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赤の章

赤十六話

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「王は床上手だと思う」
 アキレスはデンファーレ王のキスの後、呟くように言った。
「知識もある。それはどこで得たのだろう……」
 アキレスは思った。王家の古い習慣では、王に床での手ほどきを教える者がいるという。または、女王にはなれない者との逢瀬があったか。デンファーレ王は言った。
「私は本で得た。アキレスよ、心配はいらない」
 王の言葉は温かった。デンファーレ王は語った。
「王家の者は昔は世継ぎが大事で床のことも厳しくしつけられたが、今の王家は子がいなければ親戚から継ぐのも当たり前になっている。ほとんどの王は年配者からの話や本で知る。環境はアキレスとそう変わらない。アキレスは初めての者だ」
「そうか。私と同じか」
 アキレスは自分の不安を笑った。
「他に好いた者はいなかったのか?」
 デンファーレ王が尋ねた。アキレスは答えた。
「私に形見を贈る者は同性で憧れと応援で贈ってきた者達だけだった。王が男性では初めてだった」
 デンファーレ王は目を細めて笑った。アキレスは言葉を続けた。
「私には色恋はなかった。今でも自分の気持ちに追いつかないことがある。初めてのことだから許して欲しい。王は誰かいなかったのか?」
「私は王だ。誰でもいいわけではなく、選ばなければならない」
 アキレスは王の実直さを見た。
「今は政略結婚がない時代だ。私は選んでアキレスを迎えた」
 強い言葉だった。

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