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web連載
呪い
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子供を虐げる親が嫌いだ。
自分の心に湧き上がる暴力的衝動の原因が、自分の親の暴力に起因する場合が多いと学んだのは、実の親から引き離されて何年経った頃だろう、全てをトラウマのせいにするのも嫌だけど、自分が何をされて育ったのかは、今でもこびり付いた焦げ跡の様に心に残っている。
実の親に受けた仕打ちの復讐として選んだ手段は、彼等の正反対の生き方だ。
私の命をかけて子供達を護ってやろう、その為の努力は惜しまなかった。
医者になる為に必死に勉強をして、学費を稼ぐ為に朝から晩まで労働をした。
心理学を学び、凡ゆる虐待ケースを暗記して、理論武装に備えた。
酷い環境に育った子供達は、酷い環境しか知らない為に唯一の拠り所である酷い親に必死で縋る。
虐待の事実を子供達が隠すのだ。
悪魔の様な親達は子供達の精神支配をしてしまう事により、自分達の諸行を隠すのに長けている。
それならばと対抗手段を講じる為に、こちらも精神支配をする為に凡ゆる手を講じた。
子供を武器にした戦争の様なものだ。
戦争の結末は母子手当を取り上げられた母親による包丁攻撃の圧勝だった。
胸からそそり立つ包丁を眺めながら、これでこいつの子供は保護出来ると、狂気の笑みを浮かべた所で私の意識は闇に沈んだ。
意識を取り戻した場所は白い空間だった。
視線を漂わせると目の前にチンピラが一人、偉そうに座っている。
胸に刺さった包丁は何処にも無く、刺さった形跡も消えていた。
「おい」
チンピラが口を開く。
チンピラの言い分は耳を疑う内容であった。
自分は神様だと言うのだ。
横柄な態度とだらし無い姿勢、目付きや手振りから心理分析をして改善点を指摘すると、チンピラは私の襟首を掴んで扉の向こう側に放り出した。
通された部屋は事務室の様な作りで、部屋の中央で事務仕事をしている事務員の女性がいた。
事務書類の綴りを片手に私の経歴を喋り出した。
耳を塞ぎたくなる様な忌々しい過去のエピソードを、子供の寝物語の様に読み聞かせて来る。
「もうやめて!」
事務員はニヤリと笑い、綴りをパタンと閉じた。
「復讐は気持ち良かった?」
復讐をしていると言う意識はあったが、その行為に対しての感想は考えた事が無かった。
気持ち良かったのか? 自分の都合で子供達を救うと言う行為に酔い痴れていたのか?
ええ、それでも構わない、子供達を守る行為で自分が快感を得るなんて最高のご褒美だ。
「ええ! 最高に気持ちが良いわね!」
事務員はニヤリと笑い、タイトスカートから伸びる脚を組み直した。
「私の欲しかった人材よ、ようこそ私の世界へ」
この事務員もまた神様だと言い張るのだろうか?
「精神力で物理的な事象を捻じ曲げるなんて、多少頭のネジが飛んでないと出来ない物よ」
「何を言っているのか……」
「子供達を救うのに、どんな力が欲しい? 神の御技を授けるわ」
馬鹿馬鹿しい話だが、目の前の事務員が幾つかの物理現象を無視した事象を起こした事により、私の中で何かが弾けた気がした。
フィクション小説や、実際に起きた不条理な出来事を打破するのに欲した夢物語の中だけの力、其れ等の力を子供の様に懇願した。
嘘の様な能力や魔法を身に付けた私に、事務員は冷たく言い放った。
「これから貴女が行く世界はクソみたいな世界よ、貴女の能力は危険過ぎるから呪いをかけるわね」
「呪い? そんな後出しなんて酷いわ!」
「世の中は理不尽に満ちているものよ」
「どんな呪いなの?」
「復讐の道具でその能力は使わせないわ、子供達への愛が絡む時だけ発動する能力よ」
「はっ……」
失笑物だ。
愛なんて物は存在しない、そんな物に絡めた呪いなんて、本物の呪いだ。
「お願い、愛してあげて、お願い、愛されて」
事務員の呪いの言葉を耳にした途端、意識が途絶えた。
次に目を覚ましたのは廃村の様な場所だった。
野生動物の様な子供達に囲まれ、刃物を突きつけられた状態で目を覚ました。
「やってくれるわ、あのアマ……」
この状態でどうやって子供に愛を注ぐと言うのだ?
子供達は刃物の切っ先を此方に向けて、私の着ていた白衣の上から胸を軽く突く。
「お、おい! お前! 大人だな? 乳を出せ! 乳を出している間は生かしておいてやる!」
「乳? 出る訳ないじゃない」
「じゃあ死ね」
リーダー格らしい少年が刃物を振り被る。
「待って! 今日は出ないだけよ、何日か待ってくれれば出るから!」
納屋の様な建物に監禁されて、乳児の面倒を見させられた。
子供とは言え刃物の扱いは慣れていて、人を殺すのにも慣れている様子ですっかり縮み上がる。
未開の地の野蛮人の巣窟で、脱出劇なんてヤバい橋を渡るにはリスクが高すぎるので、大人しく監禁される。
時折干し肉の様な物を挿し入れる子供の話を聞くと、ここは子供を捨てる廃村で、大人達が口減らしの為に子供を捨てに来るらしい。
子供だけの集落でハンター達のおこぼれをいただきながら、生きている子供達だった。
夜中になると夜泣きする子供を押し付けられ、不衛生な子供達の衣服を洗ったりしている内に、自分でも解らない感情が湧き上がってきたのが解る。
それが愛情だとは思いたく無かったが、その日から神の技が使える様になった。
身体の傷を癒し、心を癒し、里に居場所を確保する為に子供達を引き連れて行った先で、神の技を使い始めた頃には「聖女」と呼ばれていた。
いつでも私は迷っている、子供達に注ぐ愛情は自分の復讐の為なのか、子供達の為なのか……。
今でも耳に残る、あの事務員の呪いの言葉は私を何時までも縛り付けるだろう。
私は子供を虐げる親が嫌いだ。
子供は結構好きな方だと思う。
自分の心に湧き上がる暴力的衝動の原因が、自分の親の暴力に起因する場合が多いと学んだのは、実の親から引き離されて何年経った頃だろう、全てをトラウマのせいにするのも嫌だけど、自分が何をされて育ったのかは、今でもこびり付いた焦げ跡の様に心に残っている。
実の親に受けた仕打ちの復讐として選んだ手段は、彼等の正反対の生き方だ。
私の命をかけて子供達を護ってやろう、その為の努力は惜しまなかった。
医者になる為に必死に勉強をして、学費を稼ぐ為に朝から晩まで労働をした。
心理学を学び、凡ゆる虐待ケースを暗記して、理論武装に備えた。
酷い環境に育った子供達は、酷い環境しか知らない為に唯一の拠り所である酷い親に必死で縋る。
虐待の事実を子供達が隠すのだ。
悪魔の様な親達は子供達の精神支配をしてしまう事により、自分達の諸行を隠すのに長けている。
それならばと対抗手段を講じる為に、こちらも精神支配をする為に凡ゆる手を講じた。
子供を武器にした戦争の様なものだ。
戦争の結末は母子手当を取り上げられた母親による包丁攻撃の圧勝だった。
胸からそそり立つ包丁を眺めながら、これでこいつの子供は保護出来ると、狂気の笑みを浮かべた所で私の意識は闇に沈んだ。
意識を取り戻した場所は白い空間だった。
視線を漂わせると目の前にチンピラが一人、偉そうに座っている。
胸に刺さった包丁は何処にも無く、刺さった形跡も消えていた。
「おい」
チンピラが口を開く。
チンピラの言い分は耳を疑う内容であった。
自分は神様だと言うのだ。
横柄な態度とだらし無い姿勢、目付きや手振りから心理分析をして改善点を指摘すると、チンピラは私の襟首を掴んで扉の向こう側に放り出した。
通された部屋は事務室の様な作りで、部屋の中央で事務仕事をしている事務員の女性がいた。
事務書類の綴りを片手に私の経歴を喋り出した。
耳を塞ぎたくなる様な忌々しい過去のエピソードを、子供の寝物語の様に読み聞かせて来る。
「もうやめて!」
事務員はニヤリと笑い、綴りをパタンと閉じた。
「復讐は気持ち良かった?」
復讐をしていると言う意識はあったが、その行為に対しての感想は考えた事が無かった。
気持ち良かったのか? 自分の都合で子供達を救うと言う行為に酔い痴れていたのか?
ええ、それでも構わない、子供達を守る行為で自分が快感を得るなんて最高のご褒美だ。
「ええ! 最高に気持ちが良いわね!」
事務員はニヤリと笑い、タイトスカートから伸びる脚を組み直した。
「私の欲しかった人材よ、ようこそ私の世界へ」
この事務員もまた神様だと言い張るのだろうか?
「精神力で物理的な事象を捻じ曲げるなんて、多少頭のネジが飛んでないと出来ない物よ」
「何を言っているのか……」
「子供達を救うのに、どんな力が欲しい? 神の御技を授けるわ」
馬鹿馬鹿しい話だが、目の前の事務員が幾つかの物理現象を無視した事象を起こした事により、私の中で何かが弾けた気がした。
フィクション小説や、実際に起きた不条理な出来事を打破するのに欲した夢物語の中だけの力、其れ等の力を子供の様に懇願した。
嘘の様な能力や魔法を身に付けた私に、事務員は冷たく言い放った。
「これから貴女が行く世界はクソみたいな世界よ、貴女の能力は危険過ぎるから呪いをかけるわね」
「呪い? そんな後出しなんて酷いわ!」
「世の中は理不尽に満ちているものよ」
「どんな呪いなの?」
「復讐の道具でその能力は使わせないわ、子供達への愛が絡む時だけ発動する能力よ」
「はっ……」
失笑物だ。
愛なんて物は存在しない、そんな物に絡めた呪いなんて、本物の呪いだ。
「お願い、愛してあげて、お願い、愛されて」
事務員の呪いの言葉を耳にした途端、意識が途絶えた。
次に目を覚ましたのは廃村の様な場所だった。
野生動物の様な子供達に囲まれ、刃物を突きつけられた状態で目を覚ました。
「やってくれるわ、あのアマ……」
この状態でどうやって子供に愛を注ぐと言うのだ?
子供達は刃物の切っ先を此方に向けて、私の着ていた白衣の上から胸を軽く突く。
「お、おい! お前! 大人だな? 乳を出せ! 乳を出している間は生かしておいてやる!」
「乳? 出る訳ないじゃない」
「じゃあ死ね」
リーダー格らしい少年が刃物を振り被る。
「待って! 今日は出ないだけよ、何日か待ってくれれば出るから!」
納屋の様な建物に監禁されて、乳児の面倒を見させられた。
子供とは言え刃物の扱いは慣れていて、人を殺すのにも慣れている様子ですっかり縮み上がる。
未開の地の野蛮人の巣窟で、脱出劇なんてヤバい橋を渡るにはリスクが高すぎるので、大人しく監禁される。
時折干し肉の様な物を挿し入れる子供の話を聞くと、ここは子供を捨てる廃村で、大人達が口減らしの為に子供を捨てに来るらしい。
子供だけの集落でハンター達のおこぼれをいただきながら、生きている子供達だった。
夜中になると夜泣きする子供を押し付けられ、不衛生な子供達の衣服を洗ったりしている内に、自分でも解らない感情が湧き上がってきたのが解る。
それが愛情だとは思いたく無かったが、その日から神の技が使える様になった。
身体の傷を癒し、心を癒し、里に居場所を確保する為に子供達を引き連れて行った先で、神の技を使い始めた頃には「聖女」と呼ばれていた。
いつでも私は迷っている、子供達に注ぐ愛情は自分の復讐の為なのか、子供達の為なのか……。
今でも耳に残る、あの事務員の呪いの言葉は私を何時までも縛り付けるだろう。
私は子供を虐げる親が嫌いだ。
子供は結構好きな方だと思う。
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