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5・人間嫌いの美少年
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教室にいた美貌の少年。咲田奏は了に気づくと真っ直ぐに見つめてきた。
金に近い茶色の髪は近くで見るとサラサラとしていた。
顔が異常に小さく、目も鼻も口も文句のつけようのない美しさで配置されている。
中性的とは言えないし、男らしいとも違う。
例えるなら毎日テレビに現れる、新人俳優達に雰囲気は近い。イマドキというか、最先端の美形だと感じた。
暫く息をするのも忘れて見惚れていたが、響の言葉で我に返る。
「おはよ、リョウ、俺様の登校の早さにビビったか?」
「え、ああ。そう言えばそうだな。ごめん、たった今までヒビキの存在に気づいてなかったよ」
「おい、親友、随分と冷たいじゃないか」
「それは仕方ないんじゃないかな。だって彼がヒビキと一緒に居るんだから」
ミズキが奏を見て呟いた。
三人は響の席に集まっていた。
「おお、紹介するよ。俺の友達のサキタカナデ。こっちがミズキでこっちがリョウ」
響が雑に紹介した。
「初めまして。カナデって呼んでよ」
思いの他、気さくに言われた。
了はまだ緊張していた。
とんでもない美形、しかも芸能人らしいという噂を聞いていたので、そんな人間にどんな反応をして良いか分からなかった。
「俺もミズキで良いよ」
ミズキが緊張した様子もなくサラリと言った。
慌てて了も名前を告げる。
「尾崎リョウです。尾崎でもリョウでも何でも良いよ」
「うん、じゃあ、リョウって呼ばせてもらうよ」
悩む事なく奏は言った。
微笑むその顔は少しだけ紅潮して見えた。
あまりの美しさに目眩を覚えそうだった。
「ヒビキって、いつからカナデと友達だったんだ? そんな話聞いてなかった気がするけど」
了が疑問を口にすると、椅子の上で片足を抱えるように座った状態で響が答える。
「5組にいる友達の所に遊びに行った時に知り合った。目立ってたから、つい声かけちゃった」
「相変わらずお前はどこでも誰とでも友達になるな」
本当にすごい才能だと思う。了にはとても真似できない事だ。
普通の人ならまだしも、こんな有名人に声をかけるのは気が引ける。
「カナデは知らない人に、普段から声かけられてそうだけど、いつも友達になるの?」
ミズキが訊ねたが、了も気になっていた。
こんな美形だと、町でも教室でも、いっぱい声をかけられるだろう。
「これでも人を見る目はあると思ってるんだ。ヒビキには下心みたいな物は感じなかったから」
確かにヒビキは裏表のない性格だ。
「5組に行く度に、いつも一人でいたから、なんか声かけちゃったんだよね。てっきりボッチなのかと思ってたんだけど、ボッチというより友達厳選してた感じ?」
「……うん、まぁ、そんな感じ。あんまり信用できない人と話したり連絡先交換とかしたくないから」
「おお! もしかして俺って選ばれた人類!? 俺って凄くない?」
興奮する響の横で、了は訊ねる。
「えっと、俺達とついでみたいに友達になっちゃって大丈夫?」
念のため聞いてみたのだが、奏は真っ直ぐに了を見て頷いた。
「君達の事は信用してるよ」
「初対面なのに?」
ミズキが聞くと、奏は了を見たまま頷いた。
「言ったでしょ。人を見る目はあるんだ。これでも一応芸能界に居たりするから」
やっぱり芸能人なんだと思う。
「それにいつもヒビキから君達の話は聞いてたからね、実は初対面て気がしない。本当言うと、随分前から顔とか知ってたしね」
こんな有名人に知っていてもらえていたなんて驚きだった。
「そろそろ教室に戻るよ」
そう言う奏に、響が声をかける。
「昼休みも一緒に弁当食おうよ。中庭のベンチ集合な」
頷いて片手を上げると、奏は廊下に向かって歩き出す。その姿をクラスにいた女子のほとんどが目で追っていた。
響は残った二人を見て呟く。
「良いだろう? あいつを混ぜて」
「もちろん」
二人で頷く。
「あいつ生きてるだけで注目浴びて大変そうだよな」
「うん」
答えながら暫くは教室で弁当は無理そうだなと思った。そのうちみんなが慣れてくれるのを待ちたい。
昼休み、先日と同じ中庭のベンチで昼食をとった。
木々が生い茂った中庭は、木陰があるのでまだ過ごしやすい。
先日はベンチだけの場所に座ったが、今日はテーブルがある四人掛けの席に座る。
購買近くにも食事がとれる場所があるが、こちらの方が人が少なくて話しやすい。
「カナデの髪は地毛じゃなくて染めてるのか?」
ミズキが訊ねた。了は奏の茶色の髪を見つめる。他の人間よりも大分明るい金に近い茶色だ。
「ああ、うん。事務所の意向って感じ。本当はレモンイエローみたいな色にするように言われたけど、嫌だったからちょっと抑えた」
「髪の色に事務所の意向とかあるんだ?」
了が聞くと奏は頷いた。
「俺が売れてないから、もっと目立つようにって単純な作戦だよ」
「売れてない?」
呟く了に奏は苦笑する。
「売れてないよ。事務所にいるからたまに仕事がくるってだけで、一般人にはぜんぜん知られてない存在だよ」
了は芸能人には詳しくない。売れているとは、どういうレベルなのかも不明だ。
「今までどんな活動してたんだ?」
響がパンを齧りながら聞いた。
「小学校の頃はちょっとしたドラマの子役。その後事務所が変わって今の所に来てからは、事務所の先輩アイドルのバッククダンサーとか、あとたまにファッション雑誌のモデル」
「モデル……凄いな」
了が呟くと奏は眉を顰めて苦笑した。
「ぜんぜんすごくないよ。専属モデルとかじゃなくて、良くて1ページとか、2ページの扱いだよ」
「そ、そうなんだ。そんなに格好良いのに」
了が言うと奏は微笑んだ。
「格好良いって褒めてもらえたのは嬉しいけど、芸能界って顔が良ければ売れるワケでもないし、事務所の力とかコネとか、そういうのがあって複雑だよ」
「そうなんだ」
奏は聞かれた事に答えてくれていたが、その顔は晴れない。
芸能界の仕事が楽しくないのかなと感じた。
いろいろ話しているうちに昼休みも終了近くなった。
「なんか話したりないな! せっかくいつメンが増えたんだし、今日の放課後も集まって話そうぜ!」
「俺、部活があるから」
響が提案したが、ミズキがすぐに断った。
ミズキは書道部に所属している。とは言っても活動は週に2回位しかないし、運動部と違いゆるい部活だ。
それでも真面目なミズキは部活をさぼらない。
「じゃ、仕方ない。三人で話そう。お前ら暇だよな?」
響は了と奏に聞いてきた。
「売れてない芸能人なんで暇だよ」
自虐的に奏が言い、了も答える。
「予定ないし大丈夫だよ」
入学した頃は部活に入る事も考えたが、早く帰って宗親の家事を手伝う方が良いかと思い、了は部活には入っていなかった。
響は友達と遊ぶのに忙しいと部活には入っていない。
「じゃ、決定!」
響が明るく告げた。
放課後に集まった三人は駅前のファミレスに向かった。
お金がない時は学校のベンチで話す事もあるが、今日はドリンクバー目当てでファミレスとなった。
見慣れたチェーン店の前まで来た時だった。携帯を見ていた響が言った。
「ごめん、5組の友達と約束してんの忘れてた。俺、行かないとマズイわ」
「え……」
動揺する了に、響は笑顔を向ける。
「俺がいなくても大丈夫だよな? もし合流出来そうだったら後で連絡するよ」
返事も聞かずに響は駅方向に走っていった。
呆然と見送ったあとで、奏を見る。
正直どうしたら良いか分からない。
「とりあえず中入ろうか?」
聞かれてつい頷いてしまった。
店内はすいていて、二人なのに四人掛けのソファ席を案内された。
ドリンクバーで飲み物をとってきた後で、向かいに座る奏を改めて見つめる。
真正面から近距離で、この美貌の顔を見る事に緊張していた。
やっぱりどこからどう見ても美しい。整いすぎて怖い位だ。
「やっぱり俺と二人きりだと嫌かな?」
予想外の発言に目を見開く。
「嫌? 嫌って事はないよ!」
「そう? なんか困ってそうな顔してるから」
指でストローを弄びながら、上目遣いの悩ましいような表情で言われてドキリとした。
「嫌なんじゃなくて、まだ何話して良いかわからないって言うか、改めて近くで見るとやっぱりカナデは綺麗だなって……」
「綺麗なのは君の方なのに」
ポツリと呟かれた。綺麗? 自分が?
予想外の言葉に面食らいつつ、綺麗についてはスルーする事にした。お世辞的なモノだろう。
現にこの店にいる人間の多くが、自分ではなく奏に注目している。
「あれだね、カナデ程美形だと注目されて大変だね」
「ああ……でももう慣れたし、スルーする能力はついてるよ。あと人を見る目も出来てるしね」
「さっきも言ってたけど、人を見る目ってどういうヤツなんだ?」
「んーそうだね」
奏はストローでグラスの氷をかき回す。
「まず、顔で近づいてくるだけのヤツとかだね。俺の顔が好きだっていう女子とかは、まぁ、許せるけど、俺の顔を利用して女の子引っ掛けようって奴は大嫌い」
「あーそういう人か……確かにいそう」
「うん、いっぱいいるよ。合コンしようとか、誰か女の子紹介してくれとか。当然断るんだけどさ、そういうヤツらは仕返しに、今度はネットに俺の悪口ある事ない事書き込むんだよ」
「え……」
酷い話に言葉が出てこない。
「有名掲示板とかにさ、俺の名前書きこんで悪口書かれるんだけど、凄いよ、あっという間に1000件とかいくの」
「1000!」
凄い数字に大声が出てしまった。
「だから俺、SNSとか嫌いでしてない」
「あ、俺も何もやってない」
「知ってる」
奏はニコリと笑った。
「念のため確認しておいたんだ。リョウもミズキもSNSやってないよな。俺はそういう人が好き。あれって承認欲求の塊だろ。それをやってるヤツは要注意人物」
「でもヒビキはやってるけど?」
了は情報通で新しいもの好きだから、SNS全般に手を出している。
「人を見る目があるって言っただろう? 別に全員がNGってわけじゃない。ヒビキはSNSやってるけど、俺の写真を勝手に撮ってアップしたり、自慢したりするような奴じゃないって知ってる」
響を正しく理解してもらえていて嬉しかった。
それに奏がどんな嫌な目に遭ってきていたのか、今の話で分かった。
もう嫌な思いはして欲しくないなと思う。
「俺の父親が、ミステリー作家なんだけど、すっごい心臓が強い人なんだよ。本の感想をボロクソにレビューに書かれたりして、作品は、まぁ好みもあるから仕方ないって考えるんだけど、人格否定までしてくるも人もいるんだよ。会った事もないのにさ。でも父さんは、そんなの見に行かなきゃ良いってそれだけなんだ。腹が立つならエゴサーチはするな。見なきゃ何も書かれてないのと同じだって言ってるよ。そんなので心が傷つくのはもったいないって」
奏は笑みをこぼした。
「君のお父さんは良いね。さすがリョウのお父さんって感じ。うん、でも俺もそう思うよ。だから俺は基本SNSはしないし、嫌な人間とは付き合わない事にしている」
用心もあって教室でボッチと呼ばれる状況だったんだなと納得した。
「実は俺、結構グレてたんだよ」
「グレる?」
了の頭には昔のヤンキー漫画や映画の人物が浮かんだ。リーゼントの学ラン少年がケンカをするという映像だ。
「俺は結構な人間不信になってて、だいたいの人間が嫌いだった」
「あ……」
グレるとはそういう事なのかと納得した。
「芸能界も酷かったよ。先輩アイドルのバックダンサーやった時に、出番直前に衣装切られてさ。本当にこんなコトするヤツいるんだって思った」
それこそドラマのシーンのようだ。
「本番終わって楽屋戻ったら自前の靴がなくなってて、ゴミ箱に入ってたりとかさ」
どん引く話だった。了の周りでは今までそんな出来事はなかった。
「犯人はわからなかったけど、同じ事務所のヤツなのは確実だし、そんな奴らを友達だと思ってたのがバカらしくなった。みんな顔が良いのに性格は悪いんだなって、現実を知るハメになったよ」
奏が芸能活動を楽しく思ってないと感じていた。
でもそれはこういう事があったからなんだと分かった。
それに芸能界だけじゃなく、学校の友達も信用できないとなると、奏がグレてしまうのもわかる気がした。
「さっき、リョウの事を綺麗だって言っただろ?」
奏はソファから身を乗り出して顔を寄せてきた。
「それって顔って意味じゃなくて、存在って意味」
「え?」
美しい瞳が至近距離で了を捉える。
「俺がいた汚い世界で、リョウはキラキラと輝いて見えたよ」
ドキドキと心臓の音がうるさく聞こえた。顏も熱くなる。
「褒めすぎだよ。ミズキもヒビキだって良いヤツで信用できるだろ?」
奏はようやく了から離れて元の位置に戻る。
「うん、そう思う。ヒビキもミズキも良いヤツらだ。綺麗な心の人間は、やっぱりそんな人間に囲まれてるんだなって実感した」
自分はともかく、友人二人の事を褒められるのは嬉しい。
その時、テーブルに置いていた奏の携帯が反応した。
奏はすぐに手に取って確認する。
「ヒビキからだよ。今から合流するって。その後、リョウの家に行こうって言ってるよ」
「は? なんでうち?」
今度は了の携帯が反応した。画面を開いてみるとイラっとする文章が見えた。
『おじさんの許可はもう取ってあるよ! おやつ用意して待ってるハートだって!』
響と宗親が連絡先交換をして、やりとりしていたのは知っていた。
でも仲良くなりすぎじゃないかと複雑な気分だった。
「さっき話題に上がったお父さんに会えるって、ちょっと感動するな」
嬉しそうに空を見上げながら奏が呟いた。
家の玄関前で、了は改めて奏に向き直る。
「うちの親、本当にすっごく変だから! マジでヤバイから、変な事言いだしても無視して! あ、あと履歴書みたいな紙渡されても絶対受け取らないように!」
「履歴書?」
首を傾げる奏に、響が楽しそうに言う。
「おじさんマジで面白いから、楽しみにしてろよ!」
複雑な思いで了は玄関のドアを開けた。
「お帰り! いらっしゃ……」
出迎えに来た宗親が、奏の顔を見て固まった。
「は、はぐっ!」
胸を押さえて廊下に片膝をつく。
「これは幻か? あの超絶美少年がここにいるなんて!」
自分の事だと分かったようで、奏が頭を下げる。
「お父さん初めまして、咲田奏です。本日はお邪魔します」
宗親は鼻を押さえた。
「お父さん! お父さんだって!? 興奮して鼻血が止まらないよ!?」
はぁはぁと息をした後で、宗親は玄関にいる奏の肩をガシリと掴んだ。
「リョウとはいつからの付き合いなんだ? キスはいつどこでしたんだ? もうホテルには行った? あ、ホテル代もったいないから、いつでもリョウの部屋使って良いよ! 大丈夫、あそこは防音仕様になってるからね! それとも先に結婚しちゃう? 一緒に暮らしちゃう?」
「……」
奏は固まってしまった。申し訳なくて目眩がする。
「な、おじさん、面白いだろ!」
響は嬉しそうに言った。
「さ、良いから上がって上がって。おやつもあるよ」
「頂きます!」
響は慣れた様子で靴を脱いで、宗親と共に奥までどんどん進んで行った。
残された了は奏に謝る。
「本当にごめん、その……父さんはBLが好きな腐男子ってヤツで、ちょっと妄想が酷くて……」
人間不信の奏からしたら、自分でBL妄想されるなんて気持ち悪いと思うかもしれない。
更に奏の人間嫌いが増したらと心配になる。
「ああ、腐男子ね。俺とか芸能人って生モノってジャンルだっけ?」
「あ、あれ? 意外と詳しい?」
首を傾げた了に奏は言う。
「芸能界でも流行りのジャンルだよ。BLとか腐女子とか。それに昔から芸能人に同性愛者は多いからね」
「嫌じゃないの?」
「嫌じゃないよ。俺が嫌いなのは、人を利用したり嫌がらせしたりするヤツだから。趣味や嗜好はそれとは違うだろ?」
思いの他、奏の心が広い事に安堵した。
家にある一番高価なマイセンの茶器をだして、宗親は奏にお茶を出した。
機嫌の良さが窺える。
「いやー、ヒビキ君もイケメンだけど、カナデ君は本当に美少年だね。二人の間にリョウが挟まれてるなんて、これはどんな展開なんだ? もしや俺の目の前で、リョウを巡って二人が殴り合いのケンカをしちゃうのかな? いや、それよりも二人がかりでリョウを押し倒して無理やりおか……」
「それ以上言ったらこの高級ティーカップを顔面に投げつけるからな!」
了は全力で宗親の言葉を阻止した。
「ああ、ごめんごめん、リョウが素敵な友達を連れてきてくれたから、父さんテンション上がっちゃったよ! 父さん実は三角関係とか3Pとかも大好物なんだよ! あ、無理やりももちろん大好っあつっ」
了は紅茶をぶちまけていた。
「本当にかけるなんて酷いぞ! 家庭内暴力だぞ!」
「これでも食器は我慢したんだ! それ以上余計な事は口にすんなよ!?」
了は念を押した。横にいた二人はそんな了を呆然と見ていた。その視線に気づいて恥ずかしくなった。
ガサツな奴だと軽蔑されて呆れられただろうか。そう思っていると響が目を輝かせた。
「お前とおじさんのセットだと面白さ倍増だな! 漫才みてー」
「漫才じゃないから!」
つい突っ込んだら、横にいた奏が声を出して笑いだした。
「え?」
奏は満面の笑みで、楽しそうな顔をしていた。
「意外だったよ。リョウってこんなに元気に突っ込むんだ。本当に凄いな。周りが明るくなるし、やっぱりキラキラしてる」
「……キラキラはしてないと思うよ」
「うん、でも俺にはそう見える。やっと信じられる友達が出来て、俺は本当にラッキーだと思ってる」
奏が嬉しそうだったから、それ以上否定するのは憚られた。
響も満足そうに、奏をやわらかい目で見ていた。
夕飯の前に二人は帰って行ったが、その後も宗親はハイテンションでうるさかった。
突っ込み疲れるので、了は基本無視していた。
奏と過ごす時間が増え、暫くすると四人でいるのが当たり前になった。
その頃にはクラスメイトも奏の存在に慣れたようで、好奇心のような視線はなくなった。
「おじさんに聞いたら、今日も遊びに行って良いって言うから、また了の家に行かない?」
休み時間に響が言いだした。
「ごめん、俺は今日も部活」
「あーそっか、そうだよな」
響はミズキから奏に視線を移す。
「俺は大丈夫。売れない芸能人だから」
「自虐ネタ多いな」
突っ込みながら響は了を見る。
「お前に拒否権はないから」
「何でだよ!?」
予定はないし、友人達が家に来るのは問題ないが、宗親の存在は問題ありありだった。
放課後、響と奏と三人で学校最寄りの駅に向かっていた。駅から尾崎家までは電車に乗って30分位の距離だ。
「何かお土産とか買っていった方が良いかな?」
奏が言うので手を振って止める。
「いや、大丈夫。まったく何もいらないよ。あの人、お菓子も自分で作れるし」
「そうだけど、毎回ご馳走になるだけじゃ悪いかなと」
「平気、平気、むしろカナデが来てくれるってだけで狂喜乱舞だよって、あれ?」
横にいたはずの響が立ち止まっていた。その手には携帯がある。
「ごめん、1組の友達と約束してたの忘れてたわ」
「またかよ?」
呆れつつ了は呟く。それにしても友人が多い。
「悪いけど今日はお前らで遊びに行ってよ。俺はこっからバスで友達ん家行くから」
響は道路を渡り、バス停に向かって走っていった。
呆然と見送った後で、奏を見上げる。
「えっと、どうする? 返事も聞かずにヒビキ行っちゃったけど」
「俺は暇だから、リョウと二人で遊びに行くんで構わないよ」
「ああ、俺も良いよ」
以前のように何を話して良いかと、緊張する事はなくなっていた。
奏に人間嫌いや人間不信を打ち明けられてから、心を開いて話せているように思う。
それに宗親の腐男子を気にしないでくれているのも有難かった。
「……」
このまま二人で家に行ったら、宗親が大喜びする事に気付いた。
それは実に腹立たしい展開だ。
了は奏の肘をつまむ。
「あのさ、○○駅に遊びに行くっていうのはどう?」
「え?」
急な予定変更に奏は戸惑った表情をしたが、すぐに微笑む。
「良いよ、ウインドウショッピングとかする? それとも何か食べに行く?」
「とりあえず行ってみてから考える。あと父さんには連絡しておく」
了は携帯を取り出した。
○○駅は大きなターミナル駅なので、電車から降りる人間も多かった。
ホームから改札に向かっていると、隣にいた奏が小走りで階段に向かった。
見るとカートを引いたお年寄りの荷物を持って階段を上がりだした。
階段を上った先で、奏に声をかける。
「すごいスマートにお年寄りを助けるんだな。めちゃくちゃ格好良かった!」
素直に伝えたら奏は何故かクスリと笑った。
「これはリョウの真似だよ」
「え?」
奏は微笑んで了を見つめている。
「俺が初めてリョウを見た日。リョウは学校近くの駅で、同じようにカートを持ったおばあさんに声をかけてた」
「え、え、見てた? 初めて?」
「前にも言ったと思うけど、教室で話す前からリョウの事は知ってたんだよ。駅でお年寄りを助けてるの何回も見たし、学校の購買で、惣菜サラダがバランス崩して倒れそうになってるのを支えてあげてたり、そういうのを見かけた」
「なんかハズイな」
「でも俺は感動したんだよ。世界が真っ黒に見える位にグレてたから、こんな善良な人間がいるんだって感動した」
「いやいや俺より良い人はいっぱいいるって。そもそもミズキのが、よくお年寄り助けてるよ」
「ああ、そうかもしれないな。ミズキも凄く良いヤツだ。でもたまたま俺が見たのはリョウだったんだ。リョウだけが輝いて見えた」
「大げさだよ!」
照れ臭くてリョウは早足で改札に向かった。顔が熱かった。
本屋やカフェがあるファッションビルに行こうという事になった。
そこに向かって歩いていると、道の途中にゲームセンターがあった。
「ちょっと覗いても良い?」
了が訊ねると奏は頷いた。
「いいよ、入ろう」
店内に入ってグルリと見渡す。出入口付近にクレーンゲーム。奥にアーケードゲームが設置されていた。
「なんかこの雰囲気久しぶり」
「音がうるさい感じ?」
「そうそう、前にヒビキやミズキと来たりしたなって思いだした」
「あっれー、カナデちんじゃない?」
聞こえた声に二人で振り返った。見るといかにも怪しげな人物がいた。
帽子を深くかぶり、眼鏡にマスクという格好だ。
「相場さん?」
奏が呟いた。
「そうそう、久しぶりだな」
誰? と思っていると相場と言われた人物は了を見た。
「もしかして君、俺の事わかんない?」
「えっと……」
相場は眼鏡を外し、マスクをズラした。
驚くほどのイケメンが現れた。名前は知らないが、テレビで見た事があるような気がする。
「えっとカナデの先輩?」
「……うん、事務所の先輩で相場弘樹さん」
二人の会話に相場は帽子も取って見せる。
「うわー、本当に知られてないんだ、俺。結構テレビに出てる俳優なのにわからない? ショックだなー。それにしても……」
相場は了の顔を覗きこんだ。
「随分かわいい子連れてるね。うちの事務所の子?」
「違います。学校の友達です」
「ああ、制服だもんね。それにしても一般人でこのレベルって凄いね。さすがカナデの友達」
相場は了の顎をつまんで持ち上げた。
家族以外の年上の人間と縁がないので、20代らしいこの男の行動に若干の恐怖を覚えた。
相場はニコリと笑った。
「丁度、今夜遊ぶ子を探してたんだ。カナデ、この子、今晩貸してよ」
「え?」
とんでもない発言に面食らう。宗親の妄想ではなく、本当にこんな事を言われるなんて信じられない。
「ああ、ただでとか言わないよ。俺さ、来年深夜のドラマの主演決まってるんだ。この子をくれたらカナデにも役貰えるように、監督に話つけてあげるよ。そろそろカナデも大きい役欲しいでしょ?」
胸の奥が重くなった。
言葉を聞くだけで汚される。そんな内容だ。
「お断りします」
奏はキッパリと言うと、了の手を握った。
「俺、芸能人として売れたいとか思ってないんで!」
奏は了を引っ張って出口に向かう。了は早歩きで必死についていく。
奏の言葉に了は安堵していた。
暫く無言で歩いていたが、繁華街を抜けた橋の上で奏は立ち止まった。
「ごめん、先輩が変な事言いだして」
「いや、うん、大丈夫」
言われた時は驚いたし嫌悪感でいっぱいだったが、今は落ち着いていた。
外の風を浴びたせいかもしれない。
それに奏がきっぱっり断ってくれた事が嬉しかった。
「俺が人間不信の人間嫌いになったのが分かっただろ?」
「うん」
奏の顔は暗かった。最近はこんな顔をする事は少なかったのに。
「芸能界はああいうの多くて、もうウンザリなんだよ」
「うん」
「それに先輩とか、力持ってるからって偉そうだしさ」
「うん、わかる。でもそうでない人もいるんだよね?」
奏は顔を上げた。
「少なくともカナデはそんな人間じゃない。だから良いんだよ。俺もああいう人は嫌いだ。でもカナデがそんな人間にならないならそれで良い。それにミズキやヒビキみたいな人もいるんじゃないの? 良い人は芸能界にまったくいない?」
険しかった奏の顔が少し緩んだ。
「うん、そうだな。良い人もいるよ、マネージャーとかスタッフさんとか、確かにいた」
「そうだよね。良かったよ、カナデの側にちゃんと信用できる人がいてくれて」
今度こそ奏は笑顔を見せた。
「今はリョウやヒビキやミズキだな」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
家に帰るとしょんぼり顔の宗親に出迎えられた。
「なんでカナデ君を連れてきてくれなかったんだよーー!!」
「父さんがうるさいからだよ」
「でも二人でどこか出かけたんだよな? どこ行ったんだ? ゲーセン? カラオケ? ホテル? ラブホテル?」
「行ってないから!」
いや、ゲーセンには行ったなと思ったが、訂正も面倒くさかった。
「あ、その顔は何かあったな? もしかしてキスしたのか? ゲーセンか? カラオケでか? いやもうどこでも良い! カナデ×リョウのカップリングは正義だ! 最高だ!」
ハイテンションの宗親に呆れていたが、その時気付いた。
何もかも宗親の望む展開になっている。
翌日、登校した了は響にだけ、こっそり声をかけた。
以前ミズキを呼び出した時と同じように、廊下の奥の人気のない場所に連れ出す。
「ヒビキ、お前に聞きたい事があるんだけど、要件わかるよな?」
いつもより低い声で了は訊ねた。
響はいつもと違いおとなしかった。
「あーやっぱ気付いた?」
了は腕を組んで怒っているという顏を一応作る。
そこまで怒っているわけではないが、言うべき事は言わないといけない。
「この前からのお前の行動は、よくよく考えてみるとおかしかった。いきなりカナデと友達になって教室に連れてきたり、ミズキの部活の日を選んでは出かけようと誘ってきて、お前だけドタキャンをする。それも何度もだ」
響は観念したような顔をしていたので、了は一気に言った。
「俺とカナデが二人きりになるように、わざとしてただろう?」
響は叱られた子供のように小さくなった。
「その……ごめん」
「いいよ。ヒビキは頼まれただけだろ?」
響の目が泳ぐ。庇うべきか考えているんだろう。
暫くの間の後で、肩を小さくして響は頭を下げた。
「ごめん、頼まれたのを断れなかった」
了は息を吐く。
「別に良いよ。父さんが無理言って頼み込んだんだろうし」
「え?」
響は顔を上げて首を傾げた。
「ん?」
違和感に気付いた。
「あれ、父さんに頼まれたんじゃないのか?」
響は首を振った。
「いや、おじさんは関係ない。俺が頼まれたのはカナデにだよ。お前と友達になりたい、二人で話したいってさ」
予想外の展開に了は固まっていた。
金に近い茶色の髪は近くで見るとサラサラとしていた。
顔が異常に小さく、目も鼻も口も文句のつけようのない美しさで配置されている。
中性的とは言えないし、男らしいとも違う。
例えるなら毎日テレビに現れる、新人俳優達に雰囲気は近い。イマドキというか、最先端の美形だと感じた。
暫く息をするのも忘れて見惚れていたが、響の言葉で我に返る。
「おはよ、リョウ、俺様の登校の早さにビビったか?」
「え、ああ。そう言えばそうだな。ごめん、たった今までヒビキの存在に気づいてなかったよ」
「おい、親友、随分と冷たいじゃないか」
「それは仕方ないんじゃないかな。だって彼がヒビキと一緒に居るんだから」
ミズキが奏を見て呟いた。
三人は響の席に集まっていた。
「おお、紹介するよ。俺の友達のサキタカナデ。こっちがミズキでこっちがリョウ」
響が雑に紹介した。
「初めまして。カナデって呼んでよ」
思いの他、気さくに言われた。
了はまだ緊張していた。
とんでもない美形、しかも芸能人らしいという噂を聞いていたので、そんな人間にどんな反応をして良いか分からなかった。
「俺もミズキで良いよ」
ミズキが緊張した様子もなくサラリと言った。
慌てて了も名前を告げる。
「尾崎リョウです。尾崎でもリョウでも何でも良いよ」
「うん、じゃあ、リョウって呼ばせてもらうよ」
悩む事なく奏は言った。
微笑むその顔は少しだけ紅潮して見えた。
あまりの美しさに目眩を覚えそうだった。
「ヒビキって、いつからカナデと友達だったんだ? そんな話聞いてなかった気がするけど」
了が疑問を口にすると、椅子の上で片足を抱えるように座った状態で響が答える。
「5組にいる友達の所に遊びに行った時に知り合った。目立ってたから、つい声かけちゃった」
「相変わらずお前はどこでも誰とでも友達になるな」
本当にすごい才能だと思う。了にはとても真似できない事だ。
普通の人ならまだしも、こんな有名人に声をかけるのは気が引ける。
「カナデは知らない人に、普段から声かけられてそうだけど、いつも友達になるの?」
ミズキが訊ねたが、了も気になっていた。
こんな美形だと、町でも教室でも、いっぱい声をかけられるだろう。
「これでも人を見る目はあると思ってるんだ。ヒビキには下心みたいな物は感じなかったから」
確かにヒビキは裏表のない性格だ。
「5組に行く度に、いつも一人でいたから、なんか声かけちゃったんだよね。てっきりボッチなのかと思ってたんだけど、ボッチというより友達厳選してた感じ?」
「……うん、まぁ、そんな感じ。あんまり信用できない人と話したり連絡先交換とかしたくないから」
「おお! もしかして俺って選ばれた人類!? 俺って凄くない?」
興奮する響の横で、了は訊ねる。
「えっと、俺達とついでみたいに友達になっちゃって大丈夫?」
念のため聞いてみたのだが、奏は真っ直ぐに了を見て頷いた。
「君達の事は信用してるよ」
「初対面なのに?」
ミズキが聞くと、奏は了を見たまま頷いた。
「言ったでしょ。人を見る目はあるんだ。これでも一応芸能界に居たりするから」
やっぱり芸能人なんだと思う。
「それにいつもヒビキから君達の話は聞いてたからね、実は初対面て気がしない。本当言うと、随分前から顔とか知ってたしね」
こんな有名人に知っていてもらえていたなんて驚きだった。
「そろそろ教室に戻るよ」
そう言う奏に、響が声をかける。
「昼休みも一緒に弁当食おうよ。中庭のベンチ集合な」
頷いて片手を上げると、奏は廊下に向かって歩き出す。その姿をクラスにいた女子のほとんどが目で追っていた。
響は残った二人を見て呟く。
「良いだろう? あいつを混ぜて」
「もちろん」
二人で頷く。
「あいつ生きてるだけで注目浴びて大変そうだよな」
「うん」
答えながら暫くは教室で弁当は無理そうだなと思った。そのうちみんなが慣れてくれるのを待ちたい。
昼休み、先日と同じ中庭のベンチで昼食をとった。
木々が生い茂った中庭は、木陰があるのでまだ過ごしやすい。
先日はベンチだけの場所に座ったが、今日はテーブルがある四人掛けの席に座る。
購買近くにも食事がとれる場所があるが、こちらの方が人が少なくて話しやすい。
「カナデの髪は地毛じゃなくて染めてるのか?」
ミズキが訊ねた。了は奏の茶色の髪を見つめる。他の人間よりも大分明るい金に近い茶色だ。
「ああ、うん。事務所の意向って感じ。本当はレモンイエローみたいな色にするように言われたけど、嫌だったからちょっと抑えた」
「髪の色に事務所の意向とかあるんだ?」
了が聞くと奏は頷いた。
「俺が売れてないから、もっと目立つようにって単純な作戦だよ」
「売れてない?」
呟く了に奏は苦笑する。
「売れてないよ。事務所にいるからたまに仕事がくるってだけで、一般人にはぜんぜん知られてない存在だよ」
了は芸能人には詳しくない。売れているとは、どういうレベルなのかも不明だ。
「今までどんな活動してたんだ?」
響がパンを齧りながら聞いた。
「小学校の頃はちょっとしたドラマの子役。その後事務所が変わって今の所に来てからは、事務所の先輩アイドルのバッククダンサーとか、あとたまにファッション雑誌のモデル」
「モデル……凄いな」
了が呟くと奏は眉を顰めて苦笑した。
「ぜんぜんすごくないよ。専属モデルとかじゃなくて、良くて1ページとか、2ページの扱いだよ」
「そ、そうなんだ。そんなに格好良いのに」
了が言うと奏は微笑んだ。
「格好良いって褒めてもらえたのは嬉しいけど、芸能界って顔が良ければ売れるワケでもないし、事務所の力とかコネとか、そういうのがあって複雑だよ」
「そうなんだ」
奏は聞かれた事に答えてくれていたが、その顔は晴れない。
芸能界の仕事が楽しくないのかなと感じた。
いろいろ話しているうちに昼休みも終了近くなった。
「なんか話したりないな! せっかくいつメンが増えたんだし、今日の放課後も集まって話そうぜ!」
「俺、部活があるから」
響が提案したが、ミズキがすぐに断った。
ミズキは書道部に所属している。とは言っても活動は週に2回位しかないし、運動部と違いゆるい部活だ。
それでも真面目なミズキは部活をさぼらない。
「じゃ、仕方ない。三人で話そう。お前ら暇だよな?」
響は了と奏に聞いてきた。
「売れてない芸能人なんで暇だよ」
自虐的に奏が言い、了も答える。
「予定ないし大丈夫だよ」
入学した頃は部活に入る事も考えたが、早く帰って宗親の家事を手伝う方が良いかと思い、了は部活には入っていなかった。
響は友達と遊ぶのに忙しいと部活には入っていない。
「じゃ、決定!」
響が明るく告げた。
放課後に集まった三人は駅前のファミレスに向かった。
お金がない時は学校のベンチで話す事もあるが、今日はドリンクバー目当てでファミレスとなった。
見慣れたチェーン店の前まで来た時だった。携帯を見ていた響が言った。
「ごめん、5組の友達と約束してんの忘れてた。俺、行かないとマズイわ」
「え……」
動揺する了に、響は笑顔を向ける。
「俺がいなくても大丈夫だよな? もし合流出来そうだったら後で連絡するよ」
返事も聞かずに響は駅方向に走っていった。
呆然と見送ったあとで、奏を見る。
正直どうしたら良いか分からない。
「とりあえず中入ろうか?」
聞かれてつい頷いてしまった。
店内はすいていて、二人なのに四人掛けのソファ席を案内された。
ドリンクバーで飲み物をとってきた後で、向かいに座る奏を改めて見つめる。
真正面から近距離で、この美貌の顔を見る事に緊張していた。
やっぱりどこからどう見ても美しい。整いすぎて怖い位だ。
「やっぱり俺と二人きりだと嫌かな?」
予想外の発言に目を見開く。
「嫌? 嫌って事はないよ!」
「そう? なんか困ってそうな顔してるから」
指でストローを弄びながら、上目遣いの悩ましいような表情で言われてドキリとした。
「嫌なんじゃなくて、まだ何話して良いかわからないって言うか、改めて近くで見るとやっぱりカナデは綺麗だなって……」
「綺麗なのは君の方なのに」
ポツリと呟かれた。綺麗? 自分が?
予想外の言葉に面食らいつつ、綺麗についてはスルーする事にした。お世辞的なモノだろう。
現にこの店にいる人間の多くが、自分ではなく奏に注目している。
「あれだね、カナデ程美形だと注目されて大変だね」
「ああ……でももう慣れたし、スルーする能力はついてるよ。あと人を見る目も出来てるしね」
「さっきも言ってたけど、人を見る目ってどういうヤツなんだ?」
「んーそうだね」
奏はストローでグラスの氷をかき回す。
「まず、顔で近づいてくるだけのヤツとかだね。俺の顔が好きだっていう女子とかは、まぁ、許せるけど、俺の顔を利用して女の子引っ掛けようって奴は大嫌い」
「あーそういう人か……確かにいそう」
「うん、いっぱいいるよ。合コンしようとか、誰か女の子紹介してくれとか。当然断るんだけどさ、そういうヤツらは仕返しに、今度はネットに俺の悪口ある事ない事書き込むんだよ」
「え……」
酷い話に言葉が出てこない。
「有名掲示板とかにさ、俺の名前書きこんで悪口書かれるんだけど、凄いよ、あっという間に1000件とかいくの」
「1000!」
凄い数字に大声が出てしまった。
「だから俺、SNSとか嫌いでしてない」
「あ、俺も何もやってない」
「知ってる」
奏はニコリと笑った。
「念のため確認しておいたんだ。リョウもミズキもSNSやってないよな。俺はそういう人が好き。あれって承認欲求の塊だろ。それをやってるヤツは要注意人物」
「でもヒビキはやってるけど?」
了は情報通で新しいもの好きだから、SNS全般に手を出している。
「人を見る目があるって言っただろう? 別に全員がNGってわけじゃない。ヒビキはSNSやってるけど、俺の写真を勝手に撮ってアップしたり、自慢したりするような奴じゃないって知ってる」
響を正しく理解してもらえていて嬉しかった。
それに奏がどんな嫌な目に遭ってきていたのか、今の話で分かった。
もう嫌な思いはして欲しくないなと思う。
「俺の父親が、ミステリー作家なんだけど、すっごい心臓が強い人なんだよ。本の感想をボロクソにレビューに書かれたりして、作品は、まぁ好みもあるから仕方ないって考えるんだけど、人格否定までしてくるも人もいるんだよ。会った事もないのにさ。でも父さんは、そんなの見に行かなきゃ良いってそれだけなんだ。腹が立つならエゴサーチはするな。見なきゃ何も書かれてないのと同じだって言ってるよ。そんなので心が傷つくのはもったいないって」
奏は笑みをこぼした。
「君のお父さんは良いね。さすがリョウのお父さんって感じ。うん、でも俺もそう思うよ。だから俺は基本SNSはしないし、嫌な人間とは付き合わない事にしている」
用心もあって教室でボッチと呼ばれる状況だったんだなと納得した。
「実は俺、結構グレてたんだよ」
「グレる?」
了の頭には昔のヤンキー漫画や映画の人物が浮かんだ。リーゼントの学ラン少年がケンカをするという映像だ。
「俺は結構な人間不信になってて、だいたいの人間が嫌いだった」
「あ……」
グレるとはそういう事なのかと納得した。
「芸能界も酷かったよ。先輩アイドルのバックダンサーやった時に、出番直前に衣装切られてさ。本当にこんなコトするヤツいるんだって思った」
それこそドラマのシーンのようだ。
「本番終わって楽屋戻ったら自前の靴がなくなってて、ゴミ箱に入ってたりとかさ」
どん引く話だった。了の周りでは今までそんな出来事はなかった。
「犯人はわからなかったけど、同じ事務所のヤツなのは確実だし、そんな奴らを友達だと思ってたのがバカらしくなった。みんな顔が良いのに性格は悪いんだなって、現実を知るハメになったよ」
奏が芸能活動を楽しく思ってないと感じていた。
でもそれはこういう事があったからなんだと分かった。
それに芸能界だけじゃなく、学校の友達も信用できないとなると、奏がグレてしまうのもわかる気がした。
「さっき、リョウの事を綺麗だって言っただろ?」
奏はソファから身を乗り出して顔を寄せてきた。
「それって顔って意味じゃなくて、存在って意味」
「え?」
美しい瞳が至近距離で了を捉える。
「俺がいた汚い世界で、リョウはキラキラと輝いて見えたよ」
ドキドキと心臓の音がうるさく聞こえた。顏も熱くなる。
「褒めすぎだよ。ミズキもヒビキだって良いヤツで信用できるだろ?」
奏はようやく了から離れて元の位置に戻る。
「うん、そう思う。ヒビキもミズキも良いヤツらだ。綺麗な心の人間は、やっぱりそんな人間に囲まれてるんだなって実感した」
自分はともかく、友人二人の事を褒められるのは嬉しい。
その時、テーブルに置いていた奏の携帯が反応した。
奏はすぐに手に取って確認する。
「ヒビキからだよ。今から合流するって。その後、リョウの家に行こうって言ってるよ」
「は? なんでうち?」
今度は了の携帯が反応した。画面を開いてみるとイラっとする文章が見えた。
『おじさんの許可はもう取ってあるよ! おやつ用意して待ってるハートだって!』
響と宗親が連絡先交換をして、やりとりしていたのは知っていた。
でも仲良くなりすぎじゃないかと複雑な気分だった。
「さっき話題に上がったお父さんに会えるって、ちょっと感動するな」
嬉しそうに空を見上げながら奏が呟いた。
家の玄関前で、了は改めて奏に向き直る。
「うちの親、本当にすっごく変だから! マジでヤバイから、変な事言いだしても無視して! あ、あと履歴書みたいな紙渡されても絶対受け取らないように!」
「履歴書?」
首を傾げる奏に、響が楽しそうに言う。
「おじさんマジで面白いから、楽しみにしてろよ!」
複雑な思いで了は玄関のドアを開けた。
「お帰り! いらっしゃ……」
出迎えに来た宗親が、奏の顔を見て固まった。
「は、はぐっ!」
胸を押さえて廊下に片膝をつく。
「これは幻か? あの超絶美少年がここにいるなんて!」
自分の事だと分かったようで、奏が頭を下げる。
「お父さん初めまして、咲田奏です。本日はお邪魔します」
宗親は鼻を押さえた。
「お父さん! お父さんだって!? 興奮して鼻血が止まらないよ!?」
はぁはぁと息をした後で、宗親は玄関にいる奏の肩をガシリと掴んだ。
「リョウとはいつからの付き合いなんだ? キスはいつどこでしたんだ? もうホテルには行った? あ、ホテル代もったいないから、いつでもリョウの部屋使って良いよ! 大丈夫、あそこは防音仕様になってるからね! それとも先に結婚しちゃう? 一緒に暮らしちゃう?」
「……」
奏は固まってしまった。申し訳なくて目眩がする。
「な、おじさん、面白いだろ!」
響は嬉しそうに言った。
「さ、良いから上がって上がって。おやつもあるよ」
「頂きます!」
響は慣れた様子で靴を脱いで、宗親と共に奥までどんどん進んで行った。
残された了は奏に謝る。
「本当にごめん、その……父さんはBLが好きな腐男子ってヤツで、ちょっと妄想が酷くて……」
人間不信の奏からしたら、自分でBL妄想されるなんて気持ち悪いと思うかもしれない。
更に奏の人間嫌いが増したらと心配になる。
「ああ、腐男子ね。俺とか芸能人って生モノってジャンルだっけ?」
「あ、あれ? 意外と詳しい?」
首を傾げた了に奏は言う。
「芸能界でも流行りのジャンルだよ。BLとか腐女子とか。それに昔から芸能人に同性愛者は多いからね」
「嫌じゃないの?」
「嫌じゃないよ。俺が嫌いなのは、人を利用したり嫌がらせしたりするヤツだから。趣味や嗜好はそれとは違うだろ?」
思いの他、奏の心が広い事に安堵した。
家にある一番高価なマイセンの茶器をだして、宗親は奏にお茶を出した。
機嫌の良さが窺える。
「いやー、ヒビキ君もイケメンだけど、カナデ君は本当に美少年だね。二人の間にリョウが挟まれてるなんて、これはどんな展開なんだ? もしや俺の目の前で、リョウを巡って二人が殴り合いのケンカをしちゃうのかな? いや、それよりも二人がかりでリョウを押し倒して無理やりおか……」
「それ以上言ったらこの高級ティーカップを顔面に投げつけるからな!」
了は全力で宗親の言葉を阻止した。
「ああ、ごめんごめん、リョウが素敵な友達を連れてきてくれたから、父さんテンション上がっちゃったよ! 父さん実は三角関係とか3Pとかも大好物なんだよ! あ、無理やりももちろん大好っあつっ」
了は紅茶をぶちまけていた。
「本当にかけるなんて酷いぞ! 家庭内暴力だぞ!」
「これでも食器は我慢したんだ! それ以上余計な事は口にすんなよ!?」
了は念を押した。横にいた二人はそんな了を呆然と見ていた。その視線に気づいて恥ずかしくなった。
ガサツな奴だと軽蔑されて呆れられただろうか。そう思っていると響が目を輝かせた。
「お前とおじさんのセットだと面白さ倍増だな! 漫才みてー」
「漫才じゃないから!」
つい突っ込んだら、横にいた奏が声を出して笑いだした。
「え?」
奏は満面の笑みで、楽しそうな顔をしていた。
「意外だったよ。リョウってこんなに元気に突っ込むんだ。本当に凄いな。周りが明るくなるし、やっぱりキラキラしてる」
「……キラキラはしてないと思うよ」
「うん、でも俺にはそう見える。やっと信じられる友達が出来て、俺は本当にラッキーだと思ってる」
奏が嬉しそうだったから、それ以上否定するのは憚られた。
響も満足そうに、奏をやわらかい目で見ていた。
夕飯の前に二人は帰って行ったが、その後も宗親はハイテンションでうるさかった。
突っ込み疲れるので、了は基本無視していた。
奏と過ごす時間が増え、暫くすると四人でいるのが当たり前になった。
その頃にはクラスメイトも奏の存在に慣れたようで、好奇心のような視線はなくなった。
「おじさんに聞いたら、今日も遊びに行って良いって言うから、また了の家に行かない?」
休み時間に響が言いだした。
「ごめん、俺は今日も部活」
「あーそっか、そうだよな」
響はミズキから奏に視線を移す。
「俺は大丈夫。売れない芸能人だから」
「自虐ネタ多いな」
突っ込みながら響は了を見る。
「お前に拒否権はないから」
「何でだよ!?」
予定はないし、友人達が家に来るのは問題ないが、宗親の存在は問題ありありだった。
放課後、響と奏と三人で学校最寄りの駅に向かっていた。駅から尾崎家までは電車に乗って30分位の距離だ。
「何かお土産とか買っていった方が良いかな?」
奏が言うので手を振って止める。
「いや、大丈夫。まったく何もいらないよ。あの人、お菓子も自分で作れるし」
「そうだけど、毎回ご馳走になるだけじゃ悪いかなと」
「平気、平気、むしろカナデが来てくれるってだけで狂喜乱舞だよって、あれ?」
横にいたはずの響が立ち止まっていた。その手には携帯がある。
「ごめん、1組の友達と約束してたの忘れてたわ」
「またかよ?」
呆れつつ了は呟く。それにしても友人が多い。
「悪いけど今日はお前らで遊びに行ってよ。俺はこっからバスで友達ん家行くから」
響は道路を渡り、バス停に向かって走っていった。
呆然と見送った後で、奏を見上げる。
「えっと、どうする? 返事も聞かずにヒビキ行っちゃったけど」
「俺は暇だから、リョウと二人で遊びに行くんで構わないよ」
「ああ、俺も良いよ」
以前のように何を話して良いかと、緊張する事はなくなっていた。
奏に人間嫌いや人間不信を打ち明けられてから、心を開いて話せているように思う。
それに宗親の腐男子を気にしないでくれているのも有難かった。
「……」
このまま二人で家に行ったら、宗親が大喜びする事に気付いた。
それは実に腹立たしい展開だ。
了は奏の肘をつまむ。
「あのさ、○○駅に遊びに行くっていうのはどう?」
「え?」
急な予定変更に奏は戸惑った表情をしたが、すぐに微笑む。
「良いよ、ウインドウショッピングとかする? それとも何か食べに行く?」
「とりあえず行ってみてから考える。あと父さんには連絡しておく」
了は携帯を取り出した。
○○駅は大きなターミナル駅なので、電車から降りる人間も多かった。
ホームから改札に向かっていると、隣にいた奏が小走りで階段に向かった。
見るとカートを引いたお年寄りの荷物を持って階段を上がりだした。
階段を上った先で、奏に声をかける。
「すごいスマートにお年寄りを助けるんだな。めちゃくちゃ格好良かった!」
素直に伝えたら奏は何故かクスリと笑った。
「これはリョウの真似だよ」
「え?」
奏は微笑んで了を見つめている。
「俺が初めてリョウを見た日。リョウは学校近くの駅で、同じようにカートを持ったおばあさんに声をかけてた」
「え、え、見てた? 初めて?」
「前にも言ったと思うけど、教室で話す前からリョウの事は知ってたんだよ。駅でお年寄りを助けてるの何回も見たし、学校の購買で、惣菜サラダがバランス崩して倒れそうになってるのを支えてあげてたり、そういうのを見かけた」
「なんかハズイな」
「でも俺は感動したんだよ。世界が真っ黒に見える位にグレてたから、こんな善良な人間がいるんだって感動した」
「いやいや俺より良い人はいっぱいいるって。そもそもミズキのが、よくお年寄り助けてるよ」
「ああ、そうかもしれないな。ミズキも凄く良いヤツだ。でもたまたま俺が見たのはリョウだったんだ。リョウだけが輝いて見えた」
「大げさだよ!」
照れ臭くてリョウは早足で改札に向かった。顔が熱かった。
本屋やカフェがあるファッションビルに行こうという事になった。
そこに向かって歩いていると、道の途中にゲームセンターがあった。
「ちょっと覗いても良い?」
了が訊ねると奏は頷いた。
「いいよ、入ろう」
店内に入ってグルリと見渡す。出入口付近にクレーンゲーム。奥にアーケードゲームが設置されていた。
「なんかこの雰囲気久しぶり」
「音がうるさい感じ?」
「そうそう、前にヒビキやミズキと来たりしたなって思いだした」
「あっれー、カナデちんじゃない?」
聞こえた声に二人で振り返った。見るといかにも怪しげな人物がいた。
帽子を深くかぶり、眼鏡にマスクという格好だ。
「相場さん?」
奏が呟いた。
「そうそう、久しぶりだな」
誰? と思っていると相場と言われた人物は了を見た。
「もしかして君、俺の事わかんない?」
「えっと……」
相場は眼鏡を外し、マスクをズラした。
驚くほどのイケメンが現れた。名前は知らないが、テレビで見た事があるような気がする。
「えっとカナデの先輩?」
「……うん、事務所の先輩で相場弘樹さん」
二人の会話に相場は帽子も取って見せる。
「うわー、本当に知られてないんだ、俺。結構テレビに出てる俳優なのにわからない? ショックだなー。それにしても……」
相場は了の顔を覗きこんだ。
「随分かわいい子連れてるね。うちの事務所の子?」
「違います。学校の友達です」
「ああ、制服だもんね。それにしても一般人でこのレベルって凄いね。さすがカナデの友達」
相場は了の顎をつまんで持ち上げた。
家族以外の年上の人間と縁がないので、20代らしいこの男の行動に若干の恐怖を覚えた。
相場はニコリと笑った。
「丁度、今夜遊ぶ子を探してたんだ。カナデ、この子、今晩貸してよ」
「え?」
とんでもない発言に面食らう。宗親の妄想ではなく、本当にこんな事を言われるなんて信じられない。
「ああ、ただでとか言わないよ。俺さ、来年深夜のドラマの主演決まってるんだ。この子をくれたらカナデにも役貰えるように、監督に話つけてあげるよ。そろそろカナデも大きい役欲しいでしょ?」
胸の奥が重くなった。
言葉を聞くだけで汚される。そんな内容だ。
「お断りします」
奏はキッパリと言うと、了の手を握った。
「俺、芸能人として売れたいとか思ってないんで!」
奏は了を引っ張って出口に向かう。了は早歩きで必死についていく。
奏の言葉に了は安堵していた。
暫く無言で歩いていたが、繁華街を抜けた橋の上で奏は立ち止まった。
「ごめん、先輩が変な事言いだして」
「いや、うん、大丈夫」
言われた時は驚いたし嫌悪感でいっぱいだったが、今は落ち着いていた。
外の風を浴びたせいかもしれない。
それに奏がきっぱっり断ってくれた事が嬉しかった。
「俺が人間不信の人間嫌いになったのが分かっただろ?」
「うん」
奏の顔は暗かった。最近はこんな顔をする事は少なかったのに。
「芸能界はああいうの多くて、もうウンザリなんだよ」
「うん」
「それに先輩とか、力持ってるからって偉そうだしさ」
「うん、わかる。でもそうでない人もいるんだよね?」
奏は顔を上げた。
「少なくともカナデはそんな人間じゃない。だから良いんだよ。俺もああいう人は嫌いだ。でもカナデがそんな人間にならないならそれで良い。それにミズキやヒビキみたいな人もいるんじゃないの? 良い人は芸能界にまったくいない?」
険しかった奏の顔が少し緩んだ。
「うん、そうだな。良い人もいるよ、マネージャーとかスタッフさんとか、確かにいた」
「そうだよね。良かったよ、カナデの側にちゃんと信用できる人がいてくれて」
今度こそ奏は笑顔を見せた。
「今はリョウやヒビキやミズキだな」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
家に帰るとしょんぼり顔の宗親に出迎えられた。
「なんでカナデ君を連れてきてくれなかったんだよーー!!」
「父さんがうるさいからだよ」
「でも二人でどこか出かけたんだよな? どこ行ったんだ? ゲーセン? カラオケ? ホテル? ラブホテル?」
「行ってないから!」
いや、ゲーセンには行ったなと思ったが、訂正も面倒くさかった。
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ハイテンションの宗親に呆れていたが、その時気付いた。
何もかも宗親の望む展開になっている。
翌日、登校した了は響にだけ、こっそり声をかけた。
以前ミズキを呼び出した時と同じように、廊下の奥の人気のない場所に連れ出す。
「ヒビキ、お前に聞きたい事があるんだけど、要件わかるよな?」
いつもより低い声で了は訊ねた。
響はいつもと違いおとなしかった。
「あーやっぱ気付いた?」
了は腕を組んで怒っているという顏を一応作る。
そこまで怒っているわけではないが、言うべき事は言わないといけない。
「この前からのお前の行動は、よくよく考えてみるとおかしかった。いきなりカナデと友達になって教室に連れてきたり、ミズキの部活の日を選んでは出かけようと誘ってきて、お前だけドタキャンをする。それも何度もだ」
響は観念したような顔をしていたので、了は一気に言った。
「俺とカナデが二人きりになるように、わざとしてただろう?」
響は叱られた子供のように小さくなった。
「その……ごめん」
「いいよ。ヒビキは頼まれただけだろ?」
響の目が泳ぐ。庇うべきか考えているんだろう。
暫くの間の後で、肩を小さくして響は頭を下げた。
「ごめん、頼まれたのを断れなかった」
了は息を吐く。
「別に良いよ。父さんが無理言って頼み込んだんだろうし」
「え?」
響は顔を上げて首を傾げた。
「ん?」
違和感に気付いた。
「あれ、父さんに頼まれたんじゃないのか?」
響は首を振った。
「いや、おじさんは関係ない。俺が頼まれたのはカナデにだよ。お前と友達になりたい、二人で話したいってさ」
予想外の展開に了は固まっていた。
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