非実在系弟がいる休暇

あるふれん

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弟がいる休暇

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予定通り弟くんのベッドを買い、そのまま服も買いに行って、少し遅めの昼ご飯。わたしたちはファストフード店に居た。

「うーん、散財って本当にストレス発散になるのねー」
「そういう楽しみ方してる人、初めて見たけど……。本当に良かったの、あんなに買っても」
「良いの良いの、お姉ちゃんに任せなさい」

どうせ今までお金を使って何かするということをしてこなかったから、貯金はあるし今後も一人で散財する予定はない。
ならば存分にかわいい弟くんのためにお金を使えるというものだ。
若干ビビッて食事はファストフード店にしたけど。

「姉さんに似合う服も見つかって良かったね」
「あっ、うん、そうね」

なんだかんだ上手く乗せられて自分用のも買ってしまった。中には俗にいう双子コーデというやつまで。
これこそタンスの肥やしになるのではないだろうか……いや、また上手いこと言われてなんだかんだ着ている未来が見える。

「~♪」

ハンバーガーをほおばる弟くんを視界に入れながら、ドリンクに口をつける。

一応、ついでにだが今日は弟くんの様子を見ていた。

まず一つ、行動範囲に制限はなさそう。
家からこの街までは電車に乗らなければ来れない距離だが、弟くんは問題なく来れている。

二つ、行動にも制限はなさそう。
わたしは”オシャレ好きな弟くん”を想像してはいたが、オシャレには全く詳しくない。だが弟くんは最近のファッションを知ってるようだった。つまりわたしの想像できる範囲内だけに行動が限られる、みたいなことがないと思われる。

三つ、周りにも見えている。
道を歩くくらいでは確信できなかったが、電車で席に座ったり、お店で店員さんとやり取りできていることから見えているのは確定でいいと思う。会話も成り立っていたので声も聞こえ、改札口も正常に反応していたから機械にも感知されているのだろう。

まあ、半分以上が曖昧な表現の推測なんだけど……。推理ものの創作ができる作家さんは本当に尊敬する。
とにかく、以上の点から分かることは、別に謎は何も解決してないということだ。
だが解決する必要もない。だってこんなにかわいい弟が実在するというだけで幸せだから。

「姉さん、食べないの?」
「弟くんがあーんしてくれたら食べる」
「……」
「ああ、無言でわたしのポテト食べないで!」

────────。

「ただいま~」
「ただいまー」

帰宅するやいなや、座椅子に座りこむ。
今日は疲れた、だってベッド買いに行って服も買いに行って、二回行動してるもの。引きこもりは一日一行動が限界だというのに。

「姉さん、部屋着に着替えなよ」
「着替えさせてー」
「しょうがないなー」
「やった」

弟に身を委ねて、服を着替える。
この服は……さっき買った双子コーデの服か?

「あれ、これ部屋着だったの」
「うん、いきなり外で双子コーデは姉さんにハードル高いでしょ」

流石わたしの弟くん、よく分かっている。
……ん、今いきなりって言ったか?そのうちさせるってことか?

「かわいいでしょ」

お揃いの服を着て満足そうに、満面の笑みでそう言い放つ。
かわいい、すべてを許そう。

不意に眠気を感じて、あくびが出る。

「眠い?今日はいっぱい歩いたもんね」
「うん、ちょっと寝ようかな。弟くんは?」
「俺はまだまだ大丈夫だから、夕飯の支度でもしようかな」
「そっか。ごめん、任せていい?」
「良いよ、気にしないで」

「ね、弟くん」
「なに、姉さん」
「明日からもいっぱい、美味しいもの食べたり、綺麗な景色を見に行ったり、観光施設で遊んだりしようね」



「姉さん、仕事はしないとダメだよ」
「え」
「いつも前半は調子よくて、でも締め方が上手く決まらなくてうんうん唸って、結局締め切りに追われてるよね」
「は、はい、そうです」
「だから今回からはちゃんと計画性を持ってやらないと。また締め切りに追われて、スマホの音に怯えて過ごすの嫌でしょ」
「はい」
「だから今はゆっくり寝て、起きたら夕飯食べて、仕事しようね。大丈夫、俺も応援するから」
「わっかりました……」
「おやすみ、姉さん」
「うん、おやすみ……」

……この展開は、聞いてないなあ。
え、もしかしてわたしに締め切り守らせるために弟くんをこの世に出したの、神さま。
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