ヒロインは泡末の中で踊る

紗衣羅

文字の大きさ
8 / 13

セクハラオヤジは滅べばいいと思うよ?

しおりを挟む
あの後、西園寺&高橋の2人に、来週もこの店に来る事を約束させられ、美奈子と雅美には怒涛の質問責めにあい、帰宅した時には疲れ果てて服を着たままベットに倒れ込んで寝てしまった。


窓から入る日の光に起こされ、眠い目をこすりながら枕元の時計を見ると、もうすぐ12時45分を指すところだ。

ああっ!ヤバイ、今日バイトじゃん!起きなきゃっ! 

慌てて起きてシャワー浴びるためにバスルームに行くと、そこには髪を振り乱し、酷い顔をした女が鏡に映っていた。

ひいいぃいぃいいいっ! って、あたしじゃん!落ちつけあたし! 昨日メイクも落とさず寝たから、すげえ顔になってるだけだって!

ドキドキと動悸の治らない心臓をなだめつつ、シャワーを浴びて、身支度を整えたあたしはバイトへ出掛けたのだった。



*****



「豊田さん、おはよう」

優也君は、相変わらずふんわり笑顔で挨拶してくれる。うむ、今日も笑顔が眩しいデス。 

「霧島センパイ…おはようございます」
「ん…?なんだか疲れてる?大丈夫?」
「だ、大丈夫です!ちょっと昨夜本に夢中になっちゃって寝不足なだけですから」

本当は夜遊びが原因だけど、色々説明するのもめんどくさい… ありそうな言い訳をしておくのだ…

「そっか、なら良かった。でも、具合が悪い時はすぐに言ってね」

はー.... 優也君、優しすぎかよ。うっかり惚れそうになるわ。

ん....そういえば、あたしがヒロインで彼は攻略対象なんだから惚れても問題ないんじゃ....

でもなぁ、なんだか恋愛ってよくわかんないや。前世は彼氏いない歴=年齢だったし。一回勇気出して告白した片思いの人に、手酷い玉砕してからリアルの恋愛から遠ざかってた拗らせ喪女だったし。

それに引き換え、やっぱりと言うか当たり前と言うか優也君はモテる。あたしのみたところ、店に来る女性客の8割は優也君目当てで来ている。

一方、ヒロインであるはずのあたしは… 泥酔客にセクハラされそうになったり、おっさんに言い寄られたり…  (その度優也君や店長、他先輩方にさりげなく助けてもらってる)おかしい、どうしてこうなった。

ま、まあとりあえず!仕事よ、仕事!




「せりかちゃん、追加のナマ中2つ、3番テーブルに運んで」
「はーーい。3番ですね!」

3番テーブルは階段上がって2階の、半個室になってるところだ。あそこに今居るお客さんは確か中年のサラリーマン3人だったはず。 あたしはビールサーバーから2杯ジョッキに入れると階段を登って3番テーブルに運んだ。

「おまたせしました、生中2つです」

営業用スマイルでテーブルにビールを置いた途端、ニョッと出てきた手に左手を掴まれた?! うぇえええええ!勘弁してよもう。

「あの… お客様?」
「君… 可愛いねえ。仕事何時まで?好きな物買ってあげるからさ、終わったらオジサンとどこか遊びに行こうよ」

触られた手も気持ち悪いけど、さらにこのエロオヤジ、ぐいっと腕を引いて、顔を近づけて真横で酒臭い息を吐いてきやがった! 同席してる連れのオヤジどもはニヤニヤしてるし…  くそぅ… ここ半個室になってるから外からわかりにくいんだよね… 

「あの… 困ります… 離してください」
「大丈夫だから、ね?」

なにが大丈夫なんだよぉおおお! やーめーてーーこんのっ、エロオヤジぃい! マジきもいし臭い!

なんとかこの場から逃れられないか足掻いていると、後ろから低い声が聞こえてきた。

「ーーーお客様、何かございましたか?」

振り向くと、いつものふんわり優しい笑顔がすっかり消えて、見下すような冷たい表情と声の優也君がいた。 ふおっ…ちょっとびびった。

あたしが目線で助けを求めると、あたしを安心させるように軽く頷いてくれた。

「あー? なんだよお前。なんでもねーからあっちいってろよ」
「申し訳ありません、彼女が嫌がっているので離していただけませんか?」

そう言いながら優也君は(縦2つに割ってない)割り箸を二膳持ち、おもむろにバキッと折った… え? 折った?! それを見て焦ったらしい(あたしもびびったわ!)連れの2人がエロオヤジを引っ張って、慌てて席を立った。 

「わ、まずいよイノさん! す、すみませんでした!」
「な、なんだよ!その女が物欲しそうにしてたから、のってやっただけじゃないか! 清純そうな顔してるくせにそうやって男を誑かして遊びまくってるんだろ!」

2人に引きずられて出て行ったおっさんの捨てゼリフに、なんだか悲しいやら悔しいやらよくわかんなくなって、目から涙がこぼれ落ちた。 なんで見ず知らずのおっさんにそこまで言われなきゃいけないの…

ーーーーー ふと、優しい手が肩を抱いてくれて、優也君はあたしを隠すように倉庫へと連れて行き、中に入るとおしぼりタオルを渡してくれ、あやすように頭をポンポンしてくれた。

「あんなクズの言うことなんか気にしないで。楽しいことを考えて忘れた方がいい」
「…ぐすっ… 楽しい…事…?」
「そう。…あ、そうだ。明日は暇?豊田さん横浜きたばっかりでしょ?僕が案内するよ」
「え、でも」
「嫌かな?」

嫌なわけない。でもいいのかな… 少し悩んで首を横に振った。甘えても…いいよね?

「あの… ありがとうございます。お願いします」

あたしがそう言うと、彼はぱあっと花が咲くような笑顔になった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

悪役令息の婚約者になりまして

どくりんご
恋愛
 婚約者に出逢って一秒。  前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。  その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。  彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。  この思い、どうすれば良いの?

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。

甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。 ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。 ──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。 ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。 しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。 そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり…… 独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに? ※完全に作者の趣味です。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

処理中です...