父が腐男子で困ってます!

あさみ

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隼人が了にキスした瞬間、時間が止まったような気がした。

今までも何度も隼人にキスされそうになった。
でもそれはフリだけだった。
毎回、BL要素を求めて隼人が顔を寄せるだけだった。
それが今回は違った。
軽くではあったが確かに唇が触れた。

「な、な、な……」
了は言葉が出てこなかった。
正直、今までで一番反応に困った。

真っ赤になりながら隼人を見た。
彼は涼しい顔で髪をかきあげていた。

「せ、生徒会長がキスなんかして良いと思ってるんですか?」
ようやく了の口から出たのはそんな言葉だった。
「生徒会長が恋愛禁止という校則はないから問題ない」
「そうじゃなくて、相手の許可も得ずにする事を言ってるんです!  しかもここは生徒会室ですよ? こんな行為をして良い場所ではないんでは!?」
「大丈夫だ。ここは密室。部外者は誰もいない。ここでの出来事は表に出る事はない。つまりやりたい放題だ!」
「生徒会長の言うセリフじゃないですよね!?」
了は全力で突っ込んだ。
けれど隼人は動じない。

「君のキスに対する考えはすでに聞いてあったからね、これ位は問題ないと踏んだ。舌もいれてないしOKラインだろう?」
「ぜんぜんOKじゃないですよ!」
そこまで突っ込んで、了は二人の友人の事を思いだした。
ミズキも奏も固まっていた。
了は頭を押さえる。

「え、えっと、その……」
二人の反応が怖かった。もしかして怒りに任せて、隼人に殴りかかるのではないかと思った。
けれど二人は何の反応もない。
「ミズキ? カナデ?」
呼ばれてようやく二人は我に返る。
「ご、ごめん。ショックすぎて固まっていた……」
奏が呟いた。その後でミズキが言う。
「これ以上、会長がリョウに無理やり何かするなら止めに入るつもりだったけど、すぐに離れたから考えてたんだ」
「考えてた?」
了が聞くとミズキは頷いた。
「今後の事を」
「……」
了は何も言えなかった。
隼人は了を入れたこの三人の関係を進めるためにキスしたと言った。
実際これで何か変わってしまうのだろうか?
了にはよくわからなかった。

「さ! ミズキ君もカナデ君も遠慮する事はない!」
隼人がハイテンションで語りだす。
「『俺が消毒してあげるよ?』 なんて言って、リョウにキスするもよし『なら俺はキス以上の事をしてやる』と押し倒すのもよし、存分にやってくれ! 大丈夫だ! ここでの事は外部にはもれない! さぁ、思いっきりやってくれ!」
「煽らないで下さい!」
了は叫んだが、二人の友人は冷静だった。

「いや、さすがにそんなコトはしないよ?」
「……リョウが嫌がる事はしません」
奏もミズキも大人の対応だった。
はしゃいでいた隼人が目を伏せた。
「そうか……せっかく君達の仲を進めようと思ったのに失敗か……」
隼人は心底残念そうに呟いた。


結局、隼人の計画は失敗したように見えた。
その場では何も起こらなかった。変化もなかった。
けれどこのキスは、後になって了に大きな変化をもたらすきっかけとなった。






家に帰った了は、こっそりと自室へ向かおうとした。
けれど玄関まで宗親が出迎えに来ていた。
「お帰りリョウ!」
嬉しそうな声に理解した。隼人から連絡が入っているのだろう。
その可能性を考えて、早く部屋に逃げ込みたかったのにと肩を落とす。

「聞いたよ、リョウ、ついにハヤト君とキスしたんだってな! やったな!」
「やったなじゃないよ。ここは息子が襲われたと、怒って良い所なんじゃないの?」
「襲われたじゃないだろう? お前もハヤト君とキス出来て嬉しいだろう?」
「なワケないじゃん」
「またまたもう、リョウは素直じゃないな」
ニコニコの笑顔で言われた。
宗親の妄想にはついていけない。
そう思って了は部屋に向かった。
宗親は廊下で『写真がないのが残念だ』と騒いでいるようだった。

洗面所でいつものように手洗いをした了は、鏡に映る自分の顔を見つめた。
無意識に唇を指で触れた。
隼人とのキスを思いだし、顔が熱くなった。

「あの人、BL妄想のためにここまでするか?」
思わず呟いていた。了には理解できない事だった。
好きじゃない人とキスをする。

「好きじゃない……」
呟いて少し悲しくなった。
よくよく考えれば、今までしたキスはすべて好意があってのものだった。
奏もミズキも蓮太郎も、了の事を好きだと言ってくれていた。
でも隼人は違う。
そう考えたら今度は腹がたった。
「なんだよ、あいつ何様だよ!? って生徒会長サマだ」
了は自分で突っ込んでいた。

今では隼人とはこんなのノリの付き合いだが、最初は一生口も利く事がないと思う位、別世界の人間に見えた。
真面目で優秀な生徒会長。
でも実際に会うとただの変人だった。
変えたのは宗親だが。

「いや、良い人だし、凄い人でもあるんだよな……」
いつも隼人の妄想に振り回されているが、彼の生徒会長としての仕事ぶりや優秀さは良く知っていた。
「やっぱ、尊敬できるよな……」
感情が振り回されていた。
怒って呆れて照れて悲しくなって尊敬して。

了は改めて自分の唇を見た。
今度は鏡越しにそれに触れてみる。
「そもそもあの人、キスに慣れてるのかな?」

まさか自分が初めてではないだろう。
「……どうなんだ?」
呟いてから鏡に映った自分の顔を見ると、見た事もない位、変な顔をしていた。




「いやー、聞いたよ。昨日は大変だったみたいだな」
朝から教室で響に言われた。
「どうして知ってる!?」
了は突っ込んだが、響はスマホを翳して見せる。
「ん、おじさんが教えてくれた」
「父さん、おしゃべりすぎない!?」
了は頭を抱える。
「ま、良いじゃん。おじさん楽しそうだし嬉しそうだし、息子の成長を見守ってる感じで、俺もあったかい気持ちになるよ」
「その感覚おかしくない?」
了が言うと響は笑う。
「ミズキやカナデには悪いかもだけど、でも今のトコ問題ない感じで、みんな楽しそうだなー青春だなーって感じてる」
「俺にも悪いと思って。あと青春だなーじゃないから」
響は机に寄りかかる姿勢で軽く答える。
「そうかな? なんか俺からすると、君達めっちゃ青春して見えるよ。みんなが友達だから誰の恋を応援するとかないけど、でも会長サマも平等に応援するよ」
「ちょっと待った!」
了は手を翳して響の言葉を止める。

「なんで小清水さんの応援が入ってる!?」
響は不思議そうに首を傾げる。
「え、だってそういう事だろ? キスしたって事は会長サマもリョウの事を好きなんだろ?」
「なんでそうなる!? なわけないだろ!?」
「え、違うの? てっきり俺はそういう事だと思ったのに」
「なワケないって……」
言って固まった。
いや、そういう事なのか?
その時、トイレに行っていたミズキが戻ってきた。
この話はこれで終了となった。



授業中も、了は隼人の事を考えていた。
てっきりいつものノリでキスをされただけだと思っていた。
でももしかしたら、隼人は自分の事を好きなんだろうか?
そう考えたら顔が熱くなった。
了は頭を抱える。

どうしよう、どうしよう。告白なんかされたら気まずい。どう断る?
それにミズキや奏にどう説明する?
宗親も大喜びじゃないか。そんなのムカつくし、宗親には絶対にバレたくない。
ここはもう告白自体しないでもらうようにしたい。
なんとか会うのをさけて、生徒会も仮病で休んで、暫くは乗り切るのが良いだろう。

だいたい隼人に真顔で告白されたら、どんな顔をしたら良いのか分からない。
黙って真面目な顔をしている分には、隼人は美形だ。超がつく美形だ。
そんな人間に告白されたらと思うだけで心臓が痛くなる。

了は心臓がある左胸を制服の上から押さえる。
ドキドキしていた。
というか胸が苦しい。
身体も熱くなる。
いや、これは精神的なモノではなく、実際に具合が悪いのではないかと思った。
最近、特に冷え込んでいるので風邪でも引いたのかもしれない。
そのせいで熱があるんじゃないか。

了は休み時間に保健室に行ってみた。
熱はなかった。

「おかしい、何で熱がないんだ……」
呟きながら廊下を歩く。
正面に視線を戻した時、隼人の姿が目に入った。
なんでタイミンング良くここに居るんだよ!?
叫びたいのを堪えた。
隼人と視線が合った。

「うっ……」
了は胸を押さえた。また具合が悪くなったような気がした。
心臓が痛い。
こちらに歩いてくる隼人から視線をそらせないまま、了は端によけて壁に背中をピッタリとくっつける。

「何でそんな所に張り付いてるんだ?」
近くまで来ると隼人は立ち止まって訊ねた。

「い、いや、廊下を通るのに邪魔かなと……」
「普通に立っていたってすれ違えるだろう? それとも俺はすれ違えない程、太っているとでも言いたいのか?」
「言ってないですよ」
「生徒会長をディスるとは良い度胸だ」
「だから言ってないですよ!」
「生徒会長に無礼を働くなど、不敬罪で処罰を与えるしかないな。罰はキスで良いか?」
顔を寄せられて、了は慌てた。

「やめて下さいよ! もうこれただの因縁つけてる不良じゃないですか!?」
了が突っ込むと隼人は笑った。
「冗談だ」
「でしょうね!」
言いながらも、了は自分の顔が熱いのを意識した。
隼人の笑顔が眩しく見える。

「ん、顔が赤いな? どうした? 熱でもあるのか?」
隼人はすぐ側の保健室に目をやった。
「具合が悪かったのか?」
心配そうに顔を寄せる隼人に、動機が激しくなった。
「だ、大丈夫です! 熱はなかったんで!」
「でも具合が悪かったんだろう?」
本当に心配そうに言われた。
あなたがいるから具合が悪くなるんですよ! そう叫びそうだった。

その時、自分を呼ぶ声が聞えた。
「リョウ」
振り返ると、ミズキが心配そうにこちらを見ていた。

「遅いから心配で、様子を見に来たんだ」
「あ、ありがと……」
ミズキが来てくれて安心した。
隼人はミズキに向かって言う。
「どうやらリョウは体調が良くないみたいだ。あとはミズキ君に任せても良いかな?」
「はい」
ミズキは了に寄り添うように立つと、隼人に視線を向けた。
「……」

「ミズキごめん、熱なかったから戻ろう」
了はミズキの背中を押した。そのまま振り返らずに二人で廊下を進む。
心臓が脈打ち、隼人の前にいるのが、了にはいたたまれなかった。





放課後。
ミズキと一緒に、ホールのベンチで奏が来るのを待っていた。
響は別行動で遊びに行ったので、今日は三人での帰宅だった。

暫くすると奏が現れた。
いつ見ても格好良いなと思った。
金に近い茶髪も似合っているし、手足が長くスタイルも良い。
間違いなく、この学校で一番の美形だ。
そう考えて隼人の顔が浮かんだ。
華やかさで言えば奏の方が目立つが、隼人も負けない位美形だ。
そもそも芸能人と並んで遜色ないんだから、隼人の美貌もとんでもないと了は改めて思った。


歩いてきた奏は、了を見ると問いかけた。
「今日、ハヤトさんて休み?」
了は首を傾げる。
「いや、いるよ。2時間目の休み時間に会ったし」
「そうなんだ」
奏は考えるように自分の顎をつまむ。
「どうかした?」
了が聞くと奏は答える。

「クラスの人間が部活の事で話があるとかで、生徒会長のハヤトさんを訪ねに行ってたけんだけど、教室にいなかったって帰って来てたから」
「トイレだったんじゃないの?」
了は軽く答えた。
「休み時間に何度か2年の教室を見に行ったらしいけど、いなかったらしい。上級生に声をかけずらくて、会長はどこにいるか聞けなかったってさわいでたんだよ」
了は首を傾げた。

今日の比較的早い時間には、隼人は学校にいた。
その後、早退でもしたのだろうか。
それとも用があって、たまたま教室にいなかっただけなのか。
考えているとミズキに呼ばれた。

「リョウ、さっき会長に会った時、彼の様子はいつもと同じだった?」
「え?」
了は黙って考えた。

正直よく分からなかった。普段と違ったのは自分の方だったように思う。
キスをされたし、響に隼人に好かれてるんじゃないかと言われたので、動揺していた。
心臓が痛くて、まともに顔も見れない状態だった。

答えない了に向かってミズキが言う。
「さっき会長に会った時に、なんか違和感があったんだ。いつもより元気がないというか、疲れてそうだなって。それにあの廊下にあるのは職員室や保健室の特別室ばかりだし、もしかして会長も保健室に向かってたんじゃないかな?」
「あ……」
言われてハッとした。
了は保健室から出てきたばかりだったが、位置的に隼人の向かう先にあったのは保健室だけだ。

了はベンチから立ち上がった。
「リョウ?」
奏が不思議そうに了を見ていた。
了は立ち上がったまま口元を押さえて考える。

隼人の体調が悪かったとして、彼は今どこにいるのか。
もう早退しているかもしれないが、もしかしたらまだ保健室にいるのではないか。
了は顔を上げるとミズキと奏を見る。

「俺、小清水さん探して一緒に帰るから、二人は先に帰ってて!」
「え……」
奏が驚いたように呟き、ミズキが何か言うより早く、了は走り出していた。


学校の廊下を走ってはいけない。
そんな事は知っているのに、了は走っていた。
隼人の状態がわからないのが不安だった。何でもないならそれで良い。
でももしも具合が悪く苦しんでいるとしたら?

今はただ、隼人がどういう状況なのか一刻も早く知りたかった。


保健室に着くと了はドアを開けた。
それに気付いた女性の保険医に、心配そうに声をかけられた。

「尾崎君、また来たのね。さっき体温計った時は熱はなかったけど、やっぱり具合が悪いの?」
「いえ、違います。あの……生徒会長ってここに来てますか?」
緊張しながら訊ねると、保険医は頷いた。
「小清水君ね、休んでたけど、丁度帰る所よ」

了は緊張しつつ隼人のいるベッドに向かった。
カーテンを開けると、隼人はベッドに腰掛けて上着に袖を通している所だった。
「小清水さん……」
姿を見るとほっとした。

「もう起きて大丈夫なんですか?」
訊ねると隼人は涼しい顔で答える。
「問題ない。少し休むつもりが、うっかり熟睡してしまっただけだ」

了は隼人に近づいて、側にあったパイプ椅子に座った。
確かに隼人の顔色は普段と変わらないように見えた。

「さっき会った時、俺の心配してたのに、具合悪いのは自分の方だったんですね?」
隼人は視線をそらしながら言う。
「俺は具合が悪かったワケではない。少し疲れていただけだ。熱もない」
「はいはい、そうですか」
了は軽く流した。

隼人は改めて了を見た。
「というか、何で君はここにいる?」
「何でって……いろいろな情報とか状況で、小清水さんが具合悪くて、保健室で休んでるんじゃないかって心配して来たんですけど……」
「ああ、そうか、探偵の推理の組み立て的な事か。さすが宗親先生の息子なだけある」
隼人は制服のボタンを閉めながら呟いた。

「別に父さんの息子は関係ないと思いますけど。あと、ミズキの方がよく観察していたみたいで、小清水さんの体調不良に気づいてましたし」
隼人がハッとしたように目を見開いた。

「そうだよ! あの時、君がベッドに寝ていれば、様子を見に来たミズキ君とあれやこれやという展開があったんじゃないか!? しかもそれを、俺は隣のベッドでカーテン越しに見られるという最高のチャンスだったんじゃないか!? 何で君は熱がなかったんだ!」
「俺の熱がなくて良かったってならないんですか!?」
了はいつものノリで突っ込んだ。

「二人共元気そうね。もう帰ってくれる?」
様子を見に来た保険医に怒られてしまった。

二人はすぐ近くのホールのベンチンに移動した。


「君のせいで先生に怒られてしまったじゃないか。生徒会長だというのに」
「反省が必要なのは発言内容の方ですよ」
了が言うと隼人は視線を向ける。

「いつも一緒のミズキ君とカナデ君はどうしたんだ?」
「先に帰ってもらいました」
「なんで?」
真顔で聞かれた。腹が立った。
「なんでって、貴方の事が心配だったからじゃないですか? 具合悪いのかな? 生徒会長の仕事無理してたんじゃないかなって考えたんですよ?」
隼人はため息をついた。
「俺はせっかくの、君とミズキ君、カナデ君とのラブラブタイムの邪魔をしてしまったのか。なんてもったいない事を……」
「具合が悪い時位、BL妄想やめたらどうですかね!?」
隼人は真面目な顔で了を見る。

「BL妄想こそが生きる目的。ヤル気と元気の源だ。それを失ったら、俺はもっと具合が悪くなる。生きていけない!」
「大げさですね! というか、ここは大好きな俺が来て、嬉しくなるって展開じゃないんですか!?」
了はつい突っ込んだ。
隼人が驚いたように目を見開く。
その瞬間、了は自分が失言した事に気付いた。

隼人が了を好きだという仮定で話してしまった。
でもそれはあくまで響の想像だ。
それにもし、想像が事実だとしても、隼人の想いをどうかわして良いか悩む。
了は隼人とは付き合えない。
付き合えないのか? あれ? え? なんで付き合えないんだっけ?

了が自分の思考に混乱していると隼人が呟いた。

「別に俺は君の事が好きなわけじゃない」
隼人の言葉が酷く冷たく聞こえた。
「いや、誤解しないでくれ。好きは好きだ。ただ俺はあくまでBL妄想の受けとしての君が好きなんだ。そういう意味では誰より君を愛でている」
それは普段と同じノリで言ったのかもしれないが、了には突き放されたように聞こえた。

「君は本当に理想の受けだよ。周りにいる友人も美形ぞろいで、総受け妄想するのにこんなに適した人材はいない。優柔不断な所も流されやすい所も、受けとしては完璧! ああ、そうだね、こうして話していると興奮してくるよ! 他にいないなら、俺が攻めとして君を押し倒してしまいたい位に!」
隼人は了の肩をガシリと掴んだ。
それを乱暴に振り払うと、了は立ち上がる。

「あなたの事を本気で考えた俺がバカでした! あなたはそういう人でしたよね! もう良いです!」
了は叫ぶと踵を返した。
まっすぐに昇降口に向かう。

なんだかとても悲しかった。悔しかった。

響に言われて真に受けてしまった自分が悪いのは分かっている。
でも隼人が本気で自分の事を好きなんじゃないかと思い、あれこれと悩んでいた。
それがすべて無駄だった。間違いだった。
隼人は自分の事を恋愛として好きなわけではない。
それを知って清々した。安心した。すっきりした。もうこれで思い悩む事もない。

了はいつもの通学路で立ち止まった。
枯れた落ち葉が頭の上に降ってくる。
「……」
了は拳を固く握りしめていた。

今朝、熱が出たように浮かれていた気持ちが冷めている。
困ると考えていた事がなくなり、今はがっかりしている。
それはつまり期待していたという事だ。

何に?

「え?」
さっきまで怒っていた感情、冷めていた感情が消えた。
了は立ち止まったまま空を見る。
曇った秋の空が見えた。
葉の落ちた、寒そうな木々が見える。
俯瞰した世界に自分の姿が見える。
……。

「いや、まさか、違うよ……ね?」
了は一人で自分に問いかけた。

もしかして、好きなのは自分の方ではないだろうか?
隼人が了を好きなんじゃない。
了が隼人を好き。
恋愛感情を持っている。

「え、ええ?」
了は自分の両頬を手の平で押さえた。

先ほどまで下がっていた熱がまた上がる。
もしかして、自分は隼人に恋しているのだろうか?

了は小道で一人立ちつくしていた。

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