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しおりを挟む暴力とは違う音に驚いていると、続いて間延びした声が届いた。
「はいはい。そこまでだ。手を離せ」
知った声に恐る恐るそちらを見ると、静かな怒りを滲ませたハウリーが腕を組んで立っていた。
声はのんびりしているのに、顔を見るとぞっとするほど冷たい。
「馬鹿には一回落ち着いてもらわなくてはいけないな」
ハウリーが手を掲げると、魔法陣が展開された。
ミシェラは知らない術式だったが、並んだシンボルは複雑でレベルが高い魔術だとすぐにわかった。
村長とグルタにはには魔法陣は見えないらしく、ハウリーの手を不思議そうに見ている。
次の瞬間、ごおおおと大きな音がして、グルタと村長の周り強風が吹き荒れふたりはごろごろと転がった。
ハウリーのきれいな青と白の髪が名残できた風に揺れて、こんな時なのに一瞬目を奪われる。
グルタと村長は何が起こったかわからないようで、言い合いも忘れ呆然とした顔でハウリーを見ている。
「スカイラ師団長、外まで派手な音が聞こえましたよ。あーやだやだ。乱暴な男って本当に意味がわかんない。どう考えたって自分の息子が連れ込んでるのに、女の子に当たってるおじさんも意味わかんない」
やだやだと繰り返しながら、シュシュも後ろから現れた。
驚いて声も出ないミシェラに、ハウリーは着ていたローブをミシェラに巻きつけた。
「もう大丈夫だ。危険な目に合わせてしまって、すまない」
まだ状況がわからないミシェラを、ハウリーはぎゅっと抱きしめる。
その柔らかな手触りと温かさに、やっと恐怖が薄れてきて身体の力が抜けた。
ハウリーはそのままふわりとミシェラの事を抱き上げる。
見た目はとてもきれいで細身なのに、軽々と抱えられたことに動揺する。
「ハウリー様……! あの、大丈夫ですので降ろしてください! 重いですよ!」
「重くないし、このままでいろ。どちらかと言えば軽すぎで心配になる。……助けに来るの、遅くなってごめんな」
ハウリーはミシェラの事をぎゅうぎゅうと抱きしめ、ミシェラの頬に頬を寄せた。
親密な態度と真摯な声で謝られ、ミシェラはどうしていいかわからなくなってしまう。
ぺたりとくっついた頬が冷たい。
「あの、いつものことなので本当に大丈夫です」
いつものこと、という単語にぴくりと眉をあげたけれど、それでもハウリーはミシェラの言葉の続きを待った。
「私、助けに来てくれる人がいるだなんて思ってもみなかったから、驚いてしまって……。でも、本当に嬉しいです。グルタに襲われるのは、生贄になるよりずっとずっと嫌だったから、凄く怖かったんです。ありがとうございます」
たとえ今だけだとしても、本当にほっとした。
ミシェラは村長とグルタに聞かれないように、ハウリーに近づき耳元でお礼を言った。ハウリーは目を見開くと、男二人からミシェラを隠すように抱きかかえた。
グルタに触られたところが気持ち悪い。ハウリーに抱きかかえられているのは全然嫌じゃないのに。
「馬鹿だな。助けるに決まってる。……ミシェラが無事だったから今は許してるけど、こんな家、燃やしてもいいぐらいだ」
「ふふふ。なんですか、それ?」
「本心なんだけどな。気にしないでくれ」
「ミシェラちゃん……本当に良かったわ。怖かったわね」
シュシュも、抱きかかえられるミシェラの頬にひんやりとした手で触れた。
「なんだ一体! いくら魔術師団とはいえ、突然外部の者が人の家に来てこんな風に魔術まで使うなんて、失礼じゃないか! その子供は俺のものだ。こちらに戻せ」
グルタがはっとしてハウリーに言い寄る。
ちらりとハウリーは冷たい目線を送ると、グルタを無視してそのままミシェラを抱えて外へ出た。
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