父が腐男子で困ってます!

あさみ

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神社巡り

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ミンミンとセミの声が響く夏日だった。

こんなに暑いというのに観光地は人であふれかえっていた。
「すごい人だね」
呟いたミズキに顔を向けて頷く。
「平日だし、そこまで混んでないと思ったのにな」
「まぁ、でも夏休みだしね」
目の前には駅から続く、食べ歩きで有名な通りがある。左右に並ぶ飲食店や雑貨店の数々は人であふれていた。
ソフウトクリームや蜂蜜パンケーキなど興味を惹かれる看板が目につく。

「こっちの方がすいてると思うよ」
ミズキに腕を引かれて右の大通りに向かった。
「おお!」
巨大な鳥居が見えた。どうやらこちらは神社へと続く参道のようだ。

ミズキに神社巡りに付き合って欲しいと言われたのは昨日の事だった。
予定がなかった了は快諾した。
宗親の影響もあり、元々神社は好きだった。
神社の持つ神聖な雰囲気も良いし、各神社にまつわる伝説などは小説のようで面白いと感じていた。

「ミズキって神社好きなんだな」
歩きながら了は訊ねた。
「もともとはそんなでもなかったけど、この前の旅行でおじさんが神社の説明してくれたのを聞いて、ちょっと興味を持ったんだ。調べてみたら古事記とか結構面白かったし、御朱印集めもしたくなったんだ」
「ミズキも古事記にハマった? 最近はラノベみたいに読みやすい文章の本もあって分かりやすいよな!」
「そうだね、文章が読みやすいと普通の小説みたいだよね」
「昔からスサノヲとかヤマトタケルとかは有名だしな。ヤマタノオロチ退治とか、草薙の剣の話とか」
「ああ、そうだね。記憶がごちゃごちゃになっていたのが、古事記を読んだらよくわかったよ」
話していると目的の神社についた。

巨大な鳥居の前で一礼すると端を歩いて進む。
「お、花が咲いてる!」
了は左手にあるピンクの蓮の花に気付いた。
「そっちの池は赤い花で、右手の池は白い花が咲いているらしいよ」
あらかじめ調べてきていたのか、ミズキが教えてくれた。

拝殿に参拝し、御朱印をもらった後で蓮の花咲く池の前に戻ってきた。
するとミズキが池の中にある小島に向かう。
朱い鳥居とのぼりが見える。
「弁財天だな」
了は納得して呟く。
弁財天は川、池、湖などに祀られる、水にまつわる神だ。
歩いて行くと弁財天社の裏に出た。朱塗りの柵の中に石が置かれていた。
何故かミズキはその石に向かって手を合わせていた。
了はその間に弁財天に参拝し、近くの白い蓮の花を眺めた。
蓮は泥水の中から咲く美しい花だ。

蓮の花は自分の顔と同じ位の大きさだった。想像よりもずっと大きい。
スマホで写真に収めているとミズキが戻ってきた。
「そんなに乗り出すと落ちそうで怖いな」
「大丈夫だよ。落ちてもこの池は深くないから!」
「そういう問題かな?」
ミズキは首を傾げたあとでスマホを取り出した。
無言でシャッターを切る。
「え、今、俺を撮った?」
聞くとミズキは頷いた。
「白い蓮の中にいるリョウが綺麗だったから」
顔が熱くなった。真顔で言われるとどう反応して良いか困る。

「じゃ、じゃあ、次行こうか!」
歩き出したが、行先はすべてミズキ任せだった。
すぐに振り向いて訊ねる。
「次はどこだっけ?」
だいたいの予定は聞いていたが、道順はミズキが調べてくれていた。

「次は結構山の方だよ。大丈夫?」
「ああ、歩きやすいスニーカーで来たから大丈夫!」

大丈夫と言ったが結構キツイ山道だった。
この辺りはハイキングコースにもなっているらしい。
舗装されていない、土の道は足にくる。
けれど山の中なので、日差しが遮られる分、先ほどよりも涼しく感じた。

「今向かっているのは稲荷神社なんだ」
「おお、稲荷! ウカノミタマ!」
つい知っている情報を叫んでしまった。ミズキがニコリと笑う。
稲荷神社はウカノミタマという穀物の神様を祀っている。眷属は狐が常識だ。
「これは狐の狛犬が出迎えてくれるパターンだな?」
「うん、そうらしいよ」
「よし、狐推しか! ちょっと元気が出た!」
了は張り切って歩いた。

山道は大分険しく、苦労して目的地にたどり着いた。
山の上にあるせいか先ほどの神社より参拝者は少なかった。
けれどその場所はとても素晴らしい場所だった。

「すごい! 鳥居がいっぱい!」
京都の千本鳥居ほどではないが、無数の鳥居に出迎えられた。
どうやら49基の鳥居があるらしかった。
了はついスマホのカメラでたくさん写真を撮ってしまった。
ミズキも同じように写真を撮っている。
時折自分を撮られているように感じたが、気にする事でもなかった。


「うわ! 予想以上に狐だ!」
境内に入ると更にテンションが上がった。
古い石の祠が無数あり、そこに狐の像がいくつも置かれていた。
「なにこれかわいい! なんかファンタジーな感じなんだけど?」
小さな祠の前に小さな鳥居、それを囲うように置かれた狐の像はアニメの世界のようだった。

「あ、水があるんだけど、これって飲めるヤツかな?」
了は霊狐泉と書かれた場所に近寄る。
「それは飲めないらしいよ」
手にすくっていた水を慌てて捨てた。危うく飲む所だった。

拝殿にお参りして御朱印をもらった後、本殿に向かった。
そこにも狐がたくさん置かれていた。
「ここでお祈りすると出世するらしいよ」
「マジか」
ミズキに教えられて、了も手を合わせた。
将来何になりたいとも、まだ何も考えていなかったが、とにかく人生の成功や世界平和を祈っておいた。

気付くとミズキは観音菩薩と書かれた場所で手を合わせていた。
「ここはなんのご利益があるの?」
「良縁だよ……人間関係に悩んでいる人にもおすすめらしい」
「人間関係……」
呟きながら了も手を合わせた。
宗親も含め、ちょっと困る人たちもいたが、良い人達に囲まれていると思っている。
すでに良い縁をもらえている事を了は感謝した。



「次はどこに行くの?」
気持ちの良い山の空気を吸いながら聞いてみた。
ミズキはスマホで地図を確認しながら答える。
「ごめん、また山なんだけど……」
「や、山か、うん、大丈夫……」
「ここから登る感じかな……」
ミズキが山道に向かっていく。どうやらハイキングコースのようだった。

目的の神社は山の高台にあるらしかった。
山道を暫く歩くと舗装された歩道に出た。

「や、やっと着いた」
神社の駐車場について一息ついた。
木々の間から見える景色を眺めてみる。見渡す限り山や緑の木々ばかりで、大きなビルなどは何も見えなかった。
「マジで山だな。日本昔話的な、すごい山の奥に来たって気分だ」
そうは言っても道は舗装されているし、開けた駅前からは40分程度の距離だ。

石造りの小さな鳥居をくぐった後で拝殿に向かった。
高台のせいか、夏なのに涼しく感じる。

歩いているとハートの絵馬が目についた。
かわいらしい形なので、女の子が好きそうだなと思った。

参拝して御朱印をもらった後、ミズキは御守りを買っていた。
見ていると、5円玉に赤い紐がついた物を大きな石に結び付けている。
「え、これって俺も結んだ方が良いのかな?」
「5円玉はお守りを買うともらえるようだよ」
ミズキが教えてくれた。
神社は好きだが買うとキリがないので、自分のお守りは買わない主義だった。
了は5円玉を結ぶのは諦めた。

「次はどうする?」
またもミズキに丸投げで聞いてみた。
「そろそろご飯にする?」
「する!」
了は勢いよく答えた。
山を登ったせいか、さっきからお腹がすいていた。
「この辺り一体が公園になってるみたいだから、良さそうな場所探して食べようか?」
「賛成」
ミズキと山の中の神社に出かけると話したら、宗親がお弁当を用意してくれた。
遠足かよ!? と突っ込みを入れたのだが、結果としては正解だった。
ハイキング中に食べる弁当は美味しい物だ。

有名な武将の像が見える、広場のベンチに座り弁当箱を広げた。
もちろんミズキの分と二人分だ。

「おじさんのお弁当は相変わらず豪華だね」
「ミズキがいるから張り切ってたよ」
「でも毎回リョウが好きな唐揚げとか卵焼きが入ってるよね?」
「まぁ、うん、でもお弁当の定番じゃない? あ、おにぎりにシャケ入ってる!」
了がテンション高く言うとミズキが微笑んだ。
「やっぱりおじさんはリョウの事大好きなんだなって思うよ。シャケだけでこんなにリョウが喜ぶの知ってるんだから」
「なんか俺って安上がりで単純じゃない?」
聞くとミズキは首を振った。
「素直だなって思うよ。俺もリョウをもっと喜ばせたいし笑顔にしたいなって思う。でもおじさんにはまだちょっと敵わないな」
ミズキの告白にドキドキしてしまった。
口説いているというより、正直な気持ちを打ち明けられていると感じる。
そしてそれは口説かれるよりもクルものがある。

「実はさ、カナデから連絡があったんだ」
「え?」
おにぎりを持ったままミズキを見つめる。
「抜け駆けしてリュウの家に遊びに行ったからゴメンってさ。だから俺にも二人で過ごして良いからとか、気遣うような内容だった」
「そ、そうなんだ……」
ミズキは微笑んだ。
「カナデってやっぱり良いヤツだよね」
「あ、うん、それは俺もそう思う」
ミズキは頷く。
「派手な見た目だし、人間嫌いで他の人達には冷たいけど、リョウや俺達には心を開いてくれているし、ああ見えてけっこう真面目だよね」
「うん」
「俺、カナデの事も好きだよ」
ミズキの発言にドキリとした。
それは恋愛って意味ではないだろう。そうは思っても少し緊張してしまった。
「もちろん友達としてだよ?」
「あ、うん、わかってる」
そう答えながら安堵していた。
「あと恋のライバルとしても最高だなって思ってる」
「え?」
言葉に詰まった。ミズキは微笑したまま続ける。
「尊敬できるし、大好きな友達だから、もしもリョウがカナデを選んだら、俺は潔く身を引けるし、応援できると思う」
「……」
「ごめん、別に俺が許可するとかそんな立場でもないよね」
「あ、いや、そんな事は……」
「もちろんリョウが誰を選んでも、俺以外だったら身を引くしかないんだけどね」
了は何も言えなかった。
今現在、二人のうちのどちらを選ぶという所まで考えていなかった。

「おにぎりは全部シャケみたいだね」
話題を変えようとしたのか、ミズキはおにぎりを齧って微笑んだ。
「うん、シャケ……美味しいよな」
「そうだね、俺も好きだよ」
おにぎりの事だとわかっているのに、好きと言う言葉が耳に残った。

食事を終え、記念写真を撮った後でミズキは地図アプリを開いた。
「今度はどこに行くんだっけ?」
了は画面を覗きこんでみる。
「近いからこのお寺に行こうかと思ってるんだ」
ミズキの指さした場所を見た。
「この山を下ってすぐみたいだな」
二人でハイキングコースに向かった。

休憩して食事をしたせいか、疲れが取れた気がした。
先ほどよりも足が軽かった。

下りの道を暫く進んでいると分かれ道に出た。案内の表示は出ていない。
「どっちだろ?」
了が呟くとミズキがスマホの画面を開く。
「ん-、目的地のお寺がここだから……右?」
了も覗きこんでみた。
「確かに右っぽい」
「でも道の大きさが左の方が広いんだよね。右はこの先細くなってるよね?」
「そうだね。でも行けないなら、行けないって書いてあるだろうし、看板ないならどっちも行けるって事じゃないかな?」
「そう、かな……?」
ミズキは顎をつまんで慎重に考えている。
けれど了は楽観的だった。

「大丈夫だよ。駅まで20分位の山で遭難もないし、行けるよ」
「確かにそうだね」
「うん、いざとなったらこの地図みたいにまっすぐ突っ切ったら目的の寺に出るよ!」
了の発言をミズキは笑った。
「そうだね、いざとなったら飛んでいこうか?」
「うん、飛べる飛べる!」
二人でテンション高く右の道に向かった。

最初は順調だった。下り坂をテンポ良く進んでいけた。
だが途中で道が細くなった。
「なんか獣道って言うか、人が踏み入った感じが少ないと言うか……」
雑草が道を覆っている場所が多くなった。
人が頻繁に歩いていれば、当然、草は踏まれているはずだ。
つまりこの道は人がほとんど通っていないという事だった。
了は嫌な予感を覚えた。

「えっと、今更だけどこの道大丈夫かな?」
言われたミズキはスマホを出して地図を確認する。
「方向的には問題はないんだけど……」
方向は合っていても、この先、道がなくなって、行き止まりの可能性もあるだろう。
戻るべきなんだろうか。
そもそも最初の分かれ道の後から一回も案内表示が出てこない。
一本道だったから出てないだけかもしれないが、不安が募る。

「ごめん、ミズキは慎重だったのに、俺が何も考えずに右って言ったせいだ。多分こっちは正しい道じゃないんだと思う」
了は絶望感に包まれながら呟いた。
「誰ともすれ違わないし、そもそもすれ違う幅もない。観光客やハイキングの人が通る道じゃないって事なんだ」
自分で言いながら、追い込まれていった。
どう考えてもこの道は間違いだった。

「少し休憩しようか?」
「え?」
ミズキが微笑んだ。
「歩きっぱなしだったからね、休んで水でも飲んだら落ち着くよ」
了を安心させてくれようとしているんだとわかった。
「そんなに悲観しなくても良いと思うよ。行き止まりなら封鎖されて通れないようにしてあるか、看板が出てると思うし、通れないって事ではないと思うよ」
「うん……」
頷いたが不安は晴れない。
ミステリーだと、他の人間が間違って看板や表示を倒して見えなくするなどありがちだ。
でもそれを言ってミズキを不安にさせたくはなかった。
「うん、じゃあ休もうか」
言ってから気付いた。

「そうだ、父さんがお菓子を用意してくれてたんだよ!」
了は鞄からそれを取り出した。
「小腹がすいたら食べろって言われたんだ」
袋を開けてみた。
「マカロン?」
手作りのマカロンだった。
「え、山でマカロンって斬新なんだけど。ハイキングでマカロンってなかなかないよな?」
首を傾げる了にミズキは頷く。
「でも、良いかもしれないよ。マカロンって高カロリーだし、遭難しても三日位生きていけそう」
「遭難!?」
いや、確かに今現在遭難してるのではないかと思った。

「取りあえず元気出そうだから食べようか?」
了が言うとミズキが頷いた。
「そうだね」
宗親の作ったマカロンはやはり美味しかった。
そもそもマカロンは作るのが難しい事で有名なお菓子だ。
すぐにひび割れたり、焦げてしまう。

最初は何故にマカロンと思ったが、荷物としてはガサばらず、軽くて持ち運びしやすい。
エネルギー源としてはチョコが良さそうだが、夏場は溶けてしまう事を考えると、マカロンはで良かったと思えた。

「あ、水終わっちゃった」
了はカラになったペットボトルを見つめる。
暑さのせいでついたくさん飲んでしまっていた。
「俺のでよければ飲む?」
「いや、悪いから」
「まだたくさん入ってるから大丈夫だよ」
了はミズキの飲みかけのペットボトルを受け取った。
「ありがとう」
一口飲んで返すと、ミズキもそれに口をつけた。
ドキリとしてしまった。
遭難(?)している最中に意識するような事ではないと思ったが、ドキドキが止まらなかった。
そもそも一人だったら泣き出したいような状況だった。
このまま町につかないんじゃないかと思うと怖くて仕方ない。
110番だか119番だかに電話して、救助してもらいたい気分だ。
それを何とか堪えて頑張っていられるのは、ミズキが傍で安心させてくれているからだ。

「うん、お菓子も食べたし元気が出たぞ!」
了は声に出して言ってみた。幸いまだ日は高い。
暗くなったら本気で泣くが、お日様が出ていれば、なんとかなる気がした。
「よし、行こうか」
「うん」
了は張り切って踏み出した。滑った。
「うわ!」

滑落した。転落だ。斜面を落ちる。
そう思ったが、ミズキに腕を掴まれて抱きしめられた。
ミズキの胸に顔をうずめて踏みとどまる。
見下ろした斜面は夏草に覆われていた。
草のせいで深さは分からなかったが、落ちたらケガの可能性もありそうだった。

「リョウ、大丈夫?」
抱かれたまま聞かれ、顔を上げた。
「うん、大丈夫……助かった……」
目が合った。
滑落の恐怖がなくなると、顔の近さにドキリとしてしまった。
「あ、ありがとう」
照れくさくてミズキの腕から逃れた。
「気をつけて」
「あ、うん、気をつける」
了は慎重に足を進めた。

相変わらずの獣道だった。なだらかだが坂道になっているので、山を下っているのは間違いないと思えた。
「リョウ、見て」
ミズキに言われて斜面を見た。下に民家の屋根が見えた。
「家がある! この道の先に繋がってるのかな?」
「多分そうだと思うよ」
家が見えただけで安心した。どんどん足が軽くなる。
「もう少しで山から出られそうだよ!」
斜面がゆるくなってきた。家もどんどん近くなる。更に他の家々の屋根も見える。
「見て、洗濯物が干してある!」
普段ならだから何だという事だが、日常の世界に戻ってこられた気がして嬉しかった。
山道を歩いている時には最悪、ここで一晩過ごすのではないかと思ってしまっていた。

気付けば道が舗装されたアスファルトになっていた。
了は振り返ってミズキに言う。
「ミズキついたよ! 山から抜けられた!」
「そうだね、良かったね」
「うん、やったよ!」
ついミズキに抱きついてしまった。
「りょ、リョウ?」
困惑した様子のミズキの声に我に返って離れる。
さっきまであんなに不安だったのに、ごく普通の民家や洗濯物、無造作に置かれた自転車などを見だけで安心した。
「あ、見てミズキ」
了は指をさした。すぐ先に目指していた寺の看板が見えた。
15メートル先が目的地だった。

「ふ、ふふ……」
了は笑いだしてしまった。
ミズキも一緒に笑う。
「あはは、何だよ、結局道は合ってたんだよ! しかもちゃんと近道だった!」
「そうだね」
ミズキは微笑んだまま了の首に腕を回した。かけられた体重が心地よかった。
そのままじゃれ合うように一緒に進む。
安堵したせいか笑いが止まらなかった。
「ほら、ほら、着いたぞ」
「ああ、そうだね」
寺の前で二人で顔を見合わせて再び笑った。

敷地内に入ると笑いは自然と収まった。
境内にはいろいろな花が咲いていた。薄紫のアガパンサスが涼し気に見えた。竹林も見事だった。
寺は神社とはまた違った趣があった。
仏像が置かれ、崖に掘られた洞窟もある。
了は洞窟の案内の前で足を止める。

「なんか洞窟も怖くない? 今度は洞窟から出てこられない的な……」
またミステリーあるあるが頭に浮かんだ。
ミズキは先に洞窟を覗きこんだ。
「すごく小さいよ。向こう側が見えてるし」
「あ、本当だ」
洞窟という程の物ではなかった。その小ささにまた二人で笑ってしまった。

了は楽しくて仕方なくなっていた。
不安で心細かったすべてが解消された。それだけでこんなに楽しい。
何を見てもしても楽しい。

寺から出て駅に向かう道を並んで歩きながら、了はミズキを見る。
「ミズキ、今日は誘ってくれてありがとう。すごく楽しかったよ」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
「山で遭難したと思った時は泣きそうだったけど、でもミズキが一緒にいてくれて元気出た。それに今思うとアレが一番の思い出って感じ。多分一生忘れない」
「リョウ」
ミズキが立ち止まった。つられて了も止まる。
寺から続く細い道で、二人は見つめ合う。
ミズキは真剣な顔をしていた。

「本当の事言うと、さっきまわってきた神社は、全部縁結びで有名な神社なんだ」
「え?」
「最初の神社の弁財天の裏の石や、次の場所の観音菩薩や、その後の5円玉を石に結ぶのも、全部縁結びの願掛けだったんだ」
そう言えばハートの絵馬など、それっぽい物があった。

「俺の願いはもちろんリョウとの事だけど、一人で来るより本人と一緒に来た方がご利益があるんじゃないかって思っての事なんだ。黙っててごめん」
ミズキは頭を下げた。
「え、いや、別に謝られるような事ではないと思うし……神社は好きだし、えっと……大丈夫だよ?」
了が言うと、ミズキは下げていた頭を上げた。

「まぁ、神頼みがどこまで効果あるのかわからないけど、俺は普通に楽しかったから、何か気にしてるなら気にしないで良いよ」
「……リョウ」
「あ、カナデに悪いとかも言いだすなよ? 神様にお願いするのはズルではないと思うし、カナデもお祈り位してるかもしれないしな」
ミズキはニコリと笑った。
「そうだね、胸の内ではいつだってみんな何か願ってるモノだよね」
同感だった。

人はみな何かを願って祈って生きている。
宗教とか神様とか、誰にではなく、胸のうちで自分に誓っているんだ。
強く思えば願いは叶うと信じて。

了が再び歩き出すとミズキも後に続く。

「でも正直、今日のお参りの効果はもう出てるような気がしているんだ」
「え?」
横に並んだミズキの顔を見上げる。

「リョウを抱きしめる事が出来たし、抱きしめられたし、肩を抱いて歩くことも出来た。何よりいっぱいリョウが笑って、一緒に笑えたから、今日は最高に幸せな日だなって思ってるんだ」
ミズキの笑顔が眩しかった。
正直な言葉も胸に刺さった。

恋愛という意味ではないと思う。
でも今日、ミズキの存在にたくさん助けられた。
こんな風に笑うミズキを見ると嬉しくなる。

恋愛ではないが、今日、確かにミズキとの仲が一段深まったような気がしていた。




駅前のファミレスで二人で夕食を食べた後、帰途についた。

家に帰ると宗親が玄関まで迎えに来た。
「お帰り、ミズキ君とのデートはどうだった?」
「デートじゃないし」
言いながらカバンを置いて、持ち帰ったゴミを分別して捨てる。
マカロンが入っていた袋を取りだすと、麦茶を淹れている宗親に訊ねる。

「なんで今日のおやつはマカロンだったんだ?」
「ああ、神社に行くって言ってたからな、山で遭難するんじゃないかって思ったんだ。マカロンは軽いし栄養補給に良いだろう?」
「なんで遭難するってわかったんだ!?」
本気でわからなかった。
驚愕する了に宗親は頷く。

「なんでって父親だからに決まってるだろう?」
「え、え、わかんないよ? 親ってだけでわかるか?」
宗親はニコリと笑った。

「いやー父さんも昔あの山で遭難しかけた事があったんだよ。ヘタに地図とか見ると最短ルート行きたくなるだろう? 獣道でもさ。それで遭難しかけたんだよ。そんな俺の息子なんだから、当然同じ間違いを犯すだろうという読みだよ読み」
「だったら行く前に注意してくれよ!」
「それじゃ面白くないだろう?」
「あやうく泣くところだったよ!」
宗親は嬉しそうな顔をする。

「泣いたのか? 泣いてミズキ君に慰められて涙を口で吸われたのか? そのままキスになったのか!?」
「ならないよ!」
「なんだー。どうせなら一晩山小屋で過ごして朝を迎えるという少女漫画的イベントも期待してたのに」
「あの山にそんな本格的な山小屋とかないから!」
「冷えた体を裸で温め合うという鉄板の展開だな!」
「夏だから冷えた体とかないから! あと山小屋ないって言ったから!」
いつもと同じ一日の終わりだった。

「ほらほら、そんなに興奮しないで、麦茶でも飲んで落ち着けって」
宗親は麦茶を差し出した。
「あ、ありがとう……」
了は素直に受け取って一口飲んだ。

「えっと、あとこれお土産」
了は宗親に買ってきた物を渡した。
「おお! この袋はなんだ? もしやミズキ君とのキスシーンを印刷したストラップか!?」
「そんな物があるワケないだろ! 普通にお守りだよ! 健康守り!」
「ん、そっか、ありがとうな」
「反応が薄いな!」
「いや、嬉しいよ」
宗親が珍しく素直に普通の笑みを見せた。
了はそれを見てドキリとした。
素直に感謝されると、それはそれで照れた。
宗親が腐男子をオープンにしたせいで、最近は突っ込みばかりだったので、普通の会話がこそばゆい。

「えっと、風呂に入ってくる」
了は照れを誤魔化すように呟いた。
「ああ、沸いてるからどうぞ。2時間位入っていても良いぞ」
「2時間? なんでそんなに長く?」
「んー、お前がいない間にさっきミズキ君に送ってもらった画像チェックしておくから、良いのがあったらパネルにしたいしね」
「何で画像もらってんだよ! 言っておくけど、今回は期待してるような腐っぽいのはないから!」
それには自信があった。
今回は二人で出かけたから、第三者に撮られたBLっぽい写真はないはずだ。
いや、でも公園で記念写真を撮ってもらったな。自撮りしてたら、親切に撮ってくれると言ってくれた女の人がいた。
もしやあれは仕込みだったのでは? 
それに山から下りた後でテンション高くなって、つい抱き合ってしまったが、もしかして仕込みの人がつけて来ていたとしたら?

「お、これは良い写真じゃないか?」
「どれだ!?」
了は宗親のスマホを覗きこんだ。
画面に写っていたのは、無数の朱い鳥居の中にいる自分の姿だった。
「……」
「ん、どうした?」
「いや、何でもない。風呂に行く」

普通の写真を『良い』と言った宗親に言葉が出なかった。
照れくさい。
こんなに恥ずかしいなら、いつもの腐男子発言の方が良いかもしれないと思った。
「いや、俺もおかしくなってるだろ!」

了は廊下を歩きながら自分に突っ込んだ。




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