。クオは熱の中で心を解いた。
　ガーラはクオに呟いた。

「クオは私を悲しませない人だと思うわ」

　クオはガーラの信頼を温かい心の中に大切に保存した。
　ガーラは明るく言った。

「私はクオと一生を共にしたいわ。私の故郷では人生は旅だと言われているけど、一緒に旅をしましょう！」

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