父が腐男子で困ってます!

あさみ

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花火大会と宿題

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それは突然の事だった。
チャイムが鳴ったので、了はいつものように玄関に向かった。
画面付きのインターフォンがあるので、先に訪問者を確認する事も出来るのだが、最近はそれをしていない。
防犯上は良くないと思うが、訪ねてくるのは、ほぼ隼人か、了の友人達なので確認するのが面倒になっていた。

「はーい」
玄関を開けて驚いた。
「よ!」
馴染みの顔がそこにはあった。

「ゴウ! 久しぶり!」
「おお!」
幼馴染の小石川剛輝は太陽のような笑顔を見せた。
それだけで嬉しくなって、了は矢継ぎ早に問いかける。

「今日はどうした? もしかして宿題手伝ってくれとかそういうヤツか? 取りあえず家に上がる?」
「いや、良いよ。今日はお前を誘いに来たんだ」
「誘い?」
首を傾げる了に、剛輝は笑みを見せる。

「そ、買い食い、もとい花火大会に行こうぜ!」
「おお、屋台?」
「そう」
「行く!」
一瞬で決まった。


今日は近所の川で花火大会があった。
近所とは言っても電車かバスを利用する距離で、毎年行っているというわけではない。
ただ剛輝とは以前にも買い食い目的で遊びに行った事がある。

了は慌てて準備をすると、仕事をしている宗親に声をかける。
「じゃ、今から出かけるから晩御飯はいいよ」
「ああ、ゴウ君とデートだな! 楽しんでくるんだぞ!」
「デートじゃなくて普通に遊びに行くんだってば」
「父さんへの土産は気にしなくて良いぞ。お前とゴウ君の夏の思い出が父さんへの土産になるからな! キス位は必ずして来いよ!」
「しないよ! 土産とかないから!」
了は叫んだ後で書斎を出た。
玄関で待つ剛輝を見た瞬間、携帯を落としそうになった。

「これは花火大会でもキスが出来るであろう、人気のない穴場スポットだ。どうか役立ててくれ」
隼人が剛輝にメモを押し付けていた。
「そこちょっと何やってんですか! そもそも二人はほぼ初対面では!?」
隼人は振り返る。

「ああ、前にチラっと会っただけだから、改めて自己紹介は済ませたよ。いや、君の周りは本当にイケメンが多いね。これだからこの家に通うのをやめられないよ」
隼人は髪をかきあげ、さわやかに言った。
「あなたほど、見た目とのギャップが凄い人なかなかいませんよ! 美形が台無しですよ! 横でゴウが呆れて固まってるじゃないですか?!」
「いや、俺は面白いなって思って見てるよ」
「ゴウまで楽しまないでくれ!」
「まぁまぁ、つーか生徒会長さんも、一緒に花火見に行かない?」
剛輝は隼人に声をかけた。

「ありがとう、気持ちは嬉しいし、君とリョウのキスシーンや、たこ焼きを『あーん』なんて食べさせあうラブラブを近くで見たいが、ほら、リョウは照れ屋だから、俺がいない方が良いと思うんだ」
「『あ-ん』もしないし、キスもしませんから!」
突っ込む了を無視して、二人は会話を進める。

「リョウとイイ感じの写真が撮れたらぜひ画像を送ってくれ。金なら惜しまない」
「いや、別にお金とか興味ないんで」
「なら、うちの学校のバスケ部と練習試合なんかどうかな? うちもなかなか強いチームだよ」
「あ、それは良いですね! 試合なら大歓迎です!」
剛輝の目が輝いていた。
「俺に任せてくれれば、合同合宿なんかも出来ると思うよ。そのかわりリョウとなるべくいちゃついた写真を頼むよ。キスなんか、ふいうちでしちゃえばいいから」
「だから生徒会長が自分の趣味のために学校利用するのは良くないと思うんですけど!?」
叫ぶ了に剛輝は笑顔を向ける。

「そんなに怒るなよ? キスは過去にもしてるんだし」
「ゴウキ君! その話を詳しく!」
剛輝の両肩を掴んで、隼人が言う。今度は隼人の目がキラキラと輝いている。

「え、それはですね、昔花見に行った時にリョウの方から突然キ……」
「ああ! 急がないと、屋台が売り切れちゃうな!」
棒読みセリフで二人の間に割って入った。

「じゃ、小清水さん、後は父さんと仲良く。あ、二人がラブラブBLな仲になっても俺はぜんぜん構いませんからね!」
隼人は真顔になる。
「君は俺と先生をくっつけたいようだけど、まったくそういうのはないから。俺はあくまでも君一筋だよ」
一筋と言われて、うっかりドキリとしてしまった。
この場合の一筋は『BL妄想の受』としての一筋だと理解している。
理解しているが美形に変なセリフを言われると動揺してしまう。

「もう、その話はイイんで、じゃ、行ってきます!」
了は剛輝の腕をつかんで外に引っ張り出す。
ドアが閉まる寸前、笑顔で手を振る隼人の顔が目に入った。
黙っていれば本当に美形なのに残念な人だ。



剛輝とバス停に向かって歩いた。
花火のある川まで、バスなら15分位だ。
バスを待っていると剛輝が楽しそうに呟いた。
「お前のまわりってマジで面白い人が多いな。あの会長サン、さっき自分の事腐男子だって言ってたけど、真面目そうに見えてかなりぶっ飛んでるな」
了は額を押さえる。
「そうなんだよ、顔だけ見ればすっごい美形だし、頭は良さそうだし、性格も実は素行不良の生徒の面倒みたりと良い人なんだよ。なのに、父さんと関わったせいで、だいぶ残念な人になっちゃってんだよ」
剛輝は声を出して笑った。

「あー、なんか、昔からの知り合いのように感じたのはそのせいか。ノリがおじさんに近いんだな。おじさんもしゃべらなきゃ、イケメンなのにな」
確かに宗親と隼人は似ているような気がした。
まぁ、師匠と弟子のような関係みたいだから仕方がないかと思った。

「つーか、リョウってあの人の事、けっこう好きだったりしない?」
「え?」
思いがけない剛輝の言葉に了は固まった。

「今も美形だし、良い人だって言ってたし、口では文句言いつつ、けっこう好きなんだなって思ったよ」
顔が熱くなった。慌てて手を振って否定する。
「いや、俺は別にあの人の事なんか好きじゃないから! あの人、BL妄想すごくて、まともな会話出来ないし! そもそも俺は男に恋した事ない!」
「いや、別に恋の話じゃなくて、普通に人間としての話だけど」
「え」
勘違いした事が恥ずかしくなった。
赤くなって俯く了に剛輝が告げる。
「あ、バス来たぞ」
了は無言でバスに乗り込んだ。


バスの吊り革につかまりながら、宗親と隼人の事を考えていた。
元々隼人はミステリー作家としての宗親のファンだった。
あの日、尾崎家に来るまで、彼はBLには興味がなかった。
けれど宗親のBL本を読んだせいで、すっかり腐男子になってしまった。
崇拝している作家の書いた本だから影響を受けたのだろう。
了も本を読むのでその気持ちはわかる。

作家との相性というのが読者にはある。
ミステリーを読んでいても、作者の価値観や倫理観などが読み取れる事があり、それに共感できる時と出来ない時がある。
話の展開や、意外な結末なども、後味が良いモノから悪いモノもある。

了はミステリーファンだが、意外なオチなら全部OKというわけではない。
そこはおかしいだろうと突っ込みたい展開や設定も世の中にはある。
明らかに地の文章に嘘が入っていた時は本を投げたくなった事もある。

おそらく隼人は宗親とそういうモノが合うのだろう。
だからミステリーだけでなく、BL小説にもハマってしまった。

宗親と出会ったせいで『美形で近寄り難い真面目な生徒会長』、そんな隼人のイメージはどんどん壊れている。
果たしてそれは良い事なのか、悪い事なのか、今の了にはわからなかった。



バスを降りると、川までの道は浴衣を着た女の子やカップル、家族連れなどでこみ合っていた。
大通りの出店を覗きながら目的の場所に向かう。
子供の頃から、剛輝と花火を見る時は、打ち上げの目の前が定番だった。


「そういえば、バスケの試合とかはもう終わったの?」
先ほど買った唐揚げを手に、歩きながら了は訊ねた。
「インターハイはもう終わった。やっぱ全国への道は厳しいな」
笑顔ではあったが、その顔には少し悔しさが滲んでいた。

「でもバスケもバレーとかも冬の大会がメインなんだろ? また次で頑張れば良いじゃん」
「うん、そうだな。次はウインターカップだ」
その単語には聞き覚えがあった。
スポーツには詳しくないが、ウインターカップや春高なんていうのはテレビで聞いた事がある。
了は思っていた事を聞いてみた。

「スポーツってさ、大会があって全国優勝が目的だろ? でもそれって、たった一つの学校しかなれないんだよな? すごい確率だよな。世の中にはたくさんの学校があるんだから」
「ああ、そうだな」
剛輝はたこ焼きのパックを手に持って食べながら頷く。

「でも、1個づつ勝ち進めば確実に優勝出来るから、夢の中ではスポーツって気持ちは楽だと思うよ」
「え、そうなの?」
思わず剛輝を見上げる。

「例えば遺跡を発掘するのが夢とかって人もいるだろ? でも遺跡なんか掘っても絶対に出る保証はないだろ? そう思うと勝てば絶対に一つトーナメントを進めるっていうのは分かりやすくて良いよ」
なるほどなと思った。

「ゴウって負けてもあんまり落ち込まない方? それともやっぱり悔しくて泣いたりする?」
今までの長い付き合いで、剛輝が泣いているのを見た事がなかった。
スポーツに全力で挑む人は、その分負けた時に悔し泣きをするイメージがある。

「負けて泣くはないかな。まぁ、高校最後の試合とかなら泣くかもだけど。でも今は負けた瞬間、次の試合がしたいって思うよ」
「また試合?」
首を傾げる了に剛輝は頷く。

「今度は勝つぞってヤル気がみなぎる。まぁ、試合の前に練習が必要だけど、今度は上手くやってやるって、すごい張り切る」
やっぱり剛輝は強いなと思った。
「負けてもそんな強気な人、なかなかいないだろうな」
「そうか? でもスポーツしてるヤツって、けっこうみんな負けたら練習したいってなるよ」
「じゃあ、勝ったら練習サボりたくなる?」
聞かれて剛輝は笑った。

「サボりたいのはいつもかな。練習が一番キツイから。でも不思議と体は練習に向かうんだな、これが」
了は笑った。
練習が辛くても頑張れるのは、やっぱりバスケが好きだからだろう。
そんなに夢中になれる物があるのが羨ましく思える。

剛輝は暮れだした空を見ながら言う。
「勝っても負けても、その瞬間から、それってもう過去になるだろ? すると気持ちは次の試合に向かうんだよ。だからもっと上手くなりたいって練習したくなる」
剛輝は友人と遊ぶ時間を惜しんで練習している。
そんな剛輝が花火に誘ってくれたのだ。この時間を大切にしたいと思った。


川沿いの花火大会は地元商店街が主催していて、規模としては小さいものだった。
大きな町の花火大会とは違い、見に来ているのも地元の人間ばかりだ。

打ち上げの目の前の場所まで移動すると、持ってきたレジャーシートを広げた。
横に寝転がって見られる大きさで、そこに座って買ってきたお好み焼きなどを食べながら、始まる時間まで過ごす予定だ。
「さーて食うぞ!」
坐ると剛輝は元気に言った。
彼の目的は花火ではなく出店の食べ物だ。
両手に持った袋には、途中で買ってきた食べ物がいっぱい詰まっていた。
「あ、これはリョウにやるよ」
「え、ありがとう」
無意識に受け取ったのはチョコバナナだった。
「懐かしいな。久しぶりに食べるよ、これ」
食べようと口を開けようとした時、シャッター音が響いた。
「え?」
剛輝がスマホを構えていた。
「あーごめん、さっき会長サンに写真頼まれてたんだよ。チョコバナナを買ってリョウに食わせてくれって言うからさ。ま、写真位良いよな? 送信っと」
「ちょっと待った! 写真位じゃないよ! この写真を、あの人がどんな目線で見るのかと思うと怖いんだけど!?

「目線って? ただの写真だろ?」
剛輝には通じていないようだった。
「えっと、いや、その……」
具体的にどんな目線で見られるとか、自分ではとても言いだしにくかった。

「ま、いっか、食べようぜ」
剛輝は気にせずにお好み焼きを食べだした。
了は無言でチョコバナナを口に入れた。
もう気にしない事にしよう。ただのバナナだ。

剛輝は本当によく食べた。たくさんあった食べ物がどんどん消えていく。
これだけ食べても太らないのは、やっぱり運動しているせいだろうか。
そう思って眺めていると、剛輝の前に少女が立った。

「見つけた! ゴウ君!」
女の子は剛輝しか目に入っていないようで、了を無視して剛輝に話しかける。
「やっぱり彼女と見にくるって言うのは嘘だったんだね。本当は彼女はいないんでしょ?」

剛輝は頭をかきながら立ち上がった。そして何故か了の腕を引っ張る。
つられて了も立ち上がる。
「えっと、初めまして?」
挨拶した方が良いのかと思って頭を下げてみた。少女はやっと了を見る。

「あ、私はバスケ部のマネージャーです。急に邪魔してごめんなさい。でもゴウ君が嘘つくから、つい」
「俺は嘘は言ってないよ」
剛輝に言われ少女は首を傾げる。

「俺は『恋人』と見に行くから、一緒に花火を見にいけないって言っただろ? 彼女とは言ってない。そんでもってこいつがその恋人だから」
剛輝は了の肩に腕をまわして言った。
少女の顔が真っ赤になった。
慌てて両手で顔を覆う。
「ご、ごめんなさい! 私ったら勘違いしちゃって! あの、お幸せに!」
少女はダッシュで走り去った。
了は呆然とそれをみつめた後で剛輝を見る。

「えっと?」
「ごめん、ちょっとお前を利用させてもらった」

剛輝が座るので、了もその横に座りなおす。
「いや、実はさっきの子に、一緒に花火見に行きたいって誘われてさ。前に告白断ったのにしつこいなって思ったら、恋人と見に行く約束してるって言っちゃったんだよ」
了はため息をついた。

「はぁ、そういう事か」
昔から漫画やドラマでもよく見かける方法だ。方法だが。
「ちょっと待った! それで俺が恋人っておかしくない!? 一番の突っ込みどころだろ!」
普段BL妄想が激しい人達に囲まれているので、うっかり納得しそうになっていたが、恋人が男はおかしいだろう。
けれど剛輝はニコリと笑った。

「いや、これが大丈夫なんだな。前にも言っただろ? 女子は何故か相手が男だと喜ぶんだよ。腐女子じゃなくても、女に取られるよりは良いとか思うらしくて、嫉妬心もあんまりわかないらしい」
「そ、そうなのか……?」
了はあまりピンとこない。女の子の友人がいないからだろうか。

「それにお前ほどの顔なら、女子も嘘とは思わないからな!」
肩を抱かれて言われた。
「それってどういう意味だ? 女子っぽいって意味?」
剛輝は笑顔で答える。
「いや、普通に顔が良いって褒めてるんだよ。相手が自分より格下だと、これまた女子は怒りだしたりするから、相手が敵わないって思う位のレベルじゃないと、なりたたない作戦なワケだよ」
「なんか複雑な気分だ……」
素直に褒められた気がしなかった。

「というか、今日俺を誘ったのはこのためか?」
彼女は偶然この場に現れたのではなく、すべて剛輝の計画だったんではないだろうか。
昔からこの川の花火大会は、打ち上げ場所の一番近くで見ていた。
そんな話を普段からしていたら、彼女もすぐに自分達を見つける事が出来ただろう。

「そんな顔するなよ。リョウと花火を一緒に見たいなって思ったのは本当だよ」
「いや、別に良いんだけどさ……」
「なんてったって、お前は俺のファーストキスの相手だしな」
「その話は思いださなくて良いから!」
了は全力で突っ込んだ。
その時アナウンスが聞えた。
「お、始まるみたいだぞ」
剛輝がシートの上に横になった。了もそれを真似して寝ころぶ。

最初の花火が上がった。
ドンという音が体を震わせる。
ワァっという歓声が上がった。光の粒が広がり丸いまま徐々に落ちてくる。
花火も美しいが、このドンという音が体に響くのが好きだった。

花火が次々と上がる。
最近はキャラクターなど、変わった形の花火も多いが、了は昔ながらの丸い花火が好きだった。
やっぱりあれが一番豪華に見える。
「綺麗だな……」
呟いて横を見た。
剛輝は目を閉じて眠っていた。

「マジか? よくこんな特等席、しかもこんな大きな音の中で寝れるよな?」
了は呆れたが、でも仕方ないかと思った。
普段バスケの練習ばかりで疲れているんだろう。
剛輝に夜に連絡しても、たいてい返事は翌朝だ。普段からご飯とお風呂の後はすぐに寝ているんだろう。
そう考えて了は花火に視線を戻した。


帰り道、二人は住宅街の道を歩いていた。
臨時バスも出ていたようだが、混雑がすごかったので歩くことにした。

「誘っておいて寝ちまって悪かったな」
「別に良いよ。そもそも目的は買い食いの方だったし」
「でも最初のうちはちゃんと見てたんだぞ」
剛輝は了の前に出て、後ろ向きに歩きながら言った。
「こう、バーって花火が降ってきて、流星浴びてるみたいで気持ち良かった!」
両手を広げてみせる剛輝に了は言う。

「気持ちよすぎて寝たんだな」
「そうかもしれない」
二人で笑った。

「でもまぁ、久しぶりにリョウと遊べて楽しかったよ」
「ゴウが忙しすぎるんだよ。時間できたら、また遊ぼう。ヒビキやミズキやカナデもゴウに会いたがってるよ」
「マジか? 嬉しいな。俺もまたあいつらに会いたいよ。あとあの生徒会長も!」
「え、小清水さん?」
意外な気がした。
剛輝と隼人だと、性格が正反対のようなイメージだ。
宗親に無意識意地悪をするように、似ている隼人にも意地悪をしたいのだろうか。
そう思っていると剛輝が笑顔で言う。

「なんか、お前とあの人が絡むと、すごい面白いじゃん!」
「えっ」
驚く了に剛輝は続ける。
「リョウをあんなに突っ込ませたり、困らせたりすんのっておじさん位だったから、見てて凄い面白かった。いや、お前ら良い漫才師になれるよ!」
「いや、漫才師目指してないし! つーか、お前にも突っ込まされてるよ!」
「ああ、そっか。リョウは誰に対しても突っ込み担当なんだな。総攻めだな!」
「違うから! あとその用語の使い方、間違ってると思うよ!?」
宗親や隼人のせいで、了もBLに詳しくなってきているような気がしてしまった。




家に帰ると宗親が出迎えてくれた。
「お帰り、リョウ、今日のデートはどうだったかな? キッスはしてきたのかな?」
「するわけないだろ」
無視して進むと冷蔵庫から麦茶を取りだした。
グラスに注いで一口飲んだ。
歩いて来たからさすがに暑い。

「でも今日はこーんな写真をゲットしたぞ!」
宗親がスマホを翳した。それを見て麦茶をふきだす。
「それは!」
「ああ、さっき隼人君が送ってくれたんだよ。いやー、ゴウ君は俺が連絡しても完全無視だけど、隼人君の事は好きみたいだな。隼人君経由で送ってもらったよ」
「言っておくけど、それはただのチョコバナナ持ってるだけの写真だから! それで変な妄想とかするなよな!」
「もちろん俺は変な妄想なんかしないよ。変な妄想するかどうかは、ミズキ君とカナデ君次第。送信っと」
「あの二人に送信すんなよ!」
変な妄想の心配というより、剛輝と二人で出かけた事で、誤解を与えるんじゃないかと心配だった。
ただ、今回は剛輝に変な気持ちが一切ないので、友達と出かけただけではある。
普通と言えば普通の事だ。
ただ花火大会で会ったバスケ部のマネージャーの事が気になった。
変な噂が広がらないと良いが。
でも、学校が違うし、まぁ、大丈夫だろうと了は考る事にした。




夏休みも終わりに近づいていた。
宿題も終わり、最後は打ち上げ的に尾崎家に集まる事になった。
宗親はいつものように喜んでお菓子やパンを作ってくれた。
それらを食べながら、リビングで話していると隼人が現れた。

「小清水さんって、せっかくの夏休みに我が家以外、どこかに遊びに行ったりしてないんですか? 俺、ほぼうちで会ってた気がするんですけど?」
了が呆れぎみに訊ねると、隼人は前髪をかきあげる。

「君が心配する必要はないよ。これでも君の知らない場所で、青春を謳歌していたんだよ。ここからの帰り道で、禁止されている二人乗り自転車をしようとする人達を呼び止めて、二人乗り用自転車のパンフレットを渡したり、小学生女子に声をかけようとしている少年を食事に誘ったり、年配の男性にお金を貰おうとしている女子生徒をお茶に誘ったりと、それなりに充実していたよ」
「家からの帰り道だけで、どんだけ非行に走る生徒を未然に防いでたんですか!?」
二人乗りはともかく、淫行や売春事件が起きなくて良かった。

「リョウ、言い方に気をつけないと。彼らは良くない行いをしていたわけではないんだ。ただ俺と話している間に、彼等にも何か気づきがあったんだろうな。こんな事は二度としないと誓ってくれてたよ」
この人、将来、生活安全課の警察官にでもなるのかなと思った。

「所で君達は宿題はもう終わったのかな?」
隼人に聞かれて響が胸を張る。
「もちろんですよ、会長さん」
「自由課題もやったのかな?」
「当然です。俺は家庭菜園で野菜を作ったんで、それ持っていきます! あ、ゴーヤいりますか?」
「いや、遠慮するよ」
隼人は奏を見た。
「俺もしてますよ。人物が出てこない、短編映画っぽい動画を作ったんで、それを提出します」
横にいたミズキも頷く。
「俺はこの地域の神社を調べてレポートにしてあります」
視線が了に集まった。冷汗が出た。

「えっと……みんなが言ってる自由課題って何かな? そんなのあった?」
ミズキと奏が驚き、響が残念な生き物を見る目で了を見つめた。

「まさか、完全に忘れているとはな……かわいそうに」
響に呟かれた。
「自由課題は他の宿題と違って、誰かのノートを写せば良いってものじゃないから、一番やっかいだな」
ミズキが顎をつまんで言った。
「まず、何をやるかから決めないといけないし、残り二日で観察とか、ヒビキみたいに育てる系は間に合わないしな」
眉を顰め、厳しい表情で奏が言った。
了は動揺していた。完璧だと思っていた宿題にまさかこんな穴があるとは。
了はてんぱっていた。

「これって重要な宿題? 絶対出さなきゃダメ?」
「リョウ、俺達の担任は言ってたぞ。『これを出さないと留年させるぞー』って」
響の発言に頭を抱えた。白目をむいて倒れてしまいたい。
そう思った時だった。

「俺が去年提出した自由課題と同じモノはどうだ?」

全員が隼人を見た。了は藁にもすがる思いで隼人の前に行く。
「どんな内容ですか? あと二日で出来るモノですか?」
隼人は了を見下ろす。

「君は俺と同じ下地があるから間に合うと思うな」
「それはどんな課題ですか? 教えて下さい!」
了が頼み込むと隼人はニヤリと笑った。

「この俺がただで教えると思うのかな?」
了はショックを受けた。まさかここで交換条件を出されるとは思わなった。
でも背に腹はかえられない。留年がかかっているんだ。
了は叫んだ。

「どんな恥ずかしいBLポーズでもやります! 相手がヒビキでもカナデでもミズキでも誰でも文句は言いません! だから俺を助けて下さい!」
「別にそんなお願いをしようと思ってたワケではないよ」
「え?」
意外だった。てっきりそういう交換条件だと思った。
隼人は了に顔を寄せてきた。
整った顔にドキリとしていると、隼人は微笑んだ。

「君に生徒会に入って欲しい。もちろん入ってくれるよね?」

悪魔の微笑みだった。
以前、隼人が宣言していたのを思いだした。

『夏休が終わるまでには、口説き落としてみせるよ』と。



「あの……俺、俺は……」



了は悪魔に屈した。
こうして新学期から了は生徒会に入る事になった。


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