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低学年編
リフティング
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三年生になった僕たちは、あることに夢中になっていた。それはリフティングだ。二年生のときは区大会までしかなかったが、三年生になると市大会がある。その市大会の開会式は、Jリーグで実際に使われているスタジアムで行われ、そこでは、市大会の前イベントとして、リフティング大会が開催される。開会式と予選は、サッカーコートの周りを囲む陸上トラックで行われるが、予選を突破すると、コートの中に入ることができる。いつか立ちたい、あの夢のコートに入ることができるのだ。しかも、その中でボールを蹴ることができる。これを知った僕たちは、毎日ひたすらリフティングの練習に励んだのだ。特に、僕と勇武と勇気は、予選を突破できる可能性が高かったので、かなり燃えていた。予選はだいたい一分~一分半くらいが目安となる。回数にすると、100回~150回だ。数字が曖昧なのは、コートに入れる人数は決まっていて、その人数になるまで、ひたすらやり続けるらしいからだ。大会前日の時点で、僕は451回、勇武は263回、勇気は470回が最高記録。他のメンバーは多くても70回が限界というところだった。
開会式当日、八時半の少し前に、スタジアム正面入り口に集合した。初めて見たサッカースタジアムは想像以上の大きさで圧倒されてしまう。そのスタジアムをホームとしているチームのチームカラーであるスカイブルーとコンクリートのグレーで縁取られ、マスコットキャラクターがそこかしこに描かれている。ファンでなくとも応援したくなるようなデザインが施されているのだろう。それが、巨大なスタジアム全体を異様な空気で包み、別世界と化しているのが伝わってくる。その空気を味わいたくて、多くの人が何度も訪れるのだろうか。いつか、その空気の中でプレーしてみたいなと思った。いつのまにか、圧倒されていたことを忘れ、僕も別世界に取り込まれていた。スタジアムに圧倒された僕だったが、それよりも圧倒されたのは人の多さだ。一つの市の同じ学年で、サッカーをやっている人はこんなにいるのかと驚いた。学校の全校朝会のときよりもはるかに多い。この中で勝ち残れるだろうか。急に不安に駆られ、現実世界に引き戻される。こうなってくるともう、見える人全員が上手そうに思えてしまう。
「移動するぞー荷物もてー」
監督の声で我に返る。大丈夫、あれだけ練習してきたのだからと自分に言い聞かせながら荷物を持つ。ついに、スタジアムの中に入る。そう意識した瞬間、緊張のドキドキと楽しみのドキドキで二倍ドキドキし、心臓の鼓動が速くなる。まずは、入り口の問を潜り、階段を登って二階のスタンド席に荷物を置く。スタンドに入ると、壮大なスタンドと赤茶色の陸上トラックに囲まれた、緑の美しいコートが広がっていた。僕は思わず立ち止まり、見入ってしまう。初めて見たプロのコートは、本当に美しかった。
その後、保護者と監督はそこに残り、僕たちは自分のボールを持って入場入り口に向かった。道に迷わないか心配だったけど、柱に描いてある地図を見ながら、なんとかたどり着いた。入場ゲートにつくと、すでに多くのチームが到着していた。その人数を見て、再び不安と緊張が湧き上がってくる。だけど、スタジアムを見た僕は、どうしてもあの美しいコートに入りたいという思いが一層強くなっていて、その思いが僕を奮い立たせた。負けないぞという気持ちを込めて、手に持ったボールをぎゅっと抱きしめる。
「入場するので各チーム二列に並んでくださーい」
スタッフの呼びかけで、各チームが順番に並ぶ。僕たちは、僕と勇武を先頭に、二列に並び、他のチームよりも短い列をつくる。たくさん選手がいて、長い列をつくるチームはどうしても強く見えてしまうし、羨ましいと思ってしまう。そのとき、前の方でワーッと歓声が上がった。先頭のチームが入場したのだろう。それと同時に、列が少ずつ動き出した。だんだんと、夢の舞台に近づいてく。暗い通路を、白い光に向かって、ゆっくりと歩いて行く。光が近づくにつれて、歓声の音量も上がっていく。サッカー選手は、試合前にこの道を歩きながら、どんなことを考えるのだろうか。緊張?不安?プレーのこと?どれも違う気がした。前のチームが入場する。次は僕たちの番だ。もう緊張はない。ただただワクワクしていた。プロサッカー選手も、試合前はきっとこれだ。
「次のチーム入って!」
僕らの番が来る。五段しかない階段を、一段一段、噛みしめながら登っていく。最後の段を登り切ると、コートとスタンドが目の前に広がった。最高だった。その光景をしっかり目に焼き付ける。
いつかまた、ここに戻ってくるために。
開会式当日、八時半の少し前に、スタジアム正面入り口に集合した。初めて見たサッカースタジアムは想像以上の大きさで圧倒されてしまう。そのスタジアムをホームとしているチームのチームカラーであるスカイブルーとコンクリートのグレーで縁取られ、マスコットキャラクターがそこかしこに描かれている。ファンでなくとも応援したくなるようなデザインが施されているのだろう。それが、巨大なスタジアム全体を異様な空気で包み、別世界と化しているのが伝わってくる。その空気を味わいたくて、多くの人が何度も訪れるのだろうか。いつか、その空気の中でプレーしてみたいなと思った。いつのまにか、圧倒されていたことを忘れ、僕も別世界に取り込まれていた。スタジアムに圧倒された僕だったが、それよりも圧倒されたのは人の多さだ。一つの市の同じ学年で、サッカーをやっている人はこんなにいるのかと驚いた。学校の全校朝会のときよりもはるかに多い。この中で勝ち残れるだろうか。急に不安に駆られ、現実世界に引き戻される。こうなってくるともう、見える人全員が上手そうに思えてしまう。
「移動するぞー荷物もてー」
監督の声で我に返る。大丈夫、あれだけ練習してきたのだからと自分に言い聞かせながら荷物を持つ。ついに、スタジアムの中に入る。そう意識した瞬間、緊張のドキドキと楽しみのドキドキで二倍ドキドキし、心臓の鼓動が速くなる。まずは、入り口の問を潜り、階段を登って二階のスタンド席に荷物を置く。スタンドに入ると、壮大なスタンドと赤茶色の陸上トラックに囲まれた、緑の美しいコートが広がっていた。僕は思わず立ち止まり、見入ってしまう。初めて見たプロのコートは、本当に美しかった。
その後、保護者と監督はそこに残り、僕たちは自分のボールを持って入場入り口に向かった。道に迷わないか心配だったけど、柱に描いてある地図を見ながら、なんとかたどり着いた。入場ゲートにつくと、すでに多くのチームが到着していた。その人数を見て、再び不安と緊張が湧き上がってくる。だけど、スタジアムを見た僕は、どうしてもあの美しいコートに入りたいという思いが一層強くなっていて、その思いが僕を奮い立たせた。負けないぞという気持ちを込めて、手に持ったボールをぎゅっと抱きしめる。
「入場するので各チーム二列に並んでくださーい」
スタッフの呼びかけで、各チームが順番に並ぶ。僕たちは、僕と勇武を先頭に、二列に並び、他のチームよりも短い列をつくる。たくさん選手がいて、長い列をつくるチームはどうしても強く見えてしまうし、羨ましいと思ってしまう。そのとき、前の方でワーッと歓声が上がった。先頭のチームが入場したのだろう。それと同時に、列が少ずつ動き出した。だんだんと、夢の舞台に近づいてく。暗い通路を、白い光に向かって、ゆっくりと歩いて行く。光が近づくにつれて、歓声の音量も上がっていく。サッカー選手は、試合前にこの道を歩きながら、どんなことを考えるのだろうか。緊張?不安?プレーのこと?どれも違う気がした。前のチームが入場する。次は僕たちの番だ。もう緊張はない。ただただワクワクしていた。プロサッカー選手も、試合前はきっとこれだ。
「次のチーム入って!」
僕らの番が来る。五段しかない階段を、一段一段、噛みしめながら登っていく。最後の段を登り切ると、コートとスタンドが目の前に広がった。最高だった。その光景をしっかり目に焼き付ける。
いつかまた、ここに戻ってくるために。
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