The Chess 番外編 王様の結婚篇

今日のジャム

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白の章

白三十一話【R18】

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 スターチス王とエーデルは夕食を客人と共にし、ご馳走をもてなした。
「白バラの王のお話をお願いします、マーシャ」
 スターチス王が食事が終わったのを見計らって客人に話を頼んだ。食器はお茶と交換された。マーシャは饒舌に語った。
「はい、王よ。我が王アイスバーグは白バラの王家の者達の中の話し合いで、名家で気立ての良い者として選ばれました。性格は優しく、敵はいなくて、意見の違った者達を穏やかにまとめ上げることに長けた冷静さを持つお方です。赤バラの王スカーレット・メイとよく比べられますが、赤バラは気さくな性格に対し、白バラは落ち着いた者と申せましょう。
 魔力は高く、魔法勝負でもきっとエーデル様と戦えるくらいの力はあると思います。
 白バラの王はエルフの女王とも懇意にしており、チェスでも助けを得られるでしょう。
 チェスで王がお休みになられる間は側近が采配を振るでしょう」
「側近の方にはお会いしたことがありますよ。幼い頃からチェスがお得意なのでしたよね。きっと“チェス”でもその才を発揮するのでしょう」
「恐らくその通りかと思います」
 その後スターチス王は西大陸の中央の政治について客人から話を聞いた。話は長くなり、エーデルはその間相槌を打ちながら、情報を心に留めた。

 客人との歓談が終わると、スターチス王とエーデルは王の私室へ共に行った。心なしか、王の歩きが速いようにエーデルは感じた。
「今日はこれでお休みしましょうか?」
 エーデルが気遣って言葉をかけた。
「今日は少しエーデルとの時間を下さい」
 スターチス王は正反対の答えを返した。やはり心なしか強い口調だった。エーデルは何となく何か話があることを察した。それはきっと客人のことだろうと予想した。
 部屋に着くと、エーデルは優しく尋ねた。
「もしかして、私のもてなしで何か考えが足りないことがありましたか?」
 スターチス王は否定した。
「いいえ。大丈夫です。白バラの使者は紳士で親切な方だったでしょう?」
「そうですね。少し押しが強いようにも思いましたが……」
「エーデルはよくやったと思います。でも今夜はそばにいてくれませんか?」
「ええ、もちろんいいですよ……」
 エーデルはベッドに座るスターチス王の隣に座った。王の瞳に焦燥が浮かんでいた。エーデルは女王とは難しいものだと思った。それと同じように、王も難しいのだろうなと思った。スターチス王はエーデルを抱きしめた。
「バラの花の匂いがしますね……」
 スターチス王はそう言うと、エーデルの耳たぶを甘く噛んだ。それは静かな小言だった。エーデルはそれに答えるように王の背中を撫でた。
 スターチス王はエーデルの首筋に唇を寄せ、それから鎖骨の辺りに口付けした。長くじっと唇を当てていた。跡が残った。エーデルは初めてのことに戸惑った。今日は責めが強かった。
 エーデルは尋ねた。
「そんなにどうされましたか……?」
 スターチス王は答えた。
「……いいえ、何でもありません」
「私が謝ることがあるなら……」
 しかしエーデルの言葉は宙に浮いた。スターチス王の唇で口を塞がれた。キスはどんなに愛情が深いかを語り、相槌を打つ暇さえ与えないほど勢いがあった。
「……エーデルは悪くないですよ。でも私の好きにさせて下さい」
 唇を離し、スターチス王は真剣な眼差しで紅潮したエーデルを見つめた。エーデルは王は若いのだ、と思った。そして気の強い一面を見た。
 スターチス王はエーデルのドレスの後ろにある留め具を外した。白い肌着が見えた。エーデルはドレスを脱ぎ、肌着を外した。白いきれいな肌が現れた。スターチス王は服を脱ぎ、再びエーデルを抱きしめた。肌が触れ、お互いの温かさが伝わった。エーデルは今日の王はいつもより熱いように感じた。
「エーデル、私の気持ちを忘れないで下さい……」
 スターチス王はエーデルの体に大事そうにキスを置いていった。愛撫はいつもより長かった。
 膝の裏を優しくさすり、そして唇を当てた。太股の外側を手で撫で、それから内側を唇で触れた。エーデルはじわりと高揚した。
「はぁ……熱いです」
「……まだ私の話は終わってません」
 スターチス王は淡々とキスを重ねた。
 スターチス王がエーデルの体から唇を離すと、エーデルは伏せようとした。スターチス王は言った。
「エーデル、今日は顔を見せて下さい……」
「ええ……?」
 エーデルは戸惑った。いつもはスターチス王と体を重ねる時はエーデルはうつ伏せになる。顔を見られなくて済むからその方が良かった。
「……あまり見ないで下さいね」
 エーデルは小声で呟くように答えた。
「大丈夫ですよ……」
 その言葉が毛布となってエーデルの心に被さる。スターチス王は横になったエーデルに上から重なった。そのままエーデルの首筋にキスをし、それから唇を重ね合わせた。体が繋がっている間もスターチス王は長く野性的にキスを続けた。

「マーシャは真面目な良い方です。でも今日は王でいることが苦しかったですね」
 同じ枕を共にして、エーデルは眠る前の王の呟きを耳にした。激しい運動の後のように気怠く、それも不思議と心地良かった。
「あの方は女性を一人異空間に誘うような方ではないと知っていました。だから私は心配しました。少し私も楽観的だったのでしょう」
 マーシャは好意的だった。それが自分だけに向けられたものだったとは、エーデルは気付かなかった。
「心配をかけてしまいましたね……」
「謝らないで下さい、エーデル。旅する者を迎える王城ではよくあることのようです。迎える側は目をつぶることもあれば、躱すこともあるそうです。私も王としての配慮が足りなかったようです」
「私も気を付けます」
 スターチス王はにこりと笑った。
「今夜はありがとうございました、エーデル。私の気持ちに付き合わせてしまいましたね」
 エーデルも微笑んだ。
「驚きました。でも、これもいいでしょう。あなたの気持ちが伝わりましたから」

 白バラの王アイスバーグは王の間で諸国を回って戴冠の挨拶をしていた騎士マーシャの帰還を迎え入れた。
「王よ、ただ今戻りました」
 騎士は片膝付いて挨拶をした。
「ご苦労さまでした。少し話があります」
 その言葉は合図となり、周りにいた家臣たちは席を外した。
「スターチス王家のエーデル女王の話は耳にしています」
 騎士は頭を垂れた。
「王の信用に泥を塗るようなことをして申し訳ありませんでした」
「少し思慮に欠けたのではありませんか、マーシャ」
「仰せの通りでございます。あのエーデルワイスのバラは私の家の者が昔育てたものでした。遠い国の女王を想って。その縁は私にも繋がっていましたが軽挙でした」
「バラ族ではよくあることでも、他国では通用しません。スターチス王には非礼を詫びる贈り物を届けました」
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