The Chess 番外編 王様の結婚篇

今日のジャム

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白の章

白五話

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 夜のことだった。エーデルは今夜も王の部屋で寛いでいた。
 窓に一羽の伝書鳩が止まった。スターチス王は窓辺へ行き伝書鳩に触れた。情報を得ると、王は窓の外へ伝書鳩を飛ばした。
「直轄領を回って疲れてはいませんか?」
 王はエーデルを労わるように尋ねた。エーデルはにこやかに答えた。
「よくご存じの通りですよ。私は愉しんでいます」
 王は伝書鳩の情報をエーデルに話した。
「直轄領に住む方々も、エーデルに好意的なようです」
「それは良かったです」
 王は満足そうな様子だった。エーデルは嬉しくなった。
「お疲れ様です」
 スターチス王は再び温かい言葉を贈った。
「今度は同盟都市も回りましょう。イリュイトなどは親方が難しい方ですが、昔からの縁を大切にして下さっています。星霜院の館の大魔女は良い方ですよ。スターチス王家では同盟都市との結び付きも大切にしています」
「喜んでお供します」
 エーデルは新しい町巡りを楽しみにした。
「エーデルは頑張り過ぎていないか心配です。私はつい自分のテンポでエーデルに付き合わせようとしてしまうので、一休みしたい時はいつでも言って下さい」
 エーデルは意外な言葉に小さく驚いた。
「そうでしたか? 私は大丈夫ですよ」
 スターチス王は微笑んだだけだった。
 王は再び窓辺へ行き、空を見上げた。エーデルも一緒に夜空を見た。今日は月も星も無かった。スターチス王は窓を閉めた。
「エーデルは王城に慣れるのも早かったですね」
「皆さん王様に似て良い方でしたからね」
 エーデルは茶目っ気たっぷりに言った。しかし王の顔は真剣だった。
「あなたがそばにいれば、私は良い王でいられそうです」
「そんな……。元々……」
 エーデルはごまかそうとして途中で止めた。王は静かにエーデルの隣に座った。エーデルは急に照れた。そして王の気持ちを受け止めた。王は静かにエーデルに口付けした。それは穏やかだった。が、たくさんの言葉を語られるよりも気持ちが伝わった。エーデルはスターチス王にゆるりと体を預けた。
 口付けを止め、スターチス王はエーデルに尋ねた。
「今日は一晩お付き合い願えますか、エーデル?」

 エーデルはスターチス王のベッドに腰掛け、王と並んで座っていた。窓辺には朝の光が射していた。王の手元には籠があり、中にはさくらんぼが山と積まれていた。このさくらんぼはクラムディア産だということだった。エーデルはまるで酔ったように頬を染めていた。それはさくらんぼの魔力のせいではないことを知っていたが、王にはばれてほしくなかった。
 王はエーデルの気持ちを知っているかは分からないが、にこやかに「美味しいですね」と言った。
「もしエーデルが女王の座から離れたい、と思ったら束縛しないように、私は少し時間をおいていました」
 エーデルは黙々と赤い果物を口に含んだ。スターチス王の心の中に自分の部屋ができて、そこに佇んでいる感覚だった。王は続けた。
「でも大丈夫だったようですね」
 エーデルは自分の心の中にスターチス王が住んでしまった、と思った。先ほどはばれないようにと思ったが、それは無理なようだった。王はエーデルに優しく言った。
「これからも宜しくお願いします」
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