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第21話 【SIDEフィスラ】特権階級
しおりを挟む魔法師団長は特権階級だ。
生活に必要な魔導具、騎士の武器や防具の強化など作成物は多岐にわたる。その影響力は当然、大きい。政治としても独立した大きな権力を持つ。
その為、女性人気はとても高いと言える。
しかし、フィスラは今まで女性と付き合うことについて考えたこともなかった。
貴族らしい遊びは一通りしてみたものの、自分には合わないという感想を持っただけだった。
肩書に寄ってこられても迷惑だとしか思えなかったし、この自分に付き合えと圧力をかけるほどの人間もいない。
気軽に遊べる相手と付き合うのも、時間の無駄に思えた。
多すぎる魔力は集中していると威圧として感じるらしく、周りの人間に気楽な雰囲気はない。近寄ってくる女性も、しばらくすると諦めてしまう。
だから、だからあの距離に驚いてしまっただけだ。
間違いない。
昨日の甘さを、異世界のチョコレートとかいう菓子のせいだと思い込みながら紅茶を飲む。
ツムギは不用意に近いたり、涙を見せる。恐ろしい手腕だ。
あの日不安に揺れる瞳を見て、初めてツムギという人間を知らない世界に連れ出してしまったことに気が付いた。
会話は何故か楽しく感じてしまうけれど、彼女を一人にするのは召喚した立場として良くないから、頻繁に会いにいってしまうだけ。
ツムギに対して責任を感じている。
そう。それだけだ。
「魔法のない世界に居たので、講師の方が言っている意味がよくわからないの。聖魔法が使えないと、示しがつかないわ。フィスラ様から教えていただいた方がいいと思います。何故未だにこちらに来て頂けないのでしょうか。聖女のみが読めるという本も、どうしてまだ読ませていただけないの?」
こてりと首を傾げてこちらを見るミズキからは、魔力を感じる。不快感が凄い。
こちらには何故か責任を果たそうという気持ちがうまれてこないが、食事に呼ばれれば参加するぐらいの気持ちはある。うわの空でいるのは仕方がない。
ミッシェはどうしても自分を取り込みたいようだ。
食事をしようと誘われて仕方なく来たものの、内容は同じで何も得るものはない。
「聖女の本については、未知の部分が多く魔力が安定しないと危険だと思います。私もミッシェ殿下もまだ許可はできないのです」
「早く聖女としての地位を確立したいわ。読んだ方が早く力を得られるかもしれないじゃない」
聖女の本については、魔力が安定したとフィスラの許可が下りなければ開くことはできない。
師団長しか使えない解除の魔法と聖女の魔力に反応するため、勝手に開くことは出来ないのだ。
ある程度の知識と技術を持っていないと、危険があるかもしれない。
まだ、そこまで危機は迫っていない。
ゆっくり学んでもらいたいと思っているが、彼女は自分の力を示したいらしい。
嬉しそうにミズキの事を見つめるミッシェには、彼女が挟んでくる嫌味な内容は入ってこないのだろうか。
「そうかもしれませんが、基本生活になれるのも大変でしょうし、魔力の扱いについて基礎的な事は座学で先に学んでいただけたら、と思います」
こちらも、きちんと微笑みを返す。彼女には優しげに映っているだろう。本心に対しての表面上の顔など、貴族はまったく別物だ。
誰もが綺麗にほほ笑む技術を習得している。
「……座学は本当に必要なのかしら」
「そうです。まずは基礎的な事がわかってからの実戦でないと、力が強大だった時は危険かもしれません」
「そうね。力が強大だと確かに大変なことになるかもしれないわね」
強大な力という言葉に、ミズキは深く頷いた。自分の力をかけらも疑っていない。
聖女とは悪女だ。そうフィスラは考えている。
今でもピリピリと感じる彼女からの魔力は、魅了だろう。
意識的か無意識だか知らないが、聖女特有のものだと思われる。
実際に体感するのは初めてだけど、きちんと意識して対応しない限りは彼女に好意を持ってしまう。
ミズキの隣に居る馬鹿のように。
「早くあんな女に構うのをやめて、ミズキの力を解放してあげてもらいたいものだ」
馬鹿は馬鹿らしく馬鹿そのものの発言をした。
「その通りよ。今の教師には魔力の安定が図れてないと言われているわ」
「聖女様には、是非瘴気の浄化をして頂かなければいかないですものね。出来るだけ安全に行えるようには尽力したいと思っています」
「安全じゃないなんてありえないわ」
何を持ってありえないとしているのかはわからないけれど、ミッシェも深く頷いている。
魅了の力は本当にすごい。
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