異世界転移したよ!

八田若忠

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1巻

1-1

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  1 サラミ! パンチ! OL!



 死というものは、意外と冷静に受け止めることができるみたいで……。
 自分の死でさえ、冷静に「あー、ぶつかる。これは駄目だな」なんて考えたり、「そういえばDVDのレンタル期限、来週だっけ……」などと、どうでもいい心配が頭をよぎるもので……。
 まあ、そこそこいい人生でした。
 四十五年の人生を終えるには、交通事故でポックリってのは、悪くないな。
 嫁も子供もいない身だったし。
 次の人生は、嫁も子供も欲しいな……。
 あ……意識が遠くなってきた。
 大道寺凱だいどうじがい享年きょうねん四十五歳……。


「おい……」

 ん?

「おい!」

 なんか、呼ばれてる?
 目を開けると白い空間が……。
 まさか……転生系? ちょっとほおゆるむ。

「起きんかぁ! ごらぁ!」

 ドスのいたおっさんの声が辺りに響き、鉄製のロッカーを蹴りあげたような音が続いた。

「はいいい!」

 反射的に地面から飛び上がって声のぬしを探すと、正面に、パイプ椅子いすに座ってこちらをにらみつけているパンチパーマのダンディーなおじ様が。
 あごをしゃくりながら「ちょっと、こっち来いや」などとおっしゃっている。
 俺は「誰のことかな?」と辺りをくるりと見回してみたが、二十じょうほどの真っ白な部屋の中には、彼の他に俺しかいない。
 ふるえる指で自分を指し「ボクデスカ?」とたずねたところ――。

「お前しかおらんやろが!」

 パンチの王子様がそう怒鳴ったと同時に、彼のすぐ横に鉄製ロッカーが現れた。そして彼に一発蹴られた直後、ロッカーは消える。え? 何、今の?
 パンチ王子の足が床に下ろされた時に「チャリリ……」と鉄っぽい音がしたので、おそらくいているのは雪駄せっただろう。
 着ている服は白いジャージ、腕には昇り龍の刺繍ししゅうほどこされている。
 はだけたジャージの胸もとからのぞくのは、ぼう遊園地マスコットのパクリっぽいキャラの刺繍が入ったTシャツと、極太の金のネックレス。
 手首には健康ブレスレット。
 指輪はたくさん。
 サングラスのふち、金。
 心の中で「パッシブスキル・隠密おんみつ」を唱え続けるが、彼のサングラスのレンズには、今にも気を失いそうな俺の姿がハッキリと映し出されたままだ。
 頭の中に「○○は逃げ出した。でも回り込まれた。○○は逃げ出した。でも回り込まれた」という文字の羅列られつが延々とスクロールされる。
 押しつぶされそうな沈黙……そんな中パンチ王子は地面にツバを吐き、喋り始めた。

「おぇよ、とりあえず死んだから」
「はい! ありがとうございます!」
「ありがとうじゃ! ねえよ!」

 ロッカー召喚しょうかん

「すいませんでしたあ!」
「ったくよ、俺ぁ、お前ぇみたいなのが大嫌いなんだよ!」
「ありがとうございます!」
「とりあえず、お前ぇあれだ、トレード出すから。地球にイラネ」
「ありがとうございます。……へ?」
「へ? じゃねえよ! お前ぇ、もう地球に転生しねぇから」
「えーと……ひょっとしてあなた様は、神様でしょうか?」
「見りゃわかんだろ? ああ?」
「どうりで神々こうごうしいと思いました」
「おだてても何も出ねえぞゴラ! ……サラミ食うか?」

 パンチ王子は、いかにもパチンコ屋の景品みたいなベビーサラミを地面に放った。
 俺は光の速さでそれを拾うと「ご馳走ちそうになります!」と言って、包み紙ごと食う。

「お前を欲しがってるとこがあってなぁ。うちの世界にお前はそぐわねぇから、トレードになったってわけだ。大体地球じゃあ使えない『魔法』を手前てめぇは何十年も練習しやがって……地球はなあ、筋肉と気合いで生きてく世界なんだよ! それを手前ぇは何年も何年も、魔法なんか使いやがって」

 パンチ王子はため息をつきながら、心底あきれた様子で頭を振った。

「えと……魔法なんて、自分使えないっすけど……童貞も三十前に捨てたし」

 パンチ王子は、またこちらを睨みつける。

「手前ぇ、毎晩寝る前、ナニやってた?」
「寝る前っすか? 最近は年のせいもあって、そんなにエロいことやってないですけど」
「そうじゃねえよ! 他にも日課があっただろうが!」

 寝る前の日課? 何やってただろう……。


 あ……。


「もしかして……アレっすか?」
「おう! アレだ!」

 俺はその場にしゃがみ込んで、みるみるうちに顔を真っ赤にしてしまった。
 やめてくれええええええ!
 心の中で隠密を唱える!

「『カメハメ』何だっけ? あと、『ス○シウム』何とかってのもあったよな?」

 パンチ王子はニヤニヤしながら、言葉の殺人コンボをつなげていく。

「『錬成れんせい』とかもかなりやってたろ? お前ぇ、職場が鉄工所だったもんな。『等価交換』がどうのこうのって、俺も最初わかんなくてよ、どこのパチ屋かと思ったぜ」
「あれは、寝る前の軽いストレッチで……」
「魔力、出まくってたがなあ」
「魔力? だから、魔法なんて使えないっすよ?」
「使えるぞ」
「いや、けど自分童貞でもないし、って……え?」
「地球でも使えるぞ。ただな、俺が魔法なんて軟弱なんじゃくなもん嫌いだから、発動させないようにしてるだけだ」
「自分、魔法使ってたんすか?」
「そうだよ。発動しなかっただけだ。普通は子供のうちにバカらしくなってあきらめるもんだが、どっかのアホは四十なかばになっても魔法を使い続けてな……しまいにゃ、地球に存在しねぇ『スキル』まで使えるようになりやがった」
「スキルなんて、自分使ってないっすよ?」

 パンチ王子は、またため息をつく。

「お前ぇ、最初俺様を見て、何やった?」

 俺は考えをめぐらし……はたと気づいた。

「えと……隠密っすか?」
「そうだよ……そんなもん地球には存在しねえ。それを手前ぇはゲームみたいにホイホイ使いやがって……あと荷物!」
「荷物っすか? 何も持ってないっすよ?」
ちげぇよ! お前、バッグやポケットに物しまう時、何か使ってただろ?」
「えと……『亜空間収納』とか念じながら……」
「それだ! 実際使えちまってるんだよ、その亜空間なんちゃら」
「まさか……ははっ、あり得ないっすよ……」
「実際に増えちまってるバッグやポケットの容量は〇・一立方りっぽうミリとか〇・一グラムだけどな。それでも神が魔法の発動を抑えてんのに、その世界の人間が使っちまうのが大問題なんだよ!」

 ロッカー召喚!
 どうやらこの神様、怒るとロッカーを召喚して蹴るくせがあるらしい。

「あー、だからな、お前ぇこの世界からリストラだ。ちなみに交通事故は俺が操作した。文句あっか?」
「文句なんかありません! ご褒美ほうびありがたぁっす!」
「おう。じゃあ、とりあえずリストラ先そこのドアの向こうだから、行って受付で話つけろ。さっさとねや、軟弱者が!」

 いつのまにかトレードからリストラになっていたが、この場を離れられるならどこでも天国と思い、すぐ横に現れたドアを開けて転がるように転生先に――。
 ……って、ドアの向こうも、また白い空間だった。
 キョロキョロと見回すと、事務机に座ったOLっぽい女性が微笑ほほえみかけている。

「あのー……受付って、こちらでよろしいですか?」

 おそるおそるその女性に声をかけると――。
 ビキッと音を立てて、女性が持っていたボールペンが折れた……。

「えーっと、私がこの世界の神ですが?」

 パンチ王子に劣らない凄まじい威圧感が、白い部屋を包む。

「ああああ! ごめんなさい! 隣のパンチが受付って言ってたから、つい」
「ほほぅ……あのくされパンチ、そんなことを? ……とにかく、そこに掛けなさい」

 目の前に椅子が現れた。
 もちろん、椅子の隣に正座した。

「で……あなたがパンチの世界、地球から送られてきた人ね?」

 書類をパラパラめくりながら、こちらをチラチラうかがうOL女神めがみ様。

「はい……」
「うちは魔法がウリの世界なのよねぇ……あら、すごい魔力。ふふん」

 女神様は書類をめくりながら、にこやかに笑う。

「まぁ、なんであなたに来てもらったかって言うと、こっちの世界、文明が行きづまってるのよねぇ。魔法が使えるから色々便利なんだけど、皆、新しく何かを生み出すってことを考えなくなってるっていうか。パンチの世界もそうだけどね。あいつは筋肉同士でぶつかり合う暑苦しい世界を造るつもりだったのに、実際は筋肉のない者が機械を造り出して、移動するのも物を作るのも人を殺すのも、機械に頼る世界になっちゃってるでしょ。私の世界は、今存在する魔法で皆満足しちゃって、新たに何かを生み出したり、変革を起こしたりしようっていう気概きがいが足りないのよね。だからいまだに、パンチの世界でいえば中世のヨーロッパみたいっていうか、インチキファンタジーみたいな世界観で何百年も……」

 OL女神様はつらつらと、自分の世界の現状やパンチ王子の愚痴ぐちを喋り始め、止まらなくなった。
 こうして俺の体感で四時間ほどの愚痴を聞かされたあと――。

「というわけで、あなたにはかなり期待しているのよ」

 なんか期待されているらしい。

「自分に何ができるんすか? 結構、能力的には底辺だと思うんですけど」
「あー、腐れパンチの世界とは違うから。そうねえ……とりあえず、魔法とスキルの解放をしときましょうか」

 指をパチンと鳴らしたあとに――「ね?」という顔をするOL女神様。
 対する俺は、わけがわからずキョトンとするばかりだ。

「あーそっか、使い方わかんないと、解放されてもそんな顔になっちゃうわよねえ」
「はぁ」
「自分のやり方で構わないわよ。むしろそのほうが、世界で変革が起こせるかもだしね。じゃあ、なんかやってみせてよ。ほら早く!」

 昔、頭数合わせで呼ばれた合コンで、酔った女の子に一発芸を強要されたことを思い出しながらも――。

「じゃあとりあえず、自分に何ができるかの確認から……」
「カメハメ何とかでも、スペ何とかでもいいわよー!」

 やめてえええええええ!
 ――十五分ほど床にうずくまったあと。

「じゃあ、やります……」
「意外とメンタル弱いわね……」

 といっても、何をしたらいいのか。
 まずは……ステータスとかの確認かな。

「ス、ステータス」

 そう唱えてみると、目の前に、前世で使っていたタブレットPCのような画面が浮かび上がった。
 そこには、ステータスが表示されている。



    【名前】  なし
    【年齢】  45
    【レベル】  1
    【職業】  なし
    【STR(筋力)】 10
    【VIT(体力)】 20
    【DEX(機敏)】 5
    【INT(魔力】 1300
    【CHA(魅力)】 20
    【魔法】  土・火(ファイヤボール)・水(ウォーターボール)・風(ウィンドボール)
    【スキル】 隠密・土下座・妄想・空間付与・鑑定
    【加護かご】  土・OL女神



 こんなん出ました。
 OL女神は、俺のと同じタブレットPCふう画面を、自身の前に出現させた。

「へええ、便利だこと。これは、地球のゲームとか小説の知識ね? 人間の能力値をここまでザックリ仕分けしちゃうとは、恐れ入ったわ。あ、説明はいいわよ、あなたの知識はもうある程度わかってるから」

 そう言って、正座している俺に画面を突きつけてくる。

「ちなみに、これがこちらの世界の男性の、平均的なステータスね」




    【STR】 50
    【VIT】 30
    【DEX】 10
    【INT】 20
    【CHA】 5




「なんというか、俺……チート系主人公としては微妙びみょうっすね」

 ため息が出た。
 もっと圧倒的なステ差で、「俺TUEEEE」できるかと思っていたのに。

「あらぁ、破格よぉ? あなた、『加護』が二つもあるじゃない? 土と、OL? って私のこと? まぁいいわ。土の加護は……あなた、土とか鉱石関係の仕事やってた? 土魔法に強くなれるわよ。あと、私の加護は、レベルね。こっちの世界にはレベルなんて概念ないんだけど、あなたには特別につけてあげる。ステータスで見られるからね」
「えーと、ありがとうございます」
「どういたしまして。あと他に、なんか願いとかある? このまま現地に送ってもいいけど、慣れない土地で早死にされても困るから」
「あ、じゃあ、ちょっと若返らせてもらってもいいですか? 最近腰痛とかきつくて。あとは、神様にお願いっていったら……健康と長生きくらいしか思いつかないっす」

 OL女神はヒラヒラと手を振りながら、言った。

「あー、おっけーおっけー。やっとくー。じゃあ、転移いくよー」

 目眩めまいがしたあと――。
 視界一面に、壮大な自然が広がっていた。
 その風景の中で、一頭の巨大ないのししが、こちらを見てキョトンとしていた。
 俺と目が合う。
 すると猪はにやりと笑い、きばを光らせ、雄叫おたけびを上げて走ってきた。
 やばい!
 俺はすぐさま身をひるがえし、隠れる場所を探そうとしたが――足が動かない。
「状態異常」だ。
 なぜ?
 正座か……。
 あんのクソ女神、なんて場所に転移させとんじゃあ!
 とにかく、こ、ここは魔法だ!
 スキルでもいい!
 とっさに発動したのは――「アクティブスキル・土下座」。

「許してください」

 地面にこすりつけられた俺の頭を、大猪がギュムッと踏む。そして「フン!」と鼻を鳴らして、森の中へ帰っていった。

「危なかった……」

 とりあえず今やるべきことは、足のマッサージだな。
 その場にかがみ込んだまま、ひたすらふくらはぎをみ込むチート主人公がここにいた。
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