【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香

文字の大きさ
20 / 54

第20話 チョコレートの距離

しおりを挟む
「それにしても、お披露目会があるのですね。聖女召喚って頻繁にあるものなのですか?」

「いや、前回の召還は三百年も前だ。そして、何故か聖女については記録を残さない部分が多いのだ。……私は怪しんでいる部分がある。それでも二人居たという文献は見当たらなかったので、通常一人なのは間違いないだろう」

「たまたま私がミズキちゃんの近くに居たから……とかですかね」

 夜だったしコンビニ帰りでぼんやりしていたので、周りに誰がいたとかは全然気にしていなかった。
 全く思いだせない。

「近くに居たからと言って、そんな簡単に巻き込まれる術式ではない」

 眉を寄せて耐えるようにフィスラが反論する。

 そうだ。
 フィスラが責任者だった。
 こんなに責任を感じている人に、責める事を言ってしまった事に反省する。

「そうですよね。あの……私はフィスラ様が言ったように、そこまで未練があるわけではありません。料理も美味しいし、仕事もこれからさせてもらえるし、感謝しています。それに、人生で初めてパーティーにも出られますしね!」

 最後は少しおどけて見せると、フィスラも笑ってくれた。

「私の隣に相応しいように仕上げよう」

「それって結構なスパルタですよね」

「怯える必要はない。いい教師をつけてやろう」

「ううう。頼もうとは思っていましたが、やっぱりそれはそれで緊張しますね……。でも教師はいないと全くわからないので助かります」

「聖女は、マナー講師にはあまり学んでいる様子がないのに、ドレスや宝石は予算を大分かけているらしいぞ」

「綺麗な子はきっとマナーなんて関係ないですよ、聖女様ですし。……ミッシェ殿下もすっかりあまあまですね」

 あの綺麗な子が微笑んで立っているだけで、皆喜ぶに違いない。
 私だってちょっと嬉しい。……嫌われてるけど。

「聖女だからと言って甘やかしていいとは思えないがな」

 フィスラは眉をひそめたが、あまあまな理由は聖女だからとは限らない。私はミッシェのあの甘い視線を思い出した。
 彼はミズキにすっかりやられていると思う。

「そうだ。チョコレートでも食べますか?」

 テンションが下がった時には甘いものだ。私はコンビニの袋を出した。

「チョコレートとはなんだ?」

「あんなに色々なお菓子はあるのに、チョコレートはないんですね。これですよ」

 お徳用の大袋のチョコレートだけれど、これから食べられないと思うと大事に食べたくなる。今日は一人一つずつにしよう。

 キャンディ包装の袋を渡すと、不思議そうにされる。

「貴族の方はあんまりこういう風におやつは食べないのかもしれないですね」

「そうだな。こういう形態は初めて見た。もしかしたら市井ではあるかもしれないが。皿に乗っている菓子しか食べることはないな」

「贅沢な生活ですよね。こうやって剥くんですよ」

 両端をひっぱってチョコレートを取り出す。まだ包装を不思議そうに見ているので、開けたチョコレートを口元に差し出した。

「師団長様に庶民からひとつあげましょう」

 偉そうにしてみたけれど、フィスラは私を見つめるだけで口を開こうとしない。何故だろう。私はもっと近づくために、フィスラの肩に手を乗せる。

「口をあけてください」

 そう言うとやっと口を開けたので、チョコレートを指で押し込む。フィスラは驚いたように口元を押さえ、下を向いた。

 そこでやっと、フィスラに味を説明していなかったことに気が付いた。

「わー大丈夫ですか? 甘すぎでしたかごめんなさい!」

 慌ててフィスラを覗き込むと、彼は真っ赤になっていた。

「……なんで」

「あああ。そうですよねマナー違反でしたよねごめんなさいごめんなさい」

 貴族では過度な接触はマナー違反に当たると見たことがある。
 フィスラはソファに隣に座ったりいつも距離が近かったので、あまり何も考えずにやってしまった。

 もしかしてものすごく破廉恥だったのではないだろうか。
 まずい。

 やましい気持ちがなかったことを示すために、ソファの端の方に寄り手をあげた。

「もう何もしないので安心してください」

 フィスラは先ほどよりは落ち着いた顔色で、ため息をついた。

「マナー講師は女性にお願いしよう。君の距離感が心配だ」

「ううう。勉強したいと思います……」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら
恋愛
「どうしてよりによって、18歳で破滅する悪役令嬢に生まれてしまったのかしら」  こうなったら引きこもってフラグ回避に全力を尽くす!  そう決意したリアナは、聖女候補という肩書きを使って世界樹の塔に引きこもっていた。そしていつしか、聖女と呼ばれるように……。  うまくいっていると思っていたのに、呪いに倒れた聖騎士様を見過ごすことができなくて肩代わりしたのは「18歳までしか生きられない呪い」  これまさか、悪役令嬢の隠し破滅フラグ?!  18歳の破滅ルートに足を踏み入れてしまった悪役令嬢が聖騎士と攻略対象のはずの兄に溺愛されるところから物語は動き出す。 小説家になろうにも掲載しています。

銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。 そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。 それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。 村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。 ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。 すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。 村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。 そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

処理中です...