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1巻
1-2
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とりあえずだ。
人を探そう。できるだけ、土下座の必要なさそうな人を。
でないと寂しくて死んじゃう。
近くにあった岩を触ってみる。ふふん……この苔が生している側が、ズバリ北だな!
いやいやいや、北がわかっても、人里どっちだよ!
俺、なんかアイテム持ってないかな?
そう思い、ポケットを探ってみる。
って……あれ? いつの間にか、服装が変わっているぞ? 白いジャージに、某遊園地マスコットのパクリっぽい柄のTシャツ……。
ポケットには、ベビーサラミ。
あの女神ぃぃぃぃ!
「さっきクソ女神って言ってごめんなさい」
土下座した。
すると服が、一瞬で地味な作業服に変わった。
おお! やっぱさっきの服は悪口のせいだったか!
たぶんこれが、この世界の一般的な服装なのだろう。
だけどポケットには相変わらずベビーサラミが入っていた。神様連中は、そんなにサラミが好きなのか?
さて……無闇に歩き回るよりも、今自分が何を持っていて、何ができるのか、遭難時にはそれを考えることが大事! ということでポケットをいじると……またサラミが出てきた。
まさか……。
出てきたサラミを食べたあとに、もう一度ポケットに手を入れると……再びサラミ。
「無限サラミか……」
これから一生、ベビーサラミには困らんな。
えーと魔法は……ステータスを見るかぎりだと、火・水・風の魔法はそれぞれ「何とかボール」が使えるみたいだな。
よし。
「ファイヤボール!」
試しに唱えてみると、火の玉が右手の上に現れた。
「おおおおう!」
ちょっと興奮!
手の上で燃え続けるファイヤボールを見ながら、えーと……。
力を込めてみる。すると、ボールは小さくなり、熱量が上がった。
反対に力を抜いてみると、大きくなって、代わりに熱量が下がった。
へぇ……よし、次は。
俺はその場を少し離れてから振り返り、さきほどの、苔の生えた岩を見据える。
そして岩に向かって、ファイヤボールを投げつけた。
ボールは、普通に投げられた野球ボールくらいのスピードで飛んでいき、岩にぶつかった。
爆発とか、燃え上がるとか、そういう効果はなしで。
「微妙だなぁ……」
続いて試したウォーターボールもやっぱり微妙だった。サラミの食い過ぎで喉が渇いたので飲んでみたのだが――普通の水である。
「盛り上がらねぇ……」
そういえば、土魔法だけステータスにボール系の但し書きがついていなかったな。土魔法はできないのかな?
アースボール、とか唱えたらできるんじゃないか?
「アースボール」
すると手の上に、土の塊が現れた。
できるじゃん。
でも、土のボールって……泥遊びじゃないんだからさ。せめて、岩とか……。
そう思った瞬間、手の上の土が、ピキピキと音を立てて岩に変わった。
「おおおおう! すごい、土魔法!」
もしかして、他の魔法でもできるんじゃないか? 水を氷にするとか!
早速、もう一度ウォーターボールを出して念じてみたが――氷にならない。
……あれ?
気を取り直し、土魔法で土のボールを出して、岩に変える。
次に、イメージの中でそれを尖らせてみた。
すると手の上の岩が、シュルリと弾丸みたいな形にシェイプされた。
そこで映画なんかの拳銃をイメージして、さっきの岩を指差して「飛べ!」と命じると、手の上の弾丸はちょっと引いちゃうくらいの勢いで飛んでいき、岩に風穴を開けた。
すごい……。
土の加護って、こういうこと?
土魔法だけは、自分のイメージどおりに魔法をアレンジできるってことかな?
試しに地面に手を触れながら穴をイメージしてみると、ぽこっと足もとの地面が削れて、落下した。
深さは一メートルほどだったが、かなり焦った。
穴から出て、今度は前方の地面に向かって念じてみる。イメージどおりの穴がスポンと掘れた。
そちらを見ながら、何となく穴が前後左右に動くイメージを脳内に浮かべてみると――。
穴がずるずると動いた。
おおおう! これは便利!
「もう怖いモンなし!」
などとはしゃぎながら土魔法で遊んでいるうちに、日が暮れた。
……やべぇ。
異世界の夜って、きっと、ろくなことないよな……。
周囲は森と岩場ばかりで、どうやら山の中っぽい。人里があるとしたらだいぶ離れたところだろう。
とりあえず……今夜はこの辺りで野宿だな。
すぐ近くにちょっとした岩山があったのでそこまで行き、土魔法で横穴を掘った。
それなりの広さの空間ができたところで、寝台を造ることにした。土魔法を使って、土台は硬めの土、体に触れる部分は柔らかめの土にして、腰に優しいものにしてみた。
この辺には猪がいるみたいだからな……念のため横穴の入り口を土魔法で塞ぐ。そして上のほうに空気穴だけぽつんぽつんと開けると――おうちができたよ!
しかし、暗いな。
ファイヤボールを出し、空気穴のすぐそばに置く。
あら……すぐ消えた。
外には森もあるから、一度外に出て薪を拾ってきて火を焚くかな。
入り口の壁を取っ払い、外で枯れ枝を拾い集め、戻ってきてファイヤボールで火を点けた。
おお、そうだ、換気もしないと。
魔法で空気穴を大きくし、数も増やす。足りなかったら、あとで煙突を掘ればいいよな。
オラ、なんかワクワクしてきたぞ。
宿の心配はなくなったから、あとは適当に歩き回れば……きっと人里も見つかるだろう。
おやすみなさーい。
◇◇◇
さて……ひっきりなしに襲い来る虫のせいでさっぱり眠れなかったが、朝になったようだ。
大猪に襲われるよりはマシだと自分を納得させつつ虫を追い払い、ウォーターボールで顔を洗う。
塞いでいた入り口を柔らかい土に変えて崩し、外に出た。
太陽が空に上がってはいたが、ちょっと肌寒い。
とりあえず、今日は人里を探そう……ここは寂し過ぎる。
でも知らない山の中を歩き回るのはやっぱり面倒だし怖い。空を飛べたらいいのに……と思って何となく青い空を見上げると、二十メートルくらい上空を、巨大なプテラノドンみたいな生き物がバッサバッサ羽音を立てて飛んでいくのが見えた。
大きな足の爪に獲物を掴んでいるようだ。
目を凝らしてみると――昨日土下座して許してもらった、あの大猪っぽかった。
「……明日からがんばろう」
穴の中に引き返し、そっと入り口を閉じた。
◇◇◇
次の日。
ヒマなので穴の中で魔法をアレンジしてみた。その名も――アースソナー!。
動物が歩くことで発生する振動を感知して危険を回避できる、安全快適な山歩きライフの強い味方。
なのだぁ!
なのだぁ!
ふひひ……自分天才でさーせんふひひ……じゃあ、早速使ってみるぞぉ。
「アースソナー」
――その結果、重量級の足音がすぐ近くで複数感知された。
また穴に戻り、入り口を塞いだあと、少し泣いた。
◇◇◇
次の日の朝――穴の中の落石で起こされた。
「おんぎゃああ! 死ぬぅ!」
すぐに落石は収まったが、原因を調べようと穴の中を見回すと、天井にメッセージが彫り込まれていた。
内容は――早よ町に行け! この愚図! OL女神より。
OL固定っすか……。
ありがたい御神託に従って、とりあえず町へ向かうことにした。だけど町は一体どこにあるんだ?
あれ? 数日前にも同じことを考えた気がする。ここはちょっとアクティブかつオフェンシブに行くか!
モンスターとエンカウントすることなんて恐れず、大胆に冒険してみよう! この狭い穴倉をいよいよ飛び出すぞ! 人はベビーサラミのみにて生きるにあらず!
◇◇◇
……。
あれから何日経っただろう。
もう日付の感覚さえ曖昧になるほど、俺は命のやりとりを続けていた。
森の中から複数の足音が近づいてくる。フォレストウルフの群れだろう。
アースソナーを行使しながら、俺は森の中をひたすら走る。このまま進めば、あと十メートルほどで奴らの挟み撃ちの合流地点に至るはずだ。
奴らは飢えた牙から涎を滴らせ、これから始まるであろうディナーに胸を躍らせて走っているに違いない。
そして予想どおり、俺はフォレストウルフ達に挟まれた。
奴らは歓声のような遠吠えをあげる。
その瞬間――俺はニヤリと笑みを浮かべ、パッと姿を消す。
フォレストウルフ達は混乱して吠え散らかしながら、俺の匂いを探していることだろう。
だが匂いを捉えることはできない。
俺が森の奥へ逃げたとでも思ったのか、追い詰めた獲物を仕留める寸前のテンションのまま、フォレストウルフ達はその方角に向かって駆けていった。
「ふぅ、よいしょっと」
危なかったぁ。
落とし穴は万能だな! 危なくなったら、自分を落として蓋すりゃいいんだもんな。
よくがんばってるよ俺! まだモンスターを落とし穴に引っ掛けたことも、もちろん倒したこともないけど。レベル1のままだけど。
それに森の中をコソコソ歩き回っているうちに、人間の歩いた道っぽいものも見つけたし。
この道沿いに歩いていけば、たぶん第一村人発見もすぐだろう。
そんなことを考えながら山道をトボトボ歩いていると、はたと気づく。
そういえば、落とし穴の魔法に名前つけてないな。
こんなに便利な魔法なのに名前がないなんて! アリエナイ!
でもどんな名前がいいかな?
すべてを消し去る穴……敵も、自分さえも、オールナッシングな穴……。
オールナッシングホールか!
チョット長い?
うーむ……。
そうだ!
「略して! オナ――」
ピシャアアアアン!
「ホゥゥ……」
落雷が、俺の後頭部を直撃した。
地面には、いつもどおりメッセージが。
――認めません OL女神。
そこで気を失った。
2 ツッコミ! 名前! 鉱石!
「おい……おい、生きてるか?」
誰かがユサユサと体を揺すっている。
意識が覚醒してきた。
少し頭が痛むが、久しぶりに感じる人間の気配に、俺は無理やり体を起こす。
アメリカ最大の暴走族の親分さんぽい、ヒゲもじゃで、腕の太さが尋常じゃない男の人がしゃがみ込み――こちらを覗き込んでいた。
「お願いします、殺さないでください」
俺は静かに土下座した。
「殺さねえよ! 人聞きが悪過ぎだよ!」
あ……ツッコミ気質だ、この人。
「こんな山ん中で血だまりに倒れてるから心配してやったのに、なんてこと言いやがる!」
血だまり?
「うわ! 血だ! やっぱり、俺、殺され……」
親分さんは、ますます慌てる。
「違うっつってんだろ! 第一お前、自分の血で『犯人は、OL』って地面に書いてんだろが!」
あ、本当だ。
「死に際に犯人を書き記す、こういうの、何て言うんでしたっけ? ……血だまりスケッチ?」
「ダイイングメッセージだよ! つうかお前、血まみれのわりに元気いいな!」
ああ……打てば響くなあ。この人いい人だ。
「実は俺……ここ数日、山の中をさまよってたんです。助かりました」
「ずいぶん物騒なさまよい方しやがる。まあいい。じゃあ、野盗や山賊の類じゃないんだな?」
険しい顔で俺を見る親分さん。
「山賊に襲われる自信はありますけど、山賊になって親分さんを襲う自信はないですね」
ウォーターボールで頭の血を洗い流しながら、答える。
「親分さんって、俺のことか? 俺の名前はアサカーってんだ。この山の麓の町で鍛冶屋を営んでるドワーフ族さ……って、赤の他人に背中向けて頭洗ってるくらいだから、敵意はないみてぇだな。しっかし、いくら鉱山で人気が多いからって、丸腰は感心しねぇぞ。よく生きてたな? 死にかけだったけど」
え? 人気が多い?
「この辺、人、けっこう来るんですか? 大猪と狼と、デカイ鳥みたいなのしか見かけませんでしたよ?」
アサカーさんは俺の質問には答えずに立ち上がって、遠くの岩を指差した。ちっさいなこの人、身長百四十センチくらいだろうか?
「あそこにデカイ岩があるだろ? って、あれ、なんか穴が開いてるな? あの岩は山に来る奴らの目印なんだが、あそこから十五分くらい歩けば鉱山の入り口だ。そこには鉱山管理の役人がいつも数人いるぞ?」
あの、穴が開いた岩は……見たことあるなぁ。デジャブかな?
「そうだったんですか? 助かりました。あ、町にはどうやって行けばいいんですか?」
アサカーさんは、頭を掻きながらこちらをジロジロ眺め――。
「お前ぇさん、名前は何てーんだ?」
「あ……申し遅れました、俺……」
あれ?
俺、名前、何ていうんだ?
やべ……マジでわかんない。
あ! そうそう! こんな時のステータス!
「ステータス!」
目の前に、例の画面が現れた。
【名前】 なし
【年齢】 20
【レベル】 1
【職業】 なし
【STR】 10
【VIT】 20
【DEX】 5
【INT】 1300
【CHA】 20
【魔法】 土・火(ファイヤボール)・水(ウォーターボール)・風(ウィンドボール)
【スキル】 隠密・土下座・妄想・空間付与・鑑定
【加護】 土・OL女神(健康・長生き・レベル・サラミ)
あれ? 名前、なし?
年齢……二十?
「アサカーさん……俺、名前がないみたいっす。どうしましょ?」
「名前がわからなくなってんのか? 頭を打つと記憶がなくなることがあるって言うしな……適当につけとけ。ないと何かと不便だし」
適当でいいのか? なら、中二病全開の、漢字で書いたら絶対読めないような名前がいいな! うーん……龍康殿とか? いきなりだと、あんまり思いつかない。
「アサカーさん、何か、いい名前あります?」
アサカーさんは、驚いたのか目を剥き――。
「ねえよ! なんで俺がお前の名づけしなきゃいけないんだよ!」
「そうっすか。でも俺も思いつかないんすよね……じゃあ、アサカーJr.でいいっす」
「よくねーよ! なんでJr.なんだよ! お前、俺の何なんだよ!」
「思いつかないんですよ。それに自称って、なんか恥ずかしくないっすか?」
俺がそう言うと、アサカーさんは腕を組んで考え込んだ。
そして。
「じゃあ……イントってのはどうだ? 呼びやすいし、覚えやすいぞ」
「はい、じゃあそれでいきます」
「軽いな! もう少し考えろよ! ……まあ、いいってんならいいけどよ」
俺はもう一度ステータス画面を表示した。
【名前】 イント
【年齢】 20
【レベル】 1
【職業】 なし
【STR】 10
【VIT】 20
【DEX】 5
【INT】 1500
【CHA】 20
【魔法】 土・火(ファイヤボール)・水(ウォーターボール)・風(ウィンドボール)
【スキル】 隠密・土下座・妄想・空間付与・鑑定
【加護】 土・OL女神(健康・長生き・レベル・サラミ)
うん……名前がついた。そのせいか、ステータスの「INT」がちょっと増えてるぞ。
「ありがとうございます、名前がキチンとつきました」
「まぁそれはいいがよ。お前ぇさん、見たところ装備らしい装備もしてないし、金もないんじゃねぇのか?」
俺はポケットからベビーサラミを取り出し――。
「お金は、これしかないです」
アサカーさんに見せた。
人を探そう。できるだけ、土下座の必要なさそうな人を。
でないと寂しくて死んじゃう。
近くにあった岩を触ってみる。ふふん……この苔が生している側が、ズバリ北だな!
いやいやいや、北がわかっても、人里どっちだよ!
俺、なんかアイテム持ってないかな?
そう思い、ポケットを探ってみる。
って……あれ? いつの間にか、服装が変わっているぞ? 白いジャージに、某遊園地マスコットのパクリっぽい柄のTシャツ……。
ポケットには、ベビーサラミ。
あの女神ぃぃぃぃ!
「さっきクソ女神って言ってごめんなさい」
土下座した。
すると服が、一瞬で地味な作業服に変わった。
おお! やっぱさっきの服は悪口のせいだったか!
たぶんこれが、この世界の一般的な服装なのだろう。
だけどポケットには相変わらずベビーサラミが入っていた。神様連中は、そんなにサラミが好きなのか?
さて……無闇に歩き回るよりも、今自分が何を持っていて、何ができるのか、遭難時にはそれを考えることが大事! ということでポケットをいじると……またサラミが出てきた。
まさか……。
出てきたサラミを食べたあとに、もう一度ポケットに手を入れると……再びサラミ。
「無限サラミか……」
これから一生、ベビーサラミには困らんな。
えーと魔法は……ステータスを見るかぎりだと、火・水・風の魔法はそれぞれ「何とかボール」が使えるみたいだな。
よし。
「ファイヤボール!」
試しに唱えてみると、火の玉が右手の上に現れた。
「おおおおう!」
ちょっと興奮!
手の上で燃え続けるファイヤボールを見ながら、えーと……。
力を込めてみる。すると、ボールは小さくなり、熱量が上がった。
反対に力を抜いてみると、大きくなって、代わりに熱量が下がった。
へぇ……よし、次は。
俺はその場を少し離れてから振り返り、さきほどの、苔の生えた岩を見据える。
そして岩に向かって、ファイヤボールを投げつけた。
ボールは、普通に投げられた野球ボールくらいのスピードで飛んでいき、岩にぶつかった。
爆発とか、燃え上がるとか、そういう効果はなしで。
「微妙だなぁ……」
続いて試したウォーターボールもやっぱり微妙だった。サラミの食い過ぎで喉が渇いたので飲んでみたのだが――普通の水である。
「盛り上がらねぇ……」
そういえば、土魔法だけステータスにボール系の但し書きがついていなかったな。土魔法はできないのかな?
アースボール、とか唱えたらできるんじゃないか?
「アースボール」
すると手の上に、土の塊が現れた。
できるじゃん。
でも、土のボールって……泥遊びじゃないんだからさ。せめて、岩とか……。
そう思った瞬間、手の上の土が、ピキピキと音を立てて岩に変わった。
「おおおおう! すごい、土魔法!」
もしかして、他の魔法でもできるんじゃないか? 水を氷にするとか!
早速、もう一度ウォーターボールを出して念じてみたが――氷にならない。
……あれ?
気を取り直し、土魔法で土のボールを出して、岩に変える。
次に、イメージの中でそれを尖らせてみた。
すると手の上の岩が、シュルリと弾丸みたいな形にシェイプされた。
そこで映画なんかの拳銃をイメージして、さっきの岩を指差して「飛べ!」と命じると、手の上の弾丸はちょっと引いちゃうくらいの勢いで飛んでいき、岩に風穴を開けた。
すごい……。
土の加護って、こういうこと?
土魔法だけは、自分のイメージどおりに魔法をアレンジできるってことかな?
試しに地面に手を触れながら穴をイメージしてみると、ぽこっと足もとの地面が削れて、落下した。
深さは一メートルほどだったが、かなり焦った。
穴から出て、今度は前方の地面に向かって念じてみる。イメージどおりの穴がスポンと掘れた。
そちらを見ながら、何となく穴が前後左右に動くイメージを脳内に浮かべてみると――。
穴がずるずると動いた。
おおおう! これは便利!
「もう怖いモンなし!」
などとはしゃぎながら土魔法で遊んでいるうちに、日が暮れた。
……やべぇ。
異世界の夜って、きっと、ろくなことないよな……。
周囲は森と岩場ばかりで、どうやら山の中っぽい。人里があるとしたらだいぶ離れたところだろう。
とりあえず……今夜はこの辺りで野宿だな。
すぐ近くにちょっとした岩山があったのでそこまで行き、土魔法で横穴を掘った。
それなりの広さの空間ができたところで、寝台を造ることにした。土魔法を使って、土台は硬めの土、体に触れる部分は柔らかめの土にして、腰に優しいものにしてみた。
この辺には猪がいるみたいだからな……念のため横穴の入り口を土魔法で塞ぐ。そして上のほうに空気穴だけぽつんぽつんと開けると――おうちができたよ!
しかし、暗いな。
ファイヤボールを出し、空気穴のすぐそばに置く。
あら……すぐ消えた。
外には森もあるから、一度外に出て薪を拾ってきて火を焚くかな。
入り口の壁を取っ払い、外で枯れ枝を拾い集め、戻ってきてファイヤボールで火を点けた。
おお、そうだ、換気もしないと。
魔法で空気穴を大きくし、数も増やす。足りなかったら、あとで煙突を掘ればいいよな。
オラ、なんかワクワクしてきたぞ。
宿の心配はなくなったから、あとは適当に歩き回れば……きっと人里も見つかるだろう。
おやすみなさーい。
◇◇◇
さて……ひっきりなしに襲い来る虫のせいでさっぱり眠れなかったが、朝になったようだ。
大猪に襲われるよりはマシだと自分を納得させつつ虫を追い払い、ウォーターボールで顔を洗う。
塞いでいた入り口を柔らかい土に変えて崩し、外に出た。
太陽が空に上がってはいたが、ちょっと肌寒い。
とりあえず、今日は人里を探そう……ここは寂し過ぎる。
でも知らない山の中を歩き回るのはやっぱり面倒だし怖い。空を飛べたらいいのに……と思って何となく青い空を見上げると、二十メートルくらい上空を、巨大なプテラノドンみたいな生き物がバッサバッサ羽音を立てて飛んでいくのが見えた。
大きな足の爪に獲物を掴んでいるようだ。
目を凝らしてみると――昨日土下座して許してもらった、あの大猪っぽかった。
「……明日からがんばろう」
穴の中に引き返し、そっと入り口を閉じた。
◇◇◇
次の日。
ヒマなので穴の中で魔法をアレンジしてみた。その名も――アースソナー!。
動物が歩くことで発生する振動を感知して危険を回避できる、安全快適な山歩きライフの強い味方。
なのだぁ!
なのだぁ!
ふひひ……自分天才でさーせんふひひ……じゃあ、早速使ってみるぞぉ。
「アースソナー」
――その結果、重量級の足音がすぐ近くで複数感知された。
また穴に戻り、入り口を塞いだあと、少し泣いた。
◇◇◇
次の日の朝――穴の中の落石で起こされた。
「おんぎゃああ! 死ぬぅ!」
すぐに落石は収まったが、原因を調べようと穴の中を見回すと、天井にメッセージが彫り込まれていた。
内容は――早よ町に行け! この愚図! OL女神より。
OL固定っすか……。
ありがたい御神託に従って、とりあえず町へ向かうことにした。だけど町は一体どこにあるんだ?
あれ? 数日前にも同じことを考えた気がする。ここはちょっとアクティブかつオフェンシブに行くか!
モンスターとエンカウントすることなんて恐れず、大胆に冒険してみよう! この狭い穴倉をいよいよ飛び出すぞ! 人はベビーサラミのみにて生きるにあらず!
◇◇◇
……。
あれから何日経っただろう。
もう日付の感覚さえ曖昧になるほど、俺は命のやりとりを続けていた。
森の中から複数の足音が近づいてくる。フォレストウルフの群れだろう。
アースソナーを行使しながら、俺は森の中をひたすら走る。このまま進めば、あと十メートルほどで奴らの挟み撃ちの合流地点に至るはずだ。
奴らは飢えた牙から涎を滴らせ、これから始まるであろうディナーに胸を躍らせて走っているに違いない。
そして予想どおり、俺はフォレストウルフ達に挟まれた。
奴らは歓声のような遠吠えをあげる。
その瞬間――俺はニヤリと笑みを浮かべ、パッと姿を消す。
フォレストウルフ達は混乱して吠え散らかしながら、俺の匂いを探していることだろう。
だが匂いを捉えることはできない。
俺が森の奥へ逃げたとでも思ったのか、追い詰めた獲物を仕留める寸前のテンションのまま、フォレストウルフ達はその方角に向かって駆けていった。
「ふぅ、よいしょっと」
危なかったぁ。
落とし穴は万能だな! 危なくなったら、自分を落として蓋すりゃいいんだもんな。
よくがんばってるよ俺! まだモンスターを落とし穴に引っ掛けたことも、もちろん倒したこともないけど。レベル1のままだけど。
それに森の中をコソコソ歩き回っているうちに、人間の歩いた道っぽいものも見つけたし。
この道沿いに歩いていけば、たぶん第一村人発見もすぐだろう。
そんなことを考えながら山道をトボトボ歩いていると、はたと気づく。
そういえば、落とし穴の魔法に名前つけてないな。
こんなに便利な魔法なのに名前がないなんて! アリエナイ!
でもどんな名前がいいかな?
すべてを消し去る穴……敵も、自分さえも、オールナッシングな穴……。
オールナッシングホールか!
チョット長い?
うーむ……。
そうだ!
「略して! オナ――」
ピシャアアアアン!
「ホゥゥ……」
落雷が、俺の後頭部を直撃した。
地面には、いつもどおりメッセージが。
――認めません OL女神。
そこで気を失った。
2 ツッコミ! 名前! 鉱石!
「おい……おい、生きてるか?」
誰かがユサユサと体を揺すっている。
意識が覚醒してきた。
少し頭が痛むが、久しぶりに感じる人間の気配に、俺は無理やり体を起こす。
アメリカ最大の暴走族の親分さんぽい、ヒゲもじゃで、腕の太さが尋常じゃない男の人がしゃがみ込み――こちらを覗き込んでいた。
「お願いします、殺さないでください」
俺は静かに土下座した。
「殺さねえよ! 人聞きが悪過ぎだよ!」
あ……ツッコミ気質だ、この人。
「こんな山ん中で血だまりに倒れてるから心配してやったのに、なんてこと言いやがる!」
血だまり?
「うわ! 血だ! やっぱり、俺、殺され……」
親分さんは、ますます慌てる。
「違うっつってんだろ! 第一お前、自分の血で『犯人は、OL』って地面に書いてんだろが!」
あ、本当だ。
「死に際に犯人を書き記す、こういうの、何て言うんでしたっけ? ……血だまりスケッチ?」
「ダイイングメッセージだよ! つうかお前、血まみれのわりに元気いいな!」
ああ……打てば響くなあ。この人いい人だ。
「実は俺……ここ数日、山の中をさまよってたんです。助かりました」
「ずいぶん物騒なさまよい方しやがる。まあいい。じゃあ、野盗や山賊の類じゃないんだな?」
険しい顔で俺を見る親分さん。
「山賊に襲われる自信はありますけど、山賊になって親分さんを襲う自信はないですね」
ウォーターボールで頭の血を洗い流しながら、答える。
「親分さんって、俺のことか? 俺の名前はアサカーってんだ。この山の麓の町で鍛冶屋を営んでるドワーフ族さ……って、赤の他人に背中向けて頭洗ってるくらいだから、敵意はないみてぇだな。しっかし、いくら鉱山で人気が多いからって、丸腰は感心しねぇぞ。よく生きてたな? 死にかけだったけど」
え? 人気が多い?
「この辺、人、けっこう来るんですか? 大猪と狼と、デカイ鳥みたいなのしか見かけませんでしたよ?」
アサカーさんは俺の質問には答えずに立ち上がって、遠くの岩を指差した。ちっさいなこの人、身長百四十センチくらいだろうか?
「あそこにデカイ岩があるだろ? って、あれ、なんか穴が開いてるな? あの岩は山に来る奴らの目印なんだが、あそこから十五分くらい歩けば鉱山の入り口だ。そこには鉱山管理の役人がいつも数人いるぞ?」
あの、穴が開いた岩は……見たことあるなぁ。デジャブかな?
「そうだったんですか? 助かりました。あ、町にはどうやって行けばいいんですか?」
アサカーさんは、頭を掻きながらこちらをジロジロ眺め――。
「お前ぇさん、名前は何てーんだ?」
「あ……申し遅れました、俺……」
あれ?
俺、名前、何ていうんだ?
やべ……マジでわかんない。
あ! そうそう! こんな時のステータス!
「ステータス!」
目の前に、例の画面が現れた。
【名前】 なし
【年齢】 20
【レベル】 1
【職業】 なし
【STR】 10
【VIT】 20
【DEX】 5
【INT】 1300
【CHA】 20
【魔法】 土・火(ファイヤボール)・水(ウォーターボール)・風(ウィンドボール)
【スキル】 隠密・土下座・妄想・空間付与・鑑定
【加護】 土・OL女神(健康・長生き・レベル・サラミ)
あれ? 名前、なし?
年齢……二十?
「アサカーさん……俺、名前がないみたいっす。どうしましょ?」
「名前がわからなくなってんのか? 頭を打つと記憶がなくなることがあるって言うしな……適当につけとけ。ないと何かと不便だし」
適当でいいのか? なら、中二病全開の、漢字で書いたら絶対読めないような名前がいいな! うーん……龍康殿とか? いきなりだと、あんまり思いつかない。
「アサカーさん、何か、いい名前あります?」
アサカーさんは、驚いたのか目を剥き――。
「ねえよ! なんで俺がお前の名づけしなきゃいけないんだよ!」
「そうっすか。でも俺も思いつかないんすよね……じゃあ、アサカーJr.でいいっす」
「よくねーよ! なんでJr.なんだよ! お前、俺の何なんだよ!」
「思いつかないんですよ。それに自称って、なんか恥ずかしくないっすか?」
俺がそう言うと、アサカーさんは腕を組んで考え込んだ。
そして。
「じゃあ……イントってのはどうだ? 呼びやすいし、覚えやすいぞ」
「はい、じゃあそれでいきます」
「軽いな! もう少し考えろよ! ……まあ、いいってんならいいけどよ」
俺はもう一度ステータス画面を表示した。
【名前】 イント
【年齢】 20
【レベル】 1
【職業】 なし
【STR】 10
【VIT】 20
【DEX】 5
【INT】 1500
【CHA】 20
【魔法】 土・火(ファイヤボール)・水(ウォーターボール)・風(ウィンドボール)
【スキル】 隠密・土下座・妄想・空間付与・鑑定
【加護】 土・OL女神(健康・長生き・レベル・サラミ)
うん……名前がついた。そのせいか、ステータスの「INT」がちょっと増えてるぞ。
「ありがとうございます、名前がキチンとつきました」
「まぁそれはいいがよ。お前ぇさん、見たところ装備らしい装備もしてないし、金もないんじゃねぇのか?」
俺はポケットからベビーサラミを取り出し――。
「お金は、これしかないです」
アサカーさんに見せた。
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※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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