きっと、叶うから

横田碧翔

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高学年編

区大会予選

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一週間後、区大会が開幕した。市大会同様に四チームで総当りのグループリーグを行い、勝ち抜いた二チームで決勝トーナメントを行うという形式だ。一回戦は、練習試合もよくする隣の小学校で練習しているチームだった。最後に試合をした三年生の秋に試合をしたときには、ほぼ互角だったが、今回の大会では、4―0。僕らがレベルアップしていることを実感できた。一人ひとりが上手くなっていることはもちろんだが、慶吾がチームに加わったことも大きい。今までは、僕と勇気が攻撃をして、勇武を中心にみんなが守備を頑張ってくれていた。だが、今回は僕と勇気と慶吾の三人で攻撃をすることができるようになったので、得点力が大幅に上がったのだ。四点の内訳は、僕が二点、勇気が一点、慶吾が一点だ。このバランスの良さが、相手を翻弄させていた。大事な大会を良い形でスタートでき、僕は選抜選手への道を歩み始めた実感が沸いてくる。この調子で得点と勝利を積み重ねていこうと、改めて決意した。
二回戦はその日の午後に行われ、相手チームは人数が足りなくて下の学年が出場していたこともあり、9―0と楽勝だった。特に、相手は僕のドリブルを全く止めることができず、七得点の大活躍だった。相手が弱いから当たり前だと思われるかもしれないが、その当たり前ができることが大事なのだ。とにかく得点を重ねてアピールしなくてはならない。選抜に選ばれるために。
初日に二連勝したことにで、僕らは予選突破が決まった。これで、最低でもあと二回は試合ができる。試合をすればするほど、アピールの場が増える。そのためにも、来週の予選最終戦は重要だ。来週負けて、予選を二位で通過すると他のグループの一位とトーナメントで対戦することになる。そして、一位で通過してくるであろううそのチームは、毎年優勝していて、プロも多く輩出している区だけでなく市でも指折りの強豪チームだ。だから、大会を勝ち抜いて一試合でも多く行うためには、来週の試合に勝ち、予選を一位で通過をする必要がある。そうすれば、そのチームとは決勝という最高の舞台まで戦わなくてすむのだ。戦って見たい気持ちもあるが、今はそれでいい。もっと大事なことが目の前にあるのだから。

一週間後、ついに予選最終戦の日。相手は昨年三位の強豪チームだ。だが、負けるわけにはいかない。むしろ、ここで強いチームに勝てば、僕たちが一目置かれる可能性は高い。絶好のアピールチャンスだ。
「今日の試合は大きな意味がある試合だ。予選一位をかけた戦いってだけじゃない。君たちが選抜に入るためにも越えなきゃならない壁だと思う。相手は強い。でも、今の君たちなら必ず勝てる!自信持って戦ってこい!」
監督の熱い激励を受け、僕らはピッチ上に散っていく。いつもは前と後ろだけ決めてなんとなく散るのだが、今日の僕は左サイドをやると決めていた。
「勇気、慶吾、僕今日は左サイドやりたいんだけど右と中央任せてもいい?」
「珍しいな。いいのか中央じゃなくて。ゴールから少し遠くなるぞ?」
「いやいいんだ。今日は左がいいんだ」
「うん。いいよ。じゃあ僕は右がいいかな」
「じゃあ俺が中央か。まぁ俺はどこでもいいからそれでいいぞ」
「ありがとう。じゃあそれで行こう」
右に勇気、中央に慶吾、左に僕という布陣で試合は始まった。
慶吾のキックオフで試合が始まる。いつもは僕がドリブルで切り込むところだが、今日は慶吾がドリブルで切り込んでいく。だが、あっという間に囲まれる。相手の守備はしっかり連携しながら動けている。隙がない。慶吾はドリブルを諦めて勇気にパスを出す。パスを受けた勇気が縦に仕掛けて相手をかわす。そのままコーナーフラッグ付近までドリブルをしてクロスを上げる。ペナルティーエリア内に、さっきパスを出した慶吾が走り込んでいく。そのさらに奥に、僕も走り込んでいく。勇気の蹴ったボールが慶吾の頭を超え、僕の方に飛んでくる。きた!ボレーシュート!そう思って足を振ろうとしたとき、僕の視界を大きな影が遮る。相手のセンターバックはヘディングでボールをクリアした。いや、味方にパスを出した。相手の攻撃を防ぐだけでなく、そのまま攻撃に繋げたのだ。背が高くガッチリしていて、いかにもセンターバックという感じの選手だ。パスを受けた相手選手がフォワードの選手にパスを出す。フォワードの選手は、トラップをするフリをしてボールを流す。このフェイントで後ろについていたディフェンス二人がかわされる。だが、勇武はそれを読んでいた。流れたボールの先に待ち構えていた勇武がボールを奪う。そのままボールを慶吾に出す。慶吾はトラップをしてシュートを打とうと反転するが、そこを大きなセンターバックに狙われていた。入れ替わるようにしてボールが奪われる。さらにカウンターを狙おうと、奪ったボールを右サイドの選手に向けて蹴り出すが、それを読んでいた僕がパスをカットする。怒濤の試合展開の中、やっとボールに触ることができた。このチャンスを逃すわけにはいかない。僕は、スピードに乗ってドリブルを仕掛けていく。勢いのまま縦に一人かわし、カバーにきた二人目を右足のアウトサイドで中にかわす。ゴールへの道が開ける。少し遠いがそのままシュートを放つ。だが、ボールは惜しくもゴールの少し上を通過していった。外れてしまったものの、僕のシュートに会場が少しざわつく。開始から激しい展開が続く試合に、会場中が注目し始めている。「観られている」という感覚が、僕は少し心地良く感じた。

その後も、お互いに攻めるがなかなか得点は奪えないまま、0―0で前半が終わる。
「いいぞいいぞ。よくやった。前半は互角に戦えていたじゃないか。自分たちが上手くなっているのが実感できただろう。このまま必ず勝つぞ。一点取れ。一点でいい。この試合、先に取った方が勝つぞ」
ハームタイムに監督の激を受け、気合い十分で後半に臨む。しかし、後半が始まってもお互いにゴールは決まらず、試合終了まで残り五分となったとき、相手ベンチから声がかかる。
「攻めすぎるな!同点でもいい!しっかり守りきれ!」
相手チームは先週の予選で僕たちよりも多くの得点している。そのため、勝ち点が同じ場合、得失点差で一位通過することができるのだ。僕らは焦り始める。なんとか一点取らなければ。中央の慶吾と代わろうかとも考えたが、それはやめた。左からゴールを決めるビジョンが僕にはある。勇武が、奪ったボールを僕にパスする。ハーフェーラインでボールを受け取り、顔を上げる。相手チームは守りを固めるために守備の人数が増えている。しかも、時間的にこれが最後の攻撃になるかもしれない。パスで安全に攻めるべきだ。そう思い、逆サイドの勇気にパスを出そうとしたとき、バインダーとペンを持ったおじさんが視界に入る。選抜選手を見定めているのだろう。ここで逃げていいのかという迷いが生まれる。チームの勝利は大事だ。そのためにゴールする。この順序は変わらない。それでも、逃げないこととエゴは違うだろう。パスをやめた僕は、相手陣地にドリブルで切り込んでいく。縦に行くふりをして中にかわし、二人目が出てきたところで、左サイドの大きく空いたスペースにボールを蹴り出す。こうなればスピード勝負だ。速くなった足を活かして一気に二人を置き去りにする。ボールに追いついたところで、新たに二人に囲まれたが、ボールを左足でまたぎ、相手がつられて足を開いたところを見逃さず、また抜きでかわす。あとはキーパーとセンターバックだけだ。こいつをかわせるのか。パスを出した方がいいのか。相手チームの中でも別格に上手いセンターバックに一瞬びびってしまったとき、隣に慶吾が見える。パスを出して慶吾が決めれば勝てる。だが、ここまできたら逃げたくない。エゴは貫いてこそだ。今まで、必死にドリブルを磨いてきた。だから、大丈夫だ。覚悟を決め、ドリブルで突っ込んでいく。今の僕が一番自信があるのは、スピードに乗ったドリブルだ。縦に抜いてシュートを打とう。そう決めると、右足のアウトサイドで右に行くふりをしてから、インサイドで縦に切り返す。あとは蹴り出してスピード勝負。だが、切り返しについてこられた。前にいけない。取られる。その瞬間、僕の脳裏によぎったのは、後悔でも絶望でもなかった。相手の足がボールに向かって伸びてくる。なぜか、僕は一年前を思い出していた。無様に負けたあの試合を。無様にまた抜きされたドリブルを。
「あぁ、これか」
小さくつぶやき、僕は取られそうなボールを相手に向かって軽く蹴り出す。ボールは相手のまたの間をゆっくりと転がっていく。それを見ながら、僕は体を反転して相手の右側を通り抜けていく。あとはキーパーと一対一。右のサイドネット目掛けてシュートを放つ。キーパーは触れず、ボールはゴールに吸い込まれた。ゴールネットが揺れると同時に、会場も歓声で揺れる。その歓声にまぎれて、試合終了の笛も鳴った。勝った。僕のゴールで。振り返るとチームメイトが駆け寄ってきていた。みんなで抱き合って喜ぶ。最高の瞬間だった。エゴだって貫き通せば立派なファインプレーだ。だって僕は、ドリブラーなのだから。

 このとき、僕の名前に一斉に丸印がついたことを、僕はまだ知らない。
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花雨
2021.07.22 花雨

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