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大家族
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第二回、家庭訪問という事で、了は友人達と一緒にミズキの家に来ていた。
小沼家はまだ新しい一戸建てだった。
両親は共働きという事で、すぐに二階にあるミズキの部屋に案内された。
そこは必要最低限の物しか置かれていない、シンプルな部屋だった。
勉強机の上には文房具や本すら置かれていない。
すべて目に見えない場所にしまわれているようだった。
「なんだよ、本当にリョウの写真飾ってないのかよ?」
残念そうに響が呟いた。ミズキは小さく頷く。
「写真とか上手く飾るセンスがないから」
「え、あれってセンスが必要? ただ写真立てに入れて、机に置いとけば良いんじゃないの?」
ミズキは真顔で答えた。
「写真立て一つ選ぶにもセンスが問われるだろ? 変なの選んで入れたら遺影みたいになりかねないし」
「そこまでセンスないの!?」
響が突っ込んでいた。
「でも、勉強するにはリョウの写真はない方が良いのかもしれないな」
奏が部屋を見渡しながら言う。
「リョウの写真があったらぜんぜん集中出来ないもんな。わかるよ、俺もついいつも見つめちゃって、何も出来なくなる。好きな子の写真があると見ちゃうし、何してるかなってすぐ考えちゃう」
「あ、そっか思考がエロい方にいっちゃうんだな?」
「それ本人いる目の前で言う発言じゃないから!」
響のセクハラ発言に了は全力で突っ込んだ。
あんまり考えてなかったというか、考えないようにしていた方面の話題だった。
「えっと、うん……俺はリョウに嫌われたくないからノーコメントで」
奏が目を伏せて言った。
いや、それ、エロい妄想してたって言ってるようなもんだよ!?
突っ込みたかったが、怖くて了は突っ込めなかった。
「俺は正直に言うよ。俺はリョウの事考えると……」
「待って! ミズキ、正直は良い事だけど、ここではそれはやめておこう!」
了は全力でミズキを止めた。
あの真面目なミズキの口からそういう性的な言葉を聞くのは、恥ずかしいというか、いたたまれなかった。
「うわー、面白いトコだったのにっ」
響が残念がった。
「ヒビキ、他人事だと思って」
シャツの胸元を掴んで了が揺さぶっても、響は楽しそうに笑っている。
「ごめん、ごめん、でもみんな仲良い事で良かった良かった」
部屋を見渡した後で、中央に置かれたテーブルを囲んで座った。
今日の宿題である英語の冊子を取りだすと、それぞれが問題に取り掛かる。
時折会話をしながらも、それぞれ集中して宿題を進めていく。
こういう時に一番集中力があるのはミズキだ。
ほとんど私語はない。
響は飽きてくると、手や足を無意識に動かしだす。結果、最後には貧乏ゆすりになる。
そうなると了や奏は集中力が切れる。
奏は横に座っていたミズキを見た。
「リョウの写真だけど、飾ってないだけで、お父さんに貰ったグッズや写真が、この部屋にもあるんじゃないの?」
ミズキは宿題から顔を上げた。
「ひとまとめにしてしまってあるけど」
「全部?」
「写真はアルバムにしまって、グッズは専用の箱に入る物は入れて、クローゼットの中にしまってるよ」
「専用の箱に入らないヤツは?」
奏が訊ねるとミズキは床から立ち上がった。
またパネルサイズの写真があるのだろうか。
そんなモノをもらっても、ミズキは飾らない主義なんだから邪魔だろう。
家に帰ったらしっかり宗親に注意しないと。
了がそう思っていると、ミズキは部屋の端に置かれたベッドに向かった。
「ん?」
何だろうと首をひねっていると、ミズキはかかっていた毛布をめくった。
「え?」
ベッドの上にパジャマ姿の了の抱き枕が置かれていた。
「ちょ、何それ!?」
了は動揺していたが、隣にいた奏は冷静だった。
「あ、やっぱり、ミズキも貰ってたんだ? ウチにもあるよ」
「カナデの家にもあるの!?」
「うん、毎日一緒に寝てるよ」
衝撃の発言に了は叫ぶ。
「この前そんな事言ってなかったよね!?」
「いや、置いてあったけど、みんな気づかなかったみたいだね。壁の写真の方に気を取られてたみたいだから」
確かにベッドまで見る余裕はなかった。
逆に今回は何もないとう前提のせいで見過ごしていた。
「でも、ミズキ、部屋には何も置かない主義って言ってたのにどうして?」
了が聞くとミズキは抱き枕を手に取った。枕はほぼ等身大サイズだった。
「結構大きいから、クローゼットに入らなかったんだ」
「それは確かにそうかもだけど、カバー外せば良くない? それって写真印刷したカバーだよな? せめて外して使おうよ!?」
了の必死の訴えにミズキは枕を抱くようにして首を傾げる。
「リョウの写真だから、外したくなかったんだ。部屋にモノを置くのが嫌なだけで、リョウのグッズが嬉しくないわけじゃないから」
照れるような発言だった。
すると響が呟く。
「抱き枕か、エロい妄想にはピッタリだな」
「リョウ、俺は……」
ミズキが真顔で話し出したので、了はムンクの叫びのように耳を手で覆った。
「もう大丈夫! その枕の事は気にしないでおこう! 枕だもん、枕!」
了はミズキが手に持っていた枕を掴んでひっくり返した。
「ほら、裏返せば無地!」
じゃなかった。
しっかり後ろも私服写真が印刷されていた。しかもTシャツ短パンでちょっと露出多めだった。
「リバーシブルかよ!?」
了は枕カバーをはがそうとしたが、外れない。
縫い付けられていた。
「洗濯どうすんだよ!?」
了の突っ込みに真顔でミズキが言う。
「そのまま洗濯してる」
「俺はクリーニンング」
「カナデ君、それはお店の人に見られてるんじゃないかな!? あとミズキ君はどこに干してますか!? ご家族やご近所に丸見えじゃないですか!?」
二人からの否定の言葉はなかった。
他人に自分の抱き枕が見られている事実を知ってしまった。
大騒ぎした後で、再び勉強に戻った。
持参していた昼食を食べた後、夕方前には目標分の宿題が終わった。
「次回は俺のうちって話だっただろ?」
片付けの最中で響が口を開いた。
順番にそれぞれの家を訪ねて行く予定で、最後は響の家だった。
「実はさ、うちの家はきょうだいがいるから勉強には向かないんだよ。なんとか弟達がいない日はないかって聞いてみたんだけど、あいつらほとんど家でゲームするから出かけないって言うんだよ」
「ヒビキって弟がいるんだな? 面倒見良いし、物怖じしないし、確かにお兄さんっぽいな」
奏に言われて響は笑顔になる。
「そう? 俺って頼りになる? 人徳ある感じ?」
「そこまでは褒めてない」
「なんだよー」
響はがっかりして見せる。
奏は知らなかったようだが、了はいつだったか、響に弟がいるような話を聞いていた。
「あいつらがうるさいからさ、勉強は無理っぽいんだけど、普通に遊びに来る?」
「え、良いの?」
「ああ、麦茶位なら出すよ」
響の家には宿題ではなく、遊びに行く事になった。
当日。
駅まで迎えに来てくれた響と共に家に向かった。
四車線の車道脇の歩道を歩きながら了は呟く。
「このヘンの地域って坂が多いんだな」
直進しながら右手に見えた道は、すべてが急な上り坂だった。
あんな坂を上るのは辛いなと考えていると、響がニコリと笑った。
「ああ、次の通りを右に曲るから、そのすっごい坂を今から上るよ」
「え、マジか?」
了も奏もショックを受けていたが、ミズキはいつものようにクールだった。
急な坂道でも戸建ての家が途切れる事なく並んでいた。
ほとんど崖の上という家も見える。
どんな場所でも家は建てられるんだなと感心してしまった。
「えっと、アレだ。俺はこの坂道を経験した事あるよ。富士山の五合目あたりで」
宗親にかつて連れていかれた富士山を思いだしていた。
真夏だというのに五合目は半袖だと寒かった。
「ま、最初は辛いよな。でも慣れれば坂なんて大したことないよ。うちの弟達は自転車で上ってくるよ」
「マジか」
子供は元気だなと思う。
「あ、ついたぞ」
坂を上り切った場所で響が立ち止まった。
見ると小さな庭付きの一戸建てだった。
「ただいまー」
響がドアを開けるとドタバタという足音が聞えた。
「お客さん! いらっしゃい!」
元気な小学生位の男の子が現われた。
「おお! ヒビキが小さくなったみたい! かわいい!」
ついテンションが上がってしまった。
「弟の巧です! たっくんで良いよ! 小6でーす!」
響と同じように人見知りしない子供だった。
「俺も俺も挨拶する!」
後ろからもう一人現れた。巧よりは少しだけ背が高い。
「ヒビキの弟のユキオです! 中1です! コマツサンダーって呼んで下さい!」
「えっと……?」
反応に困った。コマツサンダー? それって何? 仮面ライダー? プロレスラー?
「コマツサンダーって何かな?」
ミズキが冷静に訊ねた。
「うん、意味はないよ!」
意味はないらしかった。
「もう二人ともおとなしくしてよ」
最後に女の子が現れた。
「え、女の子? 妹?」
「うん、妹のいずみ」
響の言葉に了は感動していた。
『妹』
そんな存在に憧れていた頃があった。両親が離婚する前は、弟か妹が欲しいと思っていた。
特に妹がいたらどんなに可愛いだろうと。
普段男ばかりに囲まれているせいか、了は妹への憧れが強かった。
「初めまして。遠山いずみ、中学3年です。お茶とお菓子を用意しているんでこちらへどうぞ」
しっかりした女の子だった。そしてかわいらしい子だった。
肩上位のボブヘア。昔でいうおかっぱだが、真面目で清楚な雰囲気で印象が良かった。
「なんか想像以上にきょうだいが多いんだな」
奏が呟いた。イマドキ4人きょうだいはこの少子化時代に珍しい。
「兄貴もいるよ」
「お兄さんまでいるの!?」
了は突っ込まずにはいられなかった。
「うん、もう働いてて家出てる。だから一応一人一部屋使えてるんだ」
「5人きょうだいか。賑やかだな」
ちょっと羨ましいと思ったが、賑やかという点では何故か二人暮らしのはずの尾崎家も賑やかだった。
「まぁ、イケメンがいっぱいね!」
リビングには響の母らしき女性がいた。
「今、お昼の用意してるから、それまでお菓子でも食べて、ゆっくりしていてね!」
「あ、はい、すみません」
一同は頭を下げた後、案内されるままリビングのソファに座った。
元々大家族が暮らしているせいか、男四人が集まっても広い部屋だった。
「ね、ね、ゲーム出来る? 対戦する?」
巧少年が奏に声をかけた。奏が答える前にユキオが顔を覗きこむ。
「前にテレビに出てたよね? げーのー人? アイドルと付き合ってる?」
「い、いや……」
奏の顔が引きつっていた。
「こら、ユキオ失礼でしょ」
いずみがユキオを引き剥がしながら頭を下げた。その後で小声で訊ねる。
「あの、後でサイン頂けませんか?」
「え……うん、俺なんかで良ければ」
「きゃ、やった!」
いずみは小躍りして喜んだ。ミーハーな部分は響との血の繋がりを感じるなと思った。
気付くと巧が了の顔を覗きこんでいた。
「ん、何かな?」
了は首を傾げた。
「お兄さんもげーのー人?」
「いや、俺は違うよ! こっちの美形の人とは違うから!」
「えーそうなの? 2・5次元とか出てそうなのに」
この時代の子供は2・5次元俳優を知っているのかと感心した。
「じゃあ、こっちのお兄さんは? 東大生? クイズ番組に出てる?」
「違うよ」
ミズキが冷静に答えていた。確かにミズキは頭が良さそうな顔をしている。
「えー、じゃあ時代劇に出てる?」
「出てないよ」
そう思う気持ちもわかる。ミズキは落ち着いていて時代劇に出ていそうだ。
「じゃ、わかった。BLドラマに出てるんでしょ! 男が好きなの?」
「それはちょっと惜しいかもしれないな」
素直に答えるミズキに了は青くなる。
そこは正直に答えなくて良いんじゃないですかね!?
惜しいと言われた巧は笑顔になった。
「ふーん、やっぱそうなんだ! 俺、わかるんだよね、男を好きな男って。姉ちゃんの部屋でBL漫画いっぱい見たから、わかっちゃうんだよね!」
「ちょっとタクミ! 美少年ぞろいのお客様に向かってなんて事言うのよ!? 私が腐女子ってバレちゃうじゃない! しかも私の部屋の漫画は絶対見ちゃ駄目って言ってるでしょ!」
取り乱したいずみは盛大にカミングアウトしていた。
「ねー、あっちの部屋に行こうよ。ゲームとかする部屋になってるんだよ」
巧が了の腕をひっぱった。
兄弟に憧れていた了は嬉しくなった。年下の子供と話すのも新鮮だ。
リビングのすぐ隣の部屋は和室だった。
そこに全員が移動した。
6畳位の部屋だったが、小さなテレビやパソコン、本棚などが置かれていた。
「この部屋はみんなで好きな事して遊ぶ部屋なんだよ。このドアを全開にするとリビングと繋がる仕組み」
響がスライド式のドアを開閉しながら説明した。
ゲームに誘われた了は、イマドキの小中学生がどんなゲームをしているのか気になった。
やっぱりオンライン対戦ゲームだろうか。小学生ならカードバトルの可能性もある。
昔ながらの、トランプ、ボードゲームも家族とした事があるだろう。
もしかすると親の影響で、正月にはすごろくとか福笑い、花札だってするかもしれない。
了はどのゲームでも付き合って、一緒に遊べる自信があった。
先頭にいた巧がパソコンの電源を入れた。
「どのゲームする? 俺のオススメで良い?」
了は巧に合わせてしゃがみ込む。
「どれでも良いよ。何でも付き合うよ」
巧は笑顔を見せる。
「やった! じゃ、これはどう? 母ちゃんのやってるBLゲーム! 『芸能人パラダイス』! 攻略対象はアイドル、東大生クイズ王、時代劇スターに、2・5次元俳優とよりどりみどり! 主人公は普通の高校生男子って設定だよ」
了は畳の上に突っ伏した。
「ちょっとタクミ! 私だけじゃなくてお母さんの趣味までバラさないでよ! 二度と遊びに来てもらえなくなるでしょ! こんな美形な人達見た事ないんだから!」
いずみがまたも取り乱していた。
了は思った。
気が付かないうちに地球はここまで侵略されていたんだ。
腐女子や腐男子に。今では小学生までもBLゲームで遊ぶ時代なんだ。
「うーん、それはちょっと刺激が強すぎるんじゃないかな?」
奏がフォローするように巧に声をかけた。
「え、でもこれ全年齢対象だよ」
不思議そうに巧は首を傾げる。
「ほら、せっかくこんなにたくさん人が居るから、みんなでやれるゲームの方が良いかもよ。トランプとか」
「トランプでも良いよ。あ、花札やる? お金かける? 身ぐるみはがしちゃうよ?」
この家族が普段どんな花札しているか分かる言葉だった。
「じゃ、みんなでババヌキしようか?」
奏がよそゆきの美しい笑みを浮かべた。いずみの頬が赤くなる。ついでに巧とユキオの顔も。
大丈夫だろうか。将来彼等も腐男子になるんじゃないだろうか。
大人数でやるババヌキは盛り上がった。
なかなか、手持ちのカードが揃わない。
「あ、今、リョウ君のトコにジョーカーがいったでしょ?」
ユキオに言われて了はドキリとする。
「さ、さぁ、教えられないな」
「リョウ君顔に出すぎだよ」
巧にまで言われてしまった。
子供達は慣れてくるとすっかり名前に君呼びになっていた。
「じゃあ、はい、ミズキの番」
了はミズキにトランプを向けた。ジョーカーを取ってくれと念じていたが、ミズキはその隣りのカードを取った。
「また顔に出てるよ。その隣だったのにーって顔してる」
「ユキオ君は鋭いね」
了はつい正直に言ってしまった。
「リョウ君駄目だよ、顔にも出てるし、バラしちゃってるし」
ユキオに叱られて素直に謝る。
「そうだね、ごめんね」
「そんなに単純だと身ぐるみはがされて全裸にされちゃうよ?」
ピクリと奏とミズキが反応した。
するとユキオが立ち上がって指を天に向けた。
「この名探偵コマツサンダーには分かった!」
「コマツサンダーは名探偵の名前だったの?」
了の呟きをスルーしてユキオは続ける。
「この二人はリョウ君に惚れている!」
ユキオは奏とミズキを指さした。
「さっきからの目の動きもそうだけど、今の反応で確信した! 二人はリョウ君に恋してる!」
「ま、否定しないけどね」
「良く気付いたね」
「二人とも、もうちょっと誤魔化す努力しないかな!?」
奏もミズキも気にした様子はなかった。
見るといずみが手を組んで恍惚とした顔でこちらを見ていた。
あれには見覚えがある。リアルBLに喜ぶ腐の人の顔だ。
「そんな誰が見てもわかる事を言って名探偵を気取るなよな」
冷たい声を発したのは巧だった。
「俺が先に気付いたのが気に入らないのか?」
怒ったようにユキオが反応する。
「俺も気づいてたし」
「後だしだ!」
険悪な雰囲気に了は戸惑った。
兄弟ケンカなんか、どうやって止めたら良いか分からない。
「こら、お前ら、仲良くしろよ。お客様の兄ちゃんたちがドン引いてるぞ?」
響に怒られて、ユキオは奏を見た。
「引いてるのか?」
「いや……」
「ヒドイよ!」
ユキオは奏を突き飛ばした。勢いで了の膝に倒れ込む。了は思わず抱きとめたが、顔が股間に直撃だった。
「え?」
なにこれ? ラッキースケベって奴?
了が戸惑っていると、巧がミズキに突っかかる。
「ミズキ君も引いてるの!? 兄弟ケンカ位したって良いじゃないか!」
巧がミズキを押した。
ミズキも了に倒れ込んだ。その顔が頬に触れた。頬にキス状態だ。
これもラッキースケベ? いやこれは。
「ほら、ミズキ兄ちゃん」
「カナデ兄ちゃん」
『俺達に感謝してくれよな!』
双子のように巧とユキオの兄弟は声を揃えて言った。
どうやらラッキースケベではなく、計算したモノのようだった。
「ありがとう、君には感謝するよ。リョウの股間の感触は忘れない」
「タクミ君ありがとう。リョウにキス出来る日が来るなんて感無量だよ」
二組が手を取り合っていた。
「お願いだからその会話、俺には聞こえないように気遣ってくれないかな!?」
涙目で叫ぶ了の横に響が立った。
「えっと、ごめん、俺の弟たちがいろいろ」
「ああ、それは良いよ。仲良さそうだし可愛いし、それより……」
了は響に向き直った。
「俺はお前がなんでうちの父さんにどん引かないのかとか、腐男子に心が広いのかよくわかった気がするよ」
「まぁ、こんな家で暮らしてるからな」
了と響は改めて巧とミズキ、奏とユキオ、そしてそれを見守るいずみを見渡した。
「うん、でも良い家族だな。なんかあったかくてほっこりする。きょうだいがいっぱいの大家族って良いな」
了の言葉に響は笑顔を見せた。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。元気すぎて問題ばかり起こす弟と、腐女子な母ちゃんと妹だけど、大事で大好きな家族だよ」
「うん」
その気持ちは良くわかった。
宗親はいつもとんでもない事を言ったりしでかしたりする。
でも父親として尊敬しているし愛情を持っている。
なんだかんだ言っても自分の家族は大好きだ。
響の母が用意してくれた昼食はカレーだった。
みんなでそれを食べ、再度トランプをした後で帰る事になった。
玄関まで見送りに来てくれた、いずみ、巧、ユキオに挨拶をする。
「今日はみんなに会えて楽しかったよ」
了が言うと巧とユキオがユニゾンで返事をする。
『また遊びに来てよ!』
「タクミ、君は俺の親友だ!」
「ユキオ君、君は俺の恩人だ!」
奏と響はそれぞれ固い握手を交わしていた。
「あの……」
小声で呼びかけられた。見るといずみが不安そうな瞳で了を見ていた。
「うん?」
「今日はいろいろ変な事聞かせてしまってすみませんでした」
「え?」
いずみが何を気にしているのか分からなかった。するといずみは必死な様子で訴える。
「BLが好きとか、腐女子とか、聞いてて気持ち悪かったですよね? 本当にすみません。でも純粋に創作物、物語として好きなだけで、他の人を不快にさせようという気持ちはなかったんです。大声で言う事でもないし、一応一般の人には内緒にしている事で、個人でひっそり楽しんでいるだけなんです。だから本当に他の人に迷惑かけるつもりはなくて、えっと、耳にして嫌な気分になっていたら本当にすみません」
必死に謝るいずみに了は困惑した。慌てて手を振る。
「いや、ぜんぜん気にしてないよ!? BL妄想とか、本を読むとか個人の趣味で反対する事でもないし、気持ち悪くもないよ。それに実は俺の父さんも腐男子なんだ」
「え?」
驚いたようにいずみは顔を上げた。ボブヘアが揺れる。
「だから慣れてるし、気にしないで良いよ。いずみちゃんは、俺なんか気にしないで、自分の趣味を楽しんで良いんだよ」
「リョウさん……」
いずみは感動したように瞳を揺らしていた。
「本当にありがとうございます! ぜひまた遊びに来て下さい!」
「うん、もちろん」
「俺も遊びに来て良いかな?」
奏が聞くといずみは頬を赤らめて頷く。
「もちろんです! カナデさんもミズキさんもまたいらして下さい! 今度はお二人でリョウさんを奪い合うのが見たいです!」
「ん?」
了は首を傾げた。肯定しすぎてしまったんだろうか。いずみの発言がBLに対して大胆になった気がした。
急な坂道を下り、響に駅まで見送られた後で、了は自宅に向かった。
真夏だと言うのに、意外な事に8月になると夜は秋を感じさせる。
以前より気温が下がり、暗くなるのが早くなっている事に気付く。
夕方すぎに了は家に辿り着いた。
「ただいま」
玄関を開けるとまた知らない靴があった。
紫苑か隼人か。まぁ、隼人だろうなと予想しながらリビングに向かった。
宗親が廊下まで迎えに出てくる。
「お帰りリョウ、待ってたぞ」
了はソファに目を向けた。
「え?」
そこにいたのは隼人ではなかった。
「な、なにごと?」
想定外の出来事に了は動揺していた。
そこにはロシア人ハーフのような美貌の少年がいた。
みんなと一緒に出掛けた旅先で見かけた、人形のような少年。
篠崎蓮二郎。
「前に一度会っただろう? 篠崎蓮二郎君だよ。今日から夏休みが終わる頃まで、うちに泊まる事になったから」
「ええ!?」
衝撃的な言葉だった。
チラリと見かけた位だが、了は蓮二郎に良い印象を持っていなかった。
彼の目から明らかな敵意のような物を感じたからだ。
そんな人間と一ケ月弱、一緒に暮らせと言うのか。
「リョウ、仲良くするんだぞ!」
「え……」
宗親に言われて、了は蓮二郎を見た。
以前と変わらず冷たい目で睨まれた。
これでどうやって仲良くしろって言うんだよ!?
了は叫びたいのを黙って堪えた。
小沼家はまだ新しい一戸建てだった。
両親は共働きという事で、すぐに二階にあるミズキの部屋に案内された。
そこは必要最低限の物しか置かれていない、シンプルな部屋だった。
勉強机の上には文房具や本すら置かれていない。
すべて目に見えない場所にしまわれているようだった。
「なんだよ、本当にリョウの写真飾ってないのかよ?」
残念そうに響が呟いた。ミズキは小さく頷く。
「写真とか上手く飾るセンスがないから」
「え、あれってセンスが必要? ただ写真立てに入れて、机に置いとけば良いんじゃないの?」
ミズキは真顔で答えた。
「写真立て一つ選ぶにもセンスが問われるだろ? 変なの選んで入れたら遺影みたいになりかねないし」
「そこまでセンスないの!?」
響が突っ込んでいた。
「でも、勉強するにはリョウの写真はない方が良いのかもしれないな」
奏が部屋を見渡しながら言う。
「リョウの写真があったらぜんぜん集中出来ないもんな。わかるよ、俺もついいつも見つめちゃって、何も出来なくなる。好きな子の写真があると見ちゃうし、何してるかなってすぐ考えちゃう」
「あ、そっか思考がエロい方にいっちゃうんだな?」
「それ本人いる目の前で言う発言じゃないから!」
響のセクハラ発言に了は全力で突っ込んだ。
あんまり考えてなかったというか、考えないようにしていた方面の話題だった。
「えっと、うん……俺はリョウに嫌われたくないからノーコメントで」
奏が目を伏せて言った。
いや、それ、エロい妄想してたって言ってるようなもんだよ!?
突っ込みたかったが、怖くて了は突っ込めなかった。
「俺は正直に言うよ。俺はリョウの事考えると……」
「待って! ミズキ、正直は良い事だけど、ここではそれはやめておこう!」
了は全力でミズキを止めた。
あの真面目なミズキの口からそういう性的な言葉を聞くのは、恥ずかしいというか、いたたまれなかった。
「うわー、面白いトコだったのにっ」
響が残念がった。
「ヒビキ、他人事だと思って」
シャツの胸元を掴んで了が揺さぶっても、響は楽しそうに笑っている。
「ごめん、ごめん、でもみんな仲良い事で良かった良かった」
部屋を見渡した後で、中央に置かれたテーブルを囲んで座った。
今日の宿題である英語の冊子を取りだすと、それぞれが問題に取り掛かる。
時折会話をしながらも、それぞれ集中して宿題を進めていく。
こういう時に一番集中力があるのはミズキだ。
ほとんど私語はない。
響は飽きてくると、手や足を無意識に動かしだす。結果、最後には貧乏ゆすりになる。
そうなると了や奏は集中力が切れる。
奏は横に座っていたミズキを見た。
「リョウの写真だけど、飾ってないだけで、お父さんに貰ったグッズや写真が、この部屋にもあるんじゃないの?」
ミズキは宿題から顔を上げた。
「ひとまとめにしてしまってあるけど」
「全部?」
「写真はアルバムにしまって、グッズは専用の箱に入る物は入れて、クローゼットの中にしまってるよ」
「専用の箱に入らないヤツは?」
奏が訊ねるとミズキは床から立ち上がった。
またパネルサイズの写真があるのだろうか。
そんなモノをもらっても、ミズキは飾らない主義なんだから邪魔だろう。
家に帰ったらしっかり宗親に注意しないと。
了がそう思っていると、ミズキは部屋の端に置かれたベッドに向かった。
「ん?」
何だろうと首をひねっていると、ミズキはかかっていた毛布をめくった。
「え?」
ベッドの上にパジャマ姿の了の抱き枕が置かれていた。
「ちょ、何それ!?」
了は動揺していたが、隣にいた奏は冷静だった。
「あ、やっぱり、ミズキも貰ってたんだ? ウチにもあるよ」
「カナデの家にもあるの!?」
「うん、毎日一緒に寝てるよ」
衝撃の発言に了は叫ぶ。
「この前そんな事言ってなかったよね!?」
「いや、置いてあったけど、みんな気づかなかったみたいだね。壁の写真の方に気を取られてたみたいだから」
確かにベッドまで見る余裕はなかった。
逆に今回は何もないとう前提のせいで見過ごしていた。
「でも、ミズキ、部屋には何も置かない主義って言ってたのにどうして?」
了が聞くとミズキは抱き枕を手に取った。枕はほぼ等身大サイズだった。
「結構大きいから、クローゼットに入らなかったんだ」
「それは確かにそうかもだけど、カバー外せば良くない? それって写真印刷したカバーだよな? せめて外して使おうよ!?」
了の必死の訴えにミズキは枕を抱くようにして首を傾げる。
「リョウの写真だから、外したくなかったんだ。部屋にモノを置くのが嫌なだけで、リョウのグッズが嬉しくないわけじゃないから」
照れるような発言だった。
すると響が呟く。
「抱き枕か、エロい妄想にはピッタリだな」
「リョウ、俺は……」
ミズキが真顔で話し出したので、了はムンクの叫びのように耳を手で覆った。
「もう大丈夫! その枕の事は気にしないでおこう! 枕だもん、枕!」
了はミズキが手に持っていた枕を掴んでひっくり返した。
「ほら、裏返せば無地!」
じゃなかった。
しっかり後ろも私服写真が印刷されていた。しかもTシャツ短パンでちょっと露出多めだった。
「リバーシブルかよ!?」
了は枕カバーをはがそうとしたが、外れない。
縫い付けられていた。
「洗濯どうすんだよ!?」
了の突っ込みに真顔でミズキが言う。
「そのまま洗濯してる」
「俺はクリーニンング」
「カナデ君、それはお店の人に見られてるんじゃないかな!? あとミズキ君はどこに干してますか!? ご家族やご近所に丸見えじゃないですか!?」
二人からの否定の言葉はなかった。
他人に自分の抱き枕が見られている事実を知ってしまった。
大騒ぎした後で、再び勉強に戻った。
持参していた昼食を食べた後、夕方前には目標分の宿題が終わった。
「次回は俺のうちって話だっただろ?」
片付けの最中で響が口を開いた。
順番にそれぞれの家を訪ねて行く予定で、最後は響の家だった。
「実はさ、うちの家はきょうだいがいるから勉強には向かないんだよ。なんとか弟達がいない日はないかって聞いてみたんだけど、あいつらほとんど家でゲームするから出かけないって言うんだよ」
「ヒビキって弟がいるんだな? 面倒見良いし、物怖じしないし、確かにお兄さんっぽいな」
奏に言われて響は笑顔になる。
「そう? 俺って頼りになる? 人徳ある感じ?」
「そこまでは褒めてない」
「なんだよー」
響はがっかりして見せる。
奏は知らなかったようだが、了はいつだったか、響に弟がいるような話を聞いていた。
「あいつらがうるさいからさ、勉強は無理っぽいんだけど、普通に遊びに来る?」
「え、良いの?」
「ああ、麦茶位なら出すよ」
響の家には宿題ではなく、遊びに行く事になった。
当日。
駅まで迎えに来てくれた響と共に家に向かった。
四車線の車道脇の歩道を歩きながら了は呟く。
「このヘンの地域って坂が多いんだな」
直進しながら右手に見えた道は、すべてが急な上り坂だった。
あんな坂を上るのは辛いなと考えていると、響がニコリと笑った。
「ああ、次の通りを右に曲るから、そのすっごい坂を今から上るよ」
「え、マジか?」
了も奏もショックを受けていたが、ミズキはいつものようにクールだった。
急な坂道でも戸建ての家が途切れる事なく並んでいた。
ほとんど崖の上という家も見える。
どんな場所でも家は建てられるんだなと感心してしまった。
「えっと、アレだ。俺はこの坂道を経験した事あるよ。富士山の五合目あたりで」
宗親にかつて連れていかれた富士山を思いだしていた。
真夏だというのに五合目は半袖だと寒かった。
「ま、最初は辛いよな。でも慣れれば坂なんて大したことないよ。うちの弟達は自転車で上ってくるよ」
「マジか」
子供は元気だなと思う。
「あ、ついたぞ」
坂を上り切った場所で響が立ち止まった。
見ると小さな庭付きの一戸建てだった。
「ただいまー」
響がドアを開けるとドタバタという足音が聞えた。
「お客さん! いらっしゃい!」
元気な小学生位の男の子が現われた。
「おお! ヒビキが小さくなったみたい! かわいい!」
ついテンションが上がってしまった。
「弟の巧です! たっくんで良いよ! 小6でーす!」
響と同じように人見知りしない子供だった。
「俺も俺も挨拶する!」
後ろからもう一人現れた。巧よりは少しだけ背が高い。
「ヒビキの弟のユキオです! 中1です! コマツサンダーって呼んで下さい!」
「えっと……?」
反応に困った。コマツサンダー? それって何? 仮面ライダー? プロレスラー?
「コマツサンダーって何かな?」
ミズキが冷静に訊ねた。
「うん、意味はないよ!」
意味はないらしかった。
「もう二人ともおとなしくしてよ」
最後に女の子が現れた。
「え、女の子? 妹?」
「うん、妹のいずみ」
響の言葉に了は感動していた。
『妹』
そんな存在に憧れていた頃があった。両親が離婚する前は、弟か妹が欲しいと思っていた。
特に妹がいたらどんなに可愛いだろうと。
普段男ばかりに囲まれているせいか、了は妹への憧れが強かった。
「初めまして。遠山いずみ、中学3年です。お茶とお菓子を用意しているんでこちらへどうぞ」
しっかりした女の子だった。そしてかわいらしい子だった。
肩上位のボブヘア。昔でいうおかっぱだが、真面目で清楚な雰囲気で印象が良かった。
「なんか想像以上にきょうだいが多いんだな」
奏が呟いた。イマドキ4人きょうだいはこの少子化時代に珍しい。
「兄貴もいるよ」
「お兄さんまでいるの!?」
了は突っ込まずにはいられなかった。
「うん、もう働いてて家出てる。だから一応一人一部屋使えてるんだ」
「5人きょうだいか。賑やかだな」
ちょっと羨ましいと思ったが、賑やかという点では何故か二人暮らしのはずの尾崎家も賑やかだった。
「まぁ、イケメンがいっぱいね!」
リビングには響の母らしき女性がいた。
「今、お昼の用意してるから、それまでお菓子でも食べて、ゆっくりしていてね!」
「あ、はい、すみません」
一同は頭を下げた後、案内されるままリビングのソファに座った。
元々大家族が暮らしているせいか、男四人が集まっても広い部屋だった。
「ね、ね、ゲーム出来る? 対戦する?」
巧少年が奏に声をかけた。奏が答える前にユキオが顔を覗きこむ。
「前にテレビに出てたよね? げーのー人? アイドルと付き合ってる?」
「い、いや……」
奏の顔が引きつっていた。
「こら、ユキオ失礼でしょ」
いずみがユキオを引き剥がしながら頭を下げた。その後で小声で訊ねる。
「あの、後でサイン頂けませんか?」
「え……うん、俺なんかで良ければ」
「きゃ、やった!」
いずみは小躍りして喜んだ。ミーハーな部分は響との血の繋がりを感じるなと思った。
気付くと巧が了の顔を覗きこんでいた。
「ん、何かな?」
了は首を傾げた。
「お兄さんもげーのー人?」
「いや、俺は違うよ! こっちの美形の人とは違うから!」
「えーそうなの? 2・5次元とか出てそうなのに」
この時代の子供は2・5次元俳優を知っているのかと感心した。
「じゃあ、こっちのお兄さんは? 東大生? クイズ番組に出てる?」
「違うよ」
ミズキが冷静に答えていた。確かにミズキは頭が良さそうな顔をしている。
「えー、じゃあ時代劇に出てる?」
「出てないよ」
そう思う気持ちもわかる。ミズキは落ち着いていて時代劇に出ていそうだ。
「じゃ、わかった。BLドラマに出てるんでしょ! 男が好きなの?」
「それはちょっと惜しいかもしれないな」
素直に答えるミズキに了は青くなる。
そこは正直に答えなくて良いんじゃないですかね!?
惜しいと言われた巧は笑顔になった。
「ふーん、やっぱそうなんだ! 俺、わかるんだよね、男を好きな男って。姉ちゃんの部屋でBL漫画いっぱい見たから、わかっちゃうんだよね!」
「ちょっとタクミ! 美少年ぞろいのお客様に向かってなんて事言うのよ!? 私が腐女子ってバレちゃうじゃない! しかも私の部屋の漫画は絶対見ちゃ駄目って言ってるでしょ!」
取り乱したいずみは盛大にカミングアウトしていた。
「ねー、あっちの部屋に行こうよ。ゲームとかする部屋になってるんだよ」
巧が了の腕をひっぱった。
兄弟に憧れていた了は嬉しくなった。年下の子供と話すのも新鮮だ。
リビングのすぐ隣の部屋は和室だった。
そこに全員が移動した。
6畳位の部屋だったが、小さなテレビやパソコン、本棚などが置かれていた。
「この部屋はみんなで好きな事して遊ぶ部屋なんだよ。このドアを全開にするとリビングと繋がる仕組み」
響がスライド式のドアを開閉しながら説明した。
ゲームに誘われた了は、イマドキの小中学生がどんなゲームをしているのか気になった。
やっぱりオンライン対戦ゲームだろうか。小学生ならカードバトルの可能性もある。
昔ながらの、トランプ、ボードゲームも家族とした事があるだろう。
もしかすると親の影響で、正月にはすごろくとか福笑い、花札だってするかもしれない。
了はどのゲームでも付き合って、一緒に遊べる自信があった。
先頭にいた巧がパソコンの電源を入れた。
「どのゲームする? 俺のオススメで良い?」
了は巧に合わせてしゃがみ込む。
「どれでも良いよ。何でも付き合うよ」
巧は笑顔を見せる。
「やった! じゃ、これはどう? 母ちゃんのやってるBLゲーム! 『芸能人パラダイス』! 攻略対象はアイドル、東大生クイズ王、時代劇スターに、2・5次元俳優とよりどりみどり! 主人公は普通の高校生男子って設定だよ」
了は畳の上に突っ伏した。
「ちょっとタクミ! 私だけじゃなくてお母さんの趣味までバラさないでよ! 二度と遊びに来てもらえなくなるでしょ! こんな美形な人達見た事ないんだから!」
いずみがまたも取り乱していた。
了は思った。
気が付かないうちに地球はここまで侵略されていたんだ。
腐女子や腐男子に。今では小学生までもBLゲームで遊ぶ時代なんだ。
「うーん、それはちょっと刺激が強すぎるんじゃないかな?」
奏がフォローするように巧に声をかけた。
「え、でもこれ全年齢対象だよ」
不思議そうに巧は首を傾げる。
「ほら、せっかくこんなにたくさん人が居るから、みんなでやれるゲームの方が良いかもよ。トランプとか」
「トランプでも良いよ。あ、花札やる? お金かける? 身ぐるみはがしちゃうよ?」
この家族が普段どんな花札しているか分かる言葉だった。
「じゃ、みんなでババヌキしようか?」
奏がよそゆきの美しい笑みを浮かべた。いずみの頬が赤くなる。ついでに巧とユキオの顔も。
大丈夫だろうか。将来彼等も腐男子になるんじゃないだろうか。
大人数でやるババヌキは盛り上がった。
なかなか、手持ちのカードが揃わない。
「あ、今、リョウ君のトコにジョーカーがいったでしょ?」
ユキオに言われて了はドキリとする。
「さ、さぁ、教えられないな」
「リョウ君顔に出すぎだよ」
巧にまで言われてしまった。
子供達は慣れてくるとすっかり名前に君呼びになっていた。
「じゃあ、はい、ミズキの番」
了はミズキにトランプを向けた。ジョーカーを取ってくれと念じていたが、ミズキはその隣りのカードを取った。
「また顔に出てるよ。その隣だったのにーって顔してる」
「ユキオ君は鋭いね」
了はつい正直に言ってしまった。
「リョウ君駄目だよ、顔にも出てるし、バラしちゃってるし」
ユキオに叱られて素直に謝る。
「そうだね、ごめんね」
「そんなに単純だと身ぐるみはがされて全裸にされちゃうよ?」
ピクリと奏とミズキが反応した。
するとユキオが立ち上がって指を天に向けた。
「この名探偵コマツサンダーには分かった!」
「コマツサンダーは名探偵の名前だったの?」
了の呟きをスルーしてユキオは続ける。
「この二人はリョウ君に惚れている!」
ユキオは奏とミズキを指さした。
「さっきからの目の動きもそうだけど、今の反応で確信した! 二人はリョウ君に恋してる!」
「ま、否定しないけどね」
「良く気付いたね」
「二人とも、もうちょっと誤魔化す努力しないかな!?」
奏もミズキも気にした様子はなかった。
見るといずみが手を組んで恍惚とした顔でこちらを見ていた。
あれには見覚えがある。リアルBLに喜ぶ腐の人の顔だ。
「そんな誰が見てもわかる事を言って名探偵を気取るなよな」
冷たい声を発したのは巧だった。
「俺が先に気付いたのが気に入らないのか?」
怒ったようにユキオが反応する。
「俺も気づいてたし」
「後だしだ!」
険悪な雰囲気に了は戸惑った。
兄弟ケンカなんか、どうやって止めたら良いか分からない。
「こら、お前ら、仲良くしろよ。お客様の兄ちゃんたちがドン引いてるぞ?」
響に怒られて、ユキオは奏を見た。
「引いてるのか?」
「いや……」
「ヒドイよ!」
ユキオは奏を突き飛ばした。勢いで了の膝に倒れ込む。了は思わず抱きとめたが、顔が股間に直撃だった。
「え?」
なにこれ? ラッキースケベって奴?
了が戸惑っていると、巧がミズキに突っかかる。
「ミズキ君も引いてるの!? 兄弟ケンカ位したって良いじゃないか!」
巧がミズキを押した。
ミズキも了に倒れ込んだ。その顔が頬に触れた。頬にキス状態だ。
これもラッキースケベ? いやこれは。
「ほら、ミズキ兄ちゃん」
「カナデ兄ちゃん」
『俺達に感謝してくれよな!』
双子のように巧とユキオの兄弟は声を揃えて言った。
どうやらラッキースケベではなく、計算したモノのようだった。
「ありがとう、君には感謝するよ。リョウの股間の感触は忘れない」
「タクミ君ありがとう。リョウにキス出来る日が来るなんて感無量だよ」
二組が手を取り合っていた。
「お願いだからその会話、俺には聞こえないように気遣ってくれないかな!?」
涙目で叫ぶ了の横に響が立った。
「えっと、ごめん、俺の弟たちがいろいろ」
「ああ、それは良いよ。仲良さそうだし可愛いし、それより……」
了は響に向き直った。
「俺はお前がなんでうちの父さんにどん引かないのかとか、腐男子に心が広いのかよくわかった気がするよ」
「まぁ、こんな家で暮らしてるからな」
了と響は改めて巧とミズキ、奏とユキオ、そしてそれを見守るいずみを見渡した。
「うん、でも良い家族だな。なんかあったかくてほっこりする。きょうだいがいっぱいの大家族って良いな」
了の言葉に響は笑顔を見せた。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。元気すぎて問題ばかり起こす弟と、腐女子な母ちゃんと妹だけど、大事で大好きな家族だよ」
「うん」
その気持ちは良くわかった。
宗親はいつもとんでもない事を言ったりしでかしたりする。
でも父親として尊敬しているし愛情を持っている。
なんだかんだ言っても自分の家族は大好きだ。
響の母が用意してくれた昼食はカレーだった。
みんなでそれを食べ、再度トランプをした後で帰る事になった。
玄関まで見送りに来てくれた、いずみ、巧、ユキオに挨拶をする。
「今日はみんなに会えて楽しかったよ」
了が言うと巧とユキオがユニゾンで返事をする。
『また遊びに来てよ!』
「タクミ、君は俺の親友だ!」
「ユキオ君、君は俺の恩人だ!」
奏と響はそれぞれ固い握手を交わしていた。
「あの……」
小声で呼びかけられた。見るといずみが不安そうな瞳で了を見ていた。
「うん?」
「今日はいろいろ変な事聞かせてしまってすみませんでした」
「え?」
いずみが何を気にしているのか分からなかった。するといずみは必死な様子で訴える。
「BLが好きとか、腐女子とか、聞いてて気持ち悪かったですよね? 本当にすみません。でも純粋に創作物、物語として好きなだけで、他の人を不快にさせようという気持ちはなかったんです。大声で言う事でもないし、一応一般の人には内緒にしている事で、個人でひっそり楽しんでいるだけなんです。だから本当に他の人に迷惑かけるつもりはなくて、えっと、耳にして嫌な気分になっていたら本当にすみません」
必死に謝るいずみに了は困惑した。慌てて手を振る。
「いや、ぜんぜん気にしてないよ!? BL妄想とか、本を読むとか個人の趣味で反対する事でもないし、気持ち悪くもないよ。それに実は俺の父さんも腐男子なんだ」
「え?」
驚いたようにいずみは顔を上げた。ボブヘアが揺れる。
「だから慣れてるし、気にしないで良いよ。いずみちゃんは、俺なんか気にしないで、自分の趣味を楽しんで良いんだよ」
「リョウさん……」
いずみは感動したように瞳を揺らしていた。
「本当にありがとうございます! ぜひまた遊びに来て下さい!」
「うん、もちろん」
「俺も遊びに来て良いかな?」
奏が聞くといずみは頬を赤らめて頷く。
「もちろんです! カナデさんもミズキさんもまたいらして下さい! 今度はお二人でリョウさんを奪い合うのが見たいです!」
「ん?」
了は首を傾げた。肯定しすぎてしまったんだろうか。いずみの発言がBLに対して大胆になった気がした。
急な坂道を下り、響に駅まで見送られた後で、了は自宅に向かった。
真夏だと言うのに、意外な事に8月になると夜は秋を感じさせる。
以前より気温が下がり、暗くなるのが早くなっている事に気付く。
夕方すぎに了は家に辿り着いた。
「ただいま」
玄関を開けるとまた知らない靴があった。
紫苑か隼人か。まぁ、隼人だろうなと予想しながらリビングに向かった。
宗親が廊下まで迎えに出てくる。
「お帰りリョウ、待ってたぞ」
了はソファに目を向けた。
「え?」
そこにいたのは隼人ではなかった。
「な、なにごと?」
想定外の出来事に了は動揺していた。
そこにはロシア人ハーフのような美貌の少年がいた。
みんなと一緒に出掛けた旅先で見かけた、人形のような少年。
篠崎蓮二郎。
「前に一度会っただろう? 篠崎蓮二郎君だよ。今日から夏休みが終わる頃まで、うちに泊まる事になったから」
「ええ!?」
衝撃的な言葉だった。
チラリと見かけた位だが、了は蓮二郎に良い印象を持っていなかった。
彼の目から明らかな敵意のような物を感じたからだ。
そんな人間と一ケ月弱、一緒に暮らせと言うのか。
「リョウ、仲良くするんだぞ!」
「え……」
宗親に言われて、了は蓮二郎を見た。
以前と変わらず冷たい目で睨まれた。
これでどうやって仲良くしろって言うんだよ!?
了は叫びたいのを黙って堪えた。
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