上 下
30 / 50
白の章

白十三話

しおりを挟む
「強い剣士とお見受けします。私と勝負してくれませんか?」
 エーデルが王城の庭園で久しぶりに剣の身のこなしをなぞっていた時、剣を携えた少年がエーデルに挑戦した。その少年はまだ十才になったばかりのような子どもだった。紫色の瞳は強い光を放っていた。
「私がお相手でいいのかしら?」
 エーデルは小さな挑戦者に応えた。少年は一礼して剣を構えた。
「どうぞお先に攻めて下さい」
 少年は余裕を持ってエーデルに告げた。エーデルは少年と剣を交わした。少年は膂力が強く、エーデルの攻めにも動じなかった。
「お強いのですね」
 エーデルは楽しみながら少年の相手をした。力ずくで勝ちを取ることもできたが、相手は意外と隙のない剣技で鋭く急所を狙ってくる。戦いの勘の良い少年なのだな、とエーデルは分析した。
 そこへ少年の仲間が走って来た。
「ここにいたのですか、ロッド。待って下さい、ロッド! この方はエーデル女王陛下ですよ!」
 ロッドは剣を収めると、エーデルに一礼した。
「ありがとうございました、女王陛下」
 エーデルはにこりと笑った。
「ええ、こちらこそ。騎士ロッド」
 ロッドの仲間、ラベルがロッドを窘めた。
「ロッドは恐れを知らなすぎます! 強い者がいたらすぐ戦おうとするのは悪い癖ですよ」
 ラベルの小言にロッドは笑っただけだった。
「この戦いは王には言わない方が良いですよ」
 エーデルはその場を去るロッドに一言言った。ロッドは「分かりました。そうします」と爽やかに笑んで答えた。

「ロッドは強かったでしょう?」
 スターチス王が王の間でロッドとラベルに謁見した後、エーデルに尋ねた。エーデルは肯った。
「そうですね。スターチス王が将来を楽しみにされている気持ちが分かります」
しおりを挟む

処理中です...