The Chess 番外編 王様の結婚篇

白の章

白八話

「半分頂きませんか？」
　スターチス王は厨房で半分に折ったふかしたばかりのさつまいもをエーデルに勧めた。
「これはスウェルトのそばの村から届いた今年獲れたさつまいもです。丁度二週間置いてあるので食べ頃ですよ」
　エーデルは私室にいた時、王から伝書鳩で厨房に呼ばれた。来てみると、王は楽しそうにさつまいもをふかす所を眺めていた。
　エーデルはさつまいもを受け取った。
「毎年この時期になると秋の味覚を届けてもらうのです。ここでは何ですから、中庭の噴水の所へ座って頂きましょう」
　王はエーデルを連れて中庭へ行った。
　水色の空は高く、空気は涼しかった。風がひやりとした。初夏の頃に婚礼の儀を行って、今は秋だった。エーデルはスターチス王の隣に座って温かいさつまいもを食べた。甘くて自然の味がした。
「スターチス王は甘い物がお好きなのですか？」
　エーデルは故郷の国に王を呼んだ時、王が懐にチョコレートを携えていたことを思い出した。スターチス王はにこりと笑った。
「そうですね。好きな方ですね」
　エーデルは知らなかったことをまた一つ知った、と思った。その積み重ねは愛おしかった。王はこのように時々のんびりすることを誘ってくれる。エーデルは王の隣にいられることが嬉しかった。
　スターチス王の国は豊かだった。食べ物も豊富で季節の味を楽しんだ。のどかで心が潤った。
「このまま一緒に年をとっていくのでしょうね……」
　エーデルはぽつりと呟いた。
「聞いても良いですか、エーデル？」
「何でしょう？」
「半獣の血を引く者は、何才まで生きられるのでしょうか？」
「そうですね。人にもよりますが、だいたい二百年が目安ですね」
　今エーデルは百才を超えた所だとは、王に伝えてあった。
「でも半獣の血は育つのが遅くて、老けるのも遅いのですよ。二十才ではまだ少女のような見た目で、百六十才過ぎてやっと、初老といった所です」
「持ちがいいのですね」
「そうですね」
「ありがとう、エーデル」
　スターチス王はエーデルにお礼を言った。
「突然どうされたのですか？」
　エーデルは不思議がって尋ねた。
「いいえ、何でもありません」
　王はただ笑っただけだった。スターチス王はエーデルと同じ長さを生きられないことを思った。