【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香

文字の大きさ
23 / 49

20

しおりを挟む
 目覚めはとても良かった。

 起きても身体はどこも痛くないし、更にふわふわな布団にくるまれていて、隣のハウリーは暖かかった。

 これはもしかしたら死んだかと思うくらいの快適な目覚めに、ミシェラは元気に跳ね起きた。
 ぐっすりと寝れたおかげか、傷がないせいか、ともかく体が軽い。

「おはようございます! ハウリー様」
「……おはよう」

 ハウリーはすでに起きていた。しかし目覚めが悪いのか、険しい顔でベッド近くのソファでなにかを飲んでいる。

 寝不足のような顔をして、ミシェラとは正反対だ。

「マッサージをしましょうか?」
「何故だ」
「目覚めが良くないのかな? と思いまして……。マッサージなら何度かやったことがあるので、下手じゃないと思います」
「魔術師になる君を、マッサージ要員にする気はない。気にしないでくれ」
「わかりました……」

 カップを手にしたまま、ひらひらともう片方の手を振られ、ミシェラはしょんぼりとした。
 今のままでは、役に立てそうなことがない。

「今連絡が来るのを待っているので、しばらくゆっくりしてくれ。どうせ城に戻ったら忙しいのだ。貴重な時間だぞ」

 頷いたものの、ミシェラは小屋に居る時は、痛みをこらえているか、書類作成や読書をするかくらいの選択肢しかなかった。
 ゆっくりという概念がよくわからない。

「ハウリー様、わたし、何をしていいのかわかりません」
「どういう事だ?」
「何をどうしたらゆっくりなのでしょうか。ハウリー様のようにお茶を飲む事ですか?」
「……自分が楽しいという事をすればいい」
「……たのしいこと。ええと、本を読む事、とか」
「今後、ミシェラがゆっくり何かしたいと思う事は見つかるだろう。今はここの本を読んでいなさい。君は細いのだからお腹がすいたらすぐに言ってくれ」
「ありがとうございます!」

 これから楽しい事がたくさんある。そんな事を言ってくれるハウリーは優しい。ミシェラはハウリーが貸してくれた本を読みながら、にやにやしそうになる。

 本は植物について書いてある本で、小屋には全くなかったジャンルなのでとても面白かった。

 本に夢中になっていると、ノックが聞こえ、フィアレーが入ってきた。
 ハウリーにさっと何かを告げて、そのまま礼をして去っていく。少し寂しい。

「ミシェラ。想定よりかなり早いが、明日の昼過ぎには入城できるようだ」
「わかりました!」
「食事をすると、転移したときに気持ちが悪くなるかもしれない。転移酔いするものは意外と多いんだ、これは慣れとかよりも体質だな。明日は朝食がなくてすまない。下手すると昼も食べられないかもしれない。連絡もきたし、今日はその分朝からゆっくりしっかり食べよう」
「えっ。寝る前に食事はしましたよ?」
「……通常であれば、朝と昼と夜に食事をするのだ」
「知らなかったです……! そんなに食事をとっていいものだったとは」

 慄いていると、ハウリーがミシェラの腕を掴んだ。

「君は細すぎる。本当ならばしっかり毎食きちんと食べてもらいたい。城に着いたら食堂がある為、ちゃんとした量をちゃんとした時間に食べるように」
「わかりました。なんだかすべてが急に贅沢で、ちょっとどきどきしちゃいますね……」

 ハウリーは何か言いたげにミシェラを見つめたが、結局何も言わずにそのまま立ち上がった。

「ハウリー様?」
「そうだな。今日は食べ歩きに行こう。城に行く前に君に町の姿を見せておきたい」

 扉に手をかけ、ハウリーはにやりとミシェラに笑いかけた。

※※※※※

 完璧な笑顔のフィアッセ師団長に見送られ、ハウリーとミシェラは屋敷の外に出た。出てすぐにもうたくさんの人がいて、ミシェラはただただ圧倒される。

「人がたくさんいて目が回りそうです」
「……ここで、もうそうなるのか。この先は人がさらに沢山いるが大丈夫だろうか」

 心配そうにハウリーがミシェラの顔を覗き込み、そのあと歩いている人々に目を向けた。

「見てみろミシェラ。彼らは皆活力にあふれているだろう? この町はいいところなんだ」

 微笑んで言うハウリーに、ミシェラも彼らの顔に目を向ける。
 確かに彼らの目はきらきらとしていて、力強い。

 ハウリーはこの街がきっと好きなんだろう。そう思うと恐怖心は和らいだ。

「本当ですね」
「彼らの元気の源である食事もおいしい。ここは市場の屋台がおいしいと評判なのだ。無理にとは言わないが、どうだろう?」

 ハウリーに手を差し伸べられ、ミシェラは微笑んだ。

「ぜひ、ご一緒させてください」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

処理中です...