The Chess 番外編 王様の結婚篇

今日のジャム

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白の章

白十四話

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 王の部屋では暖炉に火を灯していた。エーデルは暖炉の前に椅子を置き寛いでいた。手には温めたワインのカップを持っていた。ワインは砂糖と香辛料を少し加えた甘いものだった。
「チェスの開催国の決定も終わり、今年も終わりですね」
 エーデルは呟くように言った。チェスの開催国は冬至の頃に決まる。西大陸の町では、十一月の末に年越し市が立つ。町は賑わい皆が年越しの準備をする。そして冬至の頃に市は終わり、それが終わると年末だった。
 エーデルにとってシエララントの年越しは、雪の降らない初めての冬だった。エーデルワイスの館にいた時は、寒さは我慢するものだったが、故郷より温暖な地に住むと、雪が懐かしかった。
「西大陸は不思議ですね。ここより南のナハシュでは雪が降るし、スウェルトでは暖かい地方の花が咲くのですからね」
「西大陸の町の気候はあべこべです。学者でも分からないそうです。雪が恋しいですか、エーデル?」
 スターチス王は心配そうにエーデルを見た。エーデルは気丈に言った。
「ええ。でも大丈夫ですよ。きっと慣れることでしょうね」
「チェスを覚えませんか、エーデル?」
 スターチス王はいきなりエーデルをチェスに誘った。エーデルはチェスのルールは知っていたが、好んで対戦することはなかった。ましてや強いと評判のスターチス王と対局することなどなかった。スターチス王は言った。
「北の国では冬は一日中日の光が射さない地方があるそうです。そういう時は、一日中チェスをして過ごすそうです。私も相手がいれば良いと思っていました。どうですか?」
 エーデルは微笑んだ。
「あまりいじめないで下さいね」
「こちらこそ、どうぞお手柔らかに」
 スターチス王も口元をほころばせ、チェスの準備をした。ベッドにチェス盤を置き、二人はベッドに座って対局した。ゆったりとしたゲームだった。
「スターチス王家の方は皆さんチェスがお得意だったのですか?」
「そうですね。アーサ様がお強くて、皆アーサ様に憧れてチェスが強くなります。これは血筋みたいなものです」
「スターチス王より強い方と戦われたことはありますか?」
「もちろんありますよ」
 エーデルは意外な答えに驚いた。
「どなたですか?」
「私が西大陸の中央で行われた馬上試合に行った時、バラ族の方とチェスをする機会がありました。そこでは、百戦錬磨の王族の方とお相手しました。強かったですね」
「そんなこともあるものですね」
「西大陸は広いです。中央では色々なものが集まっています。古い名族の方々が集まっているので、政治の中心地でもあります」
「いつも西大陸の中央の動向も探っているのですか?」
「そうですね。でもまとまりがないのが西大陸ですから、そんなに気にしません」
 エーデルはふふと笑った。
「この勝負、勝ちを譲って差し上げましょう」
「恐れ入ります」
 エーデルとスターチス王は笑い合った。
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