【完結】生贄として育てられた少女は、魔術師団長に溺愛される

未知香

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「よし! 良かった!」
「……ただ、私帽子をかぶってきませんでした」

 ミシェラの腰までの白い髪の毛は、今日は緩く巻かれおろしてある。

 出かけると聞いたフィアレーが嬉しそうにミシェラの髪をなで巻いてくれたので、何も言うことができなかった。

 後で帽子をもらおうと思っていたが、言い出す間もなく送り出されてしまった。

 誰かに何かを伝えるタイミングは難しい。

 自分の希望を口に出すのを長年してこなかったのだ。しかし、それが結果白い髪の毛を露出しての散歩になるのなら、言わなければならなかった。
 この色は誰かに不快感を与える可能性がある。

 自分のできなさに、申し訳ない気持ちになる。
 ハウリーはミシェラの言葉に、ミシェラの白い髪を優しくすいた。

「大丈夫だ。歩いてみればわかる。私もそのままだろう?」
「ハウリー様は確かにそうですが……」

 魔法師団長として誉れ高いハウリーと生贄として育てられたミシェラとではまったく違う気がする。それにハウリーの白い髪は一部分だ。

「私の言葉は信じられないかな?」

 眉を下げ、ハウリーは悲しそうにつぶやいた。ミシェラは慌ててハウリーの手を取る。

「ハウリー様のことは全面的に信じております!」

 ミシェラが真剣な顔で言い切ると、ハウリーはぶはっと噴出した。

「そんなに信じてもらえてうれしいよ。じゃあ、大丈夫だな」

 そう笑うハウリーは悲しそうな感情は全くなかった。
 ミシェラはぱちぱちと目を瞬かせた。

「一緒に出掛けられてうれしいよ」

 いたずらっこのようにハウリーが笑う。そこでやっとミシェラは自分がからかわれたことが分かった。

「ハウリー様ったら」

 思わずミシェラも笑ってしまう。
 くすぐったくて、楽しい。

 くすくすと笑うミシェラの頭を、ハウリーがするりと撫でた。

 ミシェラはハウリーが撫でたところをそっと自分でもなでる。
 年齢を言ってしまってから距離が開いてしまったような気がしていたので、それもうれしくてさらに笑ってしまう。

「よしよし。緊張もほぐれたしもう大丈夫だ。それじゃあお嬢様、一緒に行きましょう。……行き先が屋台だっていうのはちょっとしまらないが」
「屋台って何があるのでしょうか。食堂と何が違いますか?」
「あーそこからかー。ミシェラは初めての体験がたくさんあるな」
「そうですね。本を読めばもうちょっといろいろ詳しくなると思うので! 私はお城に入ったら読むものリストをちゃんと考えていますよ」
「……なんで何か知るのが本のみなんだ。今日は屋台が体験で知れるからな!」

 なぜか少し怒ったような顔で、ハウリーはぐっとミシェラの手を握った。
 そっと自分の腕にのせる。

「今日は一緒に楽しもうじゃないか。はぐれると困るから、腕につかまっていてくれ」
「ありがとうございます」

 ハウリーの腕につかまる。

「この腕安定感がすごいです!」
「この状況の感想がそれとは……私もまだまだだな」

 楽しそうに笑うハウリーがミシェラの手に手を重ね歩き始める。
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