異世界転移したよ!

八田若忠

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web連載

ギルドマスターの憂鬱

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 エンガルのギルドマスターは老齢のベテランハンターである。

 ハンター関係の小さなイザコザから、国のイザコザまで顔を突っ込み、見て、聞いて、感じて来た。

 以下略

 エンガルのギルドマスターササクは兎に角、ブラックライセンス持ちの反則ハンターとは関わり合いになりたく無いのである。

 個人的な怒りで国一つを滅ぼせる力を持ち、自分に関係の無い事には一切関知しないのは、強者であればこその特権なのかも知れないが、極端すぎるのだ。

 そもそもが王族に連なる王子を私刑にかけた挙句に、王様に土下座をさせるなど前代未聞の……

「ギルドマスター!」

 ブラックライセンス担当を任せてある生贄受付嬢が、ギルドマスター執務室を乱暴に開ける。

「ナナ君、ノックは文明人が持つ美徳じゃよ?」

 ナナは真っ青な顔色で見慣れぬ女性二人と、見慣れたハンターを一人を伴い、執務室の中へと丁重に案内する。

「ナナ君こちらのお二人はどなたかな?」

「ハンター登録にいらした方達なのですが……」

「登録業務はわしの執務室に来る必要があったのかな?」

 ササクは直前まで考えを巡らせていた事案に対しての苛立ちを、軽い皮肉に乗せて目の前のベテラン受付嬢にぶつける。

「いえ、イント君の証言によるとブラックライセンス案件だと言う事なので、こちらにお連れしました。
 ギルドマスター執務室へ直行する様に助言をしたのは、ブラックライセンスを所有するイント君の指示ですので、黒証取り扱い法に照らし合わせてみると……」

「わかった、わかった……」

 視界の隅でササクの知り合いである鍛冶屋の娘がウロウロと歩き回り、ササクのコレクションの武器をペタペタと触り回っている。

 ササクは思わず頭を抱え込んだ。

「初めまして私、当エンガルハンターギルドでマスターをしておりますササクと申します」

「あらあら、御丁寧に、私はこの度エンガルに移住して来ました、リンダと申しますわ、そしてこちらがマリア」

 リンダの視線に促されて、後ろに控えていたマリアと呼ばれた女性がぺこりと挨拶をする。

「それで……お二人は何故エンガルでハンター登録を?」

「ん~元々アバスリの町に住んでいたんだけど~、嫌になっちゃって家出して来たのよ、バイならって感じ」

「親御さんも心配しておられるのでは?」

「ブラックライセンス案件って、そっちのお嬢さんが言って無かった? 下らない探りを入れていると後悔するわよ?」

 リンダと名乗る女性が、獰猛な微笑みを見せると部屋の温度が一気に下がる。

 膨れ上がった殺気に誰よりも過敏に反応した鍛冶屋の娘は、ササクのコレクションを勝手に掴み取り戦闘態勢に移る。

 ここでブラックライセンス同士の喧嘩など起きよう物なら、その被害は想像すら出来ない。

 慌てて鍛冶屋の娘を制して、宥める為に大事なコレクションを進呈する事を約束する。

「おたくで飼われている魔王はどうだか知らないけれど、私はこう見えて結構長くこっちに居るから、ギルドの機密連絡網なんて井戸端会議のオバちゃん達の会話と大差は無いわ」

 ギルドマスターのササクは、降参をアピールするかの様に両手を軽く挙げた。

 丁度お茶を運んで来た新人受付嬢に、何時迄も顔を出さないイントを早急に執務室まで来る様に伝言をする。

「それなら、私が……」

 と逃げる気満々のナナを手で制して再度椅子に座らせる。

 口の中で小さく「クソジジイ」と呟いたのを聞かない振りをして、手元の書類にメモだけしておく。

「アバスリの町という事は、聖女と言い直した方がよろしいですかな?」

「聖女の名前は捨てたの、エンガルの町に後継が居るしね~、ナウでヤングな私には似合わない名前だわ~、リンダちゃんって呼んで」

 所々に解らない単語を挟むが、恐らくは何処かの方言なのだろうとササクは聞き流す。

「この町で元聖女の興味を引くと言うと……」
「リンダちゃん」
「リンダさんの興味を……」
「リンダちゃん」
「リ、リンダちゃんの興味を引くと言うと、孫の湯ですかな?」

「そうねぇ、孫の湯のシステムは今は解りにくいかも知れないけれど、10年20年後に意味を持つシステムよ」

「私にはまだ先の意味は解りませんがね」

「解らなくてもいいわよ、どうせ死んだ後の話だろうしね、これだけは知っておいて頂戴、私は孫の湯に執着心を持っているわ」

 ブラックライセンス持ちの執着心を意味する所は、一切の手出し無用と、孫の湯に対する徹底的な依怙贔屓をハンターギルドに強いると言う意味である。

「エンガルの魔王もかなり御執心だから、マスターも頑張ってね~」

 呑気にコロコロと笑うリンダとは対照的に、人生最大の面倒事を抱えてしまったササクとでは、執務室で弱々しく灯るロウソクの灯りですら、照らす明かりの明暗を分けている様だった。
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