きっと、叶うから

横田碧翔

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低学年編

リフティング大会

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 全チームが入場し終わると開会式が始まった。去年の優勝チームのキャプテンによる選手宣誓があり、偉いおじさんが連続で挨拶をしていたが、僕の頭の中はリフティング大会のことでいっぱいだった。三人目の挨拶が終わると、最初に挨拶をしたおじさんが台に上がる。そして、さっきの挨拶のときとは違い、笑顔で宣言した。
「これより~リフティング大会を行います!選手の皆さんは間隔を取って広がって下さい!」
その瞬間、整列していた選手たちが、陸上トラック上の空いているスペースに向かって一斉に走り出した。僕らも遅れまいと、空いているスペースを探して走り出す。なんとか空いている場所を見つけたが、それでも狭すぎる。これでは、自分が落とさなくても周りの人がミスって蹴飛ばしたボールに当たりそうだ。もっと広い場所は無いかと辺りを見回してみたが、どこも同じような状態だった。
「これより予選1回戦を始めます。笛が鳴ったら三〇秒間リフティングをし続けて下さい。落としてしまった人はその場で座ってください」
まずは三〇秒、普通にやれば絶対大丈夫だ。覚悟を決め、ボールに全神経を集中する。
「それでは、始め!」
開始のかけ声とともに笛が鳴り、全員が一斉にリフティングを始める。
「わーーーー!」
「ミスったーーーー」
「くそーーー」
落とした人たちの落胆の声があちこちであがる。その中には僕のチームメイトのものも含まれていたが、気にしている余裕はない。とにかく、自分のボールだけに集中した。
「そこまで!落としてしまった人はそのままそこに座っていてください。予選二回戦を行いますので、各自スペースを確保してください」
僕は、他の人のボールが飛んでくることなく、なんとか予選一回戦を乗り切った。だが、他のメンバーを見てみると、残ったのは僕と勇気だけだった。勇武は途中で知らない人のボールが飛んできてぶつかってしまったらしい。
「おい、全員集合。2人を囲んで丸くなれ!飛んでくるボール全部止めろよ!」
勇武が一番悔しいはずなのに、すぐに気持ちを切り替えて、僕と勇気が予選を突破できるように手助けをするためにみんなを集めてくれる。僕と勇気を中心に、残りのメンバー全員で円をつくる。全ての方向から飛んでくるボールから、僕らを守る作戦だ。
「頑張れよー!」
「落とすなよー!」
みんなが声援をくれる。みんなが守ってくれている、これなら大丈夫だ。自分のためだけじゃない。みんなのためにも、絶対に予選を突破しようと改めて決意を固める。
「それでは予選二回戦を始めます!」
一回戦同様、笛と同時にリフティングを始める。1、2、3・・・98、99、100・・・リフティングの回数が100回を超える。良いリズムでリフティングできている。少し余裕が出てきて、勇気の方を一瞬だけ見ると、勇気も僕と同じように安定してその場でリフティングできている。予選もそろそろ終わりが近づいてきているはずだ。これなら、二人でコートに入れるかと安堵した瞬間、誰かが叫ぶ。
「ナイスキチャッチ!」
「あぶなかったー!」
きっと、ボールが飛んできて止めてくれたのだろう。みんながいなかったら僕は、落としていたかもしれない。そう思い、気持ちを引き締め直す。リフティングの回数が150回になったとき、笛が鳴った。
「そこまで!落とした人はその場で座って、残った人は私の前まで集合してください」
みんなのおかげで、僕と勇気はなんとか予選を勝ち抜いた。感謝してもしきれない。
「みんなありがとう」
「うん!頑張ってきてね!」
「芝生とってきて!」
「それはだめでしょ」
「勝ってねー!!」
みんなの声援を受けながら、僕と勇気は集合場所に向かって走り出す。
「これから、コートの中に入れるんだよね」
途中、勇気が感動しながらつぶやいた。
「そうだね。ついにきたね」
美しい緑のコートを見つめながら僕は答える。そして、改めて予選を突破して夢の舞台に立てることを実感し、胸が熱くなった。

集合場所に着くと、予選をしているとはいえ、それでもまだ百人くらいは残っていた。
「予選突破おめでとうございます!それでは、コートの中に入って下さい。全員散らばったら準決勝を始めます」
周りの人が、我先にとコートに入り散らばっていく。勇気も勢いよく飛び出していった。僕はコートの前に立ち、大きく息を吸ってから、体中の空気を全部吐き出し、心を落ち着かせる。そして、覚悟を決め、右足をコートの中へと踏み入れる。硬い陸上トラックとは違い、芝生の柔らかい感触が足の裏から伝わってくる。しかも、公園のような芝生ではない。長さが揃えられて綺麗に整えられた、サッカーをするための芝生だ。ここで試合をしたらどれだけやりやすいのだろう。今はリフティングだけだが、いつかはここで試合がしたいと思った。気がつくともう、僕以外はみんなコートに入っていた。急いで僕も空いているスペースに向かう。百人ほど残っているとはいえ、広いサッカーコートの中だ。予選のような混雑はなかった。
「それでは、準決勝を始めます!決勝の人数になるまでリフティングをやり続けてもらいます。頑張って下さい。それでは始め!」
予選と同じように、笛が鳴り、準決勝が始まった。1、2、3・・・148、149、150・・・予選ではこの辺で終了したが、さすがにまだ誰も落とした気配がない。とにかくやり続けるしかない。200、201、202・・・200回を超えたあたりから、少しずつ落とす人が出始める。そろそろ終わるだろうかと思ったが、なかなか終わらない。350、351、352・・・さすがにそろそろ終わって欲しい。僕の最高記録は451回だから、そろそろ落としてもおかしくない。やばい。
「いや~今年はみんな上手いな~全然落とさないね~去年のタイムを超えました~」
400回を超えたところで、アナウンスの声が聞こえてくる。去年だったら決勝戦にいけたのに。たのむ、みんな落としてくれ。だんだん足が疲れてくる。足が重い。集中力も切れそうだ。450、451、452・・・最高記録を更新した。こんな大事な場面で最高記録を出したことが嬉しくて、折れかけていた心が元気を取り戻す。こうなったら千回でも何でもやってやるという気持ちにすらなってきた。だが、元気なのは心だけで、足は限界が近かった。僕は片足リフティングしかできないため、予選からずっと右足だけでリフティングをしている。右足が上がらなくなってきた。530、531、532・・・まだ終わらないのか。いったい、あとどのくらいの人が残っているのだろうか。周りを見る余裕は僕には無い。とにかく集中だと思った瞬間だった。
「あ、」
ボールが足の先に当たり、上ではなく前に飛んでいく。必死に足を伸ばして蹴り上げようとするが、思ったように足がついてこない。ボールと芝生の距離が近づいていく。
ボン。
僕のボールが芝生に落ちて、軽くはねる。
「そこまで!今、最後の選手が落としました!落とした人はコートから出てください。残った人はコートの端に並んでください。決勝戦を行います!」
僕が最後の一人だった。あと少し頑張っていれば、残れていたかもしれない。悔しかった。情けなかった。涙が止まらなかった。みんなのところに戻るのは申しわけなくて、僕は一人で決勝戦をみた。決勝戦はリフティングをしながら、サッカーコートの端から端までの競争だった。優勝した選手は圧勝だった。一〇五メートルもあるサッカーコートを、三〇秒で走り切ってしまったのだ。夢のコートに立てたことは嬉しかったが、それ以上に落としてしまったことが悔しかった。だから、僕は誓った。リフティングでは負けたけど、試合では負けないと。

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